NTRゲーに転生したはずなのに寝取られる気配がない件について 作:THE TOWER XVI
2話だけですが、文字数としてはそれなりに書きだめたので投げていきます。
意識が覚醒する。
「......」
「どこだ、ここ」
上体を起こせば、一面の白。
いや、既視感がある。アレか。スキル授与の時の、あの白い空間だ。
「もしもーし! 謎の光さーん!! ヘイ、
試しにあの糞設計
諦めた俺は、とりあえず歩いてみることにした。
だが、壁もない真っ白な空間において、自分が果たして進んでいるのかどうかも分からなくなってくる。
頼りなのは自分の加速度の感覚のみ。三半規管と視覚の誤差に、脳が弱音を吐いて、俺は大人しく座り込む。
少しの間をおいて、空間が
見た目はさながら、清純派どこ〇もドア。
ぽつんと、
「q#aw%e \eef==~ ぁ......あ゛ーあ゛。音声生成システムの最適化が完了しました。私は
挨拶できてえらいね。個人的には、君の目の前で
「えーと、前回のは......そう、自動音声です! あなたの前世の、コールセンターの自動音声受付みたいなものですね!」
なんだろう、当たり前のように心の声を読んでくるの、辞めてもらっていいすか?
「了解しました! 脳波意思把握機能を停止します」
素直だぁ。しかし、システムを名乗ってたってことは、chat〇PTみたいなものなのか? そうだとすれば、スキル授与の時だけ自動音声を使う意味が分からないが。まあ、それは置いておこう。
「君がここに呼んだってことで
「その認識で大丈夫です。魔王の魔眼、『
「ちなみに外の状況は分かったり? 魔王やクリスが今何をしているかとか」
「あくまで、あなたを回収したのは、事前に設定されたプログラムによるものです。つまり、受動的に
要するに、分からないと。
あと、魔眼とかあるのね。魔王の目が光ってたのはそれか。俺も一度でいいから使ってみたいぜ(小学生並感)
「で、設定ねぇ......。つまり俺をこの世界にぶち込んだ奴が居るってことでいい?」
「はい。ただし、正確にはあなたは、この世界に『来た』のではなく、あなたのオリジナルの記憶をコピーした存在となります。肉体的にはあくまでこの世界の存在です」
そもそも世界を
スワンプマン問題と同じである。我思う故に我あり、と考えれば話は早い。あらゆるものを疑っても、今、ここで思考している自己の存在は決して疑えない。それすら疑えば、疑うと思考している自分を疑うことになり、無限ループだ。矛盾してしまう。
「そいつが俺の記憶をコピペした理由や状況はわかったり......?」
「特に意味はない遊びだと思いますよ。まあ、特殊な死に方をしたりすると、目を付けられやすくなったりもしますが。それこそ
「......」
もしかしなくても、俺の
確かに
くそぅ、馬鹿にしやがって。そいつの息子が、NTR以外じゃおっきっきしなくなる呪いをかけてやる! まあ、そいつの股間に愚息が生息していなかったら無意味だが。
「愚かさで十分説明がつく事象に悪意を見出すな、ってやつですね」
「待って、また思考読んでない?」
「......自動ユーザ最適化によりアクティベートされました!」
やっぱりこの謎の光、あの確認画面もない糞インターフェイスだわ。数秒前の発言がブーメランな上に、自動最適化を名目にユーザーの設定を無に帰すのはやめろ。
ただ、いちいち指示するのも面倒な上、また上書きされるのは目に見えているので、甘んじて受け入れるしかない。
さて、結局のところ俺はどうすべきか。
「では、UN〇でもいかがですか! 私、山札できますよ」
「......お前が山札したら、プレイヤー俺一人だが? 一人UN〇って何? 虚無の体現者じゃん」
「わかりました。私が山札とプレイヤーを兼ねます」
そもそも山札役ってなんだよ。
結局、俺は謎の光とチェスに興じていた。
「え? じゃあそいつ、もういないの?」
「最終ログインからすでに数年経過していますね」
俺をこの世界に転生させた奴はもういないらしい。今は、サブシステムとして既に設定されている事項に従ってたまに介入するだけで、ほぼ放置状態とのこと。
尚、世界自体はシステムと別個に存在しており、こちらのシステムが機能停止しても、世界や世界側のシステムがそれに伴って消えるとかはないようだが。
植林した杉林に人の手が入らなくなっても、杉林は成長し続けるのと同じらしい。
そいつは飽きたのかな、と考えて......謎の光がどうでもよさそうに肯定する。
「そんな感じです、深く考えても特に意味はないですよ」
しかし、正直
絶望的な数的不利。相手の
「......なあ、思えば全てを読まれていた気がするけど、俺の思考読んでそれ使って対局してね?」
「そうですが? それがどうかしました?」
常識ぃ!! それ俺に勝ち目なくなるやん!! こっちは別にプロでもない素人なんやぞ!! 手加減しろ!!
