カードファイト!! ヴァンガード BraveBeyond   作:バビロン@VG

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♯3 Cray Encounter/Ⅱ

 

深淵が蠢き、辺りを昏く飲み込んでいった。

 

広々とした薄暗い部屋。暗色系の壁紙。

飾り付けられた高級な調度品が、静かに存在感を放つ。

 

冷たい空気が、重く張り詰めて――

 

「――それで、次の対戦組み合わせは?」

 

厳かに、その声が部屋の中に響いた。

闇を捻じ曲げるような、威圧的な声色。鋭い響き。

 

初老にさしかかった程の中年の男性が、そう訊ねる。

 

大柄な体躯に、短く刈りあげられた黒髪。

獣を思わせるような鋭い眼光が、その目には宿っている。

 

スーツ姿の青年が、背筋を伸ばした。

 

「は、はい! "紅蓮の太陽姫"と、新人ファイターの組み合わせになっております!」

 

怯えた表情。

緊張したように、青年が答える。

 

男性がその目を細めた。

 

「新人ファイターだと……?」

 

吟味するように繰り返す男性。

ゆっくりと、その視線を暗がりの方へ向ける。

 

「おい、相手は"紅蓮の太陽姫"だぞ。"雷鳴の帝王"は出せないのか?」

 

室内に放たれる低い声。

青年がびくりと震え、身を強張らせる。

 

パンッと、扇の開く音が響いた。

 

「オーナーもご存知でしょう。あの男は気まぐれなんです。興が乗ってない時にぶつけても、適当に手を抜かれて終わりです」

 

ソファーに座っている妖艶な美女――水無瀬シキ。

暗闇の中、妖しげな笑みの花が咲く。

 

男性がシキを睨みつけた。

 

「そんなことは分かっている。だが、今のアンダーグラウンドファイトで"紅蓮の太陽姫"を倒せるとしたらあいつだろう。奴はなんと言ってるんだ?」

 

シキが手を広げた。

 

「興味ない、と」

 

くすくすと笑っているシキ。

男性の顔にかすかな怒りの色が宿った。

 

ゆるりと、シキがその白い手を伸ばす。

 

「とはいえ、ご懸念は理解しています。"紅蓮の太陽姫"の強さは圧倒的です。現在も連勝継続中。このままでは、我々の収益にも悪影響がでる」

 

「ならば、どうするというのだ? その新人ファイターというのはいったい何者だ?」

 

怒りの滲んだ声。凄むように男性が訊ねる。

すっと、シキがその指を伸ばした。

 

プロジェクターが起動し、一人の顔写真が表示される。

 

「……見たことないな」

 

写真を眺めながら言葉をこぼす男性。

シキが愉しそうに微笑んだ。

 

「無理もありません。この子、アンダーグラウンドファイトではまだ一度も対戦したことがありませんから」

 

「なんだと……?」

 

いささか困惑したような響き。

男性が訝しむようにシキの方を見る。

 

シキが扇で口元を隠した。

 

「登録されたのはつい数日前。企業を通してのエントリーです。ところが、調べたところその企業は実体のない幽霊会社。つまり、偽装でした」

 

「不正な登録という事か?」

 

「その通りです」

 

軽々しく答えるシキ。

男性がとんとんと、指で机を叩いた。

 

「他組織の刺客の可能性は?」

 

「ありません。素性を洗いましたが、この子自体は完全に一般人です。少なくとも、他組織や裏社会との繋がりはありません」

 

男性が眉をひそめた。

 

「シキ、言っている事が矛盾しているぞ。一般人がうちに偽装してエントリーするはずがないだろう。いったい何が言いたいんだ?」

 

イラついたような表情。

鋭い視線を向けている男性。

 

シキが妖艶に微笑んだ。

 

「単純な話です。これは私達ではなく"紅蓮の太陽姫"を狙った潜入工作です。だから、裏社会と繋がりのない人物が送り込まれた。そして、この子の背後には黒幕がいる」

 

「黒幕だと? 何が目的だ?」

 

「相手は"紅蓮の太陽姫"を対戦相手に指名しています。となれば、その理由は明白でしょう?」

 

問いかけるシキ。

男性がわずかな間の後、唸るような声を上げた。

 

「コインか……」

 

忌々しそうな響き。

男性が嫌悪感を示すように視線をそらす。

 

シキがくすくすと笑い声をこぼした。

 

