カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond 作:バビロン@VG
穏やかな日差しが降り注ぎ、辺りを明るく照らした。
喧騒にまみれた雑踏。日常の風景。
天に浮かぶ太陽が、人々を見守っている。
コツコツと、靴音をたてて――
「……うん、ここだね」
一人の少女が、道の途中で立ち止まった。
オシャレな看板。シックな雰囲気のバー店の前。
黒いショートカットの髪の少女が、にこやかに微笑む。
リボンのついた高校の制服に、地味なメイク。
おっとりとした雰囲気に、たれ気味な目。
どこにでもいるような風貌の少女が、ガラスに映る。
「お昼の時間ぴったり。中で気配もする。順調、順調」
確認するかのように呟く少女。
スマホをしまうと、手を使って前髪を整える。
準備中の札がかけられた扉のノブを掴んで――
カランカランという鈴の音と共に、扉が開いた。
「んっ?」
訝し気な声。
店内にたむろするスーツ姿の青年達の視線が集まる。
黒髪の少女が後ろ手に、扉を閉めた。
「こんにちは」
穏やかな口調。微笑んでいる少女。
店内がかすかにざわめき、どよめいた。
すっくと、一人の青年が立ち上がる。
「よぅ。悪いが今は準備中なんだ。営業時間は夜からでね」
営業用の笑顔を浮かべ、そう告げる青年。
どこかうっとうしそうに、少女の姿を見つめる。
黒髪の少女が微笑んだまま、店内へと足を進めた。
「おいおい……」
呆れたような声。
店内のざわめきがさらに大きくなる。
カウンター席に、黒髪の少女がちょこんと座った。
にこにこと、笑みを浮かべ続けている少女。
先程の青年が近づき、ため息をついた。
「お嬢ちゃん、もう一度言うが今は営業前なんだ。その制服、近くの高校のだろ? サボるんだったら別の店に行きな」
イラつきの滲み出た声。
どこか凄むような口調で、青年が諭す。
少女が、くすりと笑って――
「いいえ。用事があるのは、ここなんです」
唄うような声色で、そう告げた。
ゆっくりと、少女が鞄の中に手を入れる。
困惑する雰囲気の中、少女がデッキケースを取り出した。
「私と、ファイトしてくれませんか?」
静かにそう訊ねる黒髪の少女。
ざわめく空気。ひそひそとした囁き声。
青年が気だるそうに、首を鳴らした。
「……お前、何者だ?」
殺気を放ちながら口を開く青年。
険しい表情を浮かべ、少女の事を睨みつける。
黒髪の少女が青年に向き直った。
「大した者ではありません。とある人に依頼されて来たんです。私自身は、どこにでもいるような存在です」
自らの胸に手を当てる少女。
青年を見上げながら、和やかに喋り続ける。
うっすらと、その目を細めながら――
「そう、普通の人なんですよ。私は」
黒髪の少女が、不敵に微笑んだ。
VANGUARD
BraveBeyond
チャイムの音が、高らかに響き渡った。
お昼休みの教室。騒がしい雰囲気。
他愛もないお喋りの声が、青春を彩っていく。
訪れたしばしの憩いの時間、その最中で――
「はぁぁぁー……」
暗黒に満ちた息を、天神宮ミユキが吐き出した。
疲れ切った表情。ぐったりとしているミユキ。
クラスメイトが、不思議そうな目を向ける。
「ミユキちゃん、元気ないねー。ホームシック?」
「どうなんだろうね~、朝からこんな調子だし。ギャグだとしたら、めっちゃキレいいけど」
のんびりと話すクラスメイト。
がばっと、ミユキが勢いよく顔をあげた。
「ボケちゃうわーッ!!」
泣きそうになりながら答えるミユキ。
クラスメイトが「きゃー!」と手を握り合わせた。
「やば、本場のツッコミだ! 私初めてだよ~!」
はしゃいでいる2人。
きゃぴきゃぴとした空気が辺りに流れる。
こてんと、ミユキが机に突っ伏した。
「あぁ、もう、どうでもええわ……。うち、これから死ぬから……」
悲愴な声色。暗いオーラを纏っているミユキ。
クラスメイト2人が不思議そうにその姿を見つめた。
「ちょ、ミユキちゃん、やば。どうしたの急に。昨日と比べて面白すぎるんだけど」
「今日はまだ滑ってないのにね~。それとも、これが新しいギャグ? ツッコミ待ちだったりする?」
好き放題言っているクラスメイト。
あれこれと、ミユキの思惑を想像しようとする。
心の中で――
(うち、終わったかもしらん……)
ミユキが嘆くようにそう呟いた。
「うぅぅ……」と唸るミユキ。両手で頭を抱える。
昨日の出来事が、ミユキの脳内に蘇った。
『ようこそ! アンダーグラウンドファイトへー!!』
きらきらとした満面の笑み。
嬉しそうに話すナヅキの姿が現れる。
『そうだねー、分かりやすく説明すると、裏世界の闘技場って感じかな~』
『仕切ってるのはどこかの非合法組織なんだよ~』
『今日、私の試合の日なんだよね~。だから、案内しちゃった☆』
悪びれた様子もなく言うナヅキ。
ニコニコとした笑顔。どこまでも無邪気な雰囲気。
気まぐれな妖精のような振る舞いを思い返して――
(ほんま、なにしてくれてんねんあのド天然女ァーッ!!)
