カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond 作:バビロン@VG
紅葉が咲き乱れ、赤い色が散らばっていった。
風に吹かれ落ちていく赤い葉。雅な雰囲気。
冷たい水のような静けさが、辺りを漂っていく。
――ドラゴンエンパイア。
惑星クレイにおける巨大国家の1つ。
偉大なる竜の帝王が統べる、紅の軍事国家。
果てなき闘争が渦巻く、苛酷な大地。
燃え上がる赤い炎が生命を彩り、
数多の雄叫びが戦場を彩っていく。
焔が舞い上がり、視界が真っ赤に染まって――
巨大な爆発音が炸裂し、地面が大きく揺れた。
「かかれーッ!!」
鎧を着た竜人が、剣を片手に叫び声をあげる。
怒号のような轟音と共に、空を竜の影が埋め尽くした。
竜の群れが突き進む先、厳かな古城の中で――
「…………」
一人の悪魔が、退屈そうな目を眼下に向けた。
青白い美しい肌。露出の多いドレス。
蝙蝠のような翼が、その背中からは伸びている。
「……はぁ」
ため息のような声。
凄まじい怒声と殺気が、悪魔の方へと迫りくる。
すっと、悪魔がその手を伸ばして――
再び、凄まじい爆発音が辺りに響き渡った。
壮絶なる魔力の衝撃。辺りが一瞬、白く塗り潰される。
悲鳴が上がり、竜の群れが墜落する中で――
「警告したはずだけど」
凍りつくような響き。
古城の中より、ゆっくりとその姿を現す悪魔。
漆黒の殺意をその身に纏いながら――
「私と戦う気なら、殺すって」
悪魔が、冷たい瞳を竜達へと向けた。
凄まじいまでの迫力。尋常ならざる気配。
凄惨たる死の気配が、色濃く戦場を覆っていく。
「うっ……!!」
陣頭指揮を取っていた竜人が、
怯んだように僅かに身じろいだ。
竜と悪魔が互いに睨み合い、そして――
「い、いけーッ!! 我らが王立直属部隊の実力を、見せつけるのだーッ!!」
竜人が、振り絞るようにそう叫び声をあげた。
雄叫びと共に、竜の群れが再び突撃を始めていく。
灰色の大地が震動するのを感じながら――
「……ウザいのよ、トカゲ共が」
心底、軽蔑したように。
悪魔がそう呟いて、その腕を宙にかざした。
紅葉が落ちて、赤い色が空気を染め上げていく。
沈みゆく太陽。暗い夜が地平線の向こうから現れる。
時が流れ、そして――
「がはッ!!」
一人の竜人が、石造りの床に勢いよく叩きつけられた。
砕け散った鎧に、傷ついた身体。薄汚れた顔。
その目にありありと、絶望の色が浮かんだ。
「そ、そんな……バカな……ッ!!」
床に這いつくばっている竜人。
ぜいぜいと荒く息を切らす。
「わ、我が部隊が……ッ!! 来るべき破壊の竜神との戦いにおいて、軍の一翼を担うであろうと評価された精鋭が……ッ!! 全滅……ッ!?」
うわごとのように話す竜人。
暗闇の向こうより、コツコツという足音が響く。
漆黒の殺気を纏いながら――
「あんたで最後?」
そっけなく、何の感情もこもっていない声で。
悪魔が静かに現れ、竜人を見下ろした。
無慈悲な瞳が、闇に浮かぶ。
「あっ、あぁぁ……!!」
その口から溢れる情けない声。
竜人が震えながらその身を縮め、すくみあがった。
震える指を伸ばして――
「ま、"魔王"……ッ!!」
悪魔を見上げ、竜人がそう口にした。
刹那、魔力が凝縮する鋭い音がして――
小さな破裂音が、古城の中に響き渡った。
「…………」
不機嫌そうな表情の青白い肌の悪魔。
目の前の床に染み付いた"焦げ"を睨みつける。
「……その呼ばれ方、好きじゃないの」
怒りを滲ませながらそう口にする悪魔。
一人きりの古城に、その言葉が消えていく。
妖しげな月夜を、静寂だけが彩っていった。
「……はぁ」
果てしなく広がる漆黒の空。星々の祈り。
寂れた古城のバルコニーで、悪魔が一人佇む。