駄目だ、こいつと遊んでいても楽しくない。魔王のところに戻ろう──いや、戻っても
魔王はシステム上、俺しか相手がいないという話だったが......その制約さえ壊せば、俺にこだわる必要はないはずだ。それに、数日暮らした仲である。向こうは俺をどう思っているかは知らないが......少なくとも俺は彼女を友達だと思っている。
友達としても、是非俺以外の
「魔王から役目を剥がす方法ですか......」
謎の光はゆっくりと揺れる。その声音には喜色が混ざっているように感じた。
「ありますよ。別の個体と役目を入れ替えるのが手早いですね。
魔王という役目自体が存在しないシステムに書き換えるのは、システムの土台から変更することになるので......どこに依存関係が
一方、魔王という役目、いわばタグのようなものを入れ替えるだけであれば、参照先を変更するだけなので、圧倒的に簡単です」
簡単といっても、その入れ替えはどうやるのだろうか? 先ほど、能動的に個人を把握できないと言っていたことを思い出す。
「だから、
それって、代わりに俺が魔王になるってコト?!
まあ、もともとNTRを失った俺には丁度いいかもしれない。いや、むしろ前世で引きこもっていた時と同じ......引きこもっていた、時......
瞬間──俺は前世の、NTRを浴びるように摂取し、充実していた日々、そして
そうだ、そうだった──なぜ俺は気づかなかった。
確かに俺は幼馴染NTRを体験するという目的は果たせなかった。しかし、NTRという作品を生産し、消費する活動が俺から奪われたわけではない。
思えば──最高のNTRを描くために、NTRを体験する必要はあるのだろうか?
傑作サスペンス映画を描くために、犯罪を実行して経験する必要はない。
最高のファンタジー小説を書くために、エルフやドワーフの居る空想の世界に行く必要はない。
至高のホラーゲームを作るために、殺人鬼やゾンビに追い回される必要もない。
最高のNTRのために、NTRを体験する必要がある。その前提自体が間違っていた。
フィクションは、人間の想像力から生まれるからこそ、常識からかけ離れた非日常であり──現実では
──リアルではすぐ通報されて即逮捕確定の、盗撮セクハラ体育教師がいたっていい!
──これを断ったら夫が首になっちゃうかも、と労働契約法ガン無視のパワハラ人妻好き上司がいたっていい!
──キス写真で不純異性交遊からの退学をちらつかせる、裏で闇権力者とつながった教師兼調教師がいてもいいのだ!
ぽん、と肩に手を載せられる。
まだフォロワー一桁で、絵もずっと下手だった頃から応援してくれていた、アカウント名:NTRすこすこ侍が俺に微笑む。
振り向けば、人妻物で発狂興奮していた人妻NTRモノ好きの彼が......NTR野外露出散歩でお気に入り連打していたロリコン調教趣味のあいつが......一人、二人......次々と
なんだよ、俺......ずっと、みんなに......支えられてきたんだな。
本当は、初めて転生したあの日、馴れ親しんだ前世が恋しくて......仕方がなかった。でも、思えば──大事な
そっと、彼らが俺に寄り添う。
走る。走る。走る。
大事に、受け取った
──視界が、開ける。
溢れる想いのまま、俺は歓喜の雄叫びを上げた。
「ちょ、待ちなさい!! え、なにこ......許容上限を超える思念の量に解読が追いつきません。制限モードに移行します。......たまげたなぁ」
勝手にたまげている謎の光を放置して、走る。
転びそうになりながらも、走って、ついに、疲れて立ち止まった俺は──どこまでも白い、純白の空を
母さん。俺、ずいぶんと遠い回り道をしちゃったけど......答え、見つけたよ。
魔王の役目を引き受けて、寝取られ王に俺はなる!!
