カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond 作:バビロン@VG
白い光が、闇の世界を切り裂いた。
薄暗闇の会場。渦巻く熱気。
歓声が地鳴りのように響き、床を踏み鳴らす音が響く。
熱い空気が弾け、そして――
「ダメージチェック、ノートリガー……!!」
震える声。
絶望を宿した言葉と共に、カードが表になった。
天意壊崩 バロウマグネス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ダークステイツ - ヒューマン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(V)】:あなたのターン中、あなたのソウルに「バロウマグネス」を含むカード1枚につき、このユニットのパワー+5000。
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたのソウルの枚数により以下すべてを行う。
・10枚以上-1枚引き、そのバトル中、クリティカル+1。
・15枚以上-あなたと相手のリアガードを望む枚数選び、あなたと相手はそれらをソウルに置く。その後、あなたのソウルから2枚まで選び、(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000。
・20枚以上-そのバトル中、相手は手札から(G)にコールする際、3枚以上同時にコールしない限り、コールできない。
― これがオレの世界だ――磁極正転・天意壊崩!
ダメージゾーンに並ぶ6枚。
さっと、色白の腕が伸びて――
『決着ーッ!!』
暗闇に向け、水無瀬シキがそう宣言した。
沸き上がる声。びりびりと空気が痺れていく。
青白い威圧感が波打って――
「なんだ、終わりか」
いかにもつまらなさそうな口調で。
"雷鳴の帝王"――冴導ユヅルがぼそりと呟いた。
白い光の中、鋭い気配が揺らいでいく。
「こ、これが、"雷鳴の帝王"……!! アンダーグラウンドファイトの、頂点……!!」
うなだれている対戦相手の青年。
冷や汗が流れ落ち、愕然と盤面を見つめる。
ユヅルが細く息を吐き出した。
「お前、現役のプロファイターって言ってたな?」
冷たい声色で訊ねるユヅル。
青年が顔をあげる。
紺碧色の瞳がその姿を見据えて――
「他の連中も、お前と同じくらい弱いのか?」
ユヅルの口から、凍てつく言葉が放たれた。
見下しきった目。失望を隠さない表情。
青年の顔に、怒りの色が浮かぶ。
「き、貴様ッ!!」
食ってかかる青年。
凄まじいまでの殺意。ぎりぎりと拳を握りしめる。
その目を細めて――
「まぁ、どうでもいいか」
心底、興味の失せた口調で。
ユヅルがそう言い、青年に背を向けた。
暗闇に向かって、ユヅルが歩き出す。
「おい、待て!! 貴様ーッ!!」
背後から響く叫び声。
歓声に罵倒、敗者の言葉。それらを全て無視するユヅル。
暗闇の中に、その姿が溶けていく。
「…………」
どこまでも続く暗黒の色。
深淵が纏わりつき、ユヅルの姿を覆い隠す。
世界が閉じていき、そして――
「……つまんねぇな」
ほんの少しだけ、感情のこもった声で。
ユヅルがそう言って、闇を仰いだ。
VANGUARD
BraveBeyond
太陽の光が降り注ぎ、辺りを明るく照らしていった。
がやがやとした騒がしい雰囲気。お昼休みの高校。
生徒達のお喋りする声が、さざ波のように響いていく。
屋上に設置されたテラス席に座りながら――
「サヤちゃん先輩、来ないですね……」
心配そうに、天神宮ミユキがそう呟いた。
暗く沈んだ表情。憂う雰囲気を漂わすミユキ。
誰も座っていない白い椅子を、ぼんやりと見つめる。
「そうですねぇ~」
向かいに座っている桃色の髪の少女。
朔導ナヅキもまた、心配そうに頬に手を当てた。
がやがやとした雰囲気が、辺りを流れていく。
「これでもう3日かぁ……」
