カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond   作:バビロン@VG

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♯4 Breaking Point/Ⅱ

 

薄暗闇の会場は、熱気につつまれていた。

 

「ヴァンガードでアタック!!」

 

ファイトテーブルを挟み、向かい合う両者。

顔を隠す仮面の下、闘志が渦巻く。

 

『さぁ、ファイトもいよいよ佳境!! このまま4番のファイターが序盤のペースのまま押し切るのかー!!』

 

盛り立てるように叫ぶシキ。

攻め手である、華が散りばめられたドレスの女性を示す。

 

狐の仮面を付けた青年が息を吐いて――

 

「――完全ガード」

 

低い声と共に、カードを盤面に出した。

 

 

ツインバックラー・ドラゴン

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ドラゴンエンパイア - プラズマドラゴン 

パワー6000 / シールド0 / ☆1

【永】:守護者(守護者を持つカードはデッキに合計4枚まで入れられる)

【自】:このユニットが(G)に置かれた時、あなたのユニットを1枚選び、そのバトル中、ヒットされない。あなたの手札が2枚以上なら、手札から1枚選び、捨てる。

― 炎と雷。その双方を巧みに操り、災厄を退ける。

 

 

「くっ……!!」

 

悔しそうな声を出す仮面の女性。

狐面の青年が静かにカードを捨てる。

 

暗闇の中、興奮が波となって押し寄せていって――

 

「……はぁ」

 

個別の控え室の1つで。

鶴見サヤが、仮面の下でため息をついた。

 

ちらりと、設置された姿見に視線を向ける。

 

オールバックにした金髪に、黒色のタキシード。

蝙蝠の羽根を模した赤地のマント、悪魔の角の装飾。

 

イラついたように足をゆすり、そして――

 

「あーもう、息しにくい!!」

 

怒ったように、サヤが仮面を外した。

スーハーと深呼吸をするサヤ。険しい表情。

 

巨大な歓声が、遠くから聞こえてくる。

 

「てか、あのピンク女、どこにいるのよ……!!」

 

怒りをにじませながら呟くサヤ。

数日前の会話が脳内に蘇る。

 

「わぁ、サヤちゃん先輩も当選できたんですねぇ~! よかった~! 実は私も当選したんですよ~!」

 

ふりふりと、嬉しそうにスマホを振っているナヅキ。

サヤが思い切り肩を落とした。

 

「……どうしてこうなるのよ」

 

か細い声で言うサヤ。

ぽんぽんと、ナヅキがその肩を叩いた。

 

「まぁまぁ、いいじゃないですかぁ~。サヤちゃん先輩のコスプレ、私本当に楽しみにしてますからぁ~☆」

 

呑気な口調のナヅキ。

サヤが殺意に満ちた目をその間抜け面に向ける。

 

過去の光景が遠ざかって――

 

「あの女、もし当たったら絶対に殺す……!!」

 

暗い決意を胸に、サヤがそう呟いた。

 

「てか、入場の時も7人しかいなかったわね。あいつらしい姿の奴もいなかったけど、なんなの? 遅刻?」

 

イライラが止まらない様子のサヤ。

ぶつぶつと、その口から無限に愚痴が漏れ出る。

 

そうこうしている内に、ひと際大きな歓声が響いて――

 

「鶴見選手、出番です。入場して下さい」

 

控え室の扉がノックされ、スタッフが顔を覗かせた。

頷くサヤ。仮面をつけて立ち上がる。

 

「はいはい、分かったわよ」

 

うんざりしながら答えるサヤ。

身だしなみを整えると、控え室から出る。

 

薄暗い通路に、靴音が反響していった。

 

「言っておきますが、くれぐれも自分が何者であるか分からないような振る舞いをお願いします。仮面を外したりもしないように」

 

釘をさしてくるスタッフ。

サヤが肩をすくめた。

 

