カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond 作:バビロン@VG
夕暮れの時間、忍び寄る夜の色。
様々な格好の人々が道を歩いていた。
それぞれの人生。それぞれの時間。
一日が終わりを告げて、静かに沈んでいく。
ぱたぱたと靴音を響かせて――
「ま、待ってぇ~!」
天神宮ミユキが、情けない声をあげた。
息を切らしているミユキ。大きく手を振る。
先を歩く朔導ナヅキは、それに全く気が付いていない。
「さ、朔導さん、歩くの早すぎだって……!!」
ぜいぜいとしながら、呟くミユキ。
学校を出て早数分。いまだ追いつけていないミユキ。
人混みに紛れながら、ナヅキの姿を必死に追いかける。
「……あっ!」
声をあげるミユキ。
ナヅキが、古い雑居ビルに入り込むのが見えた。
信号が赤に変わり、ミユキが足を止める。
「はぁ……! はぁ……!」
がっくりと頭を下げているミユキ。
膝に手をあて、息を切らす。額に浮かぶ汗。
信号が変わって、ミユキが顔をあげた。
のろのろと歩き出すミユキ。
ナヅキが消えていった雑居ビルの前に立って――
「……ここ?」
ミユキが、不思議そうに声をあげた。
8階建ての古い雑居ビル。狭い通路にエレベーター。
ビルの前の看板を、ミユキがしげしげと眺めた。
「カレー屋さんに、スマホの修理屋さん。メイドさんのカジノに……残りがカードショップ?」
テナントの文字を読み上げるミユキ。
どの階にナヅキが行ったのか、全く見当がつかなかった。
「……どこだろ、カレー屋さんとか?」
悩ましげに呟くミユキ。
息を整えると、小さく首を振る。
「まぁ、いいや。とりあえず入ってるお店を順番に訪ねていけば、そのうち会えるでしょ……」
そう、考えをまとめるミユキ。
そのまま、雑居ビルの通路へと足を踏み入れる。
エレベーターの前までたどり着いた瞬間――
「私を探してるー?」
唐突に、その声が横の方から響いた。
「わぁっ!?」
悲鳴をあげるミユキ。
慌てて、声のした方を向く。
通路の横、上り階段の所でナヅキが座り込んでいた。
「さ、朔導さん!?」
ミユキが目を丸くする。
にっこりと、ナヅキが微笑んだ。
「さっきぶりだね~、ミユキちゃん」
親し気な口調。手を振っているナヅキ。
ゆっくりと、その場で立ち上がる。
「なんだか私を追いかけてたみたいだから、人目のつかない所にって思って~」
スカートをはたくナヅキ。
かすかに首をかしげると、ミユキを見つめる。
「それで、用件はなにかな?」
のんびりとした声色。
ナヅキが静かに、そう訊ねた。
そこはかとない威圧感が、その言葉からは感じられる。
「あっ、あの! 別に、変な理由じゃなくて!」
あたふたとしているミユキ。
ごそごそと、ポケットをまさぐる。
赤い色のコインを取り出して――
「も、もしかしたらだけど! このコイン、朔導さんのだったりする!?」
ミユキが、ナヅキに向かってそう訊ねた。
緊張した表情。ドキドキと答えを待つミユキ。
ナヅキが「はれ?」と気の抜けた声を出した。
「あれ、本当だ。いつ落としたんだろう~?」
ぽんぽんと鞄を叩いているナヅキ。
ひらりと、階段から飛び降りる。
ナヅキがコインを受け取った。
「ありがとねー、ミユキちゃん。わざわざ届けてくれるだなんて」
にこやかな表情。
輝く笑顔を浮かべているナヅキ。
ミユキがおそるおそる、口を開く。
「ね、ねぇ、朔導さん。そのコインって……?」
上目遣いにナヅキを見つめているミユキ。
ナヅキが「これ?」と微笑んだ。
「なんて言えばいいかな、ある場所で拾ったものなんだ~。落とし物って言えば、多分そうなんだろうけど~」
楽しそうに話すナヅキ。
ミユキがぽかんとした表情になる。
「落とし物……? それ、元の持ち主とかは……?」
疑問を口にするミユキ。
