NTRゲーに転生したはずなのに寝取られる気配がない件について   作:THE TOWER XVI

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裏02 あなたの隣に立ちたくて【エレナ】

 その町は、過去、特殊な鉱石が採れた時代に、鉱山労働者の町として栄え──そして採算が取れなくなった鉱山の閉山と共に、(すた)れた。

 

 若い世代は子供を連れて出て行き、残されたのは、今更(いまさら)移動する理由を持たない、高齢者たち。帳面上は町でありながら、実質的な規模は村と変わらない。

 

 そんな町の領主の一人娘であり、唯一の子供である少女は、孫のように可愛がられ、大切に育てられてきた。

 

 彼女も、そんな町の人が好きだったし、いつか父のように先頭に立って、この町に活気を取り戻すことを夢見ていた。

 

 これだけであれば、ありきたりな限界集落だ。しかし、この世界には魔王というシステムが存在し──龍という魔物がいたのだ。

 

 ろくに補修も維持もされていない防壁や砦。人員も予算も常に枯渇し、防衛能力を持てなかった集落に己を守るすべはない。国もまた、在ってもなくても変わらない集落など、助ける気はなかった。

 

 父は言った。その子を連れて逃げなさい。

 

 必死に走る母に抱えられ、炎の輻射(ふくしゃ)が肌に(まと)わりつく。肩越しに見たのは、焔に呑まれ焼け落ちる家だった。

 

 母は言った。ここに隠れていなさい。

 

 言いつけ通り、耳をふさいでいた彼女の手、その隙間をすり抜けて、水っぽい何かが(つぶ)れる音がした。

 

 

 

 

 うずくまったまま時間(とき)が過ぎ、静寂に包まれた夜。少女は傷だらけの足も気にせず家への道を戻った。

 

 いまだ赤熱する炭が地面を照らし、時折、火花を散らして弾ける音が鳴った。

 

 皆、居なくなった。様変わりした知っているけど知らない場所で、何をするわけでもなく立ち尽くしていて──

 

「生き残り......? お、おい! 大丈夫か!!」

 

 大丈夫? わからない。

 

「俺がもっと早く来れば......。ほんとうに、すまねぇ」

 

 なんでこの人は謝っているのだろう?

 

 鎧を着た体の大きな男は、少女に心底申し訳無さそうに、後悔を(にじ)ませて彼女に謝った。

 

 そして、それを無言で見つめる彼女を抱きしめた後、なすがままの彼女を(かか)えて、男は知り合いを頼ることにした。

 

 昔、やんちゃしていた頃の冒険者仲間。神官だった彼女が孤児院を退職後に経営していたはずだ。

 

 そうして少女は孤児院に連れられ──

 

 ──一人の男の子と出会った。

 

 

 

 孤児院のシスターと話す鎧の男の隣で、ただ立っていた彼女を、その男の子は連れ出して町を見せて回った。

 

 アレンと名乗った彼は、おそらく少女を楽しませようと案内しているのだろう。しかし、活気にあふれる町や、親しげに声をかけてくる、おそらく少年の顔なじみ、その様子を見るたびに、あの時から、うずくまったままの少女の心が(きし)む音がした。

 

 何度も、町の喧騒(けんそう)が、もう会えない人たちの光景(思い出)と重なって──人のいない道。彼女は足を止め、抱えていたすべてを吐き出すように泣いた。

 

 なぜ泣いているのかわからず、慌てふためく少年をよそに、彼女はただただ泣いた。彼女はずっと考えないようにしていた現実を受け入れざるを得なかったのだ。もう、あの大好きだったみんなも、父も、母も、いなくなってしまった。一人、生き残ってしまったのだ。

 

 なんで私を置いて行ったの、どうして(みんな)いなくなったの──取り留めのない言葉と共に、泣きはらして、少しだけ心が軽くなった彼女は、いつの間にか少年に背負われていることに気づいた。

 

 疲れもあり、その背中の体温と安心感に身をゆだねていた彼女は──斜面を超えた先、目の前に広がる幻想的な、白い花畑に圧倒された。

 

「......ここってさ、不安な時によく来てたんだ。いろいろ忘れられる気がしてさ」

 

 花畑を眺める彼の顔は見えないが、その淡い寂寥(せきりょう)を含んだ穏やかな声が、するりと耳から入ってくる。自分の体なのに、意思と関係なく胸が高鳴った。

 

「その、似てるって言ったら、おこがましいけど、俺もさ、馴れ親しんだ全部が、もう手の届かないところに離れてしまったと知って、結構(まい)っていた時期があるんだぜ?」

 

 そう、おどけるように言う彼。

 

 ──同じだ。彼女はそう思った。

 

