NTRゲーに転生したはずなのに寝取られる気配がない件について   作:THE TOWER XVI

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俺は、好感度を、さ゛げた゛い゛!!!!

 端正な顔を歪め、逃げ出したクリス。

 

 さすがに勇者だけあって、あっという間に彼女を見失ってしまった。

 

 結局、数時間ほど彼女が向かいそうなところを巡り、ようやく見つけることができた。近くの町から離れた丘の上、クリスは膝を抱えて街の明かりを眺めていた。

 

「隣いいか?」

「......」

 

 返事はなかったが、そのまま、一人分の間を開けて座り込む。

 

 人の活動を示すように、町の中で光と影が揺れ動く。

 

 なかなか、こういうのも(おもむき)がある。思えば前世でも、初めて見た山からの夜の都市の景色というのは驚いたものだ。

 

 もちろん、なんちゃって中世ファンタジーなこの世界の町の明かりなんて、あの時見た都市には到底及ばないが。それでも何処か懐かしさを覚えた。

 

 地球を思い出し、少し感傷に浸っていると。

 

「......さっきは、悪かったわね」

「え?」

「いきなり怒鳴って雰囲気悪くしたことよ。 ......こうやって来てくれたし」

「別に俺に謝る必要はないだろ。あれも俺のためを思ってなんだろ?」

 

 まあ、実際、元を辿(たど)れば俺のせいだよな、あれ。クリスとエレナの仲がやたら悪いのもあるのだろうけど。

 

「むしろ、ごめん。心配させたのに無下にして」

「そうよッ! アレンが倒れた時、本当に心配したんだから......」

 

 開けていた間は詰められ、目の前にクリスの顔があった。

 

 水晶のような透明な瞳に吸い込まれるように、しばらく見つめあっていたが、純粋に俺が耐えられなくなり、宙に視線を逸らす。

 

 ついでに話題も逸らそうとして、それは悪手だったらしい。

 

「でもまあ、エレナには言い過ぎ......」

 

 ──空気が突然重くなったような錯覚に、その先は言えなかった。

 

「やっぱり、あの女がそんなに大事なの?」

 

 勿論(もちろん)、俺には横を向いて重圧の発生源を確認する勇気はない。

 

「そういえば、一番大事なんて叫んでいたわね。あれ、外にもよく聞こえていたわ」

 

 あの時俺は、NTRチャートが土台から消滅するかと思って、必死やったんや。気づかなんだ。

 

 普通に恥ずかしいが。なんか違う意味に聞こえるじゃん! こ、告白ちゃうねん!!(男子小学生並)

 

「家族的な意味でね? やっぱ、一緒に育ってきたわけだし。まあ、兄妹みたいなもんだしね?」

 

「ふ~ん?家族ね。たしかに......それなら不思議はないわね」

 

 何時の間にか、普段通りの雰囲気に戻ったクリス。

 

「そうね。私もあいつには言い過ぎたわ。あとで、ちゃんと謝っておくから安心しなさい」

「ま?」

 

 思わず口に出てしまい、慌てて口を手で覆う。

 

 その俺の間抜け顔を見てか、ふふとクリスは思わず笑みをこぼすと、立ち上がって服をはたく。

 

「私もそこまで子供じゃないし、少し勘違いしていたみたいだから。それに、アレンは、私にあいつと仲良くして欲しいわけでしょ?」

「!! う゛ん゛!!!」

 

 いたずらっぽく笑みを浮かべる彼女に後光が差しているかのように錯覚した。仲良くしてくれるだって??! まじかよ!!

 NTR計画において、エレナとクリスの仲が悪いことが最大のストレスで、毎夜、寝る時も(うな)されていたのに!!!

 

 女神じゃん。

 

 突然転がり込んできたNTRチャンスに、感激の涙とともに俺は(うなず)いた。

 

「本当に仲良くできるかはあいつ次第だけどね」

「いや、マジ十分っす。女神っす。それにエレナはいい子だから大丈夫だよ」

「さて、帰るついでにちょっと付き合ってもらおうかしら。よさそうなお店を見つけたの」

「もちろん!! なんなら奢っちゃうぜ!! 久々にぐっすり眠れそうだからな!!」

 

 真面目に、旅に出てから、やたら二人の仲が悪いから、本当にNTRが起きるのか不安で不安で夜も眠れなかったからな。

 

 NTRにとっては小さな一歩かもしれないが、俺にとっては大きな一歩である。

 

 奢らなくてもいいというクリスと喜びのあまり奢る気満々な俺で攻防があったのち、町の明かりに向かって、俺は未来へと駆け出した。

 

