だぜ娘 本編外短編   作:元掃除道具

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スマホからpixivちょっと見ずらいかも、という感じたのでマルチ連載にしました。


現代パロ(文マリ)
妄想2 社会人射命丸と異邦人魔理沙概念


「……ずっと家に籠って貴方の身の回りの事だけして、私ってあなたにとってのなんなのよ!?」

 

 使い古されたセリフで女優が目に涙を浮かべながら俳優に詰め寄り、俳優は言葉に詰まったように喉を鳴らすと、そっとその肩に手を置く。

 触らないで! と言いながら手を払う女優を見ながら、私はそのセリフがやけに印象にのこった。

 

 それは久しぶりのカメラマンとしての仕事で、深夜ドラマの宣材写真を撮るために訪れた現場で偶々聞いたものだ。

 

「どうしたのよ文。なんだかぼーっとしてない?」

「ああ、姫海棠。いえなんでも……」

 

 考えごとをしていると、同じフリーライター兼カメラマンの姫海棠はたてが声を掛けて来る。

 お昼時だからか、お菓子のような軽食を摘まみながら口元を動かしているのはお行儀が悪い。

 

 私は手元で魔理沙の作ったお弁当を包む手ぬぐいを広げ、曲げわっぱの蓋を取って今日のお昼を頂くことにする。

 

「あ~らら、お熱いわねぇ。それ、あの子の手作り?」

「ええ。すっかり胃袋を握られていて」

 

 曲げわっぱのお弁当が良い! という魔理沙の強烈な勧めで、手ぬぐいに包まれたそれはやけに古風な見た目だ。手ぬぐいはアニメ調で目つきの悪いカラスがプリントされた可愛らしいもの。

 甘めで出汁の香る卵焼き。丁寧に足を広げてゴマ粒で目を付けたタコさんウインナー。小口サイズで丁寧に骨を取られた鮭の切り身。切り身の下には紫蘇が敷かれ、プチトマトが彩を加えている。あとは昨日の夜も食べたさつま芋の煮物と星形に飾り切りされた人参。

 ごはんの上には海苔で、多分カメラを象ったものと、謎に黒い羽根のようなもの。

 可愛らしいそれに、手間を感じるのと同じだけ愛情を感じて噛み締める。

 

「あ~、私の家にも魔理沙ちゃんが欲しいわ~」

「あげませんよ」

 

 しっしっと手で姫海棠を払い、甘めの卵焼きを半分に割って口に運ぶ。

 冷えても尚ふわりとほどけるだし巻き卵に、朝から匂いを嗅いで飢餓感を感じていた心にようやく安寧が訪れる。

 甘いとしょっぱいのって、どっちが好き? なんて、最初にお弁当を作るときに聞かれた卵焼きの好みの件で、幼い見た目の割になんだか安心感のある笑みを浮かべて聞いてきた魔理沙。

 何個か試した中で「文は京都出身だから、お出汁とか好きそうかなって思って」と、実家の味なんて覚えていないけど、彼女らしい優しい味わいのこの卵焼きが大好きになった。

 

「ね~、少し分けてよぅ。手作りの味に飢えているのよぅ」

「……今度、またうちでお酒を飲みましょうか。それで勘弁してください」

 

 姫海棠にも魔理沙の事で少し世話になった分、無下に断るのも憚られるがこのお弁当を渡すのは絶対に無理だ。適当に折衷案を提案しておく。

 やったー! と子供っぽく能天気に両手をあげて喜ぶ姫海棠を横目に、骨取りの魔法を作るべきだ、なんて言いながら毎回苦心して小骨を取る魔法使いを思い浮かべて鮭を割る。

 塩漬けのそれがお米を求めるので、カメラと羽根の海苔を避けてがっとお米を口に運び、咀嚼しながら先ほどの女優のセリフを反芻する。

 

 幻想郷という異世界から訪れた魔理沙。偶然出会ったその娘にすっかり胃袋を握られている。

 彼女は最初に約束した通り、家の事をなんでもやってくれている。

 当初は記事のネタとして考えていたのだけど、書きかけの文章はすっかり更新されなくなってしまった。

 

 ――そうですねぇ、私のために、ごはんとお弁当! あとはあったかいお風呂と毎日シャツにアイロン掛けて、私の愚痴に付き合ってもらってぇ……。

 

 ――なんだそんなことか! 良かった、お手伝いなら得意だぜ!

