カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond 作:バビロン@VG
真っ白な空間の中に、灰色の景色が浮かび上がった。
遠い過去の記憶。心の奥に仕舞われていた映像。
モノクロの光景が、映画のように流れていく。
どこかの教室。子供のはしゃぐ声が響いて――
『ダメージチェック……ノートリガー!』
山札をめくる音。
少年の前に、6枚のカードが並んだ。
少年 ダメージ5→6
わっと、周囲が沸き立って――
『すげー!!』
大きな歓声と共に、称賛の拍手が巻き起こった。
盛り上がる空気。活気に満ちた雰囲気。
羨望の眼差しをその身に受けながら――
『ふっふーん、楽勝ね!!』
金髪を後ろで結んだ小柄な少女。
ありし日の鶴見サヤが、得意そうに胸を張った。
満足そうに、サヤは笑みを浮かべている。
『これで30連勝!! マジで最強じゃん!!』
『学年が上の人……年上の中学生とかにも、勝ってるんだって!!』
『すごすぎー!! プロも夢じゃないって!!』
ぼやけた顔のクラスメイト達の口から紡がれる言葉。
サヤがますます嬉しそうに顔を綻ばせる。
『ふんっ、当然でしょ!』
力強く断言するサヤ。
その手を自分の胸に当てて――
『――だってあたし、天才だもん!!』
サヤが高らかに、そう言い放った。
さらなる盛り上がりを見せる教室。熱気が渦巻く。
一人の少女が、集団の中から歩み出て――
『ねぇねぇ、サヤちゃん!!』
顔のぼやけた少女。
無邪気な声が、辺りに響いていく。
『あのさ、あたし実は、すごいファイターの噂知ってるんだ!!』
『すごいファイター?』
首をかしげるサヤ。
クラスメイトが頷いた。
『うん! あたし達の2個上なんだけど、それがすんごい強いんだって! 連勝記録も持ってて、誰にも負けないらしいよ!』
『へぇ、そうなの』
興味なさそうな声。
にやりと、不敵に微笑んで――
『面白いじゃない。その連勝記録、あたしが止めてあげるわ。なにせあたしは、世界最強のファイターなんだから!』
サヤが、堂々とした表情でそう宣言した。
『おー!!』という期待の声。再び拍手が巻き起こる。
『サヤちゃんがんばってー!!』
『皆で応援に行くよー!!』
投げかけられる様々な声。
サヤが手を振って、それらに応えていった。
純粋無垢なる少女。自信に満ち溢れた姿。
自らの力を疑うことなく、前を向いていたサヤ。
万能感を胸に、頂点を目指して真っ直ぐ歩き続けていく。
モノクロの映像が乱れて――
暗闇の記憶が、目の前に蘇った。
『ダメージチェック……!!』
苦しそうに口にするサヤ。
ぶるぶると震える指がカードを掴み、そして――
最後の1枚が、カツンと音をたてテーブルの上に落ちた。
沈黙の毒騎士 影潜者 モーダリオン
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - エルフ
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(V)】:あなたのターン中、あなたのオーダーゾーンに「監視された密会」が3枚以上なら、「影潜者」を含むあなたのユニットすべてのパワー+5000。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【エネルギーブラスト】(2)]することで、あなたの山札の上から7枚見て、あなたのオーダーゾーンの影潜者ゲージのない「監視された密会」と同じ枚数まで選び、影潜者ゲージのない「監視された密会」にそれぞれ1枚ずつ影潜者ゲージとして裏で置き、山札をシャッフルする。
【自】【(V)】:このユニットがアタックした時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの影潜者ゲージから「影潜者」を含むカードを2枚まで選び、それぞれ同じ縦列のRにコールする。
― 黒暗の騎士が姿を消したのち、彼が影潜者を統率している。
サヤ ダメージ5→6
立ち並んだ6枚のカード。
サヤが愕然として、目を見開いた。
『……敗け、た?』
振り絞るように呟くサヤ。
がっくりとうつむき、視界が暗くなっていく。
(な、なにこれ……!? 全然、相手の動きの意味がわからなかった……!! いつのまにか追い詰められてて、そ、それで……!!)
心の中、ぐちゃぐちゃになっているサヤ。
涙目になりながら――
(れ、レベルが違う……!!)