「まぁ、努力はするけど。でもどうせ、デッキとかプレイングを見れば誰なのかわりと分かるでしょ? そんなに厳格にする必要ある?」

 

「……規則ですので」

 

短く答えるスタッフ。

苦労を感じ取り、サヤが黙り込んだ。

 

薄暗い入場口の前に、サヤが辿り着く。

 

「それでは、待機してて下さい」

 

そっけなく言い、その場を離れるスタッフ。

仮面を付けたサヤが、その場に取り残された。

 

「……はぁ」

 

再び漏れるため息。

暗闇の中、面倒そうに腕を組んで出番を待つ。

 

白い光が降り落ちて――

 

『それでは、第3回戦を始めます!!』

 

ファイトテーブルの前。

水無瀬シキが、高らかに観客に呼びかけた。

 

大きな歓声が巻き起こり、会場を揺らしていく。

 

シキが右手をあげた。

 

『エントリーナンバー5番のファイター!! 仮装テーマは《聡慧の魔公子 ヴァープラ》です!!』

 

 

聡慧の魔公子 ヴァープラ

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ダークステイツ - デーモン 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:あなたのヴァンガードの能力のコストで同時に【ソウルブラスト】(4)以上した時、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、1枚引く。その後、あなたの手札からグレード4を1枚まで選び、公開する。公開したか「ドラジュエルド」を含むグレード4以上のあなたのヴァンガードがいるなら、あなたのリアガードを1枚選び、このターンにあなたのリアガードがカードの能力で【スタンド】していないなら、【スタンド】させる。

― 書庫を荒らす愚者に、罰を与えましょうか。

 

 

スクリーンに表示されるカード画像。

サヤが頭を振ると、光に向かって歩き出す。

 

周囲から、大きな拍手が降り注いだ。

 

「……まったく、もう」

 

観客に聞こえないよう小声でぼやくサヤ。

くすくすと、シキが笑い声を漏らした。

 

「あら、よく似合ってるじゃないの。あなたってそういう格好もいけるのね、可愛い少年吸血鬼さん」

 

からかうような口調。

サヤが仮面越しにシキを睨む。

 

シキが微笑みながら、左手をあげた。

 

『続いては、エントリーナンバー6番のファイター!! 仮装テーマは――』

 

そう、シキが言いかけた瞬間。

きゅむきゅむという気の抜ける音が響いて――

 

「みんなーッ!! 燃える準備はできてるボバーッ!?」

 

唐突に、その言葉が会場中に響き渡った。

呆気にとられるシキとサヤ、そして観客達。

 

薄暗闇の中より、珍妙な着ぐるみを着た人物が現れた。

 

モコモコとした見た目。手作り感あふれる姿。

胸の辺り、セロテープで雑に貼り付けられた仮面。

 

その姿は――

 

 

発破怪獣 ボバルマイン

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ブラントゲート - エイリアン 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットのブーストしたバトル終了時、あなたのオーダーゾーンにセットオーダーがあるなら、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、【カウンターチャージ】(1)。

― 爆発の衝撃を有益に活用する技術が研究されている。

 

 

「……はっ?」

 

仮面の下、あんぐりと口を開けるサヤ。

思わず、言葉を出しそうになる前に――

 

「なっ、なっ……ッ!?」

 

激しく動揺した声。

ぎらりと、いつになく鋭い目を向けて――

 

「なにしてくれてんのよ、朔導ナヅキーッ!!」

 

シキが、ボバルマインの着ぐるみに詰め寄った。

激昂しているシキ。冷たい殺意が放たれる。

 

着ぐるみの人物が、モコモコとした手をあげた。

 

「違うボバ。私は発破怪獣 ボバルマイン。朔導ナヅキじゃないボバ~」

 

 

発破怪獣 ボバルマイン

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ブラントゲート - エイリアン 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットのブーストしたバトル終了時、あなたのオーダーゾーンにセットオーダーがあるなら、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、【カウンターチャージ】(1)。