「んー」と、ナヅキが一瞬だけ考える素振りを見せる。
にっこりと、大きな笑みを浮かべて――
「死んじゃった☆」
ナヅキが、あっさりそう答えた。
困惑しているミユキ。返事に窮する。
その手の中で、ナヅキがコインを弄んだ。
「まぁ、そんなに大事なものって訳でもなくて~、私にとっては思い出の記念品みたいなものなんだ~」
「き、記念品……?」
何も理解できないでいるミユキ。
ナヅキがコインをポケットにしまった。
「わざわざ届けてくれるだなんて、ミユキちゃんって良い人なんだね~。せっかくだし、お礼したいな。ねぇねぇ、この後って時間は平気ー?」
嬉しそうに訊ねるナヅキ。
ミユキが「う、うん」と頷いた。
ナヅキが両手を合わせた。
「よかった、それじゃあ行こー!」
「えっ、えっ?」
戸惑っているミユキ。
ナヅキが強引に、ミユキの手を引っ張った。
チーンと、エレベーターの扉が開いて――
「……カードショップ?」
2人が、5階にあるカードショップに足を踏み入れた。
明るい照明。様々な物が置かれている店内。
ショーケースの前で、客達が静かにカードを眺めている。
「ラーララー♪」
機嫌よさそうに歌を口ずさんでいるナヅキ。
店内を進むと、ショーケースの前に立つ。
特価品のカードに目を向けて――
「ふぅん、今日はケテルサンクチュアリなんだ~」
ナヅキが、ぼそりと呟いた。
その目を細めて、微笑んでいるナヅキ。
ミユキが後ろから声をかける。
「えっと、朔導さん? お礼って、どういう意味なの……? カードを買ってくれるとか、そういうこと……?」
不安そうに訊ねるミユキ。
ナヅキが手を振った。
「あぁ、ごめんねー、いつもの癖で~。ほら、これ~」
ニコニコとしているナヅキ。
カードが並ぶショーケースを示す。
ミユキがカードが並ぶ陳列棚に視線を向けた。
「えっと……?」
困ったような表情のミユキ。
ナヅキがカードを指差していく。
「そこの赤いのがドラゴンエンパイアで、白いのがケテルサンクチュアリ。今日はこの2つが主役みたいだね~」
説明するような口調。
嬉しそうに、ナヅキがそう話す。
困惑しているミユキに向かって――
「じゃあ、ちょっと待っててね、ミユキちゃん!」
ナヅキがそう言って、その場から離れていった。
「あっ、ちょっと!」と呼び止めるミユキ。
ナヅキがすたすたと、レジの方へと歩いていく。
「……自由すぎる」
ミユキが、素直な感想をこぼした。
ため息をつくミユキ。ぼんやりとナヅキの挙動を追う。
レジの横、シングルカード用の用紙を記入して――
「お願いしまーす」
ナヅキが、レジの店員に用紙を渡した。
用紙を受け取る店員。「お待ちください」と言う声。
レジ裏のスタッフがストレージを漁り、そして――
「申し訳ありません。全て品切れのようです」
ナヅキに向かって、そう答えた。
にこにこしているナヅキ。「そうですかー」と答える。
ちらりと、店員が購入用紙に視線を落とした。
「……失礼ですが、2枚希望で間違いなかったですか?」
「はい、そうですよー!」
元気に答えるナヅキ。
ミユキの方を見つめると、にっこりと微笑む。
店員が軽く頭を下げた。
「失礼しました。またのご利用、お待ちしてます」
「はい、お願いします~」
丁寧な挨拶をかわすナヅキ。
そのままミユキの方へと戻ってくる。
「それじゃ、帰ろうか~、ミユキちゃん」
「えっ、帰る!?」
「うん。欲しいカード、売り切れてたからー」
あっけらかんと話しているナヅキ。
意味が分からず、ミユキが絶句する。
2人が店から出た。
「ありがとうございましたー!」
後ろから響く店員の声。
ナヅキがエレベーターのボタンを押した。
2人の間に、沈黙が流れる。
(朔導さんって……思ってた以上に変かも……)
心の中で呟くミユキ。
ナヅキは上機嫌に、エレベーターを待っている。
