カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond   作:バビロン@VG

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♯X Extreme Holiday/Ⅱ

 

高らかなファンファーレの音が、辺りに鳴り響いた。

 

広々とした自然公園を舞台とした会場。

ざわざわと集まっている3人組のファイター達。

 

舞台上、スーツを着たスタッフが現れて――

 

『皆様ー!! 大変長らくお待たせしましたー!! ようこそ、ヴァンガフェスティバルへー!!』

 

集まった参加者および観客に向かって、声を張り上げた。

ワッと、大きく上がる歓声。拍手が巻き起こっていく。

 

スタッフが輝くような笑顔を見せた。

 

『それでは、これより本日のメインイベント!! トリオDEヴァンガードの開催を宣言しまーすッ!!』

 

マイクに向かって叫ぶスタッフ。

さらなる歓声と共に、周囲で熱気が渦巻いた。

 

スタッフが得意そうに、モニターを示す。

 

『ルールは簡単です!! これから、3人組のチームである皆様には、この会場内を舞台に様々なチャレンジに挑戦してもらいます!!』

 

高らかな声。

モニター上に"?"の図形が浮かぶ。

 

『チャレンジは多種多様です!! ファイトはもちろん、ヴァンガードにまつわるクイズや詰めファイト!! はたまたスポーツや料理など、まさに千差万別です!!』

 

モニターに浮かぶあらゆるイメージ図。

どよめくようなざわめきが、会場内に起こる。

 

『チャレンジに成功するとポイントが貰えます!! 貰えるポイントはチャレンジの難易度次第!! そしてチーム全体が10ポイントを獲得すると、最後のゴール地点が表示されます!! そこに辿り着くのが勝利条件です!!』

 

パパーンという音。優勝者のイメージ図が流れる。

スタッフが不敵な笑みを浮かべた。

 

『しかし気を付けてください!! ゴール地点に向かう途中、同じくポイントを10獲得したチームと遭遇した場合は、互いの雌雄を決する戦い――運命戦が発生します!!』

 

モニター上に『運命戦』の文字が映る。

 

『運命戦は単純なファイト勝負!! チーム3人同士が対戦し、2勝したチームが勝ち残りとなります!! そうして最も早くゴールに到着したチームが優勝!! 本日のヴァンガチャンピオンとなります!!』

 

言葉を謳いあげるスタッフ。

ばっと、その腕を天へとかざした。

 

『さぁ、まもなくイベント開始の時間となります!! 皆様、チームとしての絆を胸に、ぜひ最後までご健闘下さい!! 栄光をめざせ、ファイター達ー!!』

 

盛り上げるように叫ぶスタッフ。

再び歓声があがり、大きな拍手が起こっていった。

 

ざわざわと、参加者達が開始の合図に備えていく。

 

「よし、テメェら!! 気合い入れんぞ!!」

 

呼びかけるスキンヘッドの少年――イチ。

目の前に立つニィとサンが頷いた。

 

「おぅよ!!」

 

「ソロの兄貴と当たるまで、絶対負けらんねぇ!!」

 

気合いを入れている2人。

イチもまた満足そうにその姿を見守る。

 

ふと、その目が黒髪の少年の姿を捉えて――

 

「あっ、兄貴ッ!」

 

イチが、険しい顔をしているソロを見つけた。

ソロもまた、3人組の不良達に気付く。

 

「……おぅ、お前らか」

 

テンション低く話しているソロ。

どこか気まずそうな表情が浮かぶ。

 

不良達がソロに近づいた。

 

「メンバー見つけられたんすね!! 流石っす!!」

 

「ソロの兄貴なら当然だろ!! きっと俺達には及びもつかない、凄ぇファイターと組んでるに違いないぜ!!」

 

「マジリスペクトっス!! んで兄貴、兄貴が選んだメンバーはどこっすか!?」

 

はしゃいだように訊ねるサン。

イチとニィもまた、きょろきょろと辺りを見回す。

 

コツコツという革靴の音が響いて――

 

「なに、あなたのお友達?」

 

冷たい声と共に、ミコトが静かに現れた。

黒の長い髪をなびかせているミコト。綺麗な佇まい。

 

氷のような冷たい瞳が、不良達へと向けられた。

 

「おぉ……!!」

 

感心したような声を漏らすイチ。

ニィとサンが声をひそめる。

 