「正体不明の黒幕。そしてそれが送り込んできた少女。実に面白そうじゃありませんか。今回の対戦相手にぴったりかと」

 

「おいおい、正気か?」

 

「もちろんです。それに、私達はコインについて何も知りません。わざわざこんな工作をして潜り込んでくるという事は、相手はコインについて何か知っているという事です」

 

流れるように語るシキ。

その身体に、暗い闇が纏わりつく。

 

「願いが叶うコイン。裏社会に囁かれる闇の噂。心震えると思いません? 黒幕が何を考えているにしろ、探りを入れる価値はあるかと」

 

「…………」

 

重苦しい沈黙。

心臓が押し潰されるような緊張感が、辺りに漂った。

 

「……相変わらず危険な女だ。まぁいい、好きにしろ」

 

諦めたように頷く男性。

シキが立ち上がると、深々と頭を下げた。

 

「感謝します、鷹合オーナー」

 

その口元に微笑みを浮かべているシキ。

男性――鷹合(たかあい)マサムネがフンと応えた。

 

「心にもない礼を。なんにせよ、仕切りは任せるぞ」

 

「えぇ、もちろん。最高の盛り上がりをお約束します」

 

自信満々に言い切るシキ。

ソファーに座り直すと、機嫌よく脚を組む。

 

目の前に立つ青年に向かって、シキが笑いかけた。

 

「それじゃあ、後はよろしくね」

 

「は、はい!!」

 

スーツを着た青年が背筋を伸ばす。

慌ただしく、部屋から出て行く青年。足音が遠ざかる。

 

昏い闇と沈黙が、辺りを飲み込んだ。

 

「それで」

 

手を組み、肘をついているマサムネ。

いかにも厳かな様子で、口を開く。

 

「お前はどっちが勝つと思うんだ? "紅蓮の太陽姫"と、この……」

 

言いよどむマサムネ。

シキが扇を揺らがせた。

 

「さぁ? 未来は誰にも分かりませんから。コインを投げて、それが表になるか裏になるかなんて、誰も知らないでしょう?」

 

面白がるように話すシキ。

人を喰ったように、微笑みながら目を細める。

 

果てしない闇を見つめながら――

 

「ただ、私は見たいだけですよ。強者同士による、魂を奪い合うような戦いを」

 

薄暗闇の中に、シキの妖しげな言葉が響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピコンと音を立て、スマホにメッセージが届いた。

 

スマホを取り出す数多の手。

簡素な件名と共に、無機質な文章が表示される。

 

『アンダーグラウンドファイトからのお知らせです。次の対戦組み合わせが決定いたしました。今回は"紅蓮の太陽姫"と"白銀の邂逅者"の対戦となります。皆様、ぜひとも勝敗の行く末に自らの栄華をお賭け下さい』

 

人々の口元に、わずかな笑みが浮かんでいった。

かすかな興奮と策略。陰謀が渦巻いていく。

 

日常の光景を、闇が塗りつぶして――

 

薄暗闇に沈むエントランスが、目の前に現れた。

 

「……えぇ、本当に」

 

「やはり……」

 

ひそひそとした声が静かに響き、消えていく。

フォーマルな格好の紳士淑女。絞られた照明の光。

 

深淵が蠢く中で、人々が互いに言葉を交わしていく。

 

煌びやかな言葉の裏に潜む劇毒。

本心をひた隠した、欺瞞に満ちたやり取り。

 

人々の心に欲望が渦巻き、そして――

 

「はぁ……。また、来てしまった……」

 

高校の制服を着た女生徒――

天神宮ミユキが、小さくそう呟いた。

 

憂うような表情。がっくりと肩を落としているミユキ。

 

ふんと、鶴見サヤが腕を組んだ。

 

「いい加減慣れなさいよ。言っておくけど、あんた順調にこっち側の住人になりつつあるわよ」

 

指摘するサヤ。

ミユキがガーンとショックを受けた。

 

「うぅぅぅ……!!」

 

涙を流しながら頭を抱えているミユキ。

サヤが呆れたように、その姿を見つめた。

 

暗闇の中に、人々が囁く声だけが響いていく。

 

「……あのぅ、サヤちゃん先輩?」

 

「なによ?」

 

「その、今回の対戦相手って――」

 

ミユキが言いかけた瞬間。

さっと、サヤが手を前に出して言葉を制した。

 