― 爆発の衝撃を有益に活用する技術が研究されている。

 

 

「んな訳ないでしょ!! 馬鹿にしてんの!?」

 

叫ぶように言うシキ。

荒々しく手を伸ばすと、仮面をひっぺがす。

 

仮面の下より、朔導ナヅキの顔が現れた。

 

「ボバァー!?」

 

情けない声をあげるナヅキ。

あまりにも珍妙な姿。低クオリティさが際立つ。

 

「あ、あんたさぁ……」

 

呆れかえっているサヤ。

シキがボバルマインナヅキの胸倉を掴んだ。

 

「ふざけてんの!? うちは学芸会でもなければデパートの屋上のヒーローショーでもないのよ!! てか、どこから持ってきたのよ、こんなショボい着ぐるみー!!」

 

激しい怒りを滾らせているシキ。

ナヅキがジタバタと暴れる。

 

「や、やめるボバ~! イジメは良くないボバ~!」

 

「ボバボバうっさいのよ!! てか、そもそも喋ったりしないでしょ、ボバルマインは!!」

 

設定の粗をつくシキ。

ナヅキがピシャーンとショックを受ける。

 

「そ、そんな……!! 嘘ボバ……!!」

 

勝手にダメージを受けるボバルマインナヅキ。

着ぐるみの格好のまま、膝から崩れ落ちる。

 

混沌とした空気が、辺りを支配していった。

 

「……帰っていい?」

 

シキに訊ねるサヤ。

不機嫌そうに、シキが鋭い目を向けた。

 

「黙ってなさい」

 

凄まじい迫力を漂わせているシキ。

察したサヤが、押し黙る。

 

深呼吸をし、息を整えると――

 

『コホン。お見苦しい所をお見せしてしまい、大変失礼いたしました。改めて、仮面舞踏会を再開させていただきます!!』

 

シキが、観客に向けて笑顔を振りまいた。

感情を押し殺した声。プロとして司会に徹するシキ。

 

困惑した雰囲気の中、まばらな拍手が送られる。

 

「ほら、さっさと準備して!!」

 

小声でせきたてるシキ。

サヤがため息をついて、デッキを取り出した。

 

「なんなのよ、本当に……。てか、1回戦から相手がこいつだなんて……」

 

ぶつくさと言っているサヤ。

不満そうに、ファイトテーブルにカードを並べていく。

 

きゅむきゅむと、ナヅキが立ち上がった。

 

「…………」

 

無言で佇んでいるボバルマインナヅキ。

胸の部分から見える、真剣な表情。鋭い雰囲気。

 

辺りの空気が重く張り詰め、そして――

 

「……サヤちゃん先輩」

 

重々しい口調。

おもむろに口を開くボバルマインナヅキ。

 

サヤが「あん?」と柄悪く反応する。

 

「なによ? つうか、名前で呼ばないで!」

 

小さな声でたしなめるサヤ。

シキもまたイライラした視線を向ける。

 

辺りの深淵が蠢き、そして――

 

「私、気づいちゃったんですけど~」

 

きわめて真剣な声色で。

すっと、ナヅキが着ぐるみの腕を伸ばした。

 

「この手だと、カードが持てないボバ~」

 

「……はっ?」

 

間の抜けた声を出すサヤ。

傍に立つシキが目を見開いた。

 

たっぷりとした沈黙が流れて――

 

『……勝者、エントリーナンバー5番』

 

全てを諦めたように、シキがそう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう疲れた……」

 

薄暗い控え室。ぐったりとしているサヤ。

身体を投げ出すように、椅子によりかかる。

 

「サヤちゃん先輩……」

 

心配そうな目を向けるナヅキ。

きゅむきゅむという足音。珍妙な着ぐるみ姿。

 

サヤが額に手をあてた。

 

「あんた、それいつまで着てるのよ……」

 

