GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
サイゼリアに到着した一同は他の客からは離れた席に陣取り、とりあえず幾つかの料理を注文した。スタッフが注文を承り、席から離れていくのを見て真っ先に声を上げたのはアラタだった。
周りに漏れたりしない様に声量を控えめにしたので、皆も同じ様に声量を控え目にして話す様に決めた。
「これは、予想できなかった」
『完全に不意打ちでしたね』
彼が卓上に置いたスマホには文の姿が映し出されていた。
彼女の言う通り、自分達は新作の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』を見に来たつもりだったが、完全に予想外の物を見せられた。
事前のPVや告知では一切臭わせは無く、舞台が宇宙世紀かどうかも分からない中でお出しされたのだから、衝撃は半端なかった。
「(皆が難しい顔をしている……)」
リンが皆の顔を一瞥した。誰もが、自らの中に湧き上がった感想やら考察やらを咀嚼している最中であり、これは前提の知識があるからこそ出来ることだ。
自分にとっては先の映画こそが、初めて触れる宇宙世紀の始まりである為、皆が抱いている感想を共有できないもどかしさがあった。どうするべきかと悩んで視線を彷徨わせていると、一瞬セリトと目が合った。すると、彼は小さく手を上げて言った。
「すいません。俺、初代ガンダムもオリジンも見ていないんですよ。だから、皆が何に驚いているか知りたいんですけれど」
「あ、せやな。セリト君、ガンダムあんまり知らんもんな」
ここに来てミサ達もハッと気づいていた。あまりに衝撃的な内容だった為、周囲への配慮も忘れて、考察に耽っていたのだ。そんな自分を反省するかのように、真っ先にマシマが口を開いた。
「まずだ。そもそも、ガンダムの始まりって言うのは『アムロ』がガンダムに搭乗することで始まるんだ。そして、なし崩し的に戦争に身を投じて行く中で、ニュータイプとして覚醒して行くんだが」
「彼が及ぼした影響は『機動戦士ガンダム』の中でも大きく、彼がもたらしたデータは連邦を勝利へと導いていき、後年にも大きな影響を及ぼしていくんですよ」
シーナが説明を付け加えた。ここら辺はアムロが居ても居なくても連邦の勝利に変わりはないと言われているが、それでも彼が齎した影響は小さくなかったハズだ。加えて、MS開発の礎となったガンダムが鹵獲されたのだから、影響は更に大きな物となり……。
「本来、1年戦争の後の歴史は『連邦が勝利した』という前提で進んで行くんだけれど、それが覆っちゃっているのよ。だから、舞台が宇宙世紀ながら全く知らない宇宙世紀になっちゃってんのよね」
言いながらも、カルパッチョは高速でスマホを弄っていた。隣の席に座っていたミサが覗き込んでみれば、先程の映画に出て来たワードを打ち込んでいた。
「(本当に、この娘。趣味とか興味が湧いた物への集中力が凄いなぁ)」
「例えとして正しいかどうかは分からないけれど。ガンダムSEEDで言えば、最初のG奪取の時にストライクガンダムまで持っていかれた感じ?」
宇宙世紀作品は知らないが、ガンダムSEEDだけはリンも知っている。ファーストガンダムを多数オマージュしていることもあり、彼女にはコレで例えた方が分かりやすいかもしれない。
「せやね。そして、AAも鹵獲されて……って考えると、ストーリーが全然違って来るやろ?」
「そんな話になったらDESTINYにもSEED FREEDOMにも繋がらないじゃん。……え? そういう話を公式がやったの?」
全員が頷いた。ここで、ようやくリンも皆が驚いていた訳が分かった。セリトだけは本当にガンダムに疎いのでイマイチだったが、ことの重要さを確認する為にもう一度尋ねた。
「それって、言ってみれば仮面ライダーが正義の心に目覚めなかった。みたいな、IFを公式がやったってことなんですかね?」
『そうなりますね。だから、宇宙世紀という舞台でありながら、どんな話になるか。自分の知っていたキャラクター達がどうなっているのかが気になって仕方が無いのでしょう』
あの世界で活躍していたキャラクター達の殆どが出ていないのだ。生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。
「逆に、死ぬはずだったキャラクター達も多数生き残っている。もしも、あの人が生きていたら後世にどんな影響を与えていたか? って言うのが、新キャラと共に描かれているから、新規の人の導線もありつつ。俺達みたいな従来なファンはより一層楽しめる仕様になっているんだ」