ポーンと、扉が開いて――
「よーし、行こうか~」
ナヅキがそう言って、エレベーターに乗り込んだ。
その後を追うミユキ。2人だけの空間。
エレベーターの扉が、静かに閉まった。
「ラーララー♪」
またも、歌を口ずさんでいるナヅキ。
ミユキがどこか気まずそうに頬をかく。
(うーん、悪い人じゃないんだろうけど、何考えてるか分からなさすぎるよ……。朔導さんには悪いけど、とりあえずビルを出たら早めに別れよう……)
この後の事を考えているミユキ。
エレベーターが止まり、ゆっくりとその扉が開いた。
薄暗闇の中、淡い光が瞬いて――
ホテルのラウンジのような空間が、目の前に広がった。
「……はっ?」
大きく目を見開いているミユキ。
今起こっている事を、脳が処理しきれていない。
エレベーターから降りて、ナヅキが振り返った。
「ようこそ! アンダーグラウンドファイトへー!!」
嬉しそうな表情。
両手を広げているナヅキ。
世界が一瞬、停止して――
「いやいやいやいや!? なに!? いや、えっ!?」
ミユキが、慌てたように大声をあげた。
騒がしい声に、ラウンジにいた人の視線が集まった。
「もー、ミユキちゃん。そんな大声だしちゃダメだよー。ここは紳士と淑女が集まる大人の社交場なんだから~」
子供に言い聞かせるような口調。
ナヅキがたしなめるようにそう話した。
ミユキが勢いよく迫る。
「いやいや、意味わからんし!? てか、ここどこ!? こんな階なかったやろ!?」
すっかり地の口調になっているミユキ。
ナヅキがニコニコと微笑んだ。
「うん、そうだよ~。だってここ、あのビルの地下深くにある階だから~。普通の人は入れないんだ~」
あっけらかんと答えるナヅキ。
ミユキが絶句して黙り込む。
スーツを着た大柄な男が2人に近づいた。
「朔導様、大丈夫でしょうか?」
警戒するような目。
鋭い視線を、大柄な男性が向けている。
ナヅキがピースサインを浮かべた。
「平気平気~。この子、私のお友達だから~」
あっさりと答えるナヅキ。
ミユキが何か言いたげに口をぱくぱくさせる。
ハイヒールの音が響いて――
「あら、珍しいわね。あなたが人を連れてくるだなんて」
暗がりの中より、美しい声が響いた。
露出の多いドレス姿。煌びやかな雰囲気。
妖艶な微笑みを讃えた美女が、優雅に現れた。
「あっ! 水無瀬(みなせ)さんだ~!」
ゆるい雰囲気のまま、手を振るナヅキ。
美女――水無瀬シキがフッと鋭い笑みを浮かべた。
「高校の制服姿のまま入ってくるだなんて、いつもながら良い度胸してるわね。おまけに、今日は彼女連れ?」
ミユキに視線を向けるシキ。
蛇に睨まれたように、ミユキが縮こまる。
シキが持っていた扇で口元を隠した。
「本当、破天荒な子。今まで多くのファイターを間近に見てきたけど、あなた程の変わり種はそうはいなかったわ」
「えー、そうですかー?」
照れたように笑っているナヅキ。
シキが呆れたように、ため息を一つついた。
「他のゲストに迷惑をかけないように、ちゃんと彼女を見張っておくことね。あなたはともかく、そこの子はここではただの一般客なんだから」
冷たい口調で話すシキ。
再び、ミユキの方へと視線を向ける。
かすかな殺気を漂わせながら――
「お嬢ちゃん。その子が何を言って連れてきたか知らないけど、これだけは言っておくわ。ここの存在は他言無用。守れなかった場合、文字通り命の保証はないからね」
さらりと、シキがそう言い切った。
冷たい威圧感。冗談とは思えない雰囲気。
ミユキの顔から血の気が引いた。
「……ハイ」
機械のようにコチコチの声を出すミユキ。
シキが満足そうに頷いた。
「よろしい。それじゃあ、ステージでね。期待してるわ」
ナヅキに向かってそう言うシキ。
ナヅキは変わらず、ニコニコと微笑み続けている。