呆れかえっているサヤ。

ナヅキがガオーッと両手をあげた。

 

「この格好、私は結構気に入ってるボバ~!」

 

きらきらと輝いている姿。

楽しそうな雰囲気を漂わすナヅキ。

 

サヤがげんなりとした表情になる。

 

「別に、好きにすればいいけどさ……」

 

呆れかえりながら、息を吐くサヤ。

 

「ていうかさぁ、あんたちゃんと分かってる訳? さっきのアレ、一応は不戦敗って扱いになるのよ」

 

「ボバ?」

 

首をかしげるナヅキ。

サヤが怒ったように顔を向けた。

 

「連勝記録よ! あんた、一応11連勝中だったでしょ! 不戦敗したから記録ストップってこと!」

 

「……あぁ、そういうことボバかぁ」

 

ポムっと手を叩くナヅキ。

にっこりと微笑む。

 

「別に、記録には興味ないボバ~。私はただ、心が熱くなれる戦いが出来れば良いボバよ~」

 

のほほんとした口調。

まるで気にした様子もなく話しているナヅキ。

 

サヤの顔に、ほんの少し影が差した。

 

「……良いわね、そうやって言える奴は」

 

不機嫌そうに呟くサヤ。

顔をそらしながら、何もない空間を見つめる。

 

ナヅキがわずかに首をかしげた。

 

「……サヤちゃん先輩?」

 

不思議そうに訊ねるナヅキ。

サヤは何も言わず、口を閉ざしている。

 

ノックの音が響いて――

 

「鶴見選手、決勝戦の準備ができました。こちらへ」

 

運営スタッフが、扉から顔をのぞかせた。

視線を向けるサヤ。ゆっくりと、椅子から立ち上がる。

 

「……分かったわよ」

 

テンション低く答えるサヤ。

薔薇の模様が描かれた仮面を付けて、歩き出す。

 

「サヤちゃん先輩、がんばるボバよ~!」

 

手を振っているナヅキ。

サヤがその姿を一瞥し、フンと鼻を鳴らした。

 

控え室から出たサヤが、暗闇の道を進んでいく。

 

「決勝戦ねぇ……」

 

一人呟くサヤ。

闇の中に、革靴の音だけが響いていく。

 

「誰が勝ち残ったか知らないけど、もはやどうでもいいわ……。相手が誰だろうが、さっさと終わらせるわよ……」

 

深呼吸しているサヤ。

漆黒が渦巻く中、孤独に闇に抱かれる。

 

熱気と歓声が溢れかえって――

 

『――皆様、お待たせしました』

 

白い光に照らされた姿。

水無瀬シキが両手を広げて――

 

『ただ今より、仮面舞踏会の決勝戦を行います!!』

 

暗闇の中に、その言葉が高らかに響き渡った。

巻き起こる大歓声。床を叩く足音が轟く。

 

シキが妖艶な笑みを浮かべた。

 

『それでは両者、入場してください!!』

 

暗闇に向かって呼びかけるシキ。

サヤが息を吐いて、歩き出す。

 

2つの人影が現れ、中央に向かって進んでいった。

 

「…………」

 

薔薇の模様が刻まれた仮面。

少年吸血鬼の格好をしているサヤ。

 

そして、それに対するは――

 

「…………」

 

青みがかった黒い髪に、すらりとした長身。

白を基調とした、軍服のような格好に身を包んだ姿。

 

狐の仮面で顔を隠した青年が、サヤの前に立った。

 

落ち着き払った立ち振る舞い。

どこか鋭い気配が、青年の身体からは立ち込めている。

 

「……?」

 

相手から感じるはっきりとした敵意。

仮面の下で、サヤが不思議そうに眉をひそめる。

 

光が2人の姿を照らし、そして――

 

「――おい」

 

唐突に、青年が声を発した。

透き通るような、それでいて鋭さを秘めた声。

 

