「いやー、助かるよ伊織さん!」
「気にするな」
この日、伊織は助之進とともに夜回りをしていた。
「にしても、伊織さんもよく手伝ってくれるよな・・・・・・この前、変質者に目をつけられたんだろう?昨日みたいな野盗退治はともかく、夜回りなんておっかないとか、二度とごめんだとか、思わなかったのかい?」
「・・・・・・まあ、あの手の輩は一度きりだろうさ。それに、俺にも稼がなくてはならない理由もある」
「へえ?・・・・・・また誰か連れ込んだのかい?」
「違う!・・・・・・壁の修理だ」
「壁?」
「俺の住んでいる長屋の壁壊れていてな。それで、直すために金がいる」
「何だそういうこと。伊織さんのことだから、てっきりまた別嬪さんと懇ろになったのかと・・・・・・」
「そんなことは一度も無い・・・・・・」
「ははは!あんなに侍らせておいてよく言うよ!」
「・・・・・・何度も言うが、そういう関係ではなかったからな」
「へいへい、そういうことにしておくよ!」
軽口を叩きながら夜の浅草を回る。
盈月の儀を通し、己が守り抜いた平穏に物足りなさを感じるが、その物足りなさもまた良いと思える。
「そういやあ伊織さん、こんな話知ってるかい?」
「なんだ?」
「近頃この江戸の町に、妙な虫が出るって話!」
「虫?」
「そう!見た人によると、蛹やらいもむしみたいな姿をしていて、塀に張り付いてたり地面を這ってたりするらしい!」
「ほう」
「そんで、この虫が大きくてな・・・・・・だいたい一尺!」
「・・・・・・そんな虫がいるわけがないだろう」
「いやいるって話だよ。なんでも八百屋の婆さんが言うには、人の背中にくっついてたってさ!」
「・・・・・・」
荒唐無稽な話に呆れるが、化生の類であるならば戦い方は心得ている。
「いやー、わかるよ?伊織さん興味無いだろうなってのはさ。でも黙って歩くのも暇だろう?」
「まあ、暇つぶしにはなるか」
「そうでしょうとも!・・・・・・とわあっ!?」
「大丈夫か?」
いきなり倒れた助之進に声を掛ける。
「なんか、急に重くなったと言うか・・・・・・」
「重くなった?」
「ああ、背中にこう、重たいものを一気に乗せられたような・・・・・・」
膝をつき脂汗を流す助之進の姿に、さすがにただ事ではないと察する。
「ああ、でも、歩けないほどじゃないか・・・・・・?」
「あまり無理は・・・・・・!?」
助之進が立ち上がろうとすると、伊織の背中にも重さが来る。
「・・・・・・伊織さんも?」
「・・・・・・ああ」
「どうしたもんか・・・・・・これでまわるってのもねえ?」
「・・・・・・やるしかあるまい」
そうして原因不明の重みを背負い、夜の浅草を歩く。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「フゥ・・・・・・フゥ・・・・・・フゥ・・・・・・」
背に米俵程の重さを感じながら歩き続け、息も切らし足が棒になるほど疲れていた。
「もう・・・・・・だめだ・・・・・・」
「・・・・・・そうだ、昼に買ったおむすびがある・・・・・・食うか?」
「ありがてえ・・・・・・」
伊織の懐から差し出された塩むすびを受けとった。
「んぐ・・・・・・ん?」
「んあ・・・・・・?」
「ん・・・・・・軽い。軽くなった!」
「嘘みたいだな・・・・・・」
「んぐぐ・・・・・・ハァ!さ、行こうぜ!伊織さん!」
「あ、ああ。そうだな」
調子を戻した助之進に続き、夜回りを再開した。
「?」
ふと振り向くと、大きな何かが転がっていた。
「あれは・・・・・・」
「なにかあったかい?」
「・・・・・・いや、なんでもない」
再び助之進と共に歩き出した。
妖怪の姿の解釈に挑戦してみました。