もうこれくらいの文字数でいこうかなとも思ってます。
こんな文字数なんで割とすぐ書き上げられました。
「いや〜助かるよ、伊織さん!」
「なに、気にするな」
新井助之進。馴染み深い同心の男。
「なんだかんだで俺も忙しくてさ!物を届けるにも神奈川湊はちょっと遠くてね!」
「神奈川湊は幾度か赴いたことがある。案ずるな」
「ありがとよ!そういえば伊織さん、昨日夜中に変な音がしたとか言ってたが、今日は大丈夫だったのかい?」
「ああ。なんの音もしなかったな」
「そいつは良かった。じゃ、よろしく頼むよ!」
「ああ。行ってくる」
「随分とかかってしまったな」
届けるのに時間は掛からなかったものの、気の良い人柄の主人にお礼がしたいと云われ、断りきれずに昼餉を馳走になり長居をしてしまった。
「もう日が暮れる頃だが・・・・・・まだ日の高さも十分。日が沈む前には帰れるな」
夜との境である逢魔が刻。
外を出歩いているのは大人や獣の類となっていた。
「・・・・・・うん?」
浅草に入る間際の道。その端に見慣れない者がいる。
笠を被った自分の腰程の背丈の人間。子どもだ。
「もう日も沈むというのに・・・・・・君」
「・・・・・・?」
「こんな時間に、こんなところにいると危ない。親御さんはどうした?」
「・・・・・・」
「なに、案ずるな。俺は怪しいものでは・・・・・・」
「・・・・・・ろ」
「?」
「もらってくんろ」
「は?」
「これもらってくんろ」
「これは・・・・・・豆腐か?」
盆の上に乗せられた豆腐を差し出され、困惑するしかない。
「もらってくんろ」
「もらってほしいと言われてもな・・・・・・それは君のものだろう?」
「もらってくんろ!もらってくんろ!」
「いや、しかし、君も見ず知らずの人間に豆腐なんて渡すものではないぞ」
余談であるが、豆腐が庶民でも食べられる食べ物となったとされているのは宮本伊織が生きた1600年代の百年後である1700年代である。豆腐が料理の本が人気になったのが要因とされ、一応食べられてこそいたのだろうが、この時代ではまだ豆腐は身近な存在とは言い難いと考えることができる。
「もらってくんろ!」
「聞き分けの悪い・・・・・・」
「もらってくんろもらってくんろ」
「だから、豆腐などいらぬと・・・・・・」
「・・・・・・いらない?」
「ああ、いらない。君も、疾く帰りなさい」
「いらない・・・・・・いらないの」
「・・・・・・聞こえていないのか?親御さんも心配しているだろう、疾く帰りなさい!」
「いらないんだ!」
「!?」
語気を強めて帰宅を促した直後、顔を上げ笠の下の容貌が明らかになる。
その顔は1つ目で歯の生えていなかった。
「いらない・・・・・・いらない・・・・・・そうか、そうかぁ」
「・・・・・・化生の類か」
巨大な目で真っ直ぐに見つめられ、心の奥底のなにかが疼く。
気づけば鯉口を切り、抜刀する体勢をとっていた。
「いらない・・・・・・豆腐・・・・・・」
「・・・・・・」
「もらってくんろ・・・・・・」
「・・・・・・」
ゆっくりと近づく怪異を前に、柄を握る力が増す。
刃のおよそ半分が露わになる程に気が沸き立っていた。
「!」
「?」
「ぎやあああああああああ!」
「な、なんだ?」
目をつむり逃げていく怪異を前に、拍子抜けし力が抜ける。
「ん?」
自分でも気づかなかったが、露出した刀身に沈みかけた陽の光が反射していた。
顔のおよそ半分を占めていた目玉に光の反射はよほど効いたらしい。
「なんだったんだ・・・・・・まあ、いいか」
刀身を納め、再び帰路についた。
逢魔が刻も終わりを迎え、すでに月が輝き始めていた。
多分次回も短い!