今回も短めです。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・」
日も傾き、暗くなり始めた逢魔ヶ刻。地面の全てが泥濘るほどの豪雨の中、伊織は家路を辿っていた。
助之進から小石川の見回りを頼まれ、半日をかけて歩き、戦っていた。
雨は勢いが落ちることなく降り続け、風も強く吹き付ける。申し訳程度の笠は押さえておかなければ飛んでいってしまいそうな不安にかられるほどである。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・あれは?」
笠で視界の上半分が見えない伊織の目に入ったのは、丸く、白いなにか。
「・・・・・・」
膝をつけないようにしゃがんで見てみると、それは白い猫だった。
「この雨の中、このような道の端にいるとは。そら、雨をしのげる場所まで運ぼう」
丸まっている猫を片腕で抱き、伊織は再び歩き出した。
しばらく歩いていると、いつぞやの廃寺が見えてきた。
「道を間違えたか?まあ帰れるから問題は無いか。それに、ちょうど良い。ここでいいだろう」
伊織は廃寺の本堂に入るための階段の後ろにあった空間に猫を降ろした。
「ここならば、濡れることも無いだろう。屋根のある場所に移動もできるからな」
そう言うと伊織は今度こそ家路を辿り始めた。
しばらく歩いていると、家屋が見え始めた。浅草に近づいている。
「思いのほか濡れてしまったな。明日は晴れるといいが・・・・・・」
服を乾かすことに意識を向く。笠を押さえる手の力も緩むほどだった。
「・・・・・・!?」
歩いていると、伊織は不意につまずくようによろけてしまった。
「!」
足元を見ると、先程廃寺で別れた猫がいた。
「なぜ・・・・・・この猫が・・・・・・」
疑念を抱きつつも、伊織は歩を進める。すると猫は伊織の前に進み、再び足に絡みつき伊織をつまずかせた。
「何のつもりか知らないが・・・・・・俺に恨みでもあるのか?・・・・・・確かに廃寺はマズかったと思えるが・・・・・・」
歩き続ける伊織の足に絡み、つまずかせ続ける。幸い街に近く崖や傾斜の無い場所のため、ひたすらに歩きづらいものだった。
「うっ、はあ・・・・・・うぅっ」
歩行を邪魔され、かつ雨風に襲われる。伊織は経験したことのないような疲労感を覚え始めた。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・」
体は濡れて体温を奪われ、風でさらに冷やされる。足には猫が転ばせようと絡みつき、余計な疲労をため続ける。まさに拷問のような時間が流れた。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・ああ、ついたか・・・・・・」
息を切らしながら、伊織は浅草の街にたどり着いた。
「はあ、はあ・・・・・・」
ふと振り返ってみると、先程まで足元にいた猫が走り去っていくさまが見えた。
「はあ・・・・・・」
長屋へは、濡れた体ではあまりにも遠かった。
そういえば伊織って息切らせるのだろうか