「その、ゆっくりでいいし、簡単に背負ってあげられると(おご)るつもりもないけど......俺で良ければ、君の家族になってもいいかな?」

 

 振り返って至近距離で笑いかける彼の顔を見て、彼女は耐えきれずに目をそらした。その笑顔がどうしようもなく眩しくて、泣きはらした自分の顔を見られたくなくて。

 

 ダメだったか?と誤解する彼に、そんなことはないと伝えたい。でもきっと今の自分は見せられない顔をしているから──彼の背中に顔をうずめたまま、まだ名乗っていなかった自分の名前を伝えることにした。

 

「......エレナ、でいいです。そう、呼んでください」

 

 家名を捨てて、彼女はただのエレナとして少年に答えた。思えばあの時から、エレナの心の中のほとんどを、彼が占めるようになったのだ。

 

 

 エレナにとって、アレンは太陽のような(あこが)れだ。

 

 時折よくわからないことを言うが、それもきっと自分が知らないことを知っているのだろうと思って、尊敬を強めた。

 

 いたずらをし掛けてきた男の子から守ってくれた時、彼の真剣な横顔に胸が(うず)いた。

 

 孤児院で子供たちの世話を焼くときの優しい眼差(まなざ)しを見ていると、心が跳ねた。

 

 全く想像がつかないような、面白い話をたくさん知っていて、それを同じ布団の中で聞くのが大好きだった。

 ......これに関しては、アレンの顔を盗み見ながら、彼と一緒に寝ることが、いつの間にか目的になっていたが。

 

 ただ、エレナは不安だった。エレナにとってアレンはずっと先をいつも歩いていて──自分じゃ彼の(となり)に立てないかもしれない。また置いて行かれるからもしれない。それが怖かった。

 

 だから、四六時中(しろくじちゅう)可能な限りエレナはアレンにくっついていた。隙を突かれて、アレンに孤児院の他の女の子がベタベタしているのを見たときは、内心ひどく荒れた。誰にでも優しくするからああいう悪い虫がつくのだ。アレンを責めながら、彼の隣を他人に奪われることを(おそ)れた。

 

 その日の夜、もし離れることになったとしても、自分の存在()を刻んでおきたくて、こっそり、寝ているアレンにいろいろ(意味深)した。背徳感を覚えてしまい、以降は日課のように繰り返されたにもかかわらず、幸か不幸か、すやすやアレン君がそれに(つい)ぞ気づくことはなかったが。

 

 

 そしてスキルを授かる日。彼女は聖女というスキルを手に入れて......アレンは伝説のスキルを手に入れることはなかった。

 

 勇者を名乗る暴走女、それもエレナよりも前にアレンと出会ったと主張する少女の存在は、彼女の勇者という立場を踏まえても厄介極まりない。一方で、アレンはあくまでも自分のために旅に同行してくれる、そう言っていたので楽観視していた。

 聖女というスキルを手にして、これで彼の隣に立てると勘違いしていた。

 

 しかし、自身の甘えを彼女は身をもって知ることになる。

 

 初めての戦場、久しく忘れていた過去がフラッシュバックする。動いてと必死に念じても、足は動かない。そんな自分を睥睨(へいげい)する魔法陣に立ちすくんで──衝撃。自分を突き飛ばして、目の前で、敵の攻撃を代わりに受けるアレンの姿が映った。

 

「え?」

 

 生ぬるい血が頬に掛かって、恐る恐る手で触れる。

 

 理解できず声が漏れて、茫然と、倒れるアレンを見た。

 

「ぇ、ぁ......「アレンッ!! ッ......突っ立ってないで!やれることがあるでしょ!!」

 

 龍を切り伏せながら、クリスが叫び、ようやくエレナは我を取り戻した。

 

 私のせいで、私のせいで──震える手を抑えながら、動揺しながらも応急処置をして、クリスがアレンを宿に運び込んだ。幸い、命にかかわるような傷ではなく、数日安静にして、回復魔法をかけておけば元通りになる程度であった。

 

 ただ、アレンを寝かせているベットの横、回復魔法をかけるエレナを見ながら、クリスが放った言葉は深く彼女に突き刺さった。

 

「聖女か何かしらないけど、あなたさえいなければ、アレンが傷つく必要はなかった......アレンのために帰りなさい。足手まといについてこられても迷惑なのよ」

 

 暗い目で睨みつけて、クリスは部屋を出て行き、その言葉に、その通りだと心が認めてしまった。

 

 自分は偶然、特別なスキルを手にしただけの小娘で、いかに強い力を持とうが、中身は変わっていない。治療するだけなら、もっと人体にも精通した高位の神官でも探せばいい。

 