冷たい風が吹き、そして――
「……燃えないなぁ」
桃色の髪を揺らしながら、悪魔が小さくそう呟いた。
VANGUARD
BraveBeyond
爽やかな青い空に、チャイムの音が響いていった。
がやがやとした騒がしい雰囲気。賑やかな光景。
制服を着た生徒達が、お喋りしながら廊下を歩いていく。
太陽の光が優しく降り注ぎ、そして――
「ユージンでアタック!」
「ぎゃーッ!?」
情けない悲鳴が、辺りの喧騒を切り裂いた。
戦場を駆ける赤い炎。熱風が吹き荒れる。
黒い獣が悲鳴のような声をあげて――
1枚のカードがめくられ、表になった。
惨烈の獣魔王 オセラジェスト
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ダークステイツ - デーモン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札から、このユニットと同名のカードを1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルし、そのターン中、このユニットのパワー+10000。
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【エネルギーブラスト】(4)]することで、あなたのソウルからグレード3以下を1枚選び、(R)にコールし、そのターン中、このユニットのパワー+10000。(【エネルギーブラスト】はエネルギーを4つ消費することで払える!)
― その影から闇が生まれ、拭い去れぬ絶望を招く。
ミユキ ダメージ5→6
「あああ!? オセラちゃんがぁぁぁ!?」
涙を流しながら頭を抱えるミユキ。
しくしくと、悲しそうに盤面を眺める。
可愛らしくピースをしながら――
「イェーイ! 大勝利ー☆」
桃色の髪の少女――朔導ナヅキが、
きゃぴきゃぴとした喜びの声をあげた。
輝く笑顔。煌めく雰囲気のナヅキ。
嬉しそうな雰囲気が、その全身から放たれている。
「あぅぅぅ……」
落ち込んだように肩を落とすミユキ。
目を潤ませながら、カードを片付ける。
柔らかな笑みを浮かべて――
「今のはちょっとだけ、燃えそうな雰囲気の欠片がありましたね~! それじゃあミユキちゃん、もう一戦お願いします~!」
ナヅキが、無邪気にそう言い放った。
涙目のミユキが勢いよく顔をあげる。
「ま、またぁ!? もう私、これで15連敗目で……!」
「大丈夫ですよ~。まだまだ、ミユキちゃんにはやれる余地があると思うんです~。一緒に燃えましょうよ~!」
ゆるゆるとした口調で話すナヅキ。
ファイトテーブルの前、ミユキが絶望した。
「そ、そんな……!!」
青くなっているミユキ。
テーブル席の方へと顔を向けて――
「さ、サヤちゃん先輩~! なんとかして下さい~!」
救けを求める情けない声が、その場に響いた。
屋上に設置された、白のテーブル席。
頬づえをつきながら――
「……まったく、うるさいわねぇ」
ウェーブがかった金髪を揺らして。
鶴見サヤが、不機嫌そうな視線を向けた。
ミユキがサヤに迫る。
「サヤちゃん先輩、助けて下さい! このままじゃ、私のオセラちゃんが顔面フルボッコに……!」
悲愴な表情で話すミユキ。イメージ上、
オセラジェストも「そうだそうだ!」と声をあげる。
にっこりと、ナヅキが微笑んだ。
「あー、そうですねぇ。サヤちゃん先輩でも私はいいですよ~。むしろ大歓迎です~!」
のほほんと話しているナヅキ。
ほんのかすかに、その身体から異様な気配が漏れ出る。
辺りの空気が張り詰め、そして――
「やらないわよ」
目を閉じながら、あっさりとサヤがそう答えた。
ナヅキがきょとんとする。
「えー? なんでですかぁー?」