ミユキの心に、怒りの炎が燃え上がった。
突如として放り込まれた裏世界。暗闇の空間。
ぐっと、ミユキが拳を握りしめる。
(うちはもっと、地味で平凡な女子高生として過ごす予定やったのにー!! それを、あんな訳わからん事に巻き込まれるなんてー!!)
激しくイラついているミユキ。
その脳内に、ナヅキの姿が再び現れた。
『ごめんケロ☆』
てへっとした様子で舌を出している想像のナヅキ。
ぶんぶんと、ミユキが首を振ってその姿を追い出した。
「ぐぬぬぬ……!!」
怒り心頭な様子のミユキ。
涙目になりながら、必死に頭を働かせる。
(ともかく!! この状況は早くなんとかせんと!! 裏の闘技場といい、あのコインといい、このままだと話しがどんどんややこしく――!!)
逡巡する思考。
ミユキがそう思い至った瞬間。
教室の外、中庭の方から歓声が上がった。
「……ん?」
気の抜けた声を出すミユキ。
顔をあげると、声のした方へと視線を向ける。
「なに、昨日に続いて連続なの? 本当にバカばっかね~」
呆れたように話すクラスメイト。
いかにも興味なさそうに、スマホを見ている。
もう一人のクラスメイトが首をかしげた。
「あれ? でも、なんかいつもと雰囲気違くない? 盛り上がってるっていうか……どよめいてない?」
冷静に指摘するクラスメイト。
もう一人のクラスメイトが「うん?」と言葉を返した。
中庭からは、ざわめくような声が上がっている。
「……もぅ、今日は何事よ?」
席から立ち上がるミユキ。
ぶつぶつ言いながら、窓に向かって歩く。
窓枠に手をかけ、身を乗り出した所で――
「……へっ?」
ミユキの口から、驚きの声が漏れた。
目を見開くミユキ。下に広がる中庭へと視線を向ける。
どよめく生徒達、その中央で――
「ようやく、見つけたわよ!!」
気の強そうな声が、鋭く響き渡った。
金色のウェーブがかった髪に、整った顔立ち。
いかにも不機嫌そうな表情を浮かべて――
「このサヤ様から隠れられると思ったのかしら!!」
金髪の少女――鶴見サヤが、そう言い放った。
ミユキたちと同じ制服姿。気の強そうな雰囲気。
一瞬、ぽかんとした表情を浮かべて――
「あー、サヤちゃんだ~」
桃色の髪の少女――朔導ナヅキが、ぽやぽやと答えた。
ベンチに座っているナヅキ。不思議そうな表情。
サヤが腰に手を当て、指を伸ばした。
「ちょっと、ちゃん付けしないでよ! あたし、あなたの先輩なのよ!」
指摘するような口調。
サヤがいかにも偉そうにそう話す。
ナヅキがにっこりと微笑み、立ち上がった。
「はーい、分かりましたー。サヤちゃん先輩~」
ゆるゆるとした口振り。
ナヅキが可愛らしく、その手を振る。
ますます、サヤの表情が不機嫌になっていく。
「えぇ、嘘……。あれって、鶴見先輩……?」
ミユキの横、身体を乗り出しているクラスメイト。
別のクラスメイトがその横から顔を出す。
「本当だ~、噂の社長やってる先輩だ~。普段は仕事とか何とかで、学校こないのにね~」
「てか、どういう事。朔導さんと知り合いって事? それともまさか、朔導チャレンジ……?」
お喋りしている2人。
ミユキだけが、ナヅキとサヤの因縁を理解している。
ナヅキが小さく、首をかしげた。
「それで、サヤちゃん先輩どうしたんですかー? ひょっとして、先輩も私と腕相撲したいんですー?」
楽しそうに訊ねるナヅキ。
サヤが「はぁ?」と声を荒げた。
「なに訳わかんない事言ってるの? 用事なんて、そんなの決まってるでしょ!」
力強く言い切るサヤ。
ナヅキが不思議そうに頬に指をあてる。
鋭い視線を向けて――
「ちょっと、顔貸しなさい!」
サヤが、真剣な表情でそう言い放った。