その声を聞いたサヤが、目を見開く。

 

「……えっ」

 

思わず、声をあげるサヤ。

目の前に立つ青年に視線を向ける。

 

青白い威圧感を放ちながら――

 

「お前が"紅蓮の太陽姫"か?」

 

青年が、静かな口調でそう訊ねた。

衝撃を受けるサヤ。その身体が固まる。

 

ざわざわと、観客席がざわめいていった。

 

「ちょ、ちょっと……!!」

 

青年に向かってささやくシキ。

フッと、青年が鼻で笑う。

 

「別にいいだろ。どうせ決勝戦なんだ。誰がファイトするかなんて、連中はもうとっくに知ってる」

 

観客席に視線を送っている青年。

異様な威圧感。迫力ある言葉。

 

仮面の向こう、鋭い気配を漂わせながら――

 

「それで、お前が"紅蓮の太陽姫"であってるんだよな?」

 

青年が、サヤに向かってそう訊ねた。

有無を言わせぬ物言い。青白い光が這い上がる。

 

ぎゅっと、拳を握りしめて――

 

「……いいえ」

 

振り絞るような声。

付けていた仮面を外して――

 

「――あたしは鶴見サヤ!! "壮麗なる舞踏者"よ!!」

 

サヤが、その素顔を観衆の中に晒した。

どよめく会場。ざわめきの波が広がっていく。

 

「あぁ、もう……!!」

 

頭を抑えているシキ。

青年がかすかに首を傾けた。

 

「"壮麗なる舞踏者"?」

 

訝しむような声。

サヤの顔に怒りの感情が宿る。

 

「ちょっと、あたしとは一度戦ってるでしょ!! 覚えてない訳!? というか、なんであんたがこんなイベントに参加してるのよ!?」

 

戸惑ったように訊ねるサヤ。

青年を指差して――

 

「――"雷鳴の帝王"!!」

 

その言葉が、サヤの口から放たれた。

顔をしかめるシキ。緊迫した空気が流れる。

 

冷たい沈黙が辺りに流れ、そして――

 

「……ふん」

 

冷たい声。

すっと、青年の手が狐の仮面を外す。

 

端正な顔立ちが露わになって――

 

「俺は"紅蓮の太陽姫"と戦いにきたんだよ。あいつが参加してるって聞いたからな」

 

青年が仮面を捨てて、鋭い目を向けた。

不機嫌そうな表情。青白く燃える殺気。

 

"雷鳴の帝王"――冴導(こどう)ユヅルが姿を現した。

 

凍てつく雰囲気を纏う若い青年。

色白の肌に紺碧色の瞳。圧倒される威圧感。

 

空気が張り詰め、闇に沈んでいく。

 

「"雷鳴の帝王"……!!」

 

「本物だ……!!」

 

ざわめく観客達。

サヤが敵意を剥き出しに睨みつける。

 

ユヅルが鋭い目を向けた。

 

「で、"紅蓮の太陽姫"はどうしたんだ?」

 

威圧するように訊ねるユヅル。

殺気にあてられながら、シキが息を吐いた。

 

「……あれよ」

 

観客席の方を指差すシキ。

ユヅルが「ん?」と視線を向ける。

 

人がひしめく観客席の一角で――

 

「ボバ~!」

 

珍妙な着ぐるみに身をつつんだナヅキが、

ぶんぶんと大きくその腕を振っていた。

 

「…………」

 

黙り込むユヅル。

気まずい沈黙が流れていく。

 

その身体から放たれる威圧感が消えて――

 

「つまんねぇな。帰るか」

 

心底面倒くさそうに、ユヅルがそう呟いた。

髪をかいているユヅル。興味の失せた顔。

 

シキがユヅルを睨みつけた。

 

「ちょっと!! 冴導ユヅル!!」

 

引き止めるように叫ぶシキ。

ユヅルが手を振った。

 

