あべこべ世界でゲームを作ろう!   作:蓮太郎

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15.持つべきものは

 

「スライ、随分とご無沙汰じゃないか。友達として寂しかったんだよ?」

 

「そうね、会食自体も久しぶりだったもの」

 

 スライ・ケイは昼食をとっていた。ただの昼食ではない、企業人として他社と交流を深めるための食事の場だ。

 

 ただし、スライはあまり時間を無駄にしたくないようで不機嫌であったが。

 

 会食の相手はマール・キリシア。スライと同じく大富豪であり、全般的に手を出しているスライと違い電子機器を主に扱い一部の権利を独占する事で富を得た女である。

 

「マール、私は仕事を終わらせたいから早く話を済ませたいのだけど」

 

「釣れないじゃないか。たまには親交を深めたいというのに」

 

「……………………」

 

「それとも、例のゲームの制作者の事かい?」

 

「…………!」

 

 『悪霊の館』と『めざましの刻』をフリーゲームとして配信した『スリップ工房』がケイ・カンパニーと関わりを持つのは周知の事実である。

 

 それに、少年が声を当てている事をスライが知らないはずもない。

 

 ただ、その少年、もしくは男性の正体は完全に不明である。

 

 マールもただの馬鹿ではない。富豪特有の金に物を言わせるやり方で正体を突き止めようとした。

 

 びっくりするくらい引っ掛からなかった。

 

 『スリップ工房』の専用サイトをハッキングしてログインしている居場所を突き止めようとして妙にセキュリティが固く、何故かダミーの居場所しか示されず見つからない。

 

 かと言ってケイ・カンパニー内部には声を当てられそうな人物は居ても、フリーゲームを作るような人間ではない。

 

 完全に正体が不明、と思われていたがマールは心当たりが無いわけではなかった。

 

 ここ最近のスライは男を求めていない。会う機会が少なくなり、富豪特有の金銭に物を言わせる『男遊び』が急になくなったのだ。

 

 それだけでなく外泊も日常茶飯事だった筈なのに毎日家に帰っている。

 

 第4子を産んでからそのような生活を続けており、よほど重要な案件でない限り定時退社している。

 

 前までのスライでは考えられないほど行儀が良くなっていた、旧知の仲であるマールからすると彼女の変化は大きな物だった。

 

「そういえば随分財産を使ったって噂があったわね。あれはもう十年以上前かしら」

 

「色々あったのよ」

 

「娘さんも悪い遊びしてた頃だものね。そういうのをもみ消すのは楽じゃないわね」

 

「ええ、そうね」

 

「それと…………男を買ったわね?」

 

「何のことかしら?」

 

「しらばっくれちゃって」

 

 表情も声も何も変わらない普段の装いであるが、マールは既に見抜いていた。

 

 ただ買うだけなら大量に金が流れる訳がない。不祥事をもみ消すには大きすぎる金額が動いた事について調べはついている。

 

 国に収める税や賄賂にしてはあまりにも大きく、女性が惜しみなく金を出せる事柄など片手で数えられるほど少ない。

 

「いいなぁ、男の子を産めるなんて。私なんか12人産んでもさ、みーんな女の子だもの。それを貴女は四人目で得られるなんて幸運よね」

 

「さっきから何のことかしら。言いがかりはよしなさい」

 

「ふふ、今はそういう事にしてあげる」

 

 やはり隠し事、それも男の子を隠している事を確信した。

 

 昔だったらこのような事を言えば睨みつけてきていた。最悪、手が出てきた。

 

 それがどうだ、今はよそよそしく余裕を保っている。

 

 まさに落ち着いたと言うべきか。男遊びもなりを潜めている時点で気づくべきだっただろう。

 

 そうなると、家でしっぽりやっている可能性がある。

 

 羨ましいと思うが、それは付け入る部分でもある。

 

「今度、貴女の家に遊びに行っていいわよね?」

 

「ダメよ、迷惑」

 

「男も何人か連れていくから、ね?」

 

「……………………」

 

 この発言にスライは眉を顰めた。

 

 実際は悪い話ではない。長女であるウェイルはそろそろ子供を産む時期でもあり、ロウル、ルゥもそういったこと(・・・・・・・)を正しく学ぶ機会でもある。

 

 それだけでない、メイド達にも子作りの時期を逃してはならない上、スウェンという種があるにも関わらず我慢を続けさせている状況を変えなければならない。

 

 誠に不本意ではあるが、スウェンにとって性教育をしなければならない時期が近くなっていたのだ。

 

 では、誰がそういうのを教えるのか?

 

 大体はそういったこと(・・・・・・・)に慣れた男性だ。

 

 同性でなければ分からぬこともある、それを知らない訳でないからこそスライは止めにくい提案をされたことで眉を顰めたのだ。

 

「悪い話じゃないわよね?」

 

「…………そうね、ただし、来るならいつ来るかだけは教えて欲しいわ」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 自分の読みが当たったことと、スライが隠している男児に会えるとはしゃぐマール。

 

 あの様子だとまだ手を出してなさそうな雰囲気であり、それほど蝶よ花よと甘やかしているんだろう。

 

 汚しがいがある、無垢な物を穢す快感こそ最大の娯楽である。

 

 そのような考えを持つマールは上機嫌なまま会食を続けた。

 

 なお、浮かれすぎて反撃のようにスライから若干不利な取引を受けてしまい後で後悔する事になる。

 

 そして、肝心のゲーム開発者が誰かを聞きそびれる事になった。

 

 まさか、狙っている男児がホラー、鬱ゲーを量産するにあたる相当なイカれ野郎だとこの時は思いもしていなかった。

 

 スライもそこまでとは思っていなかった。

 

 様々な分野で黎明を切り開く男児が世間の一端を知るまであと少し。

 




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