指折り数えているミユキ。
ぐでーっと、テーブルに身を投げ出してため息をつく。
「この前の仮面舞踏会、サヤちゃん先輩ボッコボコにされてましたからね……。やっぱり、ショックだったのかなぁ……」
テーブルの表面を指で撫でているミユキ。
この前のファイトの場面が、脳裏に蘇った。
青白い威圧感を纏った、青年の姿が。
「……"雷鳴の帝王"かぁ」
ぼそりと、言葉に出すミユキ。
ナヅキがふくれっ面になる。
「もう少しで私も戦えたかもしれないのにぃ。水無瀬さんが私の芸術的なコスプレを認めてくれさえすればなぁ~」
ぶつぶつと不満そうな様子のナヅキ。
ミユキが若干反応に困った表情になる。
賑やかな声が、2人の間を通り過ぎていった。
「あの……朔導さん?」
おもむろに訊ねるミユキ。
おそるおそるといった風に、口を開く。
「その……実際、もし仮に"雷鳴の帝王"さんとファイトしたとしたら、どうですか? 勝てそうですか……?」
一抹の好奇心に駆られた質問。
ミユキが真っすぐにナヅキを見つめた。
ナヅキが「んー」と視線を空へと向ける。
「どうでしょうねぇ~。やってみないと分かりませんけど、この前見た感じだと、私より強いかもしれませんねー」
ゆるゆるとした口調で答えるナヅキ。
ミユキがぎょっとして目を丸くする。
「さ、朔導さんより!?」
「そりゃあ、私だって世界最強のファイターって訳じゃないですから~。私より強い人なんて珍しくないですよ~」
ひらひらと手を振っているナヅキ。
ミユキは唖然としてその姿を見つめている。
一瞬、その身に纏う雰囲気が鋭くなって――
「――もっとも、私も簡単には負けてあげませんけど」
ほんのかすかに低い声で。
ナヅキがそう言って、不敵に微笑んだ。
異様な威圧感が滲み出て、空気が歪む。
「ッ!!」
怯えるミユキ。
怪物を見るような目で、ナヅキを見つめる。
その目を閉じて――
「まぁ、いつかファイトすれば分かるんじゃないですか~。それよりサヤちゃん先輩、大丈夫ですかねぇ~?」
しゅんと、ナヅキを渦巻く異様な殺気が消えていった。
代わりに現れるぽわぽわとした雰囲気。ゆるい口調。
首を傾けながら、ナヅキが両手を合わせた。
「そ、そうですね……」
怯えたように答えるミユキ。
どぎまぎとしたように、ナヅキの方を見る。
ポーンと、2人のスマホがメッセージの到着を知らせた。
「んー?」
ぱちくりと目を開けるナヅキ。
ミユキがさっとスマホを取り出す。
「あ、アンダーグラウンドファイトからです!!」
声をあげるミユキ。
素早く画面をタップしてメッセージを表示する。
「次の対戦組み合わせのメール……! 今度の対戦組み合わせ、"普通の少女"と"黄金の慈愛卿"みたいですよ!」
興奮したように喋るミユキ。
ナヅキが「お~」と両手を合わせた。
「この前ファイトしたヒトミちゃんですねー。うんうん、あの時の戦いも楽しかったですねぇ~」
黒髪の少女の姿を思い起こしているナヅキ。
ミユキの眉が困ったように下がる。
「対戦相手の"黄金の慈愛卿"……どんなファイターなんでしょうね? うーん、こんなときサヤちゃん先輩がいればなぁ……」
「まぁまぁ、いないものはしょうがないですよ~」
ぽやぽやと喋っているナヅキ。
うんうんと、隣のヒトミが頷いた。
「そうそう。何事も諦めが肝心~」
頬づえをついているヒトミ。
ミユキが難しそうな顔で腕を組んだ。
「うーん、それはそうなんですけど……」
小さな声で呟くミユキ。
ニコニコと、ナヅキとヒトミは笑顔を浮かべている。
太陽の光が降り注いで――
「――いやッ!? ちょ、ちょっと待って!?」
たっぷりとした間の後、ミユキが驚愕の声をあげた。
不思議そうに、ナヅキが首をかしげる。
「どうしたんです、ミユキちゃん~?」
「幽霊でもいたー?」
ゆるい口調で訊ねるヒトミ。
ミユキがヒトミを指差して――
「いや、なんでいるんですかァッ!?」
絶叫するような声が、その場に響き渡った。
集まる注目。周りの視線がミユキへと注がれる。