「悪いけど、あたしも全ファイターを知ってる訳じゃないから。それに、今回ばかりはあたしに限らず誰も知らないはずよ」

 

「えっ?」

 

顔をあげるミユキ。

不思議そうに、サヤの事を見つめる。

 

サヤが片手を振った。

 

「だって、初参加みたいだもん、"白銀の邂逅者"。今回がデビュー戦よ」

 

「えっ、ええぇぇ!?」

 

思わず驚くミユキ。

辺りの視線が集まり、サヤが眉をひそめた。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

小声で言い、頭を下げるミユキ。

興味を失ったかのように、視線が逸れていく。

 

サヤが呆れた目を向けた。

 

「誰にだって初陣はあるでしょ。そんなに驚く事?」

 

「そ、それはそうですけど。でも、朔導さんって今連勝中なんですよね? なのにその対戦相手に新人が当てられるって、なんか変だなって……」

 

もじもじと指を動かすミユキ。

「ふーん」と、サヤが感心したような声を出した。

 

「案外鋭いわね。確かに普通に考えたら妙なマッチングよ。だけど忘れてない? あいつはコインを持ってるのよ」

 

ミユキがハッとなる。

 

「えっ、それって、つまり!?」

 

「そういうこと。多分、コイン目当てでどこかの誰かがねじ込んできたファイターって事でしょ。そうでもなきゃ、新人とあいつは戦えないわよ」

 

あっさりと言い切るサヤ。

周りに集まる紳士淑女に視線を向ける。

 

「他の連中もそれを分かってる。だから、今日はいつもより人が多いのよ。コインの噂の真実が明らかになるかもしれないから」

 

「コインの……真実……!!」

 

ごくりと唾を飲み込むミユキ。

緊張したように、目を丸くする。

 

ボーンという低い時計の音が、辺りに鳴り響いた。

 

囁き声が一瞬止まり、人々が扉の方へと歩いていく。

 

「時間ね」

 

短く言うサヤ。

ミユキが「ううぅ」と不安そうに唸った。

 

「コインを狙う相手だなんて……朔導さん、大丈夫かな……?」

 

心配そうな口調。

ミユキが顔を伏せながら歩き出す。

 

闇がその姿を飲み込むように動いて――

 

暗闇の中、不意に現れた背中に

ミユキが正面からぶつかった。

 

「きゃっ」

 

小さな悲鳴を漏らすミユキ。

サヤが振り返る。

 

「ちょっと、なにしてんのよ?」

 

「あっ、えっと、その……」

 

言葉を詰まらせるミユキ。

おそるおそる、ぶつかった人物を見つめる。

 

コツンと、ローファーの音が響いて――

 

「……失礼、怪我はないかしら?」

 

振り返った人物――乱れた黒髪を後ろに流した、

眼鏡をかけた女性が静かにそう訊ねた。

 

その左目の辺りには、大きな傷跡がついている。

 

「あっ、ご、ごめんなさい! 私、その……!」

 

慌てているミユキ。

女性が無言のまま、その姿を見つめた。

 

「……ふむ」

 

ささやくような声。

白く濁った左目が、ミユキの姿を捉える。

 

暗闇が深まりを見せ、そして――

 

「……それでは」

 

そっけない口調で、女性がそう告げた。

背を向ける女性。そのまま、扉の先へと消えていく。

 

サヤが肩をすくめた。

 

「なにしてんのよ。他の人に迷惑かけないでよね」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

しょんぼりとしているミユキ。

そのまま2人が、観客席へと進んでいった。

 

薄暗い会場。熱気が渦巻いて――

 

「あら、もう始まるみたいね」

 

ぽつりと、サヤがそう口にした。

闘技場の中央。闇に覆われたファイトテーブル。

 

白い光が天井から降り落ちて――

 

『――皆様、お待たせいたしました』

 

暗闇を引き裂く光の中、

水無瀬シキが妖艶な笑みを浮かべた。

 

『ようこそ、アンダーグラウンドファイトへ!!』

 

腕を天へと伸ばすシキ。

闇の中より、爆発するような歓声が響いた。

 

いつにも増して、会場は興奮に包まれてる。

 

期待と羨望、そして欲望。

あらゆる感情が蠢き、混じり合う中で――

 

『それでは、本日のファイターを紹介します!!』

 

シキの声が、暗闇に響き渡った。

手を叩き、喜ぶ観客達。会場が揺れていく。

 

「いよいよね」

 