どこか不満そうな声色。
サヤが肩をすくめた。
「やるわけないでしょ。あたし、目的のないファイトはしない主義なの。それに、まだあんたに勝つ算段がついた訳でもないからね」
手をひらひらとさせるサヤ。
その言葉を聞いて、ナヅキが顔を煌かせた。
「わぁ、嬉しい~! サヤちゃん先輩、まだ私を倒す気でいてくれたんですね~。そういうことなら、私いつまでも待ってますよ~!」
手を握り合わせているナヅキ。
サヤがチッと舌を鳴らす。
「言ってなさい。そのうち後悔させてあげるから」
冷たく燃える闘争心。
2人の少女が互いに睨み合った。
空気が張り詰める中、風が通り過ぎていく。
「……にしても」
視線を逸らすサヤ。
呆れたように眉をひそめながら――
「あんた、そこの凡人と戦いまくってるのはあれかしら? アンダーグラウンドファイトの対戦に選ばれない憂さ晴らしって訳?」
そう、問いかけた。
「ぼ、凡人!?」とショックを受けるミユキ。
ナヅキが、目を糸のように細める。
「やだなぁ、そんな訳ないじゃないですか~」
手を振っているナヅキ。
ニコニコと笑いながら――
「ただ、ほんのちょっと、向こうで戦えてないだけですよ~。そんな、不満だなんて~。私そういうの全然、気にしてませんから~☆」
ほんの少しだけ低い声で、ナヅキがそう答えた。
漏れ出る威圧的なオーラ。鋭い殺気。
明らかに不満そうな雰囲気を、ナヅキが漂わせる。
「め、めちゃくちゃ怒ってるじゃないですか……!」
怯えながら呟くミユキ。
サヤが指おり数える。
「最後に戦ったのが"普通の少女"だっけ。なら、2週間くらい前か」
「正確には16日前ですよ~」
即答するナヅキ。
サヤがため息をついた。
「根に持ちすぎ。あんた新参だから知らないんだろうけど、そもそもアンダーグラウンドファイトにはたくさんファイターがいるの。1ヵ月に1回しか対戦が組まれないなんて別に珍しくないわよ?」
あっさりと言い放つサヤ。
ナヅキがかすかに目を見開いた。
「1ヵ月……」
噛みしめるように口にするナヅキ。
口元に手をあてながら、真剣に考え込む。
「となると、待ってる間に軽く50回くらいはミユキちゃんと戦えるのかな……。うーん、それまでに燃えられるかなー……」
ぶつぶつと小声で計算しているナヅキ。
ミユキが「ひぃ!?」と怯えて真っ青になった。
フッと、サヤが鼻で笑う。
「まぁ、そんな待たされないと思うけどね。あんた、例のコイン持ちだし。おまけに10連勝中なんだから、心配しなくても逃がしてくれないわよ」
くすくすと笑っているサヤ。
ナヅキが「そうかなぁ……」と不安そうに呟く。
復活したミユキが、上目遣いにサヤを見つめた。
「あ、あのー。朔導さんの10連勝って、やっぱり凄い記録なんですよね……?」
おずおずと手をあげて質問するミユキ。
サヤが不服そうに頷いた。
「まぁ、そうね。一応、記録的には初じゃない?」
「ということは、今の朔導さんってアンダーグラウンドファイトでもトップの実力って事なんですか!?」
ぴくりとその言葉に反応するサヤ。
イラついたように、テーブルを指で叩く。
「可能性として否定はしない。でも、あたしの見立てだと今のアンダーグラウンドファイトで一番強いのはこいつじゃない。"雷鳴の帝王"よ」
「あぁ、この前も話に出ていた、"雷鳴の帝王"さん」
ぼんやりと言うナヅキ。
不思議そうに首をかしげる。
「私、まだ見た事がないんですよねー。どんな方なんですか~?」
「どんなって、そりゃ……」
口ごもるサヤ。
言葉を詰まらせる。
顔を逸らして――
「……強くて、いけすかない野郎よ」
吐き捨てるように、サヤがそう言い切った。
苦々しい表情。不満そうな様子のサヤ。
「えっ? サヤちゃん先輩、ひょっとして知り合いなんですか?」
何気なく訊ねるミユキ。
