人類が太陽系という途方も無く巨大な鳥籠から飛び立ってから時代は流れに流れた。
外宇宙開拓時代と言われる現代では様々な国家、企業、反体制勢力、夢見がちな冒険家や傭兵に海賊などがそこら中を宇宙船で飛び回っている。
そして物語が始まるのはそんな時代の真っ只中の西暦3240年。
あんな神話じみた大事件の発端はほんの些細な事故だったのだ。
どこか、地球或いは太陽系よりも遥かに遠き宙域で幾つかの閃光が迸った。
一つの大きな光を三つの小さな光が追い回し、時折小さな光から光の玉が放たれ大きな光がそれを捻るような機動で躱す。
正体は小型採掘船『JB-307 愛称ジェット・シュリンプ』と、それを沈めんと追跡する戦闘攻撃機『FA-89 レイダー』3機。
ジェット・シュリンプの操縦主はなぜ自分が追われているかも分からずひたすらにレイダーに向かって無線を飛ばし続ける。
「SLCV-310089より哨戒機!!こちらは民間船だ!!直ちに攻撃を中止されたし!!応答せよこちらは……わあっ!!」
レイダーに搭載された2連装パルスオートキャノンの光弾が後部に直撃し、コックピットに衝撃が走った。
ラジエータの破損を知らせるアラートがインターフェースに映し出され続いて鳴り響くアラーム音。
「攻撃を中止しろ!!こちらに交戦の意思は無い!!クッソォッ!!民間船だって言ってんだろバカヤローッ!!!」
暗礁宙域でドッグファイトが続く中、ジェット・シュリンプのコックピットに新たな警報が鳴り響く。
「採掘船の速力じゃ逃げられねえ……
大昔のSF映画から名前を借りてワープ・ドライヴとも呼ばれるこれは名前の通り、光の速度を遥かに上回る瞬間移動の如き超々加速で船を何百、何千、何万光年先まで一瞬で届ける機能を持つ。
これのお陰で無限の闇が続く広大な宇宙でも安定して物流を維持し、惑星間或いは星系間でのスムーズな往来が可能となったのだ。
一度に移動できる距離や使用可能な回数は船体の規模によって様々だが、彼『アーサー・バーネット』の乗るジェット・シュリンプの基となった船は小型高速艇に分類される為、本来搭載されている純正MDCSも出力が小さく精々数百光年単位での転送が限界だが、採掘船として魔改造を施されたジェット・シュリンプは中型の装甲艇や輸送艦に搭載される比較的大出力の軍用モデルを無理矢理載せていた。
「ちょっ、航法支援COMと座標固定システムがエラー吐きやがった!!やっぱり中古のジャンク品なんて買うんじゃなかったッ!!!」
全速力で全てのスラスターとバーニアを吹かしながら逃げ回るジェット・シュリンプだったが、戦闘攻撃機から逃げ切れるはずも無く背後に取り付き射撃の機会を今か今かと待つ姿が後部モニターの映像で見えた。
「ああもうマニュアルで無理矢理飛ばすしかねえ!!」
マニュアルでの次元跳躍を試みようとしているアーサーだが、彼のやろうとしていることは例えるならば地図もコンパスも無しに広大な砂漠を目隠ししたまま通り抜けるようなものだ。
つまり、どこにどれくらいの距離ジャンプするか全くわからない。
最悪岩礁宙域やそこらのスペースデブリに突っ込んだりする可能性もある。
幸いなのはこのご時世、どこの宙域にいても
まあたまにそれを傍受した海賊やテロ組織に襲われる事もあるのだが。
「MDCS起動!座標設定と安定化はスキップ!兎に角加速を優先させる!!」
MDCSが起動すると船内にうおんうおんと奇怪な駆動音が鳴り始める。
「現実乖離率24%、36%……49……」
駆動音は次第にその音量を増し、モニターに映し出される景色がブラックホールの外縁に吸い込まれるかのように歪曲しだした。
レイダーもMDCSの起動に感付いたようで、最早追い付けないと判断したのか速度を落とし距離が離れていく。
「……50!!」
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「おじいさま、空が……」
どこか分からぬ、名前も無き地にその二人はいた。
「うむ、天空神様が催してきたようだ。今日の修業はこの辺にしておこう」
片や竜のような頭と鱗、爪を持った年寄り風な男。
「はい、本日もお付き合いいただきありがとうございました」
片や額から一対の立派な角を生やした耳長の少女。
互いに持っていた刃の潰された模擬剣を下ろし、空を一瞥すると二人は岐路へ着く。
曇り空はやがて大粒の雨を降らし、大地を鳴らす。
急ぎ足で家に向かう中、二人は
炎に包まれ雲の上より出でた巨大な石棺のような物体を。
暫くして、その物体は凄まじい轟音を立てながら森の奥へと消えていきその後爆発音が鳴った。
「何事か……?」
竜人の男は黒煙立ち昇る石棺擬きが落着した場所を警戒の眼差しで見つめる。
「ど、どうしましょう」
「新手の魔獣か堕天使か……いずれにせよ里の安全の為には我らが見に行く他あるまい」
「は、はいっ」
二人が山の中を歩く事30分。
現場に辿り着いた頃には火は大雨で消し止められていた。
煙が晴れていき、その全容が明らかとなる。
遠めに見れば石棺、しかしこうして近くで見れば……。
「……船?」
「サナーシェ、この文字を知っているか?」
サナーシェと呼ばれた二本角の少女は竜人の元へ駆け寄り、指差す方を見る。
その船らしき物体の側面には様々な未知の言語が記されていた。
『SLCV-310089』
『JET SHRIMP』
『DO NOT STEP ON』
『WARNING』
本をよく読んでおり里の中でもかなりの知識人であったサナーシェでも、この文字が意味することは分からなかった。
「船のようだが、これは鋼鉄か?」
「しかし甲板も入口も無いようですね」
暫く船体をベタベタと触る二人だったが、船はうんともすんとも言わなかった。
「鉄の塊をいくら撫でまわした所で懐く事もあるまい。明日、秘術士のレマンクを連れて来よう……彼の解析術ならば何か分かるやもしれぬ」
「はい」
このやり取りの後、二人は里へと戻っていった。
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……メインシステム再起動
……搭乗者のバイタル正常
……全自衛兵器の安全装置解除
……救難信号の発信
……通信システム……オフライン