「やべぇ、すっげぇ美人じゃん。兄貴、ああいうクールビューティー系が好みだったのか?」

 

「どうなんだろうな。てか、美人だけど雰囲気怖くねぇか? 俺はもっと可愛い感じの方がタイプだな」

 

ひそひそと話している2人。

ミコトは不満そうに目を細めている。

 

イチが感服したような表情を浮かべた。

 

「さすがっすね、兄貴! そんで、もう一人のチームメイトは――」

 

そう言った瞬間。

きゅむきゅむという足音がして――

 

「おー、ソロ君のお友達ボバ~?」

 

辺りに響き渡る明るい声。

ソロの背後から現れる奇妙なシルエット。

 

着ぐるみ姿のナヅキが、颯爽とその場に降臨した。

 

「……へっ?」

 

思わず素の声が出るイチ。

ニィとサンが口を開けたまま固まる。

 

珍妙な姿のまま、ナヅキが輝く笑顔を見せた。

 

「はじめまして! 私は朔導ナヅキ! 見ての通り、強くてかわいい最強美少女ファイターボバ~!」

 

ババーンと怪獣ポーズを決めるナヅキ。

ソロとミコトが静かに目を閉じる。

 

にわかに、周囲の空気がざわめいていった。

 

「……兄貴?」

 

おそるおそる訊ねるイチ。

「え、こういうの好きなんすか?」と、その目が語る。

 

ソロがぎろりと睨みつけた。

 

「お前ら――何も聞くんじゃねぇぞ」

 

有無を言わせぬ口調。

殺意のこもった低い声で、ソロが答える。

 

イチとニィが押し黙った。

 

「か、可愛い……!!」

 

きらきらとした目を向けているサン。

ソロ達が「!?」と驚愕する。

 

ナヅキが嬉しそうに顔をほころばせた。

 

「お~、君は見る目があるボバね~!」

 

ポンポンと肩を叩くナヅキ。

サンがシュバッと自らのスマホを取り出した。

 

「す、すみません! 自分とチェキいいっすか!?」

 

「え~。もう、しょうがないボバねぇ~!」

 

満更でもない様子のナヅキ。

そのまま、2人が写真撮影に興じていく。

 

賑やかな空気が流れていき、注目が集まっていく。

 

「あなたのお友達、変わってるわね」

 

ナヅキ達の方を見ながら呟くミコト。

ソロは無言のまま視線を伏せている。

 

気が付けば、ナヅキの周りに人が集まっていた。

 

「あざっした!! 待ち受けにします!!」

 

照れたような顔で深々と頭を下げるサン。

ナヅキが「いいボバよぉ~」と軽く手を振る。

 

金色の長い髪を揺らして――

 

「ねぇねぇ、次はあたしと撮ってよ~」

 

投げかけられる軽い声。

ナヅキの前、一人のギャルが姿を現した。

 

「もちろんボバ~!! 私は誰でもウェルカムボバよぉ~!!」

 

両手を広げて応えるナヅキ。

ギャルが「あんがと~」と言ってスマホを取り出す。

 

2人が近づいた瞬間――

 

「ねぇ、あれ見て!!」

 

周囲に響く興奮した声。

ぴたりと、ナヅキのギャルの動きが止まった。

 

「ボバ?」

 

「ふん?」

 

不思議そうに声のした方へと顔を向ける2人。

視線の先、人々のざわめきが大きくなっていく。

 

クールな雰囲気の青年が、周りの声援に応えて微笑んだ。

 

「やぁ、どうも」

 

控えめながらも自信に満ちた反応。

爽やかな笑顔を受け、黄色い声があがる。

 

「誰だ、あいつ?」

 

眉をひそめているソロ。

ミコトが「あぁ」と呟いた。

 

「白山(しらやま)トウザね。プロファイターの」

 

いかにも興味なさそうに言うミコト。

ソロが「へぇー」とこれまた興味なさそうに答える。

 

「有名な奴なのか?」

 

「らしいわよ。閃迅僚団(ハウンドレイザー)使い、華麗なるケテルサンクチュアリの貴公子、白山トウザ。友達がそんな風なことを言ってたわ」

 

淡々と話しているミコト。

ソロが「ふーん」と言って視線を向ける。

 

黒髪の青年――白山トウザが辺りを見渡した。

 

「普及協会からの依頼でね。特別に参加させてもらっているんだ。もし対戦することになったら、その時はよろしくね」

 

