「タルラさん、本当に良かったんですか?」
「良くはない。だけど徹底抗戦されたら分が悪いのは圧倒的にこっちだから引くしかないのさ」
夕暮れ時、寒くなってくる日は日没も早くなることをしみじみと感じながら男性管理委員会副委員長タルラは語る。
「詰めたらボロが出るのは間違いないだろうけど、ボロを追求したら襲う側から襲われる側になる」
ケイ家のガサ入れが終わり、車内で部下の女性と話し合う。
邪魔が入る事はほとんどないこの空間は、タルラが信用できる者しか居ないのだ。
よって、盗聴される危険性は限りなく低く、外に漏れる情報もこの中の会話は特に減る。
「だって、あの子、私達を全員抱くって言ってたんですよ!」
「滅多にないチャンスをふいにするなんて…………落ちぶれましたね副委員長」
「落ちぶれたのは君達だね?」
相応にクソボケである。
「あの少年が嘘つきなことありますか!?あの純粋無垢な目は見たことありませんよ!」
「30人以上は流石に盛ってると思いますが、それ相応に抱いてるのは確かでしょう」
恐ろしいことに一切盛っていない。
あの少年は屋敷にいた自分以外の住人は全て抱いており妊娠させている性豪である事にまだ疑いを持っている。
それに、そんな爛れた日々を送りながらゲームを作るという体力も精神も超人的なものだという仮定となってしまう。
実際そうだが、普通の男性ならそこまでやれる訳はない。
「なにせ、あのケイ家の人間だ。親は化け物だし、子供達も相応のものを引き継いでるよ。活躍は目を張るものだからね」
スライ・ケイというケイ家を今現在も切り盛りして更なる発展を続けている大怪物、その娘であるウェイル・ケイは母を支える幹部となっており、ロウル・ケイという投資の達人もついている。
ルゥ・ケイは大学卒業が近くなっており、彼女が書く論文は注目を集めており技術面で更なる活躍を見込めるだろうと予測されている。
そのような親と姉達を持つ末弟は性欲の捌け口で済むのだろうか?
「ああ、頭を悩ませてくれる。彼が『スリップ工房』であるなら、いや、本人であるなら本当に手が出せなくなる」
幼少期からゲーム作りに励み、現時点で世界記録に載るほど売り上げがあった『デッド(略)』を世に排出して男性の声優というブルーオーシャンを開拓した『スリップ工房』の大元。
現在でも次に何が出るか様々な考察がされており、えっちな声と絶望に突き落としてくるようなストーリーに恐々としながらも待ち続けている女性が世界中にいる。
それらが急に敵になる可能性、それを考えた瞬間に身体が震える。
「男性であるが金の卵を産むことに違いない。別に特殊性癖とかそういうのではない、比喩だよ、比喩。勘違いしないでね」
「そういう性癖だったんですか、失望しました」
「君、給与査定楽しみにしてね」
「!?」
「まあ
「さておきじゃないですよ、どれだけ減らされるんですか?ね、ねえ!?」
「彼を守る化け物は敷地の中だけじゃない、外にもたくさんいるってことさ」
茶化してきた部下に厳罰を下した後、高級車らしい柔らかなシートに背中を任せる。
「沢山、ということは屋敷の使用人達、ということでしょうか」
「違うよ?仮に、もし何らかの動きがあって彼を保護したとしよう」
理由自体はそこそこ挙げられる。特に、何十人も妊娠させるほど性的奉仕させたと本人の意思を無視して虐待扱いさせる事も外野からは可能である
しかし、それを行うとどうなるか?
「そうなればスリップ工房は活動停止、公式からもその発表がされるだろうね。つまり次回作のゲームが出ない、圧倒的人気を誇るゲームクリエイターが1人消えてしまうという事だ」
「あ、恨まれる訳ですね」
「それも世界中に。翻訳とか関係なしに男の子のボイスを求めていた人々が一斉に敵になる。そう考えたら分かるよね?」
減給で真っ白になって話どころではない部下以外の者は背筋が凍る思いである。
男性管理委員会は男性の保護を掲げてはいるが、それ故に独占していると囁かれていたりしている。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うが虎にだけ目を向けていたら飢えた犬の集団に囲まれる。
そうなれば生き残れる保証はない。末代まで恨まれ続けられる可能性だってある。
「リンチで済みますかね…………」
「済んだらいいね。末代まで祟られる可能性があるよ?」
「私で末代になる可能性が高いですね」
にこりとタルラは笑うが、部下達は冷や汗まみれだ。
ケイ家という富豪に踏み込むという地雷処理に近い感覚ではあったが、出てきたのは核爆弾である。
報復は恐ろしい事になる、ならばどうするべきか?
「のらりくらりと躱しておくさ。何、いつものこと」
男性管理委員会の中でもダークホース扱いされているタルラである故に、適当に誤魔化すことはできる。
あの少年、否、スウェン・ケイという男はこれから長く付き合う必要があるだろう。
ゲームに捧げる情熱は間違いなく尋常なものではない、純真に、己がやりたいことを成し遂げようとする炎。
その炎に魅せられていることに、タルラはまだ気づいていない。
「またどこかのタイミングで彼と会うだろうね」
タルラはそう呟く。
「今度は、2人っきりでじっくり話し合いたいものだ」
お互いにまだ何も知らない。最初からフルスロットルでコミュニケーションを取ってきたのは計算されたか、それとも天然か。
後者ならまだいい、だが前者なら…………
「つまり、エッチしたいと言うことですね」
「君、報復の段階に来た?」
減給を受けた部下がヤケクソになり逆セクハラを仕掛け始めた頃。
「沢山くる、突然、強敵、ホラー…………閃いた」
「スウェン、閃かないで」
母の膝の上で頭に乳を乗せられている渦中にいる少年は新しいゲームの方針を決めた。
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