 

 彼女が空を飛んでいるのを見たので、その幻想郷という存在を疑いようはない。

 だけど家にあの子を匿っているという事が世間的には後ろ暗い、探られると痛い腹になっている。

 

 その特殊な事情から、私は彼女をあまり家の外に出してあげれていないのだ。

 異世界から来た少女を家に閉じ込めて、労働搾取をしている。そんな外聞の悪い言葉が思い浮かぶ。

 

 あのセリフは専業主婦の妻が帰りの遅い夫に不満を爆発させたようなものだが、家に籠りきりなのはストレスを感じるだろう。

 ただでさえ自由に空を飛ぶことの出来るあの子が、今はどれだけストレスを感じている事だろう。

 自分の配慮の無さに少し落ち込み、気づかない程自然に振る舞うあの子の優しさを感じた。

 

 ▽▲▽▲

 

 幻想郷の外は海のお魚も多く、出汁を取るという手段が本当に多く存在していた。

 昆布や鰹節だって貴重品じゃない。

 私が『霧雨 魔理沙』になる前には確か普通に外の世界の人間だった筈なんだ。

 だからその価値観は外の世界では普通、の筈なんだけど。すっかり幻想郷に馴染んでしまった私は、そういう外の世界のひとつひとつに新鮮な驚きを覚えている。未知との遭遇ばかりで、この現代入りも楽しいものだ。

 というか外の事なんてすっかり覚えていなかった!

 元々幻想郷の中で見た外来物を見て、外の事を思い出すくらいだったし、この世界のことしか私は知らない。

 ちなみにY〇utubeで日々お料理系のものばかり見てしまうのは元から興味があったからだ。決して今この軒を借りている『幻想郷じゃない文』のためではないと思う。

 

 文は不思議な存在だ。

 幻想郷にいる『射命丸 文』と同名で見た目もそっくりなのに、幻想郷の存在ではないもの。

 社会人としてバリバリお仕事をする格好いいお姉さんで、私生活は割とだらしない。

 そういうところも『文っぽい』なーと不思議に思いながら、勝手に安心感を抱いてしまう。

 あんまり長居して迷惑を掛けているのも心苦しいんだけど、幻想郷にはいつ帰れるんだろう。

 

「おかずが決められない時でも、とりあえず出汁を引くのか……」

 

 文から借りている大きな情報端末、タブレットという大きなスマートフォンを操作しながらソファの上で足を延ばした。

 ぶかぶかのシャツに両足を突っ込んで丸くなっていたので、エアコンの効いた室内で、私も文がいないときはだらしなくしている。

 お料理をするY〇utuberのセリフを胸に、そうかそうかとちらりと時計に目をやる。

 まだ13時少し前。文は今日写真撮影のお仕事に出かけると言っていた。夕方には終わるから、お付き合いが無ければまっすぐ帰ってくる筈。つまり、晩御飯を一緒に食べられる日だ。

 冷蔵庫の中にあるものを思い浮かべ、葱と豆腐、大根と秋刀魚、今日はそれでお味噌汁と焼き魚だなと決めているとタブレットの上の方で文からのメッセージを通知していた。

 

『お弁当今日も美味しかったです。今日の夜なのですが偶にはどこかへ食べに行きませんか』

 

 メッセージと一緒に、空っぽの曲げわっぱの写真。

 それを見るとだらしない笑みが漏れ、いつも美味しく食べてメッセージまで送ってくれる文は改めてマメな人だなぁと思う。

 お弁当を準備するだけでこんなに喜んでくれるんだから気分が良いぜ。

 

 それとメッセージの続き。思えば幻想郷から出て最初の日以外、外ではごはんを食べていない。

 でも私は身分証が無いので、万が一の時には文に迷惑を掛けてしまうと思う。

 外食は非常に魅力的な提案に思えたけれど、少し臆した状態で返答を作る。

 

 ――『身分証明とかできません 迷惑じゃないですか?』

『大丈夫です、知り合いの店なので』

 

 お知り合いのお店だと大丈夫なのか。

 文が言うならきっと大丈夫なのだろうと思い、続けて文章を打ち込んでいく。

 

 ――『文のお知り合いですか それなら安心ですね』

『はい。お刺身の美味しいところですよ。ぜひ行きましょう』

 

 お刺身!