観客席に座るサヤ。

その隣りに、ミユキもまた腰を下ろした。

 

「うぅ、いったいどんな人が……」

 

緊張した様子のミユキ。

暗がりの中、その目をこらす。

 

シキが右手をあげた。

 

『闇に舞う戦慄の焔!! その実力はまさに煉獄からの使者!! 今宵もまた、対戦相手に地獄を見せていくのか!! 赤きコインを持つ少女!!』

 

期待に満ちた目。

暗がりの中、革靴の音が響いて――

 

『"紅蓮の太陽姫"、朔導ナヅキーッ!!』

 

光の中、桃色の髪の少女が現れた。

穏やかな笑みを浮かべている少女――ナヅキ。

 

ばっと、その両手を広げる。

 

「みんなーッ!! 燃える準備はできてるかなーッ!?」

 

大きく呼びかけるナヅキ。

観客席から激しい歓声と罵声が鳴り響いていった。

 

その場を渦巻く熱気が、一気に上がっていく。

 

「相変わらず人気だこと……」

 

嫌味ったらしく呟くサヤ。

観客に向けて手を振っているナヅキを見つめる。

 

シキが左手をあげた。

 

『対するは――』

 

そうシキが言いかけた瞬間。

会場を照らすスポットライトの光が、音もなく消えた。

 

一瞬にして、会場が暗闇に包まれる。

 

「えっ、なに、停電!?」

 

声をあげるミユキ。

観客席がざわめいていく。

 

暗闇の中に――

 

「ニャーッハッハッハーッ!!」

 

高らかな笑い声が、唐突に響き渡った。

スポットライトが復活し、観客席の一角に当てられる。

 

白い光の中に、一人の少女の姿が浮かび上がった。

 

透き通るような白い色の髪に、赤いリボン。

白を基調とした服装。不敵な笑み。

 

ポニーテールにした髪を揺らしながら――

 

「――弱きを助け、悪を討つ!! 私こそが太陽の勇者!! その生まれ変わり!! 正義のヒーロー、ここに見参です!!」

 

白い髪の少女が、大きくそう言い放った。

ばっと、その場で珍妙なポーズを決める少女。

 

観客達が、大いに困惑していく。

 

「……なに、あれ?」

 

少女を指差すミユキ。

サヤは唖然として、言葉を失っている。

 

たっぷりとポーズを決めた後――

 

「……あっ、もう大丈夫です」

 

少女がそう呼びかけ、ポーズを解いた。

瞬く光。スポットライトが再び中央を照らす。

 

薄暗闇の中、いそいそと少女が観客席から降りていった。

 

ざわめきの嵐。少女の歩く音が響いていく。

ナヅキの前、白髪の少女が向かい立った。

 

「あのあの、どうでしたか、司会のお姉さん……? リハーサル通りにできましたか……?」

 

どこか不安そうに、感想を求める少女。

シキがその目を細めた。

 

「……まぁ、そうね。最初はあんなものじゃないかしら」

 

腕を組みながらコメントするシキ。

少女がホッと息を吐いた。

 

「よ、良かった……」

 

控えめに言葉を漏らす少女。

胸を手で押さえながら、顔をあげる。

 

ナヅキの方に向き直って――

 

「お待たせしました!! 改めまして、私こそが太陽の勇者!! その生まれ変わり!! プロのヒーローです!!」

 

少女が力強く、そう言い放った。

先程までとはうってかわった、自信に満ちた表情。

 

辺りを、混沌とした空気が渦巻いていく。

 

「うん~?」

 

不思議そうに首をかしげるナヅキ。

訝しむような目で、頬に手を当てる。

 

びしっと、少女がナヅキを指差した。

 

「ようやく会えましたね、悪の魔王さん!!」

 

大きく言い放つ少女。

ナヅキがぴくりとその言葉に反応した。

 

「……魔王?」

 

「その通りです!!」

 

力強く断言する少女。

ばっと、両手を大きく広げる。

 

「風の噂で聞いたんです!! 悪の巣窟であるアンダーグラウンドファイトに君臨する、邪智暴虐なるピンクの魔王!! その存在を!!」

 

ババーンと言い切る少女。

ナヅキとシキが、揃って眉をひそめた。

 

「悪の巣窟……?」

 

納得できなさそうに呟くシキ。

ナヅキもまた、渋い表情になる。

 

「……その呼ばれ方、好きじゃないんだけどなぁ~」

 