ハイヒールの音と共に、シキがその場から去って行った。
「よーし、それじゃあ、今日もがんばろうかな~」
大きく伸びをするナヅキ。
どこまでものほほんとした表情を浮かべている。
がしっと、その肩を掴んで――
『どういうことなん!?』
きわめて小さな声で、ミユキが訊ねた。
涙の浮かんだ目。睨むような視線を送るミユキ。
ナヅキがにっこりと笑う。
「ここはアンダーグラウンドファイト。そうだねー、分かりやすく説明すると、裏世界の闘技場って所かな~」
『う、裏世界ッ!?』
「そうそう。やってる事はヴァンガードファイトなんだけど、お金とかレアカードとかを賭けてるんだよ~。私もよく知らないけど、噂だとここを仕切ってるのはどこかの非合法組織なんだってさ~」
世間話のような軽い口調。
ミユキがあんぐりと、口を開けた。
ナヅキが手を握り合わせる。
「色々なイベントがあって、とっても刺激的なんだよ~。所属してるファイターも、表に出られないような訳アリの人が多くてー、他とは一味も二味も違うんだ~」
ウキウキとした表情のナヅキ。
自らの胸に手を当てて――
「それで、今日は私の試合の日なんだよね~。だから、ミユキちゃんにも見てもらおうかなーって思って、案内しちゃった☆」
そう、ナヅキが言い放った。
気まぐれな妖精のような振る舞い。無思慮な計画。
へなへなと、ミユキがその場にしゃがみこんだ。
「……終わりや」
全てに絶望したような声。
ミユキが暗い表情でうつむく。
ナヅキがぽんぽんと、優しくその肩を叩いた。
「大丈夫だよ~。ここにいる人達、基本的には会員の人だけだから~。ミユキちゃんがここにいる事は、誰も分からないよ~」
『そういう問題やないわ!! てか、思いっきりブラックな世界やん!! あんたなんで、こんな所を知って――』
ミユキがさらなる質問をしようとした瞬間。
ボーンという低い時計の音が、辺りに鳴り響いた。
ざわめくラウンジ。人々が立ち上がり、歩き出す。
「あっ、時間だ~」
口元に指を当てるナヅキ。
にっこりと微笑むと、ミユキに向かって手を振る。
「私、そろそろ出番だから~。また後でね、ミユキちゃんー。あっ、観客席はそこの扉から行けるからね~」
人々が出て行く扉を示すナヅキ。
歌を口ずさみながら、ナヅキがその場から立ち去った。
一人、ミユキだけがその場に取り残される。
薄暗闇の広間、危険な裏社会の空気。
道行く人々が訝しむような視線を向けていく。
泣きそうな表情を浮かべて――
「故郷(クニ)に帰りたいよぉ……」
ミユキが、きわめて悲愴な雰囲気でそう呟いた。
漆黒の闇が、辺りに広がっていた。
淡い照明によって浮かび上がった世界。暗い場所。
静かなざわめきが波のように広がり、脈打っていく。
白い光が闇を切り裂いて――
『――皆様、お待たせいたしました』
マイクを通した美しい声が、会場の中に響きわたった。
はたと黙り込む観客達。視線が声の主へと向けられる。
ファイトテーブルの前、両手を広げて――
『ようこそ、アンダーグラウンドファイトへ!!』
露出の多いドレスを着た妖艶な美女――
水無瀬シキが、高らかにそう言い放った。
観客席が、大きな盛り上がりを見せる。
シキが妖しく微笑んで――
『それでは、本日のファイターを紹介します!!』
観客に呼びかけるように、インカムに向けて叫んだ。
拍手と歓声、床を叩く足音。熱気が渦巻いていく。
さっと、シキが右手をあげた。
『闇の世界に降り立った女子高生!! その可憐な身体に秘められた、壮絶なる地獄の焔!! 今宵もまた、激しい炎を見せつけてくれるかー!?』
盛り上げるような口調。
コツコツという革靴の音が響く。
白い光に照らされて――
『"紅蓮の太陽姫"、朔導ナヅキーッ!!』
朔導ナヅキが、暗闇から現れた。
ニコニコとした笑顔。高校の制服姿。
両手をあげて――