 なお、流されるまま飲みまくって、俺は記憶を飛ばした。

 結局クリスに運ばれて帰ってきたとかで、朝起きたらクリスと一緒のベッドで寝ており、先に起きてパニックになった。こっそり逃げ出すように扉を開けた先に──エレナが笑顔で仁王立ちしていたときは死を覚悟した。まあ、それは蛇足だろう。

 

 さて、その後クリスは約束通りエレナと仲良くしてくれているらしい。エレナは相変わらず、冷めた対応だが、クリスが話しかけているのを見るようになった。

 

 ただ、エレナもクリスも、俺を見つけるとこっちにすぐ来るし、目下、問題なのはやはり俺の好感度が全く下がる気配がない点である。

 

 世界の強制力は仕事しろ。

 

 そもそも始まりの時点で勇者の性別が違う上に、俺がハブられる様子がない時点で今更か。俺の手で何とかするしかないのだろう。

 

 とりあえず、クリスとエレナの関係が改善されている今、俺が滅茶苦茶嫌われれば、クリス、俺、エレナの状態から俺が消えて、クリス、エレナの二人の関係だけが残るはず!!

 

 それもう寝取られ(NTR)でも何でもないだろ、という声が聞こえてきたが、エレナがクリスのほうに行って、俺がNTRれたと感じたらそれはNTRなのだ!!

 

 そもそも、NTRとは、与えられる快楽なりなんなりで、主人公よりも間男のほうが良い、と思って初めてNTRが発生するのだ。だから嫌われるか失望されることが重要であることに違いはない!!

 

 さすがNTRIQ180の俺の脳だ。NTRの本質ってやつだな(意味不明)

 

 さあ、俺の名演技で糞雑魚男を見せつけてやるぜ!!

 

 というわけで、敵の龍の三体目。原作では四体目を倒すころにNTR発覚からの主人公脳破壊イベントがあるので、ぜひここで好感度を一気に落としたいところ。

 

 ワンチャン、ここで下げておけば、世界の強制力とかが働きやすくなって、NTRが達成できるのではなかろうか?

 

 というわけで、初撃で戦闘不能になる雑魚やります!!

 

「朕は強欲のマモン。ここに来ることはわかっていたが故、仕掛けさせてもらったぞ」

 

 たとえ種族として最高位に位置する龍だとしても、この術式を組むのにはいったい何日かかるのか──精密に編まれ、偽装された魔法陣が、次々と地中から顕在する。

 

 ここにきて、原作とは異なる展開。いや、原作では大した描写がなかっただけで、同様の攻撃を行っているのかもしれない。ただ、俺がやるべきことは変わらない。

 

 全員で龍へ突っ込み距離を詰めている間に、魔法陣から漏れる魔力が空気中の分子に干渉し、励起(れいき)され、光が(またた)く。

 

「恨むなら己が軽慮(けいりょ)を恨め!! あまねく星を照らす業火の焔よ、天穹より地上の万物を焼却せよッ!!!」

 

 龍を挟むように、地面と天空に巨大な魔法陣が開くとともに、共鳴するように空気が振動した。

 

 展開されていた魔法陣から、溜め込まれていた魔力が圧縮されるように二つの魔法陣を経由し、龍の身へと注がれる。

 

 すべての魔力を宿した龍は、一度天へ向けた首を振りかぶり、口から全エネルギーを解き放った。

 

「 紅 炎 新 星(プロミネンス・ノヴァ) 」

 

 凄まじい光に世界が塗り潰される只中で、さっそく初手突撃(無能)かませ男を遂行させてもらおう。

 

 重要なのはクリスとエレナが動くのを妨害しつつ、攻撃を受けることである。

 

 妨害しないと、前の龍みたいに敵が先に死ぬ可能性がある上に、エレナに結界で守られた場合、高確率で俺が糞雑魚敗北できなくなる。

 

 はい、というわけで二人より前に出て、即魔力を放出して二人の行動を妨害させていただきます。許せサスケ。

 

 スキル、なんて言っているがその燃料は魔力だし、その魔力を特定の事象に変換する術式が個人ごとに存在するにすぎない。魔力の流れを妨害してしまえば電力を失った家電よろしく、スキルも機能しない。

 

 魔力の妨害はノイキャンの要領である。効果としてはノイキャンと違って魔力を流させない、というべきだが。

 

 初対面の相手にはほぼ不可能だが、二人ならそこそこの付き合いだからね、魔力の周波数的なものも把握済みだ。

 

 例によって孤児院でみんなが遊んでいる間に鍛錬していただけあって、魔力量には自信がある。転生者ってそういうとこあるよね。

 

「ど、どうして、なんで結界が!!」

「なッ!! アレンッ! なんでッ!!」

 

 クリスは俺が妨害していることに気づいたらしい。

 

 が、遅い!!