サヤが顔をあげ、対戦相手を見上げた。
向かい立つ人物。暗闇の中に溶け込んだ姿。
周囲を取り巻く人の影が揺らめいた。
『え? マジ? これで終わり?』
『相手強すぎ。勝負になってないじゃん……』
『サヤちゃん、意外と強くなかったって事? なんかガッカリだね……』
ひそひそと囁かれる声。
それを聞いたサヤの心に、暗い闇が広がっていく。
ぽたぽたと、その目から涙が零れ落ちた。
『あ、あたし……! あたしは……!』
震える声で必死に話そうとするサヤ。
周りの影が少しずつ、その姿を消していく。
『帰ろうぜ、なんかしらけた』
『そうだね。なんか、夢から覚めた気分』
徐々にいなくなっていく周囲。
最後の影が振り返って――
『サヤちゃんって、天才じゃなかったんだね』
そう、言い残して。
サヤの周りに、誰もいなくなった。
一人ぼっちの闇の中に、幼いサヤは取り残されている。
『うっ……!! ううぅっ……!!』
泣き声をあげて突っ伏している幼いサヤ。
その姿を、後ろから現在のサヤが見つめる。
『……あたしは』
ぼそりと呟く現在のサヤ。
その背後から、巨大な波が押し寄せてくる。
白い空間が青い波の中に呑み込まれて――
大きな歓声が渦巻く薄暗い空間が、目の前に現れた。
「……ッ!!」
盤面を見ながら、顔をしかめるサヤ。
その手の中、残された少ない手札を握りしめる。
対面に立つ黒髪の少年が、見下した目を向けた。
「なんだ、その程度なんだ」
露骨に失望したような声色。
黒髪の少年の前、一枚のカードが鈍い存在感を放つ。
描かれているのは、蒼い鱗をその身に纏う大海の巨竜。
蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストローム
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア/アクアフォース - ティアードラゴン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(V)】:あなたのターン中、あなたの、(R)かソウルに「蒼嵐竜 メイルストローム」があるなら、このユニットはそれらが持つ【起】能力をすべて得て、あなたのオーダーゾーンの蒼嵐艦隊1枚につき、このユニットのパワー+5000。
【自】【(V)】:あなたの「蒼嵐竜 メイルストローム」がヴァンガードにアタックした時、そのターン中、そのユニットのパワー+5000し、このターン4回目以降のバトルなら、1枚引き、相手のリアガードを1枚選び、退却させる。
【自】【(V)】:「メイルストローム」を含むあなたのユニットがアタックした時、【コスト】[オーダーゾーンの蒼嵐艦隊を2枚【レスト】させる]ことで、そのバトル中、相手は手札から守護者を(G)にコールできない。
― 其の嵐こそ、蒼き竜が下す最後の裁きであった。
戦場に吹き荒れる蒼色の旋風。
巨大な竜がその身をよじらせ、低い咆哮を轟かせた。
薄蒼色の瞳の中、神秘的な光が渦巻いていく。
凄まじい緊張感が漂う中で――
「……あたしは」
ぽつりと口にするサヤ。
影の差した顔を伏せ、うつむく。
――あたしって。
心の中に浮かび上がる言葉。
絶望が蝕む暗闇の中に、
――なんで、ヴァンガード続けてたんだっけ。
サヤの問いかけが、静かに響いていった。
VANGUARD
BraveBeyond
壮絶な殺気が、辺りの空気を歪ませていた。
お昼休みの時間。日差しの降り注ぐ屋上。
賑やかな声が響く、ありふれた日常の光景の中。
透き通るような青い空の下で――
「あ、あのー……」
おそるおそる、天神宮ミユキがその口を開いた。
吹き出ている冷や汗。青くなっている顔色。
フンと、不機嫌そうな声が響く。
「なによ、なんか言いたい事ある訳?」
刺々しい口調。
椅子に座っている鶴見サヤが、睨むような目を向けた。
「い、いえ!! そ、そんなことは――」
慌てたように手を振るミユキ。
殺気がうねりをあげて――
「もちろん、ありますよー☆」
ミユキの横――朔導ナヅキが、そう口を挟んだ。
視線を向けるサヤ。向かい合う2人。
ナヅキはニコニコと、大きな笑みを浮かべている。
「あわわわ……!!」
がたがたと震えているミユキ。
かつてない雰囲気を前に、縮こまる。
ナヅキの殺意を受け流しながら、サヤが息を吐いた。
「で、なによ?」
ぶっきらぼうに訊ねるサヤ。
スッと、ナヅキがスマホを取り出す。
「とぼけないで下さいよー、この事です~」
ふりふりとスマホを揺らすナヅキ。
アンダーグラウンドファイトからのメールが画面に映る。
暗い殺気を放ちながら――
「――引退って、どういうことですか?」
低い声で、ナヅキがそう問い詰めた。