「みんなーッ!! 燃える準備はできてるかなーッ!?」
ナヅキが、観客に向かって大きく呼びかけた。
凄まじい歓声。楽しそうに手を振っているナヅキ。
シキが左手をあげる。
『対するは、同じく高校生ながらも自らアパレル会社を経営する天才少女! その卓越したセンスと辣腕は、ファイトの世界でも発揮されるかー!?』
闇の中に轟く声。
反対側の暗闇より、靴音が響く。
白い光が降り落ちて――
『"壮麗なる舞踏者"、鶴見(つるみ)サヤーッ!!』
ウェーブがかった金髪の少女が、光の中に現れた。
その顔に浮かぶ不敵な笑み。シックな黒いドレス姿。
右手を伸ばして――
「ハーイ、凡人達ー! サヤを待ってたかしらー!」
少女――鶴見サヤが、そう訊ねた。
見下したような視線に、生意気そうな雰囲気。
観客席が、さらなる盛り上がりを見せる。
「う、うわぁ……」
引いたように呟くミユキ。
周りで騒ぐ観客達を見て、委縮したように背を丸める。
ファイトテーブルの前、2人が向かい合った。
『間もなく対戦が始まります!! 紳士淑女の皆様、ぜひともファイトの行く末に自らの栄華をお賭け下さい!!』
盛り立てるように叫ぶサヤ。
スクリーンに2人の顔写真とオッズが表示された。
観客達の興奮が、熱気となって闇の世界を渦巻く。
「よろしくお願いしまーす!!」
ニコニコしながら頭を下げるナヅキ。
サヤがフッと、小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ふぅーん。オッズ的には、あんたが微有利なんだ?」
スクリーンを見ながら話すサヤ。
にっと、その口元に不敵な笑みを浮かべる。
「まっ、ほぼ差はないけどね~。それにビジュアルだけで言うなら、このサヤ様の方が圧倒的に上回ってるわ!」
自信満々な口調。
さっと、金色の髪をかきあげる。
美しい黄金色の瞳を向けて――
「凡人との格の違い、見せつけてあげるわ! 雑魚は雑魚らしく、井戸の中に返してあげるんだから! 光栄に思いなさいよね!」
サヤが、敵意を剥き出しにそう言い放った。
不敵な表情。静かな威圧感を醸し出しているサヤ。
「んー??」
口元に指を当てるナヅキ。
不思議そうに首をかしげて――
「井戸の中にいるのって、雑魚さんじゃなくてカエルさんじゃないですかぁ?」
どこまでも無邪気に、ナヅキがそう訊ねた。
ぴしっと、凍りつく空気。サヤの動きが固まる。
微妙な沈黙が、2人の間に流れた。
「……ちょっと、よしなさいよ」
小声でたしなめるシキ。
ナヅキが「えー? でもー」と子供っぽく言う。
ぷるぷると身体を震わせながら――
「――ぶっ潰すッ!!」
顔を真っ赤にしながら、サヤが大きくそう告げた。
溢れ出る殺気。凄まじい迫力で睨んでいるサヤ。
影の蜘蛛が描かれたスリーブのカードを、目の前に置く。
「わぁ、やる気だねー、サヤちゃん。嬉しいな~」
両手を合わせて喜んでいるナヅキ。
うきうきとした雰囲気のまま、カードを並べていく。
炎を模した紋章のスリーブに入ったカードを置いて――
「一緒に楽しもうね、サヤちゃん! ケロケロ☆」
ナヅキが、可愛らしく桃色の舌を出した。
無邪気な振舞い。観客席から小さな笑いが起こる。
空気が重く、張りつめて――
『いよいよ時間となりました!!』
シキが、マイクに向かって叫んだ。
ぴたりと静まり返る会場。空気が張り詰めていく。
向かい合う少女達が、カードを掴んだ。
『それではッ!!』
暗い世界に響く声。
光に向かって、腕を振り上げて――
『アンダーグラウンドファイト、開幕ですッ!!』
高らかな宣告が、沈黙を切り裂いた。
混じり合う視線と殺気。歓声に揺れる会場。
カードが翻って――
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
互いの分身が、光の下で表になった。