「あいにく、気分が乗らない奴とはファイトする気にならねぇんだよ。後は適当にやっておいてくれ」

 

冷たく言い切るユヅル。

背を向けると、暗闇に向かって歩き出す。

 

拳を握りしめて――

 

「……ふざけんな」

 

振り絞るような声。

顔をあげて――

 

「待ちなさいよッ!! "雷鳴の帝王"ーッ!!」

 

サヤの叫ぶ声が、会場の中に響き渡った。

ぴたりと、歩みを止めるユヅル。

 

不機嫌そうに、振り返る。

 

「あん?」

 

静かな威圧感。

キッと、サヤがその姿を睨みつけた。

 

「あんたは覚えてなかったとしても……あたしは、あんたとの戦いを忘れた事はなかった!! あの時受けた、屈辱的な敗北を!!」

 

感情的になっているサヤ。

激しい怒りがその身体から溢れる。

 

ユヅルを指差して――

 

「あたしとファイトしなさい、"雷鳴の帝王"!! 今度こそ、あんたを叩きのめしてやるッ!!」

 

サヤが、必死な表情でそう叫んだ。

渦巻く殺気。決死の雰囲気を漂わすサヤ。

 

その目を細めて――

 

「……へぇ」

 

ぼそりと、ユヅルが呟いた。

反響する靴音。暗闇から抜け出すユヅル。

 

スポットライトの光をその身に受けながら――

 

「誰だか覚えてないが、そこまで啖呵を切るって事は、それなりに自信があるって事だな?」

 

鋭く話すユヅル。

デッキケースを取り出して――

 

「なら、お前の力を見せてみろ」

 

低い声と共に、ユヅルの身体から殺気が放たれた。

青白く燃える威圧感。刺し貫くような気配。

 

壮絶な殺意を身に纏いながら、ユヅルがサヤを睨んだ。

 

「ッ!!」

 

その迫力に気圧されるサヤ。

だがすぐに、闘志を燃やしながらデッキを構える。

 

シキが腕を伸ばして――

 

『とんでもない展開ーッ!! 仮面舞踏会の決勝戦、勝ち上がったのは"壮麗なる舞踏者"と"雷鳴の帝王"!! アンダーグラウンドファイトの王者が降臨ですーッ!!』

 

観客に向かって、その声を轟かせた。

爆発するような歓声が巻き起こり、会場が揺れる。

 

「さ、サヤちゃん先輩……!!」

 

観客席の一角。

ミユキがおろおろと心配そうな目を向ける。

 

「あれが"雷鳴の帝王"……ボバ」

 

着ぐるみ姿のまま、ナヅキが呟く。

柵に手をかけ、興味深そうに見つめるナヅキ。

 

テーブル上、カードが並んでいって――

 

「――ぶっ潰す!!」

 

闘志を燃やしているサヤ。

影の蜘蛛が描かれたスリーブのカードを置く。

 

青白い威圧感が揺らめいた。

 

「口が悪いな、お嬢様」

 

冷淡な口調のユヅル。

流れるように、その指がカードを並べていく。

 

稲妻の紋章が描かれたスリーブのカードが置かれた。

 

「なんだっていい。俺を愉しませろ」

 

見下したような表情。

殺意を纏った紺碧色の瞳が、サヤへと向けられた。

 

睨み合う2人。空気が張り詰めていく。

 

深淵が昏く濁っていき、そして――

 

『それではッ!!』

 

両手を広げるシキ。

サヤとユヅルが、それぞれ手を前に伸ばす。

 

カードを掴んで――

 

『仮面舞踏会決勝ラウンド、開幕ですッ!!』

 

高らかな宣言が、その場に響き渡った。

ぶつかり合う殺気。火花が散る。

 

指が動いて――

 

「スタンドアップ・ヴァンガード!!」

 

2人の声が混ざり合い、カードが表になった。

 

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