NTRゲーに転生したはずなのに寝取られる気配がない件について   作:THE TOWER XVI

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 世界のシステム上では魔王は魔王ではなく元魔王ですが、三人称視点では変わらず魔王と表記します。ご了承ください。


裏05 おかえり、なのじゃ

 協力関係を結んだ三人は、早速、魔王城を探した。

 

 ただ、魔王は最後に移動を指示した方向を把握しており、その速度から大まかな場所の検討は容易に付く。

 認識阻害と人除けの結界があろうとも、物理的にそこにある以上、ある程度の場所が判れば捕まえたようなものである。

 

「あの位置だけ結界が設置できませんでした」

「ではそこじゃな」

 

 駆けるクリスに俵のように抱えられたエレナが魔王城を特定し、飛んで並走する魔王が答える。

 

 高い魔力抵抗値を持つ対象が先に場所を占有していた場合、結界を押しのけて設置することはできない。これは、結界を内部に生成(クラフト)する直接攻撃が効かないことを意味するが......逆に、結界を設置できない場所には、高い魔力抵抗値を持つ何かが先に存在している、ということでもある。

 

 高位の魔導触媒器(アーティファクト)である魔王城もまたその一つであり、その性質を逆手に利用すれば結界が設置できるかどうかで探知が可能だ。

 

 そうして、『認識』されてしまえば、認識阻害は意味を為さない。人除けの結界も同様である。こうして、魔王城は丸裸となった。

 

 

 魔王城の前に辿り着くと、クリスはエレナを地面に投げ捨てる。

 

「痛っ! ちょっと、乱暴すぎませんか!」

「運んでやっただけ、感謝しなさい! この淫乱性女!」

「なッ!」

「だいたい、アレンの寝込みを襲って好き勝手するなんて──」

 

 騒ぐ二人を無視して、魔王は城の城壁に触れて、魔力を流し込む。

 

 (わず)かな反発。

 しかし、直ぐに押し流され、魔王城は再び、元の主の制御下に堕ちた。

 厳かに、主を受け入れるように門が開き、街灯や壁掛けのランプが灯る。

 

「......お主ら、早く中に入るぞ」

 

 開いた扉の前。ジト目の魔王は未だ言い争っている聖女と勇者に声だけ掛けて、身を翻して中に入っていく。内心、初めてアレン以外の人間と仲良くする機会に期待していた魔王の興味は右肩下がり、逆にアレンの特別感が上がっていた。

 

 掴み合っていた二人も、流石に魔王の呆れた視線に居たたまれなくなったのか、少し顔を赤くしてお互いを一睨みすると、魔王を追いかける。

 

 そうして侵入した彼女たちは、応接間で立ち止まる。壇上の豪奢(ごうしゃ)な椅子に軽い足取りで魔王は近づくと、屈んで地面をなぞった。

 

「問題なさそうじゃの」

 

 薄っすらと、椅子を中心に放射状の線が分かれ交わって、壁から天井へと延びている。

 大掛かりな応接間自体に刻まれた魔力回路こそ、この城が魔導触媒器(アーティファクト)として保有する主要機能。魔王の召喚。

 認識阻害も、人除けの結界も、そして機動力すらも、飽くまでも副次的に付加された能力に過ぎない。

 

 魔王が魔力を流し始め、(にじ)むように、回路線が輝き、脈打ち始める。

 

 青白い燐光(りんこう)が幻想的なプラネタリウムのように応接間を彩り──

 

 

 

 ──魔力が突然弾けた。

 

 

 

 急速に魔力圧が(しぼ)み、回路は光を失う。

 

 唖然として、固まっていた魔王は再度魔力を通そうとする。

 

 魔力を込める、弾かれる。

 魔力を込める、弾かれる。

 魔力を込める、弾かれる。

 

 何度も何度もやっても、魔力回路が反応する素振りはない。

 

 異常。

 幾千年と続いてきた召喚システムが壊れるなんて在り得ない。

 在り得てはならない。

 

 だって、それじゃあ、アレンは......何処にいった?

