あべこべ世界でゲームを作ろう!   作:蓮太郎

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49.バグり散らかせ、脳

 

「……………………」

 

 カタカタとパソコンを打つ音が聞こえる。

 

 画面に映し出されるのは透明度が高いロボットが洞窟を掘り進めている姿で、黙々と作業をしているのが分かる。

 

 掘っていると石だけでなく銅や鉄の鉱石が入手出来て、それらを施設に回し国を発展させるのだ。

 

 そのような作業を既に何時間もしている。

 

 ストーリーはあるものの、そっちのけで開拓にいそしんでいる。

 

『だいぶん掘り進んだね。そろそろエネルギーが尽きそうだからいったん帰ろう!』

 

 相棒となる精霊が警告してくれるが、一旦声だけ堪能して内容は無視する。

 

 限界ギリギリまでエネルギーを消費しつつ、帰還アイテムを使用して拠点へと帰る。

 

 アイテム自身もそんなに安いものではないが、収穫に釣り合うため多用することになる。

 

 この素材も集めないといけないため延々と潜り続けることになるが。

 

「あとは鉄とオリハルコンと…………木材かぁ」

 

 そう呟く彼女は最後に言った材料が足りないことを一番嘆く。

 

 普通なら木の方が集めやすいと思われるが、残念なことに画面の中の世界はそうではない。

 

 様々なダンジョンと化している洞窟の方が安全で、むしろ外の方が危険という逆転現象が起きているのだ。

 

 洞窟内なら安全スペースが何故か確保されているということが一番大きな理由であり、外の世界は相当な力を持っていない限り地上を闊歩するモンスターに襲われおしまいになってしまうからだ。

 

 洞窟内もロボットの暗視機能で全体的に明るく見えているが、実は灯りがある方が危ないという罠まである。

 

 それらも事前知識として前作をプレイした彼女にとって当然の情報である。

 

 事前知識もある程度通用したためスルスルとプレイが捗る。

 

 こうして更に何時間もプレイしているわけだが、流石に長時間プレイしすぎている。

 

「ルゥおねーちゃーん!そろそろ出て来いってお母さん言ってるよー!」

 

「ん!」

 

 そんな彼女はこのゲームの製作者の姉。発売前の『クリスタルロボ・洞窟王国の再生記』を弟からテストプレイヤーという形でプレイさせてもらっている。

 

 もちろんバグがないか調べたりしているが、スウェンが普段出さない声を聞くために先行プレイしている節はある。

 

 もちろん最初にプレイしてるのはケイ・ゲームズの人達なのだが、今回は一部NPC被弾ボイスを除いて主人公であるクリスタルロボを慕うほのぼのとしたものばかりだ。

 

 メインは開拓するクリスタルロボであるため流石に多くの台詞を入れてるわけではないが、それでもお釣りが来るくらい満たされるものと確約されている。

 

 前回同様、購入者は非常に多くなるだろう。

 

 会社的にも嬉しい部分はあるが、どうしても困る部分もある。

 

 やはり誰が声を当てているか、である。

 

 1キャラごとに当たってる声が全く違うと言う事は『スリップ工房』としてはいつもの事なのだが、その人材がどこから出ているのかと言うのは世間では知られていない。

 

 

 本当に1人でやっているなどつゆとも思わず、ケイ・カンパニーが赤字を出してまで買っているのだと思われている。

 

 実際は本当に1人がやってるのだが。

 

「テストプレイどう?変な挙動なかった?」

 

「今のところは大丈夫。光の加減や影も普通に動いてた」

 

「よしよし、問題なし…………水の動きもどう?」

 

「あ、まだそこ見てない」

 

「そっか、まあ時間はたっぷりあるからね」

 

 トコトコと廊下を歩く弟はどう見ようと愛おしく襲いたい存在である。

 

 なお、襲ったら襲い返される挙句、さらに家族やメイド達にボコられる模様。一応家主の娘なのだがメイド達も最近容赦がない。

 

 ルゥ・ケイは大学に通いながらも小遣い稼ぎのようで実は何の利益もないテストプレイを暇な時にしていた。

 

 ゲームを楽しむのは二の次として、目的は普段聞けない弟のスウェンが出す声である。

 

 普段の声は固定されていて聞き慣れてはいるのが、ゲーム媒体に出す声は普段とは全く違う声になる。

 

 どこから出てるのか分からない程変わり、低音だけでも何十種類も出せると言う芸当を見せられている。

 

 夜のプレイ時は偶に要望を言えば応えてくれるのだが、そんなリクエスト以外で出す声を聴くことはあまりない。

 

 そんな一面を見られるのはゲーム内で演じているキャラクターを見ている時だけ。

 

 そこに語り掛けることは出来ないが、生き生きとしている様を見るのはなんと嬉しい事か。

 

 実質芸能界に進出した子供を見ているような気分になり、成長する姿は涙なしに語れない。

 

 その裏で滅茶苦茶イチャコラしているという優越感を添えて。

 

「やっぱり王道こそ至高。お姉ちゃんはそう思うの」

 

「僕、ホラーの方が好き」

 

「でも王道も悪くないと思うの。上姉ちゃんも中姉ちゃんも好きだよ」

 

「でもさぁ、夜な夜な『デトセレ』やってるの知ってるよ」

 

「それはそれ、これはこれなの」

 

 しれっと既存のゲームをしていることがバレているが特に気にする必要はない。

 

 何故ならスウェンが好むのはホラーや鬱であるため、それを意地でも修正しなければいけないからだ。

 

 今はおしかり(?)が効いているせいか大人しめだが、いつか再びやらかす気がする。

 

 事実、スウェンは水面下でどのような物語や面白い動きをするゲームを作ろうか考えている。

 

 それらがほぼ確実に世間に出回るため、心臓に悪いものは極力控えたいという魂胆もある。

 

 何よりも、スウェンがノリノリとはいえ弟が悲鳴を上げたり嫌がる声を上げたり断末魔を叫ぶなど聞きたくはない。

 

 それでも定期的に聞いてしまうのが哀しきサガと言うべきか。

 

 偶に目の前に居る弟がゲームキャラクターと思ってしまうくらいに聞き入ってしまうので、自分の頭は大丈夫かと疑う日がたまに出てきていたりする。

 

 これは生のスウェン成分を摂取せねばいけない。

 

 様々な思惑がある中、やはり一番に摂取できる立ち位置にできるルゥはスウェンと自然に手を繋ぐ。

 

 手を繋ぐくらいなら日常茶飯であるためスウェンは気にしていない。

 

 肉食獣はどちらなのか、答えはいまだに出ない。

 

 




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