穏やかに話しているトウザ。

周りから「きゃー!」という声があがる。

 

ソロが面白くなさそうに顔をしかめた。

 

「なんだよ、キャアキャアされやがって……」

 

「そうね。でも、ファイトの実力は本物らしいわよ。なるべくなら、彼のチームとは当たりたくないわね」

 

冷静に分析しているミコト。

ナヅキはボーッとトウザの姿を眺めている。

 

ふと、トウザがナヅキの姿に気付いて――

 

「……フッ、なんだあれ」

 

笑いをかみ殺したように。

トウザが口元を隠しながら、そう呟いた。

 

ピシャーンと、ナヅキが衝撃を受ける。

 

「んん?」

 

固まったナヅキを見上げるギャル。

トウザが手を振った。

 

「それじゃ、皆さんもがんばって下さいね」

 

周りのファンに対して呼びかけるトウザ。

そのまま、声援を受けながらその場から立ち去っていく。

 

ぺしぺしと、ギャルがナヅキの頬をはたいた。

 

「もしも~し、ボバルマインちゃん? どうしたの~?」

 

ゆるい口調で訊ねるギャル。

ソロとミコトが2人の方へ近づいた。

 

「おい、どうかしたのか?」

 

「あ~、なんかボバルマインちゃんが固まっちゃってさ~。なにこれ、レスト状態になっちゃった~?」

 

とんちんかんな事を言い出すギャル。

ソロが返答に窮する。

 

「冬眠でもしたんじゃないかしら?」

 

しれっと言い出すミコト。

ギャルが「あ~、なるほど~」と納得しかける。

 

訳の分からない空気が流れる中に――

 

「――許さない」

 

ぽつりと零れる言葉。

「ん?」と、ギャルが反応する。

 

トウザの去っていった方を睨みながら――

 

「あいつ、私を見て笑ったボバーッ!!」

 

ナヅキが、不満そうに大声で叫んだ。

怒りに燃えるナヅキ。ボバボバとその場で暴れ出す。

 

ソロが慌ててナヅキの前に割り込んだ。

 

「おい、んな騒ぐなって!? てか、なんだよその怒りポイント!? 猫かお前!?」

 

なだめようとするソロ。

しかし、ナヅキはまったくもって聞く耳をもたない。

 

もこもことした腕を振り上げて――

 

「絶対、あいつのチームを倒すボバよー!! 覚悟するボバー!!」

 

ガオーッという叫びを添えて。

ナヅキの決意表明の言葉が、辺りに響き渡った。

 

ボンボンと、空中で風船の弾ける音が轟く。

 

『時間となりましたー!! それでは皆様、トリオDEヴァンガード、スタートでーすッ!!』

 

流れるアナウンス。

軽快なBGMをバックに、否応なしに競技が開始となる。

 

「あ~、スタートしちゃった~。じゃあボバルマインちゃん、またねぇ~」

 

ひらひらと手を振るギャル。

間延びした声を残し、マイペースにその場から去る。

 

ぞくぞくと、参加者達が巨大な公園内に散らばっていく。

 

「よ、よし!! んじゃ兄貴、とりあえず失礼しやす!!」

 

気を取り直したように言うイチ。

頭を下げると、ニィとサンを引き連れ駆け出していく。

 

気が付けば、周囲にはほとんど人が残っていなかった。

 

「ほら、俺達もいくぞ!!」

 

呼びかけるソロ。

ミコトが頷き、目を閉じた。

 

「分かってるわ。行くわよ、ボバルマイン」

 

「ボバァー!!」

 

不満そうに騒いでいるナヅキの手を引くミコト。

きゅむきゅむという足音と共に歩き出す。

 

爽やかな風が吹き抜けて――

 

『ハーイ、こちらのチャレンジは惑星クレイに関するクイズとなりまーす!! その名も"チャレンジ クレイQ"!!』

 

笑顔のスタッフの前、

何人かのチームが集い説明に耳を傾けていた。

 

『クイズは全部で3問!! 全問正解したチームがポイント獲得となりまーす!! ぜひチャレンジしていって下さいねー!!』

 

嬉しそうに説明をしているスタッフ。

3人が手元の紙に視線を落とす。

 

 

『クレイQ1:

 《天輪聖竜 ニルヴァーナ》の卵が祀られていた、

 焔の巫女達が所属する寺院の名前はなに?

