あべこべ世界でゲームを作ろう!   作:蓮太郎

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58.しっかり負けます

 

 人権とは何か。

 

 AIに聞いてみたら「人種、性別、国籍、宗教などに関わらず、すべての人が生まれながらに持つ、人間らしく生きるための固有の権利」と述べるだろう。実際述べた。

 

 ただ、それは権利がしっかりと明記されている法があるから機能しているだけであり、この世界に適応される訳ではない。

 

 男女比が大きく崩れた世界では、当然の如く人数が多い女性の方が権利がある。

 

 男性にも権利はあるはずなのだが、どうも物扱いにされている節がないわけでもない。

 

 否、権力を持つ者ほど男性をアクセサリーか何かの道具扱いにしているのだ。

 

「では、男性管理委員会の会議を始めましょう」

 

 男性管理委員会、文字通り人口がはるかに少ない男性を管理するために発足し、人口を増やすためと称して殆どの男性を管理している国営組織である。

 

 スウェン・ケイが住む国はこの名称であるが、他国にも別の名前でありながら全く同じ活動をしている団体も存在する。

 

 主に男性を酷使しないよう独占禁止法じみた事を判断する組織、と言えばいいのだろうか。

 

 実際に子種を分配する際に採れた量から人口を考えて、配る相手の素行調査等やることは非常に多い。

 

「と、言いたいところだけど最も関心を寄せてるのはこれでしょう?」

 

 ぺらり、と円卓で会議をする面々に一枚のコピーされた写真が配られる。

 

「あの大富豪であるケイ家に記者の1人が張り込みで取材した、という体の盗撮写真です」

 

「もう15年も前だったか。大金叩いて男を買ったという話は」

 

「そこから男癖が鳴りを潜めたと思ってはいたが、これが理由か」

 

「若いねぇ。多分だけど、実子だったりする?」

 

「確証は取れませんが、十中八九そうだと思われます」

 

「良いわねぇ、いつでも愛でられるからストレスも少なそう」

 

 愛でられているのはどちらなのか、この場にいる面々は知る由もない。

 

 いや、普通ある日に親族含む30人以上を抱いておきながら毎日女を抱いてなお飽きない精力を持ち、趣味と称して社会人の仕事同様のレベルでゲーム開発をしているなど思うだろうか。

 

 そんな異常な内情はつゆ知らず、この写真を皮切りに話は進む。

 

「ケイ家といえば、ここ最近ゲームで大盛り上がりして話題が尽きないという話は皆、ご存知のはず」

 

「もちろん、アレを買わないのは同性愛者くらいなものです」

 

「え」

 

「どうかしました?」

 

「あ、いえ?それがどうしたというのですか」

 

「無料配布として配信されたものはもう仕方ないとして、企業を通じて発売されたゲームです」

 

 発売されたのは止められない。世界に影響が強く、『スリップ工房』から新たなゲームが発売される事を願う女性はとても多い。

 

 便乗してホラーゲームや男声を使ったゲームを出そうとしている会社は存在するが、無駄に大々的に発表する割にクオリティがお粗末だったり演技がダイコン以下だったりして頓挫している。

 

 まれに、まれにではあるが詐欺の手口として使われる事件も発生しているため笑い話では済まない事もなっている。

 

「…………私もですが、これは一つ一つが麻薬の様なもの。男性の声というだけでなく十分な演技は人々を虜にし過ぎました」

 

「開発期間も2年も経たず高速で開発しているあたり、ケイ・カンパニーのコネで男を集めているのでしょうか?」

 

「だったら施設での動きが活発になる。それが噂にならない筈がない」

 

「巧妙に隠す、なんてことは出来ないわよねぇ。男性管理委員会も一枚岩ではないとはいえ、何かしらの密告があるはず」

 

「じゃあ、隠れて男を囲っているかもしれない?」

 

 『スリップ工房』は『デッド・セレクション』からして複数の男性の声でゲームを作っていると客観的に考えられている。

 

 何度でも言うが、まさか手元に映っている男の子が全ての役を担っているなんて思いもしない。

 

 故に、『スリップ工房』で活動している声優の一人ではないかと思い込んでしまわれている。

 

 逆ハーレムといえば聞こえがいいが、男性の総数が圧倒的に少ないこの世界に置いて苛酷な奉仕を強要されているのではないか?

 

「だとしても、最初と次の作品は無料で配布しているのよねぇ」

 

「金儲けが目的ではない?じゃあ一体なんであんなことを?」

 

 単純に1人の男の子が趣味を拗らせて承認欲求的なものを出してしまっただなんてケイ家から口が裂けても言い出せないだろう。

 

 なお、本人は全く反省しているそぶりを見せずゲーム開発にいそしんでいる。

 

 たった一人でプログラム、声優を務めているという技術的な化け物があの豪邸に潜んでいるなんて世間の人々は思いもしていないのだ。

 

 写真の少年がその人であるという事も知る由もない。

 

「つまり、こうして逆に奉仕されているというのは苛酷な労働環境に対する『アメ』ということですか」

 

「もう既にこのメンバー内に居ないかもしれないけど、戯れでゲームを作らせて流してしまった結果、売れすぎて金儲けの手段に変えたとか?」

 

「それなら多少つじつまが合う…………いや、合わないだろ。誰が子供の悲鳴を上げたりモンスターの声を当ててるんだ」

 

「謎が謎を呼ぶ…………ガサ入れかます?」

 

「今のところ申請という形でこちらで把握してるのは、あくまでもこの写真に写っている男の子。もし男性を秘密裏に多く囲っているなら…………相当な醜聞になるわ」

 

 ケイ・カンパニーは手広く多くの事業に手を出している。

 

 昔は素行が悪い部分があり、今は落ち着いているかに見えていても裏で男性を多く囲っているなら相当なヘイトが向けられるだろう。

 

 最悪の場合は解体も視野に入るほどに。

 

 そう簡単に潰れはしないだろう。関わった者達が徐々に解体されていく富豪の財産を蝕み、そして消えていく。

 

 男性管理委員会もそのうちの一つとなるかもしれないのは言わずもがな。

 

「私が行こう」

 

 手を挙げたのは短髪で銀髪の女性。ミステリアスなイメージが思い浮かぶような微笑みを湛えている、幹部の中で最もフットワークが軽い女性だ。

 

「タレコミがあったことは違いない。ハズレだろうと当たりだろうといつか行くなら何か掴まれる前に行った方がいい」

 

「タルラ、貴女が?」

 

「単純にこの男の子が好みなだけでしょう?」

 

「まあ、貴女の腕なら大丈夫でしょうけど」

 

 タルラと呼ばれた女性は捜査に関して優秀な腕前を持つ。

 

 男という蜜を花の奥深くに隠していようと、その蜜を吸うハチドリのように的確に秘密を探り当てる。

 

 大体が突撃捜索みたいなものであるが、そういう相手は急な来訪に下が対応できずボロが出るのも常である。

 

「決まりだ。今から準備してくるよ」

 

 彼女の行動はとても早い。電光石火の如く動き、その光で闇を照らす女と一部からは恐れられている。

 

 怪しい会議を開いてはいるが、必ずしも全員が悪人である訳でもなかった。

 

 それはそれとして、捜査しようとしているケイ家に潜むスウェンという怪物が待ち受けている事を、この時の彼女達は誰も知らなかった。

 

 精神的に無敵で、精力的に無双している少年になす術がない事を、タルラはまだ知らなかった。

 




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