「ふーん、今の流行りってこれなんだ」
僕は今、動画を見ている。
何の動画かというと、もちろんゲーム動画である。
時が経てば当時最新だったゲーム機は型落ちとなり、流行っていた頃のゲームがリメイクされて売り出されていたり、密かに消えていたりとするので、時勢に敏感でなくてはならない。
大手開発なら割と王道ものが売れるが、僕が作るようなインディーズゲームは案外時事ネタを突っ込んだほうが下手な物より売れたりすることもある。
無論、楽しく売れるのが一番いいが狙いすぎたり思想を入れ過ぎるのもアウトだと思っている。
そういったのを含まず気軽に遊べるものでなきゃいけないんだよなぁ~。
結局はフリーゲームとして配信する訳だし、お金を取るというよりも名を売って技術の証明もしないといけない。
だから他のゲーム動画を見て勉強しているって訳だ。
流石に経営理論みたいな本は買えないし、まだ子供なんだから時間はたっぷりある。
早急に作らなければいけないという訳でもない。じっくりと時間をかけて作り上げないと。
『うわっ!マジでゴミ!ラグ!何であそこでヘッショ喰らうんだよ!ヘルメットつけてたじゃないの!?』
やっぱりFPS系は一定の需要があるね。民度はどこも変わらずだけど。
ぬるぬる動いてフィールドを駆け回り、戦う姿もカッコいいものはある。
いつかはこういったものも作ってみたい。
それをするとなれば3Dモデルを作ったり動作のプログラムを組み込んだりやる事が倍増どころの話ではない。
流石に大作を作ろうとするなら社会人になってからだね。
声だって流石に渋いボイスとかはまだ出せないし、今はショタボイスで…………
声変わりしたら今やってる『悪霊の館』の主人公達のボイス出せなくなるんじゃね?
どうしよう、思わぬ壁が出来たぞ?もう既に2ヶ月経ってるのに人気が衰えないどころか母さんの会社からグッズ販売で予約が取れないと大炎上までしてるのに!
本当に申し訳ないと思う、特に広報担当してる方。
僕の、もう本アカウント並になってしまったサブサブアカウントの方にももっとグッズ量産してと宣伝コメントに紐つけてコメントされている。
常に通知が飛んでくるから通知オフにはしてるけど、全部見切れないのも困ったものだ。
ボイスドラマ希望とかの声もあったけど、本当に今の声でしかできない事ばかりじゃん!
声変はたくさん出来ても声変わりした後でもショタボ出せるか分からないぞ?
いや、両声類という男も女もできる人種が存在している。
俺もその両声類になればいい。そのために色々特訓しないと。
あれ、特訓ってどうやればいいんだろう?
ただ声を出せばいいってわけじゃない。『悪霊の館』だって声を入れたのは悲鳴だけで演技力もたいして必要じゃなかった。
だけどこれからは演技力も鍛えなければいけない。
『あー、サクヤ様マジで神だわ!』
コメント欄では居たら自分が貰うとかで地獄のような醜い争いを繰り広げている。
どこでも似たような存在がいるなぁ、と他人ごとに思いながら様々なジャンルを見ていく。
RPG、シューティング、ハンティング、放置ゲー…………やっぱりどこでも似たようなジャンルは発達している。
そんな僕も作る訳で、とにかく下地を作らないと。
でも、どこに声を入れるべきか分からない。
主題歌とか考えたけど、僕に音楽の才能があると言い切れない。
『悪霊の館』だってフリー素材から取ってきたものだし、基本無音に近いんだから何もしていないに等しい。
大人のお姉さん声を出す練習でもしてみる?ネット上にボイストレーニングのやり方はごまんとあるし、動画を見ながら読んでみるのもありだ。
ん?なんで画面二つ分あるかって?
そりゃあ、ねだったら買ってくれるし、伊達に大富豪の息子という立場をしてないよ。
未だに社交界に出ていないから他の男の子がどんな感じなのか知らないけど、もうどこかの令嬢とかとお見合いでもしてたりするんだろうか?
どうでもいいことを考えながら、何かいいボイストレーニングが無いか探し続ける。
見つけたものを試していって、あっという間に時間が過ぎて行った。
〜●〜●〜●〜●〜
「お坊ちゃま、おやつの時間でございま…………」
それは、鈴のように美しかった。
ただ声を出すだけではない、どのように響かせて奏でるのか計算されていた。
小さな喉から発せられる声、否、歌は昼下がりの鳥のさえずりを超えた音だった。
性癖は違おうとも触れてしまえば同じ穴のムジナとなる、スウェンのお世話を担当するメイド長はかつて性癖を拗らせて袂を分かった友の言葉を思い出した。
ごくり、と唾をのむほど蠱惑的で誘惑されているような気分になってしまうが鋼よりも固い精神力で何とか持ち直し、咳払いをすることでこちらに気づかせる。
自分の世界に夢中だったのが他人が入ってきたことで正気を取り戻し、ぱっと振り向くと恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「おやつの時間でございます」
「あ、うん、分かった」
平日の昼は基本的に家族は出払っており不在である。
その間の家を守るのはメイドたちである。
大富豪であるスライ・ケイは男児を産んでからメイドをさらに増やしている。給金も高い代わりに質も高く、そして特殊性癖を集めている。
富豪の館に住み込みに近い状態で働かせてもらっている彼女達は、スウェンという男児が館に住んでいることを知っている。
それを外に漏らすようなことをしないように守秘義務を強いられているのだが、どこからか情報は漏れていることもある。
ごくまれに身の程をわきまえない侵入者が現れることもあるが、そのような輩を叩きのめすのもメイドの仕事である。
要するに、彼女達メイドはかなりの武闘派である。
「…………これは少し配置を考えないといけませんね」
ボイストレーニングとして歌っていたスウェンが持つ魔性を直に感じたメイド長はそう呟く。
スウェンに自覚があろうが無かろうが、あの声を聴いて性癖を歪ませるメイドが多発しないように頭の中で明日の事を考える。
「坊ちゃま、歌は最近始めたのですか?」
「へ?うん、そうだよ」
「お時間を決めましょう。他の人に聞かれるといけませんので」
「え?な、何か悪かった?」
「とっても可愛い所を家族にだけ聞かせてあげてください」
きょとんと目を丸くするスウェンにメイド長は微笑む。
太古の昔に傾城傾国と呼ばれた男子もこのようなものだったのかもしれないと思いつつ、家族以外に聞かれないように注意しなければと心に決めた。
これもスウェンの身を守るため、赤子の頃から見守ってきた子を救うためとメイド長は今日も業務にいそしむのであった。
この後、全メイドの有給があまり取れていないことを指摘されるまでちょっとした異変に気づけなかったりする。
全部、スウェンが愛らしいのが悪いのだ。