GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「見ろよ、タクマ。嬢ちゃん達のクラバト配信のアーガイブ。切り抜きも含めて、再生数がすげぇ事になってんぞ」
カドマツは業務の隙間時間を縫って、昨晩の動画を視聴していた。
GBBBBで注目されているクラン同士、ガンダム好きの関心を集めている最新作の作中にも出て来たルールでのお祭りともなれば、再生数が伸びない訳が無い。他のプレイヤー達も触発されたのか、今はあっちこっちでクランバトルが発生していた。
「私がパートナーなら、ミサも負けなかったが?」
「止めろ。お祭り騒ぎをぶち壊すつもりか」
ライブを見ていたタクマは、GBBBBのトップとしてあるまじき発言をしていた。そんなことをしたら配信ぶち壊し間違いなしである。
「冗談だよ。私にはバトルトーナメントが待ち受けているからね。挑戦に来るのはビアンカか。フリーダムフリートか。あるいは、まだ見ぬ強者か……」
「こういうのって時間を開けると熱も冷めちまうんだが、再開には最高のタイミングだったよな。いや、そうなる様に手を回してくれたというか」
あんなトラブルがあった手前、技術的、心情的、風評的にも回復するのには時間が掛かった。敗者復活のチャンスを含めて再開したとしても、あの熱量を取り戻すのは難しいと考えていたが、やはりガンダムは偉大だ。
「ウィルの期待にも応えられる様な試合をしないとだな。それも、二度とあんな事件が起きない様に万全の態勢でな。……彼の所にいる、例の彼女は?」
「逐次、データを送って貰って、バイラスにも解析を手伝わせている。今の所、バックドアの類は見つかっていない」
無理矢理とは言え、GBBBBに多大な被害を与える原因となった彼は無罪放免とはいかず、保護も兼ねてタイムズユニバースで技術関係の仕事に当たっていた。性格と性根は兎も角として、技術者としての腕は確かだった。
「そうか、良かった」
「上の方としては、懸念を消したいって気持ちは分かるけれどよ。やっぱり、無理だよな」
GBBBBを介して世界中にサイバーテロが行われた後、経営陣はウィルスのキャリアとなった該当AIの削除を求めた。
今後のリスクを回避する上では十分に理解は出来るが、カドマツやタクマはこれらを拒否した。体裁を保つ上では『今後のセキュリティに関する貴重なサンプルとして保存しておくべきだ』とは述べたが、本音はもっと感傷的で個人的な物だった。
「ガンプラバトルを通じて出来た『友達』を守るのは、俺達の役目だろう? それに。これ以上、ラシード達の様な恐怖と焦りで暴走する人間を生み出さない為にも、彼女が架け橋的存在になってくれることを願っている」
発展していく社会から居場所を失いそうになる恐怖と怒りから、彼らは行動を起こした。軌道エレベーターの一件があっても繰り返されることから、技術が必ずしも人を幸せにする訳ではないということは、よく分かっている。
ラシード達は悪意を持ってAIを用いて事件を引き起こしたが、これは現在でも起きている問題であるし、社会に受け入れられるには時間が必要だ。
「そうだな。アイツが戻って来た時に、皆が歓迎できるような空気を作っておいてやらないとな。その時によ、言ってやろうぜ。お前に、こんな可愛い『孫娘』が出来たんだってな」
マザーAI『アウラ』の設計基幹には、ロボ太の物が使われている。故に、技術体系的には文が孫に当たる。ということを指して言ったのだろう。技術者らしい言い回しではあるのだが。
「待てよ、カドマツ。その時に、もしもこう聞かれたらどうするんだ? 『主殿達の孫娘は?』と……。俺は問題ない予定だが」
折角、良い話にしようと思っていたのに、あろうことか。この浮かれポンチマイスターは惚気話に持って行こうとしていた。
ひょっとしたら、感傷に浸り過ぎる自分達を和まそうとしたジョークの一環かもしれないのだが、カドマツは激怒した。
「は? 俺は最初から仕事が恋人だし? 6年ぶりに再会した途端、リアルビリーの称号を簡単に捨てようとする奴とは覚悟が違うんだよ」
「は? じゃあ、そっちはモチヅキさんとどうなんだよ?」
「アイツの実年齢は兎も角。見た目は若いんだから、こんなくたびれたおっさんより、もっといい奴がいるだろ」
「は???」
タクマは激怒した。恋愛浮かれポンチとして、必ず、かの鈍感仕事男を感化させなければならないと決意した。
