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「兄ちゃーん・・・・・・あれ?まだ寝てる」
「ん・・・・・・カヤ、か」
「どうしたの?いつもならもう起きてる頃なのに」
空一面の雲によって、なんとなく気分も沈む曇天のこの日、伊織は珍しくカヤが来るまで布団の中にいた。
「なん、だろうな・・・・・・体が重い」
「風邪かな?食欲はある?」
「それは・・・・・・まあ、普段と変わらん」
「うーん・・・・・・もしかして、今日曇りだから、それに引っ張られたとか?」
「ははは。そんなわけないだろう。おそらく夜回りの疲れだ。昨夜は帰りが遅くなったからな」
「何もないなら良いんだけど・・・・・・」
「心配するな」
「そーお?」
普段と変わらない調子で答える。
そんな伊織の声を聞き、カヤは朝餉の支度を始めた。
「ふあ~あ・・・・・・うん?なんじゃ、伊織よまだ寝ておったのか?」
「なぜだか、体が重くてな」
目覚めた紅玉の書に答える。
「怠いか?まあ日頃休みもせず動いておればそうもなろう」
「返す言葉もないな」
「あれ?」
「どうした?」
「なんか、野菜が切れなくて。刃は大丈夫だと思うんだけど・・・・・・」
「どれ、見せてみろ」
「ああ、いいよ。無理しないで」
「案ずるな」
立ち上がり土間に足を下ろす。
「む?」
すると、足に毛が触れたような、こそばゆいような感覚を覚えた。
「・・・・・・」
土間と床の間を探ってみると、長い髪の毛のような、黒い糸が何本か伸びていた。
「これは・・・・・・」
「どうしたの?・・・・・・これ・・・・・・」
「長い髪じゃな。艶もあって、まるで女人の髪のようじゃわい」
「も、ももも、もしかして兄ちゃん・・・・・・また誰か好い人が!?」
「そんなことはない。いたとしても、第一どうしてこんなところに髪の毛が挟まるんだ?」
「そ、それは・・・・・・やっぱり、そういう・・・・・・」
顔を赤らめながらカヤは言い淀んだ。
「・・・・・・全く、兄は悲しい」
「で、でも・・・・・・」
なおも頬を染めるカヤに伊織は呆れ、ため息をついた。
「とにかくだ。このままあっても良いことは無い」
挟まっている髪の毛を掴み、引き抜こうとする。
「ん、固い・・・・・・いや、なにか引っ掛かっているのか?」
力を込めて引っ張るが、髪の毛はまるで抵抗しているように抜けない。
「カヤよ、手伝ってやってはどうだ?」
「へ?あ、うん!」
紅玉の書に言われ、カヤも髪の毛を掴み、引っ張り始めた。
「ぬ、抜けない〜・・・・・・!」
「・・・・・・うおっ!?」
カヤが加勢したことで、ようやく髪の毛を引き抜くことが出来た。
「・・・・・・これは?」
引き抜いた髪の毛は、まるでかつらのような髪の毛の集合体のような見た目をしていた。
「うわあ・・・・・・なんか動いてる・・・・・・」
髪の毛は芋虫のように見るものに不快感を与える動きをしている。
「・・・・・・」
伊織は髪の毛を持ったまま立ち上がり、長屋を出て外に放り投げた。
「これで良し」
「良いのかのう?」
その後、伊織は体の重みが嘘のように治っていた。