 

 クレイQ2:

 《怪雨の降霊術師 ゾルガ》が船長を務める、

 異形の船員達が乗る幽霊船の名前はなに?

 

 クレイQ3:

 かつて惑星クレイにおける三英雄と謳われた者の内、

 「真紅の死神」「黙示録の風」と呼ばれた者は誰?』

 

 

「うげっ、こういうの苦手なんだよなぁ……」

 

暗い声を出すソロ。

横に立つナヅキに視線を向ける。

 

「ボバルマイン。お前、分かるか?」

 

「ボバ~?」

 

首をかしげているナヅキ。

いかにも可愛らしく、着ぐるみの身体を傾ける。

 

ソロがため息をついた。

 

「ダメか。まぁ、ブラントゲートの問題じゃねぇからな」

 

納得したように言うソロ。

ボバボバと、ナヅキが頷く。

 

パシャリと、写真を撮る音が響いて――

 

「ちょっと待ってなさい」

 

冷たく言い切るミコト。

指を動かし、なにやらメッセージを打ち込んでいく。

 

しばしの間の後、ポンという弾むような音が響いた。

 

「答え、分かったわよ」

 

当然のことのように言うミコト。

ソロが「はん?」と口をへの字に曲げる。

 

さらさらと、よどみなくペンを動かして――

 

「これでどうかしら?」

 

ミコトが、用紙をスタッフに渡した。

スタッフの口元に笑みが広がり、そして――

 

『おめでとうございまーす!! 全問正解、ポイントゲットでーす!!』

 

チリンチリンという鈴の音と共に、

スタッフからの祝福の言葉が投げかけられた。

 

「おいおい、マジかよ!?」

 

驚いているソロ。

ナヅキもまた驚いたように「ボバ!?」と声を出す。

 

ミコトが腕を組んだ。

 

「こういうの、好きな友達がいるのよ」

 

短く話すミコト。

ほんの少し、その声は誇らしげに聞こえる。

 

さらに風が吹いて――

 

『こちらは競技形式のイベントとなりまーす!! "目指せ、ギャロウズボールストライカー!!" ぜひとも挑戦くださいー!!』

 

スタッフの呼びかける声が辺りに響いた。

色とりどりのゴムボールに、パネル式の大きな的。

 

参加者が的に向かってボールを投げつけている。

 

大きく、ソロがボールを振りかぶって――

 

「――よっと!!」

 

ヒュッという空を斬る音。

ボールが目にも止まらぬ速さで駆け抜けて――

 

パコーンという小気味いい音と共に、的を撃ち抜いた。

 

『おー、素晴らしいー!! ここにきてパーフェクト達成者の誕生ですー!! おめでとうございますー!!』

 

スタッフの興奮した声。

周りからもどよめきと称賛の声があがった。

 

「あなた、なかなかやるじゃない」

 

「ボバーッ!」

 

近付くミコトとナヅキ。

ソロが「へん!」とどこか得意そうに微笑む。

 

「別に、そんなんじゃねぇけどよ。身体を動かすのはわりと得意な方なんだよ!」

 

嬉しそうに答えるソロ。

2人が感心したような目を向ける。

 

その後も、イベントは続いて――

 

『さぁさ、老若男女の皆様、あなたもダークステイツの君主になりませんか? 積み上げろ、ソウル座布団!!』

 

『アイドルの卵の皆ー!! マイクに向かって思い切り愛を叫ぼう―!! "叫べ、青春のカタストロフィー!!"」

 

『こちらは料理対決のイベントです!! テーマはパイナップル料理!! シェフも唸るような最高の料理をしあげて下さい!!』

 

様々なお題、様々なドラマが生まれていった。

賑やかな雰囲気。盛況な様子でイベントが進行していく。

 

ぱぁっと、ナヅキが輝く笑顔を見せた。

 

「いや~、順調にポイントが溜まっていくボバねぇ~! もう少しで目標の10ポイント達成ボバ~!」

 

機嫌よく喋っているナヅキ。

ボバボバと嬉しそうにその身体を横に揺らす。

 

「そうね。思ったよりやるじゃない。上出来だわ」

 

淡々とした表情で頷いているミコト。

腕を組み、冷たい目でナヅキを見つめている。

 

そんな2人の後ろで、ソロが肩で息をしていた。

 

「お、お前ら……!!」

 