 そうすると、少し良いところなんだろうか。

 お金を持っていないから当然のように文が支払ってくれるのだけど、なんだか申し訳ないなぁ。

 

 ――『あ ごめんなさい 行けないかもしれません』

 

 納得しかけて楽しみにしたところで、問題点を発見してしまった。

 

『え、どうしてでしょうか。どうかしました?』

 ――『外に行く服を持っていないのです 文の服を借りて行くと少し大きいです 家だと大丈夫ですけどお店とか文の知り合いに会うのはご迷惑かもしれません』

 

 自分の格好を見下ろして考える。

 ぶかぶかのTシャツに黒いショートパンツ。家はエアコンが効いていて寒くないけど、流石にこんな格好では外出できない。

 この家に来た時には汚れていた私の服は、クリーニングに出してもらってそれを取りに行っていない。

 そもそも外の世界であの格好は結構目立ってしまう。いや、幻想郷でも目立っていたけど。

 

 下着は通販で買って貰ったけど、家の外に出る必要もないしすっかり服の事なんて考えが抜けていた。

 せっかくの申し出だけど、ここは断ろう。うん、よし、やっぱり家でごはんが一番だぜ!

 

 ▽▲▽▲

 

「っはぁ~」

 

 眉間を抑えながらスマホをぎゅーっと握る。

 とことん気遣いが出来ない自分に嫌気が差す日だ。

 マジかい。私、そんなこともしてないし、今の今まで気づいてもいなかったんかい。

 

「どうしたのよ?」

 

 姫海棠が様子の可笑しい私に声を掛け、自分のスマホから視線をあげてこちらを見る。

 

「……ぜったい引くわ」

「なによ。にやにやしたり青褪めたり、忙しいわね」

 

 ああもう本当に嫌だ。

 そうだ。下着は通販で買って、服は休みの日に買おうと言ってそれっきりだ。

 家にいる間は私の服を着てもらっていて、結局休みもなかったので買いに行かず……。

 ネットスーパーをタブレットで自由に使わせているから普段の買い物は外に出ていないし。

 そうだ、あの魔女っぽい衣装のワンピースだけでも……いや、クリーニングに出して取りに行ってないんだ。

 

 ああ、あの子の服も返して上げていないなんて。私は本当に気が利かない奴だ。

 

「ほんまに最悪ー……」

 

 そんなつもりがなくても、まさか監禁している状態だとは。

 サイコパスなのかもしれない。清く正しい記者を自称する射命丸さんは人の心がわからないのかも。

 

「魔理沙ちゃんのこと?」

 

 明らかに揶揄ってやろうと顔ににやにやと張り付けてしつこく伺ってくるので、そういう類の話ではないのだと予め言いながら搔い摘んで話をすると、ドン引きした顔で一言。

 

「さいてー」

 

 まったくその通りだ。がっくりと首を落とす。

 

「そりゃあ事情があるのはわかるけど、あんなに純粋そうな子を騙してやり甲斐搾取?」

「……返す言葉もないわ」

 

「犬や猫じゃないのよ! あんたどれだけお世話になっているの、それに……」

 

 ▽▲▽▲

 

「ありゃ。今日はお疲れだなー。先にお風呂入るか?」

 

 帰宅後。即、頭を下げる。

 玄関を開けると出迎えて来た魔理沙が頭を下げる私をどう思ったのか「鞄持つぜー」と能天気に声を掛けてきて、スリッパを突っかけながら撮影機材の入った大きなバッグを受け取ろうとしてくる。

 

「……これは本当に申し訳なく思っていて、その、謝りたいのですが」

「え、なにかしたのか?」

 

 どうにも不思議そうな顔を浮かべる魔理沙に、服の件や自由に外に出られない件を説明しながら改めて謝ると、頬を搔きながら気まずそうにポツリと零す。

 

「いや、私もすっかり居心地よくて忘れてたぜ。服の事はそんなに気にすることないと思うんだけど」

「いやそんな……」

 

 その表情が、なんだか照れ臭そうに恥ずかしそうにしているものだから。

 その言葉をそのまま信じてしまいそうになる。

 

「っていうか」

 

 ちらりとこちらを上目に見ながら、ぐいぐいと鞄を受け取ろうと引っ張ってきて言う。

 

