宮本物怪録   作:ダイダゼノンド

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2025年初投稿になります。
今回も短めです。


十八日目 迷い家

「・・・・・・もう日が暮れるな」

いつものように鍛錬を続け、気づけば太陽が沈みかけていた。

「・・・・・・」

刀を鞘に納め、伊織は帰路についた。

葬式の翌日であったが、伊織のすることは変わらなかった。親類や友人の類ではなく、馴染みがあった店主と客という関係であったため、伊織にとって日を跨いで引きずるような感情はあまりに薄いものだった。

「・・・・・・?」

いつも通りの帰り道。しかし、どれだけ歩みを進めても一向に長屋へたどり着かない。まるで歩くたびに道そのものが変わっていくように、歩を進めるたびに見慣れた景色が変わっていく。

すっかり日が沈み、月が照らす夜中。一向に長屋にたどり着けない伊織はついに足を止めた。

「・・・・・・」

自らが道に迷ったと考え、伊織は来た道を戻ろうと後ろを向いた。

「・・・・・・これは」

振り向いた伊織の目に入ったものは、質素であるが大きな民家。

まるで生活の安定した商人が住まうような家屋が建っていた。家には明かりがついており、人の声は聞こえないがお湯の沸騰するような音がはっきりと聞こえている。

「・・・・・・ごめん!」

戸を叩き、伊織は住人を呼ぶ。道を聞こうと考えたのだ。

「いないのか?・・・・・・失礼!」

再度戸を叩いて鳴らすが、反応は無い。不思議に思った伊織は無礼を承知で戸を開いた。

「誰も、いない?」

かまどには火が焚かれ、部屋に置かれたロウソクも全て灯っている。しかし、どこを探しても家主や家人の姿が無い。

「誰かいないのか!」

家の中、玄関で叫んでみるが、やはり応答は無い。

「・・・・・・失礼する」

履物を脱いで家に上がってみる。床は軋むこと無くしっかりと伊織を支える。

「・・・・・・御御御付けだ」

試しにかまどに近づき、中を見てみる。釜の中には出汁の香りのする御御御付けが入っていた。

「っ・・・・・・」

鼻腔を刺激する香りに思わず喉が鳴る。まるで食べさせようとしているかのように、釜の中の御御御付けは伊織を引き付けた。

「・・・・・・いや、流石にな」

釜に蓋を戻し、伊織はかまどから離れた。勝手に家に上がり、尚且つ食事にもありつこうとする面の皮の厚さを伊織は持ち合わせてはいなかった。

「・・・・・・セイバーであれば、少しだけ。などと言ったろうな」

不意に嗅いだ香りに刺激されたのか、かつての日々を思い出す。セイバーがいた頃は毎日が豊かなものだった。改めてそう思えるものだったと思う。家の中で伊織は感慨深い感情に浸り、少しの間立ち尽くした。

「・・・・・・と。居座りすぎたな。失礼した!」

ひとしきり感傷に浸った伊織は、いい加減失礼が過ぎるだろうと思い家から出た。

「・・・・・・?」

家から出ると、そこには見慣れた長屋があった。

「・・・・・・無い?」

振り向くと、そこには先程まで自分がいたはずの家が無かった。

「あれは、いったい?」

疑問が残るものの、伊織は長屋に入り寝支度を始めた。

後日伊織の住む長屋の前に食器が置かれていたが、紆余曲折の末それを万屋に売ったのはまた別のお話。




迷い家って妖怪か?という疑問はありますが、まあ今更かな。と思いました。
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