サヤがキッと鋭い視線を向けた。
「知る訳ないでしょ!! あんな奴!!」
怒り散らした声のサヤ。
ミユキが「ひー!」と悲鳴をあげた。
チャリンと、コインの音が響く。
「"雷鳴の帝王"さんですか。戦い続けてれば、いつかファイトできますかね~」
ぼんやりとした様子のナヅキ。
テーブルの上、赤のコインを指で弄ぶ。
サヤが呆れたように息を吐いた。
「あんたさぁ、願いの叶う伝説のコインを、おはじきみたいに扱わないでよ……」
ジト目を向けながら注意するサヤ。
ナヅキが「んー?」と生返事をする。
ミユキがその身を乗り出した。
「あ、あの、朔導さん! コインの事なんだけどさ!? 前も聞いたけど、どこで見つけたの!?」
唐突に、そう投げかけるミユキ。
サヤが腕を組んだ。
「それ、あたしも興味あるわね。この前はなんか、自宅で拾ったとか訳分かんない事言ってたけど」
疑わしそうな目を向けるサヤ。
ミユキが「えっ!? 自宅!?」と驚く。
ナヅキが頷いた。
「そうですよー。私のお家で、お友達が落としていったのを拾ったのが最初です~」
あっさり答えるナヅキ。
サヤが頬に手をあてた。
「何回聞いても意味分かんないのよ。自宅で落とし物ってのも引っかかるし。おまけにその友達は死んだんでしょ?」
「そうですよ~」
軽く話すナヅキ。
ますます、サヤの表情が険しくなった。
おそるおそる、ミユキが手を挙げる。
「あ、あの、その。朔導さんは、そのお友達とは親しかったんですか……?」
ナヅキの表情をうかがいながら、
慎重に言葉を選ぶミユキ。
ナヅキが首を振った。
「いいえ~。そもそも、その時は初対面だったのでー」
「はぁ?」
顔をしかめるサヤ。
ミユキもまた「えっ!?」と驚く。
ナヅキがその目を輝かせた。
「でもでもー、会ってから3日間くらいぶっ続けで戦ったんですよ~。今までで一番、心が熱く燃えた戦いで~。それで私としては、戦いを通してお友達になれたのかな~って思ってるんですー」
心の底から嬉しそうに話すナヅキ。
ぱぁっと、その顔が明るく煌いていく。
サヤとミユキが、揃って顔をひきつらせた。
「……サイコ?」
率直な感想を述べるサヤ。
ミユキが顔色悪くささやいた。
「あの、この話題やめませんか……?」
「同感ね。頭がおかしくなりそうだわ……」
合意に至る2人。
ナヅキはニコニコと笑顔を浮かべ続けている。
気まずい沈黙が流れ、そして――
唐突に、メッセージの着信音が響き渡った。
「あら?」
声をあげるナヅキ。
サヤとミユキがスマホを取り出した。
「あっ、アンダーグラウンドファイトからです!」
画面を見て声をあげるミユキ。
ナヅキがムスッとし、ふくれっ面になる。
「今度の対戦組み合わせの発表ですかぁ? まぁでもどうせ、今回も私の出番は――」
投げやりに言うナヅキ。
だがすぐに、ミユキがスマホを掲げて――
「朔導さん!! 選ばれてますよ!!」
そう、ナヅキの言葉を遮った。
一瞬の間。ナヅキが目を見開く。
「ふぇっ!?」
「ほら、ここ!!」
メール画面を指差すミユキ。
簡素な文章の中、書かれた単語が視界に映る。
――"紅蓮の太陽姫"。
ナヅキが息を呑み、そして――
「わーい、やったーッ!!」
歓喜の叫びを、その場に轟かせた。
活力を取り戻したナヅキが、大はしゃぎする。
「なんでこんなのが強いのかしら……」
げんなりとしながら呟くサヤ。
ミユキが「あはは……」と苦笑する。
スマホに視線を落として――
「それにしても……」
メール画面をおもむろに眺めるサヤ。
訝しそうな表情を浮かべて――
「この対戦相手……聞いたことないわね」
サヤがわずかに、その目を細めた。
そこに書かれた単語。ファイターを現す二つ名。
今回の対戦相手に選ばれた者。その名は――
――"白銀の邂逅者"。