「ズル・・・ズル・・・」
「兄さん良い食べっぷりだね!そんなにうちのうどんが美味いかい?」
「ズル・・・ああ、美味いとも。それにうどんは久しく食べていなかったからな」
「そうかい。いやーお久しぶりをうちで食ってくれるたぁ嬉しいねぇ」
「ははは。ズル・・・」
たまたま拾った春画を助の進が高値で買い取ってくれたため、この日伊織は昼餉に店でうどんを啜っていた。
「ズル・・・ズル・・・本当はこう、毎日のように食する方が、食わずに不摂生よりも良いんだろうがな・・・・・・ズル・・・・・・」
「そりゃそうさ!なんてったって、うどんは元気の源よ!ちょっと腹にたまるくらいが丁度いいのさ!」
「そうだな・・・・・・ズル・・・・・美味かった。馳走になったな」
「あいよ!お粗末さん!・・・・・・あ、そうだ。ちょっと、聞いてくんな」
「うん?なんだ?」
「いや〜そう大したことじゃないんだけどさ。最近このあたりで妖怪が出るって話でね。なんでも真っ赤な顔して、この、お盆みてえにでっかい面してるって話よ。兄さんみたいなお侍さんなら心配ねえだろうが、まあ、念の為な?」
「そうか。気遣い感謝する」
人伝に化生の類の話を聞いたことに懐古の念を抱く。
思い返せばセイバーがいた頃は頻繁に化生と相対していた。
今となっては思い出に過ぎないが、こうして思い出せる程に満ち足りていたように感じられる。
「・・・・・・雷か。晴れているが聞こえるとは、相当大きいのが落ちたな」
浅草の街を晴天の中歩いていると、どこからか雷が落ちたような音がする。
一度鳴ったきりであとに続く気配が無いため、意識の外に追いやって再び歩き出す。
「あ、伊織さん!」
「助之進」
「いや〜さっきは良いもん売ってくれてありがとうよ!」
「売るつもりはなかったが、そうか。それは良かった」
「それで、お礼といっちゃナンだが・・・・・・とっておき」
「いらんぞ」
「て即答かい!まあ、こういうの興味無いよな・・・・・・伊織さんは」
「イヒ・・・・・・イヒ・・・・・・イヒ・・・・・・」
「うん?」
伊織と助之進が話していると、笠を被り俯きながら小刻みに揺れる男が近づいてくる。
「なんだいありゃ」
「病人か?」
「イヒ・・・・・・イヒ・・・・・・」
「?」
「ヴァアアアアアア!」
「うおおおお!?」
「!」
俯いていた男が顔を上げたかと思うと、大声を出して走り抜けていった。
「なんだったんだ・・・・・・」
「あー、吃驚した・・・・・・心臓に悪いぜ・・・・・・」
謎の男に気を取られ、話す気も起きなくなった二人は軽く挨拶を済ませ伊織は長屋への帰路についた。
「・・・・・・?」
長屋の前まで来ると、一人の男が戸の前でうずくまっていた。
「・・・・・・」
「うぅ・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫か?」
「うぅ・・・・・・う、うぅ・・・・・・」
「・・・・・・全く、今日はついていないな。良くわからんものに揶揄われ、家の戸の前には病人か」
「うぅ・・・・・・お侍さん、何に会ったって?」
「うん?赤い顔をした化生の類だ。というか、会話ができる程度なら疾く家で横になっていれば良かろうよ」
「イヒ・・・・・・お侍さん。その、化生の類は、恐ろしいもんでしたかい?」
「急に叫ばれたゆえ、呆気にとられたが」
「イヒヒ・・・・・・それは、こんな顔だったろう!」
立ち上がり、振り返った男の顔は真っ赤で大きく、額には角まで生えていた。
「・・・・・・」
「イヒヒ。声も出ないかあ?」
「・・・・・・化生の類か」
「あ~ん?」
「・・・・・・」
抜刀、斬る。
肩から腰にかけてを一閃。
あまりの早業に切られた相手自身も気づくのが遅れてしまった。
「・・・・・・んぎゃあああああああああ!!!」
「・・・・・・浅かったか」
「おま、おまお前!殺す気か!?」
「化生の類であるならば、俺以外の者に牙を剥く前に切り捨てるまで」
「こいつ、当然みてえに・・・・・・!」
尻餅をつき、後退る化生ににじり寄る伊織。
一振りを構え瞳に殺意がこもっていく様は非常に危うさを感じさせる。
「ヒ、ヒイッ!」
恐怖に耐えきれなくなったのか、四つん這いで逃げ出した。
「・・・・・・」
化生が見えなくなったのを確認し、納刀する。
瞳にあった殺意はすっかり消え失せ、何事もなかったかのように長屋に入っていった
伊織の剣鬼はこう、ふとした瞬間に出てきそうだなと。
そんな危うさを感じますね。