再びペンを握って、あの世界に
さあ、その偉大なる一歩として、魔王を幾千年の役割から解放して、俺が魔王になろう!
「こ、この寝取られキチガイめ......はぁはぁ、失礼。それさえ確実に実行していただければ文句はないです。......よし、ではよろしくお願いしますよ! 発動条件は粘膜接触、ということをお忘れなく! 手早く終わる
その声と共に背中を引っ張られる感覚──謎の光が遠ざかり、俺は元居た世界に飛び込んだ。
*
「ふぅ、これで大丈夫、ですかね?」
謎の光が独り
白い空間にギリギリと
「
「あれあれ、遅かったですねぇ? もうあの世界なら強制
ケラケラと、小馬鹿にするように光球は体を揺らす。残っていた
「あと、お宅の
──締め切る寸前、煽り言葉だけ残して去っていった。
「まてッ!! 糞ッ! 痕跡ログ......データが破損っ?! 逃げるのが上手い鼠どもがッ!! これでまた障害報告書に被害報告書で残業確定ではないか!! 畜生めぇええええ!!!」
□
■
謎の光──正確には匿名ハッカー集団、
生成、もしくは接触した、平行/異次元世界に対し介入し、実験的な社会構造等をシミュレーションすることで、最も優れた社会システムの実証と構築を目指す。
それを目的とした国際協力研究機関に対し、シミュレーションに用いられる世界とその住人の人権を主張し、研究施設へハッキングを繰り返しているのが
国際指定テロ組織と名指しされながら、動画等コンテンツの影響力工作を通して支持を取り付け、一部の感化された富裕層の資金援助も得ているため、研究施設を主導する国家にとってはひどい悩みの種である。
なまじ金も得られるので、組織の大義に共感はしていないが、小遣い稼ぎも兼ねて面白がって協力しているハッカーも多い。
さて、そのメンバーである、アレンが謎の光と呼ぶ存在──彼女は多くの嘘を
そもそも彼女は
スキル授与式の件も彼女の仕掛けである。
心理的なギブ&テイク。スキルを与えて恩を売り、味方を演出する目的で、授与式に自動で転生者と対話するプログラムを挿入していた......結局、恩を売るまでもなくシステムを破壊する方向に動いてくれたため、結果論として、仕込みの必要はなかったが。
ちなみに、スキル自体も
原作では幼馴染を寝取られ、追放された失意と怒りの中で覚醒する《時間操作》というチート
尚、原作における覚醒条件の一つが『好きな
そして、チェスは役割を入れ替えるためのプログラムを挿入するための時間稼ぎ。
ただ、アレンを転生させた担当者のお遊びであることは確か。そうでもなければ、孤独絶頂死の寝取られキチガイを、彼が遊んでいたゲーム世界を再現した世界にぶち込む理由がない。
学術的価値があるとも思えないそれは、大方、
多くの嘘を重ねた上で、彼女は罪悪感など欠片も抱いていない。
重視するのは結果だ。何も真実を知らなくとも、それで最善の結果に至れるのならいいじゃないか。そんな
彼女は思う。
あとは彼が上手くやってくれれば、魔王の役割が彼に移り──いずれかのタイミングで、彼と魔王の差異にバグってシステムが機能停止──それで
それに、もうこちらの世界とあちらの世界が交わることは、現実的な確率では起き得ない。
世界との接触は一期一会。ランダムなガチャを引くようなもので、
説得をせずとも、自らシステムを壊す選択肢を選んでくれたのは都合がよかったが......一つだけ、彼に文句が言いたいことがあった。
「ここまで来たらいいよね......。うっぷ。げ、限界! あのキチガイめぇ......
その日、一日中、彼女は溺愛系イケメン幼馴染いちゃらぶ物を読み漁った。