にこーっとした笑顔を浮かべて――
「いやだなぁ、私はどこにでもいる"普通の少女"だもん。高校に入り込むくらい、訳ないに決まってるでしょ~」
"普通の少女"――佐奈部ヒトミがあっけらかんと答えた。
絶句するミユキ。その口がぱくぱくと動く。
ナヅキが両手を握り合わせた。
「わぁ、ヒトミちゃん、久しぶり~。そうしてると、うちの制服姿も似合ってますねー。とっても可愛いですよ~」
「えー、本当? 嬉しいー! 私、訳あってあんまり学校には行ってなかったからさ~。こういうの憧れてたんだよね~」
きゃぴきゃぴと話題に花を咲かせている2人。
傍から見れば、その姿にはまるで不自然さがなかった。
がばっと、ミユキがヒトミに顔を近づける。
「ど、どうしてここに!?」
ささやくような小声で訊ねるミユキ。
ヒトミが面白そうにくすくすと笑う。
「んー? 特に理由はないよ。近くを通りがかったから、なんとなく元気にしてるかな~って思って」
あっさりとそう答えるヒトミ。
ミユキが愕然として黙り込む。
ヒトミがナヅキの方を向いた。
「それにしても、この前の仮面舞踏会はもの凄かったね~。あの可愛い着ぐるみって自作なの~?」
何気ない質問を投げかけるヒトミ。
ナヅキがその目を輝かせた。
「そうなんですよ~!! 私の中学の頃のお友達が作ってくれた、最高傑作の着ぐるみなんです~!!」
いつになく生き生きと答えるナヅキ。
2人が楽しそうにお喋りを続ける。
ずずいと、ヒトミが身を乗り出した。
「ねぇねぇ、さっきの会話、聞こえてたんだけどさ」
悪戯っぽく笑っているヒトミ。
上目遣いにナヅキを見つめる。
「もしも"雷鳴の帝王"とファイトしたらさ、私はナヅキちゃんが勝つと思うよ」
「えー、本当ですかぁ?」
嬉しそうに言うナヅキ。
ヒトミがにっこりと頷く。
「うん。だってさ、ナヅキちゃんって私達とはなんか違うもん。雰囲気っていうか、性質っていうか」
じっとナヅキを見つめているヒトミ。
その口元に妖しげな微笑みが浮かぶ。
「"雷鳴の帝王"は人間だけど、ナヅキちゃんはどこか違う感じなんだよね~。ひょっとしてナヅキちゃん、人間じゃなかったりする?」
軽い口調で訊ねるヒトミ。
ミユキがギョッとする。
「ちょ、ちょっと、ヒトミさん!?」
慌てたように小声で囁くミユキ。
ヒトミは微笑み続けている。
ニコニコと、ナヅキが笑顔を浮かべた。
「さすがヒトミちゃ~ん。そうなんです。実は私って、惑星クレイからの生まれ変わりなんですよ~☆」
楽しそうにダブルピースするナヅキ。
ミユキが「ふぎゃ!?」と潰れた声を出す。
ヒトミが面白そうに笑い声をあげた。
「アハハ! そうなんだね~!」
納得したように話すヒトミ。
ガタリと、そのまま立ち上がる。
「教えてくれてありがとねー。じゃあ、私はそろそろ行かないと。今日の試合に向けて、準備しないとだから~」
緩やかな口調。
どこにでもいる少女のように、ヒトミが喋る。
その頬に手をあてて――
「それにしても……」
呟くヒトミ。
「"黄金の慈愛卿"かぁ。初めて対戦するんだけど、あの人すごい強いんだよね~」
「そうなんですかぁ?」
「うん。"雷鳴の帝王"の次くらいじゃなかったかな? アンダーグラウンドファイトのナンバー2ってやつ」
「おー、そうだったんですね~」
楽しそうに話し続けている2人。
ゆるゆると、和やかな空気が流れていく。
ふにゃふにゃとした表情で――
「それじゃあね、お2人さん~」
ゆるゆると言い、ヒトミが手を振った。
ナヅキもまた、微笑みながら手を振り返す。
「がんばって下さいね~! またファイトしましょう~!」
エールを送るナヅキ。
ヒトミがにっこりと笑みを浮かべた。
階段へ続く扉の奥に、ヒトミの姿が消えていく。
「……はぁ、びっくりしたなぁ~」
緊張の糸が切れたように息を漏らすミユキ。
疲れた様子で、椅子へともたれかかる。
青く広がる空を眺めながら――
「惑星クレイかぁ……」
感慨深そうに、ナヅキがぽつりとそう呟いた。