何やら言いたげな様子のソロ。

2人が不思議そうに首をかしげる。

 

「どうしたのかしら?」

 

「ボバァー?」

 

訊ねるミコトとナヅキ。

ソロがぎろりと鋭い目を向けた。

 

「お前ら、少しは協力する姿勢を見せろよ! これ見よがしに肉体系のチャレンジばっかり選んだ上に俺に押し付けやがって!」

 

「なによ、情けないわね。男ならそれくらい涼しい顔でやってみせなさい」

 

「限度があるだろ!? てか、ボバルマインなんて後ろでボバボバ言うだけで何もしてないぞ!!」

 

ビシッとナヅキを指差すソロ。

ナヅキがきゃぴきゃぴとした笑顔を見せる。

 

「仕方ないボバよぉ~。私の手は見ての通り、何かを持ったりできないボバ~。だから後ろで応援するしかできないボバ~!」

 

着ぐるみの手を、ナヅキが見せつけた。

ソロの顔が怒りに燃える。

 

「だったら脱げよ!!」

 

「嫌ボバ!! セクハラボバー!!」

 

言い争っている2人。

ミコトが呆れたような表情になる。

 

ぎゃあぎゃあと騒いでいる3人に向かって――

 

『ハーイ、そこの旅行くご一行さーん!! ここらでちょいと腕試しはいかがー?』

 

軽やかなスタッフの声が投げかけられた。

振り向くソロ達。こじんまりとしたスペースが目に入る。

 

ニコニコと、小柄な女性スタッフが笑みを浮かべた。

 

『ルールは簡単!! 君達の"強さ"を見せるだけ!! たったそれだけでポイントをゲットできる、お得なチャレンジだよ~!!』

 

イエーイと一人で盛り上がっているスタッフ。

ソロが「あん?」と反応をみせる。

 

「強さを見せる? どういうこった?」

 

『単純な競技だよー! 誰でも知ってる、あの種目!』

 

軽やかに謳いあげるスタッフ。

とんと、肘を机の上について――

 

『"ファイト一発! クレイ腕相撲ー!!"』

 

意気揚々に、スタッフがそう言い放った。

ソロが微妙そうな表情をうかべる。

 

「腕相撲か……まぁ、やってもいいけどよ……」

 

心底面倒くさそうな様子のソロ。

ミコトが目を閉じ、視線を伏せる。

 

「そうね、ちょっとやりすぎたかしら。あなたが疲れてるなら、他のチャレンジでも構わないわよ」

 

ほんの少し気遣う様子のミコト。

ソロが「んー」と悩むような声を出す。

 

「そいつはどうも。つっても、ポイント的にはもう少しで10点に届きそうだしよ。贅沢は言ってられな――」

 

ソロが言いかけた瞬間。

きゅむきゅむという音と共に――

 

「ボバッ☆」

 

ナヅキが、楽しそうに挑戦者の椅子に腰を下ろした。

衝撃を受けるソロとミコト。2人が目を丸くする。

 

ガオーッと、ナヅキが両腕をあげた。

 

「ここは私に任せるボバー!!」

 

きらきらとした雰囲気のナヅキ。満面の笑顔。

ソロとミコトが慌てて駆け寄った。

 

「おい、なにやってんだボバルマイン!? 怪我するぞ!!」

 

「ちょっと、ふざけちゃダメよ。早くソウルから出てきなさい」

 

説得を試みる2人。

ナヅキがふるふると首を振る。

 

「平気平気! 見てるボバよぉ~!」

 

奇妙なまでの自信。

ぎゃあぎゃあと3人が騒ぎたてていく。

 

足音が近づいて――

 

「――ハッ、なんだあれ?」

 

どこか馬鹿にしたような声と共に。

筋骨隆々とした3人の青年が、ナヅキ達の前に現れた。

 

「はん??」

 

間の抜けた声をあげるソロ。

スタッフが楽しそうに腕を振り上げた。

 

『言い忘れてましたけど、腕相撲はチーム対抗のイベントなんです~! それぞれの代表者が勝負して、勝ったらポイントゲットですよぉ~!』

 

説明するスタッフ。

ドカッと、青年が乱暴な所作で椅子に座る。

 

マッチョな青年が、馬鹿にしきった笑みを見せた。

 

「おいおい、なんだよそのヘンテコな着ぐるみは? まるで3歳児が作ったみたいなクオリティだな?」

 