「閉じ込めているんじゃなくて助けて貰っているんだし、対価っていうなら食べ物とかじゃないか」

「いや、それはこちらの都合で……」

「文には感謝しているんだよ。外の世界で何もない私の事を助けてくれるし」

 

 同時に、なんだかすべて肯定されているような気分になってこちらも恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「あの~、玄関でイチャイチャしないでもらえる?」

 

 後ろから姫海棠に声を掛けられ、慌てて振り返って扉を少し大きく開く。

 

「い、イチャイチャなんてしてませんよ!」

「はーい、魔理沙ちゃん。これお土産のケーキ」

「はたて、いらっしゃい! わー、ケーキ! ありがとうなー!」

 

 ▽▲▽▲

 

 秋刀魚は二尾しか買っていないので、さてどうしようかと考える。

 家でごはんを食べることになったんだけど、はたても来るらしい。

 なんでもネットで買える服とかに詳しいらしいのと、採寸したりもしてくれるとか。

 余っている服も持ってきてくれるって言っていたけど、別に文の服があるからそれは良いのになー。

 

 はたても文と同じように『幻想郷のはたて』と同じ名前で見た目も一緒なのに別の存在だ。

 不思議なこともあるものだぜ。

 

 はたては文の、こっちの文の友達で、同じ仕事をしているらしい。

 

 とりあえず秋刀魚を3枚におろし、切り身にしながら献立を考える。

 もしかしたらお酒を飲むかもしれない。

 じゃあ南蛮漬けとかにして、お野菜も消費しよう。

 

 切り身をお酒とおろししょうがに付け込んで、冷蔵庫に仕舞いながらお野菜を見る。

 人参とピーマン、ネギがあるのでそれを取り、薄切り細切りにしておく。

 鍋にお酢をいれて、砂糖と醤油、塩コショウと輪切り鷹の爪を少し。

 そのまま火を点けて、戻しておいた昆布のだし汁の鍋にも同じく火をかけて置く。

 

 こっちのキッチンはものすごく便利だ。

 火に魔法はいらないし、薪を割らなくても良い。

 端末で食べ物も買えるし、取りに行かなくても運んで持ってきてくれる。

 

 そりゃあ家から出なくなるわけだ。

 外に行く服がないと気が付いてから、自分の自堕落に目を向けて少し反省した。

 

 鰹節を加えて出汁を引き、味噌を溶いてから豆腐とわかめを加えてお味噌汁だけ先に作っておく。

 まだふたりとも来るのは少し時間が掛かるだろうから、火を止めた後はベランダに出てみた。

 

 スリッパをはき、洗濯物を干すスペースよりも欄干の方へ。

 網が掛けられて鳥が入れないようにされているけど、大きな網目から外を見る。

 

 文のマンションは高層階にあるけど、周りも高い建物が多くて幻想郷に比べたら空が狭い。

 陽が落ちてきているのがオレンジ色の空と掛けられた時計でわかるけど、太陽はここからは見えない。

 道路には車が走り、僅かに見える歩道には忙しそうに歩くスーツの人間がいた。

 

 鴉の鳴き声が、遠くから聞こえた。

 

 ああ、ここって幻想郷じゃないんだもんなー。

 

 外を見ていない時には、あんまり気にしていなかったけど。

 家の中にいる時は、端末で動画を見て、文とお喋りをして、それくらいだったけど。

 なんだか寂しさを覚えて、無性に霊夢に会いたくなってきた。

 夕日は見えないけど、光がやけに目に染みる。

 

 なんとなく外に出たくなかったのは、私がひとりぼっちなことを意識するからかもしれない。

 ふらふらと飛んで不安な私に声を掛けて来た文、それによってどれだけ安心感を得たか思い出す。

 

「……ご飯作ろう」

 

 思い付きでベランダに出たけど、リフレッシュすることなんて全然なかった。

 そのまま部屋へ戻る前にシーツを取り込み、ベランダの窓をぴしゃりと閉めて鍵を掛ける。

 

 はやく帰ってこないかな。

 なんだかそわそわと落ち着かず、私は何度も時計を確認していた。





全部で5編予定
「幻想郷に帰るEND」と「現代で文マリEND」のどちらかで想定しています。
たぶん両方書くと思うのでアンケは取りませんが、少し曇らせ的な要素があったり大人っぽい雰囲気があったり、本編と関係ないので好きに書きます。
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