後書き修正しました。
「フッ・・・・・・フッ・・・・・・」
この日、伊織はある神社で素振りに励んでいた。
こうして境内で刀を振るっていると、若旦那との一戦を思い出す。思い返せば酷かった。セイバーがいなければ、今ここに俺は立ってはいないだろう。
「フッ・・・・・・いかん、日が暮れてきた」
朝から始め、昼餉を抜いて無我夢中に振り続けていたために、気づけばもう逢魔が刻と呼んで良い空になっていた。
「日が沈む前に帰れれば良いが・・・・・・」
道は覚えているとはいえ、自宅である長屋への道順は入り組んでいて、暗闇の中では難儀する。
「さて・・・・・・!・・・・・・」
いる。
帰路につかんと振り向いた鳥居の上に、いる。
およそ数尺ある巨体にして、全身を覆う黒い髪。
「んん・・・・・・・・・・・・んう・・・・・・」
目をこすり再び鳥居の上を見てみるが、やはりいる。
茫然自失。身動きが取れない。
それに先程から目が合っている。
言い逃れできないほどに睨まれている。
「・・・・・・」
思わず後退る。すると、鳥居の上の怪物も前のめる。
左にずれれば、怪物も体を動かして目を合わせてくる。
なんなんだ。
「・・・・・・理由がわからんのではな」
基本どんな人物であれ受け入れることができる伊織であったが、今回ばかりは困惑に心を支配されていた。
自分は一体何かしたか?
そう頭の中を疑問が埋め尽くす。
切ろうにも鳥居の上では届かない。試しに柄に手を乗せ抜刀の構えをとってみると、怪物は大きく口を開けた。
これはまずい。そう直感し、柄から手を離す。すると怪物は口を閉じた。
「・・・・・・一体何なんだ・・・・・・」
頭を掻き怪物に悪態をつくようにため息を吐く。
「はぁ・・・・・・このままやり過ごすにももう夕暮れだ。このまま睨み合っても仕方がない。帰るか」
怪物をどうにかしようかと考えていたが、ついに諦めて鳥居を通り抜けようとした。
「!」
しかし、怪物は鳥居の上から落下。地面を揺らしたかのような音を放ち、伊織の前に立ちふさがった。
「・・・・・・!」
目の前に降り立った怪物に絶句し、言葉を失った。
容姿を間近で見たからではない。あまりに突拍子も無く自分の前にまで来た怪物を前にして思考が停止しているためだ。
「!・・・・・・この距離ならば」
自分の間合いの中に入ってきた怪物を睨み、二振りを抜刀した。
「火の型・・・・・・」
精神を研ぎ澄まし、両手に握る刀の柄に力を入れる。
「ハアッ!」
「■■■■■■■■!」
「ウオァッ!?」
斬りかかり、怪物の額に刃が入る直前、怪物は大きく口を開け山を揺らすほどの雄叫びを上げる。
雄叫びはただ叫んだだけではなく息を吐いており、斬りかかった伊織を軽々と賽銭箱の前あたりまで吹き飛ばしてしまった。
「くっ・・・・・・一筋縄ではいかないか・・・・・・あ」
賽銭箱を掴み立ち上がると、吹き飛ばされたときに緩んだ着物の隙間から小銭が落ちてしまった。
「助の進からの臨時収入が・・・・・・む?」
小銭が賽銭箱に入っていく音が神社に木霊したかと思うと、いつの間にか怪物はいなくなっていた。
「いつの間に・・・・・・まあ、あのまま要られても困るが・・・・・・」
納刀した伊織は不思議に思い、境内を一周してみたが、怪物の姿は見えず、この日伊織はモヤモヤとした気持ちで眠った。
助之進からの臨時収入については朱の盤をご参照ください。