『アンダーグラウンドファイトからのお知らせです。次の対戦組み合わせが決定いたしました。今回は"壮麗なる舞踏者"と"白銀の邂逅者"の対戦となります。なお、"壮麗なる舞踏者"は今回の対戦を最後に引退することを表明しています。皆様、ぜひとも勝敗の行く末に自らの栄華をお賭け下さい』
溢れ出る赤黒い殺気。異様な威圧感。
お昼休みの高校に似つかわしくない雰囲気が流れていく。
サヤがため息をつき、視線をそらした。
「別に。そこに書いてある通りよ。あたし、アンダーグラウンドファイトをやめるの」
あっさりと言うサヤ。
ナヅキが僅かにその目を細める。
「な、なんでですかァ!?」
ミユキが身を乗り出し、そう訊ねた。
サヤが頬づえをつきながら、手をひらひらと振る。
「もっと言うと、ヴァンガードから引退しようと思ってるのよ。ここ最近、仕事とか学業とかで何かと忙しいから。時間もそんなに割けないし」
「えっ、うぇぇぇ!?」
大声を出して驚くミユキ。
サヤが再びため息をつく。
「なによ、大げさね。大したことじゃないでしょ……」
淡々とした口調。
冷めきった目でミユキを見ているサヤ。
鋭い殺気が迸って――
「いやいやいや。大したことですよ~」
ナヅキが、微笑みながらそう言った。
「あん?」と反応するサヤ。不機嫌そうな顔。
圧倒的な威圧感を醸し出しながら、ナヅキが口を開いた。
「サヤちゃん先輩……この前の事、覚えてますか?」
「は? 何の話よ?」
「少し前にここで話した事です。私に勝つ算段がついたらファイトしてくれるって、そう約束しましたよね~?」
ふわふわとした口調で話しているナヅキ。
サヤが手を頬に当てた。
「そんなこと、言ってたかしら?」
「言ってましたよ~。ねぇ、ミユキちゃん?」
殺気を向けるナヅキ。
ミユキががくがくと激しく頷いた。
きゅっと、ナヅキが両手を握り合わせる。
「『絶対、あんたを熱くさせてあげる』『殺す覚悟で挑んであげる』。あの時、サヤちゃん先輩がそう言ってくれたから。だから私はミユキちゃん相手でも我慢ができたし、今日まで生きる事ができたんですよぉ~」
きらきらと目を輝かせているナヅキ。
サヤとミユキが、思い切り怪訝そうな顔を浮かべた。
すっと、その目から光が消えて――
「――なのに、私と戦わないで引退するって、どういうことですか? 私の心を弄んだんですか?」
ナヅキが、低い声でそう訊ねた。
消えた笑顔。無表情になっているナヅキ。
赤黒い殺意が這い上がり、異様な気配が溢れ出る。
「あわわわわわわ」
真っ白になり顔面崩壊を起こしているミユキ。
サヤが思い切りため息をついた。
「絶対、そこまで言ってないし……」
ぼそりと呟くサヤ。
心底面倒くさそうに目を閉じる。
「悪いけど、あんたが何を言おうが決めた事だから。そんなに怖い顔したって変わらないわよ。残念だけど」
きっぱりと告げるサヤ。
壮絶な殺意を前に、冷静な対応を見せる。
しばしの間の後、ナヅキの身体から殺気が消えた。
「……そうですか」
しゅんとするナヅキ。
いかにも不服そうに視線を伏せる。
2人の間、気まずい沈黙が流れていった。
「朔導さん、サヤちゃん先輩……」
心配そうな様子のミユキ。
何かを言いたそうに口を開くが、言葉が出てこない。
空白の時間が訪れ、そして――
「あの、もう一つだけいいですか~?」
すっと、おもむろに手をあげるナヅキ。
サヤが警戒するように目を細めた。
「なによ?」
「引退するっていうのは分かりましたけど……なんで、そのための最後の試合の相手が、よりにもよってあの臆病者の自称勇者もどきなんですかぁ?」
露骨に嫌った様子で話すナヅキ。
ジトッとした目をサヤへと向ける。
「他にも適任はたくさんいたと思うんですけど~。"紅蓮の太陽姫"とか、仮面舞踏会で当たったボバルマインの子とか、あとは――私とか」
不満そうに話すナヅキ。
サヤが肩をすくめた。
「それこそ、あたしの知った事じゃないわよ。対戦の組み合わせを決めたのは運営の方なんだから」
「うにゅぅぅー……!!」
奇妙な唸り声をあげているナヅキ。
サヤが呆れたようにその姿を眺める。
学校内に、予鈴の鐘の音が響き渡った。
「あら、もうこんな時間ね」
気付いたように言うサヤ。
ガタリと、その場で立ちあがる。
2人の方を向きながら――
「そういう訳で、今夜のファイトであたしはヴァンガードを辞めるから。お別れの言葉はいらないわ。それじゃあね」
サヤが軽く手を振り、そのまま歩き出した。
「あっ、サヤちゃん先輩!」と声をあげるミユキ。
コツコツという革靴の音が響き、そして――
サヤの姿が、校舎の中へと消えていった。
「……はぁ」
大きくため息をつくミユキ。
へなへなと力なく、椅子へと座り直す。
天を仰ぎながら――
「……つまんない」
ふてくされたように、ナヅキが頬を膨らませた。