「何だよ。何か言いたいのか」
「人のことを6年間待たせた奴だの言いながら、お前は何だ。その魔法使いの資格、エグザベ君が使おうとするネオサイコミュより解放される見通し立ってないじゃないか」
「この野郎、急に恋愛強者ぶるんじゃねぇ」
先程まで、少年少女と今後の世界に思いを馳せていた2人とは思えない位に醜く、浅ましい遣り取りが繰り広げられていると、カドマツの背後にあった扉が乱暴に開かれた。
「うるせーぞ、バカ共!! テメーらは女子高生か何かか!!」
正に話題に上げていたモチヅキだったが、顔面に張り付いた怒りの表情からはピンクっぽい雰囲気は皆目見当たらない。彼女の手には書類が握られていた。
「お、おぅ。その書類、どうしたんだ?」
「今後の『ジークアクス』と『ビギニング』関係の報告書だよ。4月から始まるんだから、さっさと目を通せ。今や、GBBBBとは運命共同体だからな」
部屋が散らかっているので、書類を置くスペースを確保する為に、カドマツが使っているデスクの上を片付けるついでに拭いたりしている光景を、画面から眺めているタクマは微笑んでいた。モチヅキは怪訝な表情をしていた。
「おい、カドマツ。コイツ、こういう顔する奴だっけ?」
「奴はGBBBBのトップファイターでもなければ、彩渡商店街のエースでもない。ただの恋愛浮かれポンチだ」
念願叶ってというべきか、見るも無残と言うべきか。ただ、この二つは同時に成立するので、両方だろうと考えていた。
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「という感じで、お姉ちゃんは職場でも元気になってウザがられているらしいよ」
「憧れの人が俗物になった話は聞きたくなかったなぁ」
第2回戦まで日が空いていたので、リンは再びサーヤと一緒に作戦を練る為に会っていた。その際、世間話がてらにややウザくなっている姉の話をしたら、サーヤが盛大な溜息を吐いていた。
「そう言えば、リツキ君やサーヤちゃんにはお姉ちゃん達はどんな風に伝わっているの?」
「まず、彩渡商店街を立て直した人で、世界大会でも優勝する程の実力者といわれているね。でも、リツキみたいに直接指導して貰った人は口を揃えて『鬼』って言うよ」
普段は優しく甲斐甲斐しい姉であるが、彩渡商店街でコーチをしていた時期と状況を考えるに、そう言う精神状態になるのも無理は無いだろうと思っていた。
「今は大分大人しくなっているんだけれどね」
「精神的に余裕が出来たからですかね。全く、どこもかしこも恋愛、恋愛。何がそんなに良いんだか」
ハッ、と。鼻を鳴らしていた。リンも少し前までは浮ついた話をする同級生を同じ様な目で見ていたので、十分に理解はできる。だが、今は馬鹿に出来ない立場になっているので苦笑いを浮かべるだけに留まっていた。
「き、きっと。ほら、本人には何かいい影響があるんだよ。多分」
「その価値観を市場に掲げなければ別に良いですけれどね。その点、ゲームは良いと思わない? 愛の力とかそう言うのが一切役に立たないからね」
リンは知っている。正に、今。サーヤが揶揄する様な人物がGBBBBのトップに君臨していることを。これ以上、この話は危険だと判断した。よし、話題を逸らそうと決めた。
「―――で、リンはアラタを好いているの?」
恋愛に興味は無いが、察しは悪くなかった。自分から藪蛇した手前、話題を逸らすのもどうかと思ったが、あまりに直接的に触れるのは気恥ずかしかった。
「いや、ちょっとね。うん、意識している所はあるよ? アラタと遊ぶようになってから、お姉ちゃんも明るくなったし? 私もゲームを通して前向きになった所はあってね。こんな風になれたのは誰のお陰かな? と思うと、ちょっと思い浮かぶ顔がある位で。精悍所か年上って感じも無くて、下手したら同級生の男子位の愛嬌ある顔はしているけれど、いざと言うときには結構頼れる所もあって」
サーヤの顔が見る見る内に渋くなって行き、スティックシュガーの封を切る手を止めて、クリープだけを入れたコーヒーを啜っていた。
「ほぅ、ジークアクスの感想よりも熱が入っていますね。どうぞ、続けて?」
「はい! 終わり! 今日は、対策の話! 頑張って勝てる様にしよう!」
「なんで、中断するの?」
滅茶苦茶食い下がって来た。自分から聞いておいて、理不尽な気もしたが、暫く喫茶店で、この無意味な攻防は続いた。