 そこで俺が無様に倒れるところを見ておくがよい!!!

 

「スキルは取っておけ。まあ、ここは俺に任せてくれよ」

 

 敗北するけどね。味方の妨害をしておいて、自信満々にイキっておいて負ける──この自分勝手さには、どんなに仲のいい相手でも絶句するに決まっている。

 さすがNTRIQ180の俺の脳だ。冴えてるぜ。抑えきれない高揚感に口角が上がる。

 

 まあ、この一撃は龍がご丁寧に溜めこんでおいた魔力を用いた一撃必殺だ。これさえ防げば、あとは二人でお茶の子さいさいだろう。

 

 

 後は頼んだぜ!!

 

 

 スキルを起動し──俺以外の全てが停止する。

 

 時が止まる、とは言っても、装備品は大丈夫だし、それを『ご都合主義だ』なんていったが......この間に放った魔力の斬撃はどうなるのだろうか?

 

 はい、出たところで止まります。つまり、これを重ねれば──このとおり。

 

次元縮約斬(ディメンショナル・スタック)

 

 スキルの限界まで重ね合わせた斬撃は互いに反発し、結合し、魔力以上の打撃を生む。

 ただ、これでもなお、龍が丹念に蓄えた魔力を相殺するには届かない。

 

 いわば水を限界までに溜めたダムの決壊に、消防車一台の放水で挑むようなものである。回避先を潰すような範囲攻撃故に、実質相対する魔力が全体の数十分の一だとしても、依然として無謀。

 

 だから......最後は魔力で強化した己の身で受け止める。──いや、本当のところは別に体で受ける必要はなければ、むしろ無駄が多いけど、俺の目的上、ね?

 

 これで無様に吹き飛ばされれば、仕上げだ。

 

 先手で打ち消せなかった魔力の奔流と俺がぶつかり合い、爆発した。

 

 

 

 

 

 

「くっ......な、アレンッ!!」

「そ、そんな......」

 

 朦朧(もうろう)とする意識の中、クリスとエレナが駆け寄ってくるのがわかる。

 

「ゴハッ......うおぉ、やられたぁ~~糞雑魚過ぎてやられたぁ~」

「そんな体で、ふざけないでください!!」

「いや、そういうわけじゃなくて、俺が雑魚、グッ」

「こ、こんなッ、全身にやけどを負って!! 誤魔化さなくても、わかっています! 私のせいなんですよねッ!!」

「いや、ちがっ」

「エレナ、そこの馬鹿を見ていて」

「ッ...言われずとも」

 

 龍がいた方向に向かって突っ込んでいったクリスの背を見送りながら思う。

 

 

 クッソシリアスじゃん。

 

 

 そこは自分勝手に振る舞った挙句、即やられるとか失望したわ~、かませ乙!!ってなるところだろ。想定と違うんだが。

 

 

 なんで?????

 

 

「なっ、無傷だとッ?! 人間がッ! あ、ありえない!!! あの術式は国すら一夜にして消し去った、一族の!!」

「黙って」

「があぁぁぁああああ!! まだ、朕はッ......」

 

 ちゃんと俺は、味方の行動を妨害した挙句、任せておけとイキっておきながら、相手の攻撃に敗北するカマセを演じたはずなのにッ!

 

 俺のNTRIQ180の脳をもってしても理解できない想定外の事態にショートした俺は、体の限界も合わさり、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 その後、またエレナの献身的な治療のおかげで復活した俺は、(すべ)ての状況が悪化していることを悟った。

 

 

 4体目、もはや俺が動く暇なく龍は死んだ。NTRどころでなく、エレナもクリスも俺が前に出ようとしたら即座に止めてくる。

 

 勝手に自爆した俺なんか放置しておいてほしいんだが。

 NTRれて捨てられたいだけの男を心配する必要なんてないのだ。

 ......なんとか、好感度を下げる方法を、下げる方法を......。

 

 

 た、助けて、世界の強制力!!! ここって寝取られゲームの筈だよなぁ!!!!

 おかしいよ!! この世界は、間違ってるぅ!!

 

 

 一人のNTR好きの嘆きは、虚しく、異界の曇りのない空に消えていった。

 

 

 

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