 

 しかし魔王の冷静な部分が(ささや)く。

 そもそも魔王という役割がアレンに移った、という事象自体が本来在り得ない。なら、この魔王の召喚に関しても異常が発生していても可笑しくはない。

 

 手先が震える。

 これでアレンは戻ってくる筈だった。そう信じていたから、アレンが消えた時、放置して先に勇者のほうに確かめに行った。

 まだ彼に言いたいことも、聞きたいことも沢山ある。キスのその先だって、もっと、やりたい事だってそうだ。なのに、これでは、これでは──

 

「ね、ねえ、大丈夫、なのよね?」

「......」

 

 魔王にクリスが不安そうに声をかける。願うような、(すが)るような色が混ざった声。一方、魔王の様子から半ば察しているのか、エレナは沈黙を保ったままである。

 

「......分からぬ」

「わ、分からないって、なに? どういうこと?」

 

 震える声で、狂気的な熱を帯びるように、クリスはまくし立てる。

 

「アレンが、戻ってくるって、い、言ってたじゃない!! あんな自信満々に、ほら、元魔王だからわかるって、言ってたのに、意味わかんない! じゃあ、アレンは、結局、なに? わ、私が! 私が......!」

 

 一瞬の間、俯いたクリスが顔を上げる。

 

「私が、殺したって、こと?」

 

 無理やり作ったような(いびつ)な泣き笑い。その光を失った死人のような瞳に、思わず、魔王は気圧され、息を吞む。

 

「あれは、別に、お主が──」

「はぁ。そこの腑抜けに構う必要はありません。元魔王さん、あなたは分からないと言いましたよね?」

 

 クリスを多少なりと慰めようとした魔王の言葉を遮って、聖女が口を開く。

 流石に人の心が無いのでは、そう魔王は思いながら......この状況でも、通常(いつも)通りのエレナの態度が気に障った。どろりと黒い感情が漏れそうになり、声が固くなる。

 

「......そうじゃが」

「そして魔王は倒されてもまた現界できる。アレン君は銀の粒子となって消えた。つまり、何処かにアレン君が居ることは明らかということでしょう?」

「しかし、召喚機構が壊れておる! 最悪、魔王という機構自体が──」

「でも、死体は残ってないですもんね。何処かに行っちゃったってことですよね?

 だってアレン君が私を置いて死ぬわけないじゃないですか。ずっと一緒に居るって私、約束したので」

 

 盲信。エレナはアレンが死んだ可能性を一つも信じていない。

 

 そうも信じられることが羨ましく、魔王は生まれて初めて他人に嫉妬した。

 

 結局、魔王だって失敗する可能性を脳の外に追いやって、この魔王召喚によってアレンが戻ってくると信じていた。だから余裕ぶってここまで来たが、その前提が覆ってしまった。(ひとえ)に、現在、魔王が取り乱さず自己を保っていられるのも、クリスの絶望を目の当たりにしているから。

 

 無性に腹が立って、八つ当たりのような感情が(たか)ぶる。

 一方で、論理的に考えて可能性は低いと理性では分かっていても、聖女の言うように、アレンが何処かで生きている可能性に、魔王は縋るしかない。

 

「......そうじゃな、その通りじゃ。我はこの魔王城で方法を探ろう」

 

「私は人間側の魔王に関する記述について当たってみます。......今の話、聞いていましたよね」

アレンは生きてるアレンは生きてるアレンは生きてる......聞いて、いたわ。私の、家の繋がりを使えば......話も早い......勇者と聖女の要求なら、きっと、断れる理由もない」

「では、ある程度情報がまとまったら、またここに戻ってきますので」

 

 そうして、去っていく勇者と聖女の背を眺めながら、魔王はぽつんと、応接間に残される。

 

 方法を探る前に、まずは腹ごしらえをしよう。

 思い立った魔王はいつものように、応接間の裏から食事用の部屋へ向かう。

 ちゃぶ台の前に座って──

 

「アレンよ! 今日、は......」

 

 言葉が宙に浮いて、途切れる。

 そうだ、料理が出来る彼はもういない。自身はそもそも食事の必要すら無い。

 

 分かっていたのに、何故か膝が動かず、視界がぼやける。

 

 せっせと二人で運び込んだ家財やら生活痕だけが、静かに佇んでいて、その静寂が魔王に深く突き刺さった。

 

 何処を見ても、ふざけ合いながら、共に笑いあった彼の姿が思い出される。

 

 だって、魔王はずっと与えられた役割に生きてきて、それ以外の体験、その総てを教えてくれたのは彼だから。

 

 恨めしいと同時に、酷く心が締め付けられるように痛んだ。

 

 

 (こぼ)れる涙を拭い続ける。

 

 

 今は、ただ、何もする気も起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町の中、露店が並ぶ通りを二人は歩く。

 

「なあ、お前自分の足で歩けよな」

「周りが人だらけで見えないのじゃ。仕方なかろう」

 

 アレンに背負われた魔王は、ニヤニヤしながら建前を答える。

 彼の頭に頬を寄せ、満足そうに目を細めた。

 

