『スリップ工房』は今や世界的な知名度を誇るゲームクリエイターである。
一番の特徴はなんといっても男が声を当てているということであろう。
供給の少ない男性のみが出演するゲームは多くの人々、主に女性を熱狂させては心をへし折るプロであった。
今回新たに発売されて月日が経った『クリスタルロボ・洞窟王国の再生記』もその1つであり、色々な理由で進むのが躊躇される代物であった。
かのゲームクリエイターは甘い夢を見せておいて奈落に突き落とすのが得意なのだ。適正レベルをはるかに超えていても手が止まると言うもの。
ダラダラと低レアアイテムで好感度を稼いでいる女性たちに、業を煮やしたのか本家大本から一本の動画が投稿された。
その動画名は、いわゆる『最速クリア』を目指す動画であり、プレイするのは開発者当人ということらしい。
SNSでその情報が出た瞬間、界隈がざわついた。
動画投稿、それも解説付きという作業動画として投稿されている。
実際に競技性がある内容として投稿されているゲーム動画はあったりするのだが、今回はそれと訳が違う。
何の因果があって開発者当人がプレイ動画を投稿したのかは分からない。
だが、もし、開発者当人の生声が入っていたら?
そのような期待を胸に秘め、いや顔に出しながらも人々は動画を開いた。
『はい、スーパープレイを見せて最速クリアを目指す動画、はーじまーるよー』
なんか変な動画が始まった。
妙にイラっとしそうな生首が妙に機械的な声で喋っている動画を見てそっ閉じしようとしたものは多いのではないだろうか。
流石に早計かと思い直した彼女達は改めて動画を見直す。
『今回、私はクリア率が低いとされている「クリスタルロボ・洞窟王国の再生記」を開発者本人がプレイしていきます。なお、動画内で流れる私の実況は合成音声を使っているので詮索は、やめようね!』
やはり生声ではないため肩を落とす一同。全員が同じ画面の前に居るわけではないのに気持ちだけシンクロするのは何なのか。
一度、動画を止めようか悩んでいた彼女達の事を予測していたのか間髪入れずに謎の生首は続ける。
『おっ、今そこで動画を止めようとしているそこのあなた。この文字起こしやプレイをしているのは開発者兼声優のスリップ工房その人なので安心して好きなキャラの声で脳内変換してください』
ほな見るかぁ。
本当にそうであるかはともかく、人は何よりも幻想を求める生き物である。
スリップ工房の声と言ったら主にキューリュー君の声が思い浮かぶが、今はよく分からない生首の言葉を鵜呑みにしつつ動画に注目し続ける。
『今回は初回ということで15分刻みの所を30分にしています。これからも攻略に向けて気軽に参考にしてもらったら幸いです』
のほほんとした感情で喋っているような生首に少しだけ緊張が緩和されたが、これネタバレになるんじゃねという危機感が視聴者姉貴たちの脳裏によぎった。
『なお、ネタバレになってしまいますが、公式からもっと進めたらご褒美ボイスとかあるよという意味も込めてのプレイとなります。ジャンジャン進めて、推しをもっと推していけよ~。もっとクリア報告上げろ(豹変)』
あ、こっちが絶対本音だ。
あまりにも伸びないクリア率に業を煮やしてこの動画を投稿し始めたんだと.
確かにクリア自体はしていないなと思うところはあるが、業を煮やした開発者が我先にと道を開こうとしたのだろう。
事実、この後のストーリー展開が怖いため進めていないという問題があるため予行演習、もとい心の準備として見るには丁度いいかもしれない。
なにせ、この製作者は油断ならない相手なのだから。
『今回は最速クリアを狙うために名前は一文字にします。これで割と時短できるところがあるので、特に終盤』
いきなりネタバレされたが、それは後で知る事にもなるだろう。
『はい、よーいすたーと』
妙な棒読みから名前決めからのゲーム開始、何故か妙に嫌な予感がする視聴者に向けて生首は語る。
『ストーリーはボタン連打でスキップします。めっちゃ飛ばしていくので、ストーリーを楽しみたい方は実機をプレイしよう!』
ものすごい勢いでプロローグや始まった直後の操作チュートリアルが流されていき、動けるようになったクリスタルロボがサクサクと動き始める。
『小ジャンプを繰り出しながら急速落下のボタンを繰り返し押すとちょっとだけ移動がはやくなります。めっちゃ指は疲れますが最速クリアを目指すなら必須の項目なので気が向いたら練習してください』
ちょっとだけためになる知識を含めつつプレイしていき、最低限の物資を確保していく様はまさにゲーマーの鏡と言えよう。
序盤はさっさと進めない限りストーリーが進行しないため必要ではある。
1000年の月日が流れ廃れてしまった洞窟王国に到着し、再建する為のチュートリアルも爆速で飛ばしつつ道具を作る施設を作り、早速採掘等の素材集めを行う準備を。
『終わらせました。では、レッツ採掘です』
それすらあっという間に終わらせて採掘ポイントへ足を運ぶ。
『序盤で最も効率がいい採掘ポイントは拠点からやや離れた場所であるんですが、モンスターに出くわさなければ何とかなります。極まれにボンバーとかげが出現することもありますが、この時点で出くわすはずがありません。出くわしたらクリスタルロボくんが爆発します』
最短ルートを進むために壁を掘りつつ解説していくが、適当に掘っていてもたまに鉱石が見つかったりするのだがそれもあまり見受けられない。
『うーん、ま、道中で素材を見つけるのは一苦労な面もあるので期待はしていません。採掘ポイントで稼げば問題ないのですから』
淡々と喋って進みながら生首は語るが、突き進んでいくうちに広い空洞となる場所へ道が繋がった。
『到着です。ここでは銅鉱石と鉄鉱石をそれぞれ20個づつ取ります。何故必要になるのかというと』
意気揚々と壁に向かって鉱石を掘りつつ解説をしようとしたその時だった。
ドカン!と背後からの爆発音が響いたと思えば周囲の壁や床を破壊しつつクリスタルロボが一瞬で爆散した。
『……………………は?』
驚きのあまりプレイする手が止まったのか、ゲームオーバー画面で固まった画面が映し出され続けている。
最速クリアを目指すにあたって大きなミスはもちろんの事、ゲームオーバーなんてもってのほかである。
『…………………………………………は?』
これを既にプレイしている者は知っているであろう、ボンバーとかげの卑劣な自爆攻撃による即死である。
自爆によって失ったものは多く、拠点から再出発できるにしろ最低限の物しか入手していないこの場合は大きなタイムロスとなっているであろう。
ここから何か巻き返す方法があるのか、視聴者は固唾をのんで見守っていた。
キュルキュルキュルキュル……………………
『はい、スーパープレイを見せて最速クリアを目指す動画、はーじまーるよー』
「「「「巻き戻すんかい!?」」」」
動画主は先ほど流した動画を超高速で逆再生した後に、潔くやり直すことを決めた。
『このために初回の動画時間を2倍にする必要があったんですね』
えげつないやり口を見て皆はどう思うのだろうか。
もう既に幸先が不安で、スリップ工房らしい破天荒なものを見せつけられ続けることが確定した女性たちの運命はどっちだ。
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