ぼそりと呟くナヅキ。

目の前の少女を、ぼんやりと眺める。

 

少女が拳を握りしめ、突き上げた。

 

「魔王退治は勇者の使命!! だからこそ私が来たんです!! 絶対正義、偉大なる太陽の勇者である私が!! 必ずや魔王を討ち倒し、そして――」

 

言葉を切る少女。

すっと、ポケットに手を入れる。

 

スポットライトの光が反射して――

 

「――あなたの持つ赤のコイン、貰い受けます!!」

 

少女の手の中で、銀色のコインが輝きを見せた。

 

「!!」

 

息を呑む音。大きな衝撃。

ざわめきが起こり、会場内を揺らした。

 

闇が深まり、空気が重く沈んでいく。

 

「……ふぅーん」

 

目を見張るナヅキ。

じっと、少女の持つ銀のコインを見つめる。

 

漆黒が這い上がって――

 

「ちょっとだけ、やる気出てきたかな」

 

ぼそりと、ナヅキがそう口にした。

溢れ出る威圧感。異様な雰囲気を漂わすナヅキ。

 

どよめきが大きく、その場に広がっていった。

 

「コインの所有者……!?」

 

まじまじと少女を見つめるシキ。

隠し切れない興奮が、その瞳に宿る。

 

白い光が瞬き、そして――

 

『ついにこの時がきましたーッ!! 願いを叶える伝説のコイン!! その所有者同士による対決ッ!! 運命の決戦の始まりですーッ!!』

 

インカムに向けて、シキが叫びたてた。

巻き起こる爆発するような歓声。壮絶なる音の嵐。

 

地鳴りが轟き、凄まじい熱気が辺りを飲み込んだ。

 

「わわわわ……!?」

 

歓声にけおされるミユキ。

サヤが不機嫌そうに耳を塞ぐ。

 

ばっと、シキが右手をあげた。

 

『改めて紹介しましょう!! 赤のコインの所有者、我らがアンダーグラウンドファイトが誇る"紅蓮の太陽姫"、朔導ナヅキーッ!!』

 

ナヅキを示すシキ。

歓声を受けながら、ナヅキがうっすらと微笑んだ。

 

炎を模した紋章のスリーブのカードが、場に置かれる。

 

シキが左手をあげた。

 

『対するは突如として現れた超新星!! 自らを太陽の勇者と名乗る、可憐なる白き少女!! 全てが謎に包まれた銀のコインの所有者!!』

 

白髪の少女を示すシキ。

少女が自信満々な手つきでカードを並べていく。

 

白い光に照らされながら――

 

『"白銀の邂逅者"、聖(ひじり)ニケーッ!!』

 

少女――ニケが、目の前にカードを置いた。

スリーブに描かれているのは、煌めくエンブレム。

 

ニケが不敵な笑みを浮かべた。

 

「やる気になりましたか、魔王さん!!」

 

嬉しそうに言い放つニケ。

 

「ですが無駄です!! 私こそが太陽の勇者!! 惑星クレイから降り立った、邂逅者(エンカウンター)なのですから!! 正義は必ず勝つのです!!」

 

自信たっぷりな表情。

ニケの身体から激しい闘気が放たれる。

 

その萌葱色の瞳が、一瞬だけ光を帯びて輝いた。

 

「…………」

 

無言のまま微笑んでいるナヅキ。

2人が睨み合い、暗闇の中で空気が張り詰めていく。

 

細い腕を天に伸ばして――

 

『さぁ、いよいよ伝説のコインを賭けた決戦が始まります!! 赤のコインと銀のコイン、果たして生き残るのはどちらか!! 運命を分かつ戦い!! 全てはカードの導きにかかっています!!』

 

囃し立てるように言うシキ。

巨大な歓声が飛び交い、空気が震えていった。

 

シキが両手を広げる。

 

『それではッ!!』

 

闇の中に響く声。

すっと、ナヅキとニケが手を伸ばす。

 

めくるめく熱気の中で――

 

『アンダーグラウンドファイト、開幕ですッ!!』

 

白く輝く言葉が、闇を切り裂いた。

 

「スタンドアップ!!」

 

高らかな宣言。

2人の指がカードを掴んで――

 

「MY!!」

 

不敵に微笑むニケ。

萌葱色の瞳が揺れる。

 

光の中で――

 

「ヴァンガード!!」

 

運命に選ばれた2枚が、表になった。

 

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