運動、それはあらゆる生物が肥満という生活習慣病を予防する、もしくは体力をつけて健康寿命を延ばすために行う行為。
特に成長期には身体を育てるために学習項目として入れられるほど重要な行為だ。
そんな重要な科目に対して、それを男性に指導できる人はかなり少ない。
何故少ないか?
まあほら、運動すると汗で服がピチピチになったり透けたりでエッチじゃん?
そういう事だ、うん。
そんな僕ことスウェンは今、エアロバイクを漕いでいる。
勉強とプログラミングで座りっぱなしで健康に悪いと危惧した母さんが僕に運動するよう手配してくれていた。
そうしてケイ家が所有する豪邸から2㎞離れた場所にスポーツジムが出来たって訳。
怖い、財力怖い。
建物って半年、下手したら何年もかけて建設するものだよね?
しれっと広大な土地を所有していることと財力と権力に物を言わせて3ヶ月で立派なスポーツジムを作り上げるとか逆に怖い。
手抜きとかないよね?中抜きとか本当にないよね?
そんな不安もあるが、実際綺麗だし施設も充実している。
これ、本当に身内だけで使うのかと思ったが住み込みのメイドたちもここを利用して運動したいとか。
確かに運動施設は近くに無いって愚痴っていたのを小耳にはさんだことはある。
そういった要望もあってスポーツジムを建てた…………と思いたい。
僕個人の為に建てたと思いたくない。いくらボンボン息子といっても前世で社会人の経験があるのだから動いた金額が怖い。
たまに姉達もここで運動しにくるようになってきたから悪いことではない、と思いたい。
「ふっ、ふっ、あとどれくらい?」
「あと2分です!さあ、ラストスパートですよ!」
妙に元気なインストラクターの男性が僕に声をかけて最終セットがあとどれくらいで終わるか教えてくれた。
男性インストラクターもかなり貴重な存在で、運動が好きな男性が他の男性に運動を教えるためになるものと聞いた。
もちろんタダ働きではなく何らかの報酬があるらしく、お金だけでなく何かを融通してもらえるのだとか。
残念なことに僕はそういったコミュニティに入っていないので詳細は知らない。
「はい、終了だよ!頑張ったね!」
「はぁ、はぁ、ありがとうございます」
今、この場には女性はいない。正確にはスポーツジムにあたる部屋の外に護衛としてついている。
「まさか『ケイ・カンパニー』の御子息を指導するとは思わなかったね!何で施設に入ってないんだい?」
「さあ、お母さんが何とかしたんだと思います」
「そうかぁ!何もされてない?」
「何もされてないよ」
「本当に?」
「うん」
「何か言われてたりしない?外の人に家のことを言ってはいけないとか」
「そんなこと言われてないよ」
何でそんなにしつこく聞いてくるのか。
確かに世の女性は飢えているのは違いなく、家で囲うということは
ニュースや事件を読み漁らない訳ではない。不謹慎だが事実に基づいた事件からインスピレーションを得ることもあるのだから。
そういった勘ぐりが運動中でも聞き出そうという魂胆が丸見えすぎて辟易するくらいだった。
いい汗をかくことは出来たが、心にしこりを残す妙に嫌な感じが残るのであった。
〜●〜●〜●〜●〜
「お疲れ様です先生」
「ただいま!みんなは元気だったかい!」
1人の少年の運動を指導した『先生』と呼ばれた男性は、彼らが集まる施設へ戻ってきた。
施設、というよりも収容。絶滅危惧種のような扱いをされ、一箇所で共同グループを組まされ生活させられているというのが実情である。
そんな彼らは別に働かなくても精子を提供するだけで食うに困らない生活をすることはできる。
だが、働こうとする者は少なくない。
それが趣味であれ、興味がなくとも、嫌いな事であっても働く事を決意した者達だ。
その1人が『先生』と呼ばれた男性である。
「どうでしたか?仕事先の人、やっぱり…………」
「いいや?
「本当ですか?奴らは獣ですよ」
「獣の中でも今は大人しくしている獣の巣窟だったぞ!」
それに、と『先生』は含みを込めた呟きをするが敢えて言葉を止めた。
「あそこに誰が居るかは直接確認するといい!あれをバラしたら私でも危ないかもしれないからね!」
まさか純情な少年がいるなんて普通は思わないだろう。
大富豪がスポーツジムを建てたから定期的にインストラクターを招きたいという打診があった時は常識を疑ったものだ。
金持ちが男を呼ぶのは大抵
少し話を戻すが、彼らが何故働くかという点。
働く事で欲しいものを手に入れるための伝手を得たり、普通に金を稼いで将来何かあった際に使うために貯める、という建前はある。
だが、彼らが本当に欲しいのはそうではない。
自由だ。
今の彼らに外を歩く自由はない。仕事という体裁で外に出たところで好きなところに行ける訳でもない。
行くとなっても、どこぞの富豪のように施設丸々貸切にしない限り安全を取ることができない。
世の女性は飢えている。男が1人いれば自身の死すら厭わず襲いにかかるような理性なき獣もいるのだ。
それでも自由が欲しかった。
そして、その自由が何なのかは今の彼らに知る事はできない。
「好きな事をやって生きていけるなら身を粉にしても頑張るさ!」
たった1人だけの男の子が純粋に生きていけるという奇跡を目の当たりにした『先生』は誤魔化すように元気よく言った。
それが空元気なのか、本当の決意なのかは他の男性が知る由もないだろう。
それでも彼らは彼らなりの火種を抱えている事実。
それがいつ燃え上がるのかは、誰にも分からなかった。
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