挑発するように言う青年。

ナヅキが笑顔のまま目を細める。

 

青年が筋肉で盛り上がった腕を伸ばした。

 

「まぁ、なんだっていい。お前みたいな女相手とはついてるぜ。楽にポイントゲットさせてもらうからよ」

 

そう言って大きな笑い声をあげる青年。

後ろで見ている仲間達も、ゲラゲラと下品に笑う。

 

「品がないわね……」

 

不愉快そうに呟くミコト。

ソロがナヅキの肩に手をのせた。

 

「おい、聞こえただろ!? 俺と代われって!! 相手は大人の男だ、お前みたいな女子じゃ絶対――」

 

「――ねぇ、ソロ君」

 

先程までとまるで違う声色。

ゆらりと、その顔を向けて――

 

「いいから、邪魔しないで欲しいかな☆」

 

ナヅキが、笑顔を浮かべてそう言い放った。

その身体から溢れ出る異様な威圧感。狂気的な表情。

 

ほんの一瞬、ナヅキの身体から殺気が放たれる。

 

「――ッ!?」

 

息を呑むソロ。

その手を離し、本能的にナヅキから距離を取る。

 

「なによ、顔色悪いわよ」

 

話しかけてくるミコト。

ソロがだらだらと冷や汗を流した。

 

「い、いや。なんでもねぇよ……」

 

言いよどむように答えるソロ。

警戒するように、着ぐるみ姿のナヅキの背中を見つめる。

 

ナヅキと青年が、互いの手を握り合った。

 

『はーい、準備できましたねー! それではー!』

 

大きく言うスタッフ。

ばっと、その腕を振り上げて――

 

『――ファイト、スタートッ!!』

 

高らかな宣言。

カーンという鐘の音が辺りに鳴り響く。

 

そして――

 

目にも止まらぬ速さで青年の拳が叩きつけられ、

木製のテーブルが破壊音と共に砕け散った。

 

『……へっ?』

 

絶句して固まっているスタッフ。

ソロとミコトが唖然としてその光景を見つめる。

 

「がぁぁぁーッ!?」

 

青年の口から放たれる悲鳴。

右手の拳を抑え、青年が苦悶の叫びを漏らす。

 

着ぐるみの腕を振り上げて――

 

「イェーイ!! 私の勝ちボバーッ!!」

 

ナヅキが、大きく勝ち名乗りをあげた。

すっきりとした表情。この上ない笑顔のナヅキ。

 

ボバボバと、その場で身体を横に揺らしていく。

 

「…………」

 

「…………」

 

黙り込んでいるソロとミコト。

どちらともなく、互いに見つめ合う。

 

2人の視線が交差し、そして――

 

「すげぇじゃねぇか、ボバルマイン!!」

 

「やるじゃない、さすがは汎用カードだわ」

 

目の前の出来事を、見なかったことにした。

ハイタッチを交わす3人。微妙な空気が流れる。

 

ピコーンという音が鳴り響いた。

 

『おーっと、ここで10ポイント達成ですーッ!! おめでとうございまーす!! ささ、ゴールに向かって下さいー!!』

 

気を取り直したように言うスタッフ。

ミコトがスマホを取り出した。

 

「あら、もう10ポイントなの?」

 

意外そうに呟くミコト。

ソロがスマホを見て、驚いたように目を見開いた。

 

「おいおい!! ゴールってこれ、スタート地点じゃねぇか!? こっから逆走しろってのかよ!?」

 

地図上の点を見つめているソロ。

今いる地点からは遠い場所。公園の入り口付近。

 

スタート地点の場所を、輝く点は示している。

 

「なによ、面倒くさいわね」

 

「ボバ~」

 

不満そうに言う2人。

ソロが「がー!」と声を出す。

 

「つべこべ言うなって! ほら、行くぞ!」

 

手を動かしながら呼びかけるソロ。

ミコトが渋々頷いた。

 

「はいはい、わかったわよ」

 

「ボバァ~!!」

 

ポーズを決めるナヅキ。

そのまま、3人が駆け足でその場から去っていく。

 

柔らかなそよ風が辺りを吹き抜けていく。

 

賑やかで明るい雰囲気の自然公園。

盛り上がりを見せていくイベント会場。

 

巨大な熱気が辺りを包み込み、そして――

 

青い空を覆うように、灰色の暗雲が立ち込めていった。

 

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