「はい!できたよ!」
「ああ、悪いな」
「いや〜兄ちゃんにはセイバーさんやアリアちゃんが一緒になってくれると思ってたけど、そうでもなかったな・・・・・・」
「カヤ、何度も言うようだが、俺とセイバーはそういう関係ではない。それに、アリアともそう知り合って長いわけではなかったろう」
「それでも!」
「むう・・・・・・」
甲斐甲斐しく世話を焼き、今日も朝餉を作ってくれている妹に頭が上がらない。
「もう・・・・・・そういえば、長屋。まだ直してなかったんだ」
「ああ。爺さんがな・・・・・・」
「せっかく工房を作ったんじゃ!そう簡単に解体してはもったいなかろう!」
壁が無くなり隣と繋がった長屋の現状に触れられたとき、奥にいた魔導書、紅玉の書が反応した。
「俺としては、もう要らぬと思うんだがな」
「何を言うか。工房を持つということは、自分を守ることにも繋がるのだぞ」
「う~ん、やっぱり壁は直したほうが良いんじゃない?いつ新しく人が入ってくるか分からないんだし」
「カヤの言うとおりだ」
「なんじゃ二人して・・・・・・全く危機感の無い・・・・・・」
(何に危機感を覚えろと・・・・・・)
そうしてささやかに、そして賑やかに朝を過ごしていく。
「・・・・・・あ、揺れたね」
「ん?そうか?」
「うん。あ、さっきより大きい」
「・・・・・・確かに揺れているな」
小さな地震に箸が止まっていると、隣の部屋から物音がした。
「何か落ちたな」
「なんじゃ・・・・・・うん?何も落ちとらんぞ?」
「聞き間違いか?」
「私も聞いたよ?」
「・・・・・・俺も見てみよう」
立ち上がろうとすると、床が軋んだ。それも長く、大きく。
「・・・・・・?」
「大っきな音・・・・・・」
「・・・・・・」
床の上を歩くたびに軋む。床が抜けてしまうのではないかと心配になるほどだった。
「やっぱり壁を壊したから、脆くなってるじゃないの?」
「壁が床に影響することはないと思うんじゃがな・・・・・・」
「・・・・・・何も落ちていないな」
「ほれ、そう言ったじゃろう?」
何も落ちていないことを確認し、食事に戻る。
すると、今度は床が軋まなかった。
「あれ?」
「?」
試しに床を押してみるが、全く軋まない。
「・・・・・・おかしいな」
「軋まないならそれに越したことはないじゃろう」
「それもそうだ」
「あ、また揺れた」
床に気を取られていると、またも小さく揺れた。
「・・・・・・最近地震があったか?」
「ううん、こんなに頻繁に揺れるなんて珍しいね。あ、食べ終わった?片すね」
空になった茶碗や器を台所に運ぶ。
「・・・・・・揺れたな」
「へ?」
「うん?感じなかったか?一度、大きく揺れたろう」
「そんなことないけど・・・・・・」
「そんなはずは・・・・・・うおっと」
話している最中、座っていながらも体が揺れるほどの揺れ。
台所に立つカヤはやはりなんのことか分からないと言った顔をしている。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「確かに揺れているはずだが・・・・・・建物だけ揺れているのか?」
「そんな馬鹿な・・・・・・仮にもここは魔術工房じゃぞ?この長屋だけを揺らすなど、魔術の域。対策をしているはずじゃ」
「それもそうなんだが・・・・・・むっ」
話し込んでいると、また揺れた。
再び座りながら体勢を崩した伊織は、普段手遊びに彫仏をしている台の下に何かを見つけた。
「む?どうした、伊織?」
「・・・・・・」
「何かあったの?」
「やはりか」
試しに台をどかしてみると、そこには丁度手のひらほどの大きさの小人の姿があった。
「こいつは・・・・・・」
鷲掴みにして顔の前まで持ってくる。
まるで絵物語に出てくるようなそれは、ジタバタと抵抗していた。
「これ・・・・・・なに?」
「鬼のような顔をしているが・・・・・・なんだこれは?」
「こいつは・・・・・・むむむ」
「わかるのか?爺さん」
「むむむ・・・・・・思い出したぞ。こいつは家鳴りじゃ」
「家鳴り?」
「そうじゃ。縁の下などに潜み、家屋を揺らすんじゃ」
「じゃあ、さっきまでのはこいつのせいってこと?」
「そうなるのお」
「というか、爺さんこういうのも知っていたんだな」
「たまたまじゃよ。たまたま」
「それで・・・・・・これ、どうすの?」
「どうすると言ってもな・・・・・・」
「まあ、することは一つじゃろうな」
そう言うと伊織が長屋から出て掴んでいた家鳴りを放り投げた。
「これで良いだろう」
「まあ、そうだよね。わかってた」
後日、部屋の隅に丁度手が入るくらいの穴を見つけることになるが、それはまた別のお話。