アラタの言葉には興奮が滲んでいた。公式からお出しされる極上のIFとなれば、ガンダムファンとして心が震えない訳が無い。
「お待たせしました~」
会話も弾んで来た頃、ちょうどいいタイミングで料理も運ばれて来た。
暫くは興奮しっぱなしで空腹さえも忘れていたので、皆が運ばれて来た料理に手を付け始めた。そして、全員がチラチラとバッグや上着のポケットに視線をやっていた。
「ねぇ、この気持ちでガンプラバトル。って気分にはならなくない?」
カルパッチョの言葉に皆が頷いた。当時のスケジュールとしては、映画を鑑賞した後に、皆でゲーセンに行ってガンプラバトル! という風に考えていたのだが、今の自分達の心は衝撃と興奮に満たされている。
「じゃあ、どうします? 普通に買い物でもします?」
「いや。それも悪くはないけれどね、私。あの映画を見てね、やってみたいことが出来たのよね」
シーナを始め、皆が興味深そうにしていた。普段はイカレポンチのアホであるが、配信者としてのトーク力や企画力はキチンと備わっているのだ。
運ばれて来た生ハムとモッツァレラチーズにオリーブオイルと胡椒を掛けた、彼女らしいアレンジをした前菜を放り込みながら、スマホを見せた。ミサが表示された文字を読み上げていた。
「クラバト?」
「そう。劇中でも出て来たでしょ? 2on2のバトル。使えるパーツや武器も限定してさ。私達でMAVとか、やってみたくない?」
彼女は人を楽しませるのが上手い。時には言動で、行動で、いや。笑わせるというか、笑われているという方が正しい気がするのだが。今回ばかりは割と正当に楽しませようという気概が見えた。
「いいね。いいじゃねぇかよ!」
マシマも両手を叩いた。ガンプラバトルの良い所は自分のオリジナル機体を活躍させられる。こともそうだが、自分が面白いと思った作品に入り込む、なり切ることも出来るのもまた良い所だった。
しかも、幸運なことに。ジークアクスは一年戦争後の世界。つまり、既存のガンプラで、世界観に合わせたビルドが出来るのだ。
「付け加えるなら。マチュとシュウジが知り合ってマブになった様にね。普段は組まない相手と組んでやるって形式にしたいのよね」
「確かに。いつも組んでいる相手やと合わせ易いのもあるから、劇中のバタバタ感も再現しにくいしなぁ」
タオも乗り気だった。出来たら、普段は一緒にプレイしない相手と組んだ方が特別なイベント感も出て来る。
「とりあえず、フリーダムフリートのメンバーとマシマの所の奴らを呼ぶつもりで入るけれど、他にもアテとかある?」
「うーん。改造美プラでBANされた友人達なら」
セリトが上げた候補に全員がNOを突き付けていた。アラタとミサは覚えがあるのか、頷いていた。
「多分だけれどね。ジークアクスの公開と同じ位のタイミングでGBBBBも再開すると思うの。だから、その時にね。バトルトーナメントの本戦で忙しくなる所はあると思うけれど、そういう遊びも入れてこそ。じゃない?」
「良いと思うわ。貴方にしては随分とマトモな意見が出るのね。ちょっと、感動したわ」
コウラから褒めているか貶しているか分からない感想を受けて、カルパッチョの顔が若干不機嫌になった所で。ドリアを食べ終えたアラタがスマホの画面を見せた。近隣のガンプラショップが表示されていた。
「だったらさ、今から皆で行って。どんな機体を組み立てるか。インスピレーションを湧かしておかないか?」
「そうだな。方向が決まっているとモチベも上がるしな」
マシマも楽しみにしていた。これからの目標だけでなく、今後の目標も決まった一同のテンションは高かった。ただ、リンだけがちょっと困っていた。
「(ヤバイ。私、他のクランの人達とあんまり仲良くない……)」
自分はアラタやマシマの様にコミュ力が高くないので、他所のクラメンとはあまり交流をしていなかった。今回の企画でも、上手く乗れるだろうか。
もしや、体育の時間みたいなことにならないだろうかと思って、チラリとミサの方を見れば、ニッコリとしていた。
「大丈夫だって。今のリンならいける行ける」
何の根拠もない励ましなのだが、他でもない姉が言うのだ。きっと行けるだろう。そう信じて、リンはアラビアータのペンネを口に運んだ。
あまりネガティブなことばかりを考えても仕方がない。むしろ、アラタと一緒にガンプラショップに行けるなら、無知を良いことに色々と聞けるんじゃないかと意気込みながら、彼女達はサイゼリアを出た。