宮本物怪録   作:ダイダゼノンド

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今回しっかりとしたネタバレがあります。
オリジナルの妖怪です。襖の中の怪より読みやすいと思います。

一部修正しました。


十一日目 樹僧

小石川。

かつて逸れのキャスター、キルケーの霊地であった場所。

この日、伊織は助之進から小石川に住み着いた浅草で盗みを働いた浪人の集団の退治を頼まれたため、小石川を訪れていた。

「これで最後だな」

「じゃ、後は任せてくんな!」

盗賊を切り倒し、仕事を終わらせた伊織は同行していた助之進に後を任せ浅草への帰路についた。

「・・・・・・?」

浅草までの野道を進み、かつてセイバーの手を借りて登ったような崖を通ると、下に見慣れない寺を見つけた。

「バビューン・・・・・・はは」

セイバーが言っていたことを思い出し、笑みが溢れた。

「うおおっ!?」

思い出に気を取られ、足を踏み外してしまい崖を転がり落ちてしまった。

「ぐはぁっ!がっ!」

体は斜面から離れ寺の屋根を突き破り、床に叩きつけられた。

「痛っ・・・・・・」

打ちどころが良かったのか、屋根にあたったことで勢いが殺されたのか、それとも大事になるほどの高さではなかったのか、全身に痛みを感じながらも起き上がり歩くことができた。

「・・・・・・やってしまったな」

自分が開けた穴を見上げ、頭を抱える。

「・・・・・・!」

目が泳ぎ周囲が視界に入ると、抜けた床、大量の蜘蛛の巣、そして蔦や樹木に突き破られた壁が見えた。

「廃寺か・・・・・・」

改めてあたりを見回すと、人がいた形跡すら無かった。

「・・・・・・喜ぶべきか、なんというか・・・・・・」

廃寺であるため、多少壊れようと問題無いだろうが、自分が壊してしまったことに罪悪感が生じた。

「屋根は、直せるか?」
ギィ

「?」

床が軋むような音が耳に入り、振り向いた。

「・・・・・・これは」

そこにはまるで念仏を唱える僧侶のような木が生えていた。

いや、置かれていた。

「見事なものだな・・・・・・これほどの彫刻、そうお目にかかれないな」

手遊びといえど彫仏をするため、この僧侶の彫刻に感嘆した。

「・・・・・・」

ハアア

「!?」

顔を近づけて見ていると、彫刻から吐息が聞こえた。

「息を・・・・・・?」
ザザザタタタタタタ

「!」

何かが這いずるような音が聞こえ、振り向く。

しかしそこには何も無く、周囲を見回してもおかしなものはない。

「この廃寺、もしや、巣か?」

獣か化生か、何かが住み着いているのは間違いない。

壁を背に注意して見回すが、やはり何も無い。

「・・・・・・これは」

警戒していた伊織の目に入ったのは、僧侶の彫刻の前に置かれた、苔生した何か。

「これは、仏像か?」

試しに触れてみると、腐っていたのか脆く崩れてしまう。

「!」
ダダダダダいいいいいひひひいいいいいい

今までよりも多い音。

自分に向かって来るような音。

相手はまだ見えないが、確実にいる。

「・・・・・・」

柄に手を乗せ、いつでも抜けるよう構える。

「・・・・・・」

耳を澄まし、音の主を探す。

風の抜ける音が耳を支配する。

「うおっ!?」

突如、足を何者かに掴まれ転倒する。

人間離れした力に、伊織は相手が化生の者であることを確信した。

「くう・・・・・・見えん・・・・・・!」

確かに掴まれている。

しかし、足には何も見えない。  カタカタカタカタカタ

全方位から聞こえる音に目を見開くと、廃寺を埋め尽くす程の白い腕が這っていた。

腕の中には自分に向かってくるものもある。

「なるほど・・・・・・よもや、俺を落としたのもこの者たちか!」

試しに刀を振るが怯まず、斬ってみても斬れない。

「一体何のつもりで・・・・・・!」

状況を整理する。自分がこの廃寺に来た経緯、この腕が出てくるまでの言動。全てを思い返してみる。

「・・・・・・まさか!」

彫刻の前に置かれていた苔生した何か。

それを壊した瞬間、この腕は姿を現した。

「く・・・・・・これは!」

見つけたのは彫刻刀。

続々と足を掴む腕に阻まれながらも手を伸ばし、なんとか彫刻刀を手にした。

その勢いのまま腐りかけている壁を彫刻刀で突き刺して無理矢理木材を引き剥がす。

「くぅ・・・・・・」

腕に引きずられ、それに抵抗しながら腕を動かす。

形を整え、上から彫っていく。

「うおお・・・・・・!」

みるみるうちに木材は削られ、姿を変えていく。

「これで・・・・・・どうだ!」

僧侶の彫刻の前に、伊織は叩きつける。

「簡素な、なんの装飾も、無くただ座る姿だけの仏像だ・・・・・・」

簡素と言われた仏像だったが、それは小さいながらも坐禅を組む菩薩を連想させる見事なものだった。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

仏像を置いた直後、腕は消えていた。

息を切らす伊織だったが、その顔には安堵が溢れていた。

「ハァ・・・・・・疲れた」

仰向けになり、大の字になって息を整える。

しばらく寝転んだ後、即席の仏像の位置を整え、廃寺を後にする。

日は傾いているが、まだまだ空は青く澄んでいた。

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