「やあスライ。久しぶりに遊びに来た」
「…………ええ、いらっしゃい」
「はは、見てみろ。全く歓迎してない顔だ!」
マール・キリシア、キリシア株式会社代表取締役である大富豪である。
既に取り決めた約束、男を引き連れて遊びに行くといういたってシンプルな約束を彼女は果たしに来た。
無論、ただ遊びに来たわけでなく互いのつながりを強化すると同時にスライの館に住む彼女の家族やメイドに男をあてがうことで一種の恩を売りつけようとしているのだ。
この世界において男は貴重な存在である。一人を一日侍らせるだけでおよそ100万円と金が飛ぶレベルで金額を消耗する。
それを3人、数日遊ぶとして1000万が消し飛んでしまう。
これだけの価値があるのだ。自由に、触り、愛し、まぐわう権利を自由に行使できるための金額だ。
そのために破産する女性は数知れず、底なしの欲望に吸い込まれる者は絶えない。
富豪だからこそ金遣い、だからこその男遊び。
「まあいいわ、中へ入ってちょうだい」
「ええ、そうさせてもらうわ。ほら、行くわよ」
マールはそうして後ろから連れてきた部下の護衛と男3人と共にケイ家の館へと入っていった。
今更ながら、ケイ家はとても広い。家の中をまわるだけでも一時間はかかってしまうくらいには時間がかかる。
掃除すらままならぬため、雇っているメイドは32人。それほどの人数を雇いながら一切の金銭的な揺るぎを見せないケイ家の財力は推し量れぬものだろう。
スライとメイド達の案内により、通されるのは日当たりの良い庭。
もはや家に連れ込んだ以上は隠せるはずはない。だから最初からばらしてしまえばいい。
そう提案したのは愛おしい末っ子だった。スライは一切逃げるつもりが無さそうな末っ子に根負けして場を用意したのだ。
「ここもちょっと変わった?変にきれいにしちゃって」
「すぐに分かるわ」
それがいったいどういう意図なのか。
マールには分かった。
思ったよりもすぐに正体を見せてくれるのか。
そう期待していたマールと不機嫌そうなスライはついに見る。
庭に設置されたティーテーブルの傍らに優雅に座る謎の仮面をつけた少年を。
「……………………?」
「私の方を見ないで」
スライとメイド以外困惑している。いったい誰なのか全く分からないが、十中八九スライの息子であることは分かった。
「おや、やっと来たようだね」
突然やって来た集団に気づいたのか、目元を隠す仮面と共に顔を向けて喋った。
成人したとてもいいハスキーな声で。
「初めまして。僕はスウェン。ケイ家の長男だ」
流れるように自己紹介した少年に、ポカンと鳩が豆鉄砲を食ったように呆然とするマール一行。
まさか怯えることや媚を売るのではなく堂々としているとは思いもしなかった。
スライも驚きこそ少ないが奇行に走るようになり始めている長男兼末っ子の将来が心配になってしまう。
「みんなのお茶も用意してもらってるんだが、数は足りるかな?」
スウェンの近くにいるメイド達はテキパキと動き人数分の椅子と紅茶を用意する。
男とは女に侍らせるものである。男の数が少なく立場が弱くなった今ではそう言った暗黙の了解があるのだが今の光景は違う。
男が女を侍らせている。まさにそれが正しく当てはまる状況だった。
「マールさん、どうか彼方の椅子にどうぞ」
「え、ええ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
甘かったのは自分の考えか。
温室育ちと思っていたが、まさか変なのが出てくるとは思いもしなかった。
それに彼女が知る男とは全く違う雰囲気を持つことも困惑していた。
連れてきた男達はどこか陰鬱で諦めがあり、そして受け入れている節もあり可愛げがあるものだ。
「スウェン、一応紹介はしておくけれど、これがマール・キリシアよ。キリシア株式会社取締役で私の腐れ縁。そして悪い人よ」
「悪い人は割といると思うけれどね。キリシア株式会社といえばパソコンの基盤とか売り出している。僕もよく買ったりするよ」
「スウェン…………うちのは買わないのかしら?」
「性能は嘘をつかないからね。こればかりは仕方ないさ」
「あら、嬉しいわね」
確かにケイ・カンパニー系列から発売されている電子基盤、特にパソコンに使われるものに関するものはキリシア株式会社より発売されている物に劣る。
広く浅く、そして手広くやるケイ・カンパニーに対して一つのことに集中しているからこそ超えられる部分でもあるのだ。
スウェンが話してるうちにある程度冷静になったマールは紅茶を飲み、スウェンを観察する。
確かにまだ少年である。既に声変わりしたらしく大人っぽくしているかと思うところだが、それにしても落ち着きすぎている。
「(これは予想が外れた?既に誰かを抱いて自信過剰になってるのかしら)」
男が精通して初めて女を抱く時、それは初めて征服感を得ることが出来て付け上がることがある。
今までずっと保護とばかりに監禁状態で自由もなく、女性からは嫌な視線を向けられる。
この視線が欲情のものと知らず、自身が欲情した時に女を抱かされ満足した時の達成感で一時的に世界の中心が自分になると思い込むことが多いのだ。
その後は次々に女を抱き、そして抱かれ続けて心が折れマールの隣に座る3人の男のように現実を受け入れるのだ。
「とりあえず会社の事とかは一旦置いて…………」
そう言いながらスウェンは仮面を外した。
「いきなりだけど好きな男のタイプとかある?」
やっぱり定石通りに行かない男だ。
ハスキーな大人の声から一瞬で若さを感じされる愛らしい声に変わった事でマールは冷や汗を一筋垂らし笑った。
感想を頂けると励みになります。