「そうだ、せっかく祭に来たんだし、なにか食べていかないのか?」

「お主が食べたいのなら、構わぬが」

「......別にいいか。城にも食い物あるし」

 

 (なご)やかに、二人は人混みを往く。

 

 

 場面が変わる。

 

 

 城の屋根の上、二人並んで夕陽(ゆうひ)を眺める。

 

「で、初めての祭りはどうだった」

「特に何か変わったものはないの。むしろ人が多すぎるのじゃ」

「こういうのは大勢で行ったほうがいいしな」

「でも我はお主と二人っきりのほうが良いぞ」

「......お前なぁ」

 

 なんじゃ、照れておるのか、そう言って、寄りかかろうとして、逃げられる。

 お約束と化した追い掛けっこが始まり......当然のようにアレンが捕まり、今度は魔王の膝の上に頭が収まっていた。

 

「これ結構恥ずかしいからね? あと、画ヅラも良くないと思う!」

「うるさい男じゃの。黙って我の膝の上で寝るがよい!」

「いや、この向きだと俺の目に夕日がダイレクトアタックなんだわ」

「ふむ、じゃあこうじゃの」

「うわぁぁぁあああああ!! こっちの方がまじゅいいいいい!!!」

 

 無理やりアレンの頭の向きを変えて、自分の太腿(ふともも)と腹の方向に固定する。

 完全に、年下の少女の股に顔をうずめる変質者と化したアレンの悲鳴が響く。

 

 

 その悲鳴に魔王は笑って──

 

 

 

 

 

 

 

 ──ステンドグラスから差し込む陽光に、意識が夢から現実へと引き戻される。

 

「ぁ......」

 

 荘厳な雰囲気を作り出す広い応接間で、独りアレンの使っていた毛布にくるまっていた魔王は、(しばら)く、呆然と天井を眺めていた。

 

 夢の続き、今日やる作業、いろいろなことが頭の中をぐるぐると回って、横になったまま、毛布をきつく抱き締める。

 

 

 結局、何一つ進展しないまま、一月(ひとつき)の時が過ぎていた。

 

 根本的に、この世界における魔術と、背景の理論が異なる魔王召喚用の魔力回路。いくら元魔王と言えども、どうすることもできない代物。魔力を流せても、必ず数秒後に弾けて拒絶される。

 

 徐々に、彼を取り戻せるという希望を失いつつあった魔王にとって、今日の夢は流石に(こた)えた。

 

 突っ伏して、もう彼の匂いも薄れてしまった毛布に頭を(うず)める。

 

 あの時からぽっかりと空いた心の空白は、広がる一方だ。

 

 魔王という役割から解放されて、町にだって行ける。親切な店主もいれば、絡んできた男もいた、初めて見た見世物もあった。でも、彼が隣にいないだけで、全てが色()せて見えた。

 

 この時、改めて魔王は、自身の中で彼がどれだけ大きな存在となっていたのか、理解した。

 

 

 時間(とき)が経てば忘れられる。それは果たして良いことなのか。

 

 

 大切な記憶がどんどん手から零れ落ちていくようで、怖い。

 

 あの日々が過去になってしまうのが、怖くてたまらない。

 

 

 思い出を抱えて生きるということが、ここまで辛いことだとは知らなかった。

 

 でも、命を救われて、自分を縛ってきた役割すら壊して見せた彼に、こうやって立ち止まっている姿は見せられない。

 

 彼が死んでいない可能性、それが僅かにでもあるのなら、諦めては駄目だ。

 

 決心して、魔王は重い体を持ち上げる。

 

 

 雑多に転がっている紙の記録用紙に手を伸ばして、足音が聞こえる。

 

 どうせ聖女か勇者だろうと、面倒臭そうに顔を上げて──

 

 

 ──目が合う。

 

 

「あー、えっと、ただいま?」

 

 

 息が一瞬止まる。

 

 気恥ずかしそうに頭を掻く彼は、夢に見た間違いなく彼そのもので......言いたいことも、聞きたいことも、沢山ある。

 それでも、再会したら一番最初にしようと心に決めていたことがあった。

 

「まあ、なんだ、その、色々言いたいこともッ?! んんッ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 思いっ切り、彼を押し倒して、その唇を蹂躙(じゅうりん)する。

 

 一瞬とも永遠とも思える間、二人は絡み合う。

 

「っはぁ」

 

 (ようや)く唇が離れて、お互いの唾液が糸を引く。

 