 結局、自分じゃ、彼の隣に立つには不相応だったのだ。

 

 だから、一緒に居たいという自分のわがままで、これ以上好きな人に迷惑を掛けたくなくて──アレンが目を覚ました日。涙を押し込め、無理やり作った笑みで、彼女は町に帰ることにしたと伝えた。

 

 しかし、アレンは慌てるように上体を起こして叫んだ。

 

 

「釣り合う釣り合わないじゃない、俺がエレナを必要としているんだ!」

 

「エレナが一番大事なんだ!」

 

 

 実質的な告白のような言葉を聞いて、エレナの胸に隠した想いは、制御を失ったように(あふ)れ出して、体が熱を帯びる。

 

 ──彼も私を必要としてくれていた。

 

 ──私だって、やっぱり彼のもとを離れたくない。

 

 そうだ、何を弱気になっていたのだろうか。確かに自分のせいでアレンを傷つけてしまった。だが、弱気になる必要はない。弱気な自分はもう捨てよう。ただ隣に立てるかどうか、そういう話をして焦るのはもうやめよう。

 

 自分で自分を認められなくても、彼が必要としてくれる自分を信じよう。信頼にふさわしい自分になるために努力をしよう。そして、いつか彼の隣を堂々と歩けるようになろう。彼はその先できっと待っていてくれるのだから。

 

 だから──

 

「わかりました......その、私からも、ずっと、あなたの(そば)に居させてください。アレン君」

 

 それを聞いて安心したのか、アレンはまた気絶して、彼女は慌てふためいた。しかし、落ち着きを取り戻した後の彼女の顔は、憑き物が落ちたように穏やかなものだった。

 

 

 

 あれから、エレナは冷静に努力を重ね、守るための結界魔法を使って敵を倒す(すべ)を得た。彼が必要としてくれる自分を信じる──それだけで彼女は戦うことが怖くなくなった。

 

 クリスにあの時のことで暗に帰れと言われても、アレンから離れる気はなかった。

 

 自分をアレンがかばう様子に、クリスが逃げ出した時はイケナイ優越感を覚えた。

 彼女を追いかけようとするアレンの(すそ)を、無意識に()まんで止めてしまったが、優しい彼だから仕方ないと、信じて送り出した。

 

 その後、アレンは帰ってきたものの、クリスと同衾(どうきん)していたのを見たときは怒りのあまり、彼を怯えさせてしまった。だが、自分のほうが同衾した上でいろいろなことをした過去があるので、今更気にしなくてもいいかと納得(自己解決)した。

 

 そして、アレンが魔王と一緒に消えたあの日。彼にも何か目的があると思い、取り乱す暴走女を黙らせて見送ったが......帰ってくるのが遅い。

 

 何かあったのか、と心配がだんだん大きくなって、直接彼のもとに向かうことにした。

 

 探し物の魔法──特に自分の所有物を探すときによく使われ、自分の体の一部や体液であればさらに強力な効果を発揮する──で彼の居場所は常に把握してる。ただ、ここ数日はアレンの食事に仕込むことができておらず、効果が若干弱り始めている。まだ十分な精度があるとはいえ、動くなら早いほうがいいだろう。

 

 アレンの居場所を追跡して、彼の存在を感じていると、寝かせておいたクリスが目を覚ます。

 

 頼るのは(しゃく)ではあるが、魔王に対抗するには勇者の力が必要だ。万が一、魔王と交戦する可能性に備えて、協力してもらう必要があった。

 

 とはいえ、断られる心配はしていない。気に食わないが、同じ想いを持つ者同士であり、エレナは居場所(情報)を、クリスはスキル()を、それぞれ持っているのだから。

 

 起き上がったクリスは、目的を即座に把握し、エレナが説明をするまでもなく魔王の元へ向かうことが決まる。

 

 エレナにとってクリスは、自己中心的で情緒が不安定な、自分のアレンに(まと)わりつく目障りな存在であるが......アレンが本当に必要としているのは自分であり、哀れな彼女が報われることはないだろう。そう思えば、彼女に同情しないでもない。それに、彼女の勇者という立場の一点で、利用価値の高い存在でもある。

 

 だから、別に彼女と仲良くすることに抵抗はない。なんなら、形だけアレンと結婚させてあげて、あとは自分とアレンの愛の巣として利用してやってもいいと思う程度には嫌っていない。

 

 それはそれとして気晴らしのために揶揄(やゆ)するし、アレンの初めても最後も全部自分が貰うつもりだが。

 

 

 

「あぁ、そういえば、勇者様の取り乱していた姿は本当に面白かったです♪ 是非またお願いしますね」

「ほんと、意地汚いわね! この腹黒女ッ!」

 

 

 

 

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