 驚愕し目を見開く彼の上で、目を細めて唇を舐めた魔王は、こう返すのだ。

 

「おかえり、なのじゃ」

 

 興奮に頬を染め、幸せそうに笑う彼女に、アレンは見惚れて──(しばら)くそのまま、二人は見つめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

「というわけじゃ」

「な、な、何してんのよッ!!」

「私は別に気にしませんよ。私のほうが 先 に 唇をもらっているので」

「あ奴が寝ているときの話じゃろ。それはのーかん(無効)というやつなのじゃ」

「......」

 

 早速、三者の会合に緊張が走る。

 

 

 あの後、満足するまで彼に抱き着いていた魔王は、聖女と勇者にアレンが帰ってきたことを伝えることにした。

 

 そもそも独占する気はなかったし、黙っていた方が面倒なことになる。

 協力関係に承諾したのもあり、アレンが早速料理を作っている間に、彼女たちを呼ぶことにしたのだ。

 そうして、当然()かれることになった、アレンが帰ってきた経緯について、主にディープキスについて(つまび)らかに話してあげたのが、先ほどの話である。

 

 

「まあいいです。協力関係を提案しましたしね。ここはお互いに水に流しましょう」

「そうじゃな」

「私だけ!! おかしい!! 水に流せない!! 明らかに二人のほうが、破廉恥なことしまくっているじゃない!!」

 

 声を荒げて不平等を指摘するクリス。事実だが、2対1で旗色は悪かった。

 

「落ち着いてください。だからこそ、多少はあなたに譲ってあげてもいいという話です」

「我は別に順番など構わんからの」

「順、番?」

 

「えぇ、どうせアレン君のことですから、迫ったところで逃げようとするに違いありません。ですが、私たちにあんな思いをさせておいて、責任を取らないなど言語道断です」

「我らで協力すれば、あ奴もほぼ抵抗できぬであろうしな」

「迫る......? 抵抗......?」

 

「察しが悪いですね。だから、アレン君を捕まえてヤることヤるって話ですよ」

「はぁッ!! そういうのは結婚してからでしょ!! これだから庶民は!!」

「別にどっちが先でも同じじゃろ」

「そんなわけないでしょ!! 常識よ!! ......大体、そういうのは、無理やりとかじゃなくて、こう、いい感じになって、その

「流石に色々可哀そうだったので、一番最初を譲ってあげようという話なのですが......初心で純粋な勇者様がそう言うのなら、二人だけで先に実行しましょう。隙が生じてしまうかもしれませんが、理論上は二人でも交代で対応可能です」

「我はそれでも構わぬぞ。勇者よ、いろいろ人間の風習は大変じゃの」

 

 そのまま、勇者を置いて去っていく二人。

 まずい。このままではアレンのアレンが淫乱性女と無知魔王に喰われてしまう。しかし、物理で止めようにも、そもそも聖女と勇者で、魔王を少し上回る程度なのだ。勇者一人で聖女と魔王に戦いを挑むのはあまりにも無謀だ。

 

 クリスの中で悪魔が(ささや)く。あの二人が何故か最初を譲ってくれるという。

 情報によるとアレンのアレンは、数少ないあの淫乱性女に汚されていない聖域であるため、お互いに初めて。結婚と順番が逆だとしても十分お釣りがくるじゃないか。

 むしろ、どちらが先か関係なく、リーデンブルク家の令嬢に手を出した事実で、彼の身柄はこちらが預かったも同然だ。既成事実でゴールインだ。

 

 天使は(いさ)める。勇者とは勝てる勝てないではない、戦う必要があるから戦うのだ。

 アレンのアレンを、あんな動物のような奴らに食い荒らされるわけにはいかない。

 小さいころから憧れてきた、素敵な結婚式からの、乗りに乗ったムードでの初夜を諦めるというのか。獣か人か。今その境目に立っているのだ。

 

 そうして、クリスは悩んで、悩んで......獣と化した。

 

「あーもう!! 待ちなさいッ!! いいわよ!! わかったわよ!! 協力するから一番最初をよこしなさい!!」

 

 若干やけっぱちの大声に、歩いていた二人が立ち止まって、振り返る。

 

「ええ、構いませんよ。これで完璧ですね」

「纏まったのであれば()く行こうぞ。今迄(いままで)、あ奴が何をしておったのかも、聞き出さねばならぬからの」

 

 外に出ると、転移魔法陣が魔王の足元から展開され、三人の姿が掻き消える。

 

 

 

 

 

 

 何も知らない羊が喰われるまで、あと一時間。

 

 

 

 

 

 

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