GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「アラタ。今日は、何の日か覚えている?」
「そりゃあ、勿論」
彩渡商店街。街中は何処か浮かれた雰囲気が漂っており、目の前には気になる例の少年。バッグには可愛らしくラッピングされたブツが入っている。
ひょっとして、既に学校の方で幾らか受け取っているかもしれないけれど、だからと言って渡さないという選択肢はない。勇気を振り絞り、飛び込んでいけ宇宙の彼方。……と思っていたら、スーツ姿のおっさんが現れた。手には『
ZGMF-1017 ジン』のガンプラが。
「血のバレンタインデーに決まっているよねぇええええええ!!!」
「だよな!!!」
アラタもバッグからストライクガンダムを取り出し、周囲には賑やかしの為に大量の連合製MA『メビウス』が出現していた。当然の様に核ミサイルを装備している。そして、ゾロゾロと現れるのはGP-02。
『さぁ、始まりました! 君は防げるか! あの悲劇を!! あるいは! 君は引き金を引けるか! 全ての始まりに対して! 本日限定! 特別イベント! 血のバレンタインデー!!!』
ワァ―っと一斉に俺ガンプラが雪崩れ込んで来た。何処を見ても、ふみな、ふみな、ふみな、ふみな。最近はお祭り騒ぎばっかりで忘れていたが、元々GBBBBってこういう奴らの集まりだっけと思い出していた。
「ハッハッハッハ! 今日もGBBBBは良いザマだなぁ!」
「会社で貰えなかった俺の仇(うっぷん)だ!!」
「製菓会社の陰謀の産物なんかいるかよ!!」
よく見たら、彼らは味方側ではなく、この凶事を成功させるべくメビウスの防衛側については、自分達に攻撃を加えていたのだ。
「リン! アイツら、ポップで浮かれやすい方のバレンタインデーを破壊するつもりよ! こんなの許せないよね!!」
「ウム。そもそも、血のバレンタインデーはSEED世界において、全ての悲劇の始まり! 私としても見過ごす訳には行かない!」
「お姉ちゃんとマイスター!?」
そこにいたのは、ミサの声を発するブレイジングガンダムとマイスターの声が出ている騎士エクシアだった。ふと、体に違和感を覚えたので見下ろしてみれば、自分の体はリン・カーネーションになっていた。
「何を言っているのよ。こんな日はねぇ、下らないお祭り騒ぎにはさっさと終止符を打つべきなのよ!!」
コウラの声がした方を振り向いてみれば、そこには両手にアトミックバズーカ、ラジエーターシールド、バックパックにはウィンダムも装備していた核搭載マルチミサイルランチャーという、GBBBBでも実装されていない武装を無理矢理積んだまっさなおGP-02が居た。バレンタインデーを血染めにする気MAXなようである。
「コウラさん!? なんでこんなことを!?」
「どいつもこいつも浮かれて、浮かれて。乗り切れない私をバカにするなぁあああああああ!!!」
被害者意識が極まった憐れな女が居た。今の彼女なら創世記(ジェネシス)の起動も辞さないだろう。
「止めて! 暴力は何も生み出さないわ!!」
「私が報われない物日なんていらないのよぉおおおおおおお!!」
バックパックのミサイルランチャーから核ミサイルが放たれ、アトミックバズーカからは書くが放たれ、ラジエーターシールドから取り出したアトミックバズーカからも核が放たれ、周囲は破壊され尽くしていた。
「アラタ! 早く、コウラさんを止めて!!」
リンの叫びも爆音に掻き消されるばかりだった。……と思っていたら、いつの間にか人類殺戮滅亡GP-02の前には、バックパックも付いていない生ストライクが居た。アラタの機体である。
「先輩には、俺が居るじゃないですか……」
「あ、アラタ……」
トゥンク……とか言う擬音が聞こえてきそうだった。2人の愛を前に、やがて暴力と暴言が鳴りを潜め、奮闘していたミサブレイジングと騎士マイスターも誇らしげにしていた。
「やっぱり、愛が一番だよね」
「違いない」
『素晴らしい! 正にSEEDに必要とされていたものがここに!』
何処からともなく出現した生レコが祝福したことに続くように、他のプレイヤー達も拍手をしている中、リンは落ちていたアトミックバズーカを拾い上げていた。そして、構えた。
「〇ねぇえええええええええええええ!!!」
かくして、祝福ムードに包まれた周囲は爆炎と爆風に呑まれるという、実にSEEDらしい諸行無常さで〆られた。
~~
「NTRだぁあああああああああ!!!!!!」
「リン!?」
とんでもない夢を見たので、リンは咆哮と共に目を覚ました。起こしに来ていたミサがビックリしていた。落ち着いて辺りを見回す。自分の部屋だ。
「良かった、夢か」
「最近、よく変な夢を見ているよね」
GBBBBを巻き込んだ大事件が起きてから、どうにも特定の男子を意識し過ぎて夢の中にまで影響が出ている気がする。
リビングへと降りて、トーストを齧りながらTVを見る。当然の様にバレンタインデー特集が組まれて、街頭インタビューの様子が流されていた。
「もう、世間も浮かれているんだからぁ」
去年までは、クルーゼの如き憎悪と共に特集を見ていた姉だが、今では伴侶と結ばれたラクスの如く慈悲深く、優しい物になっていた。傍らには、百貨店で買った高級チョコレート。
「お姉ちゃんもモロに浮かれているよ」
「分かる? 今日は、ちょっと帰るのが遅くなるから先に食べておいてね」
朝っぱらから勝者の余裕を見せつけられている。リンも作りはしたが、今朝の悪夢が蘇っていた。そんな妹の苦悩を見かねたのか、ミサは優しく声を掛けた。
「魘されていたし、悪い夢でも見たの? 話してごらんよ。少しは楽になるかもしれないから」
「あのね……」
リンはありのままに夢の内容を話した。最初の内はミサも真剣に話を聞いていたが、彩渡商店街で血のバレンタインデーが始まったあたりから、何とも言えない表情になっていた。
「ちょ、ちょっと個性的な夢を見たんだね」
「頑張って捻り出した感が凄いよ!?」
「そりゃ、実家を血のバレンタインデーする夢を見て最後にアトミックバズーカをぶっ放す夢を見た。って言われたら、こういう反応になるよ!」
そりゃそうだ。あまりに脈絡も無ければ、話の内容もぶっ飛び過ぎている。
しかし、根底にあるのは年頃らしい悩みだ。ここは先達として、姉らしいアドバイスを送ってやらねばと気を取り直した。
「でも、アラタ君なら多分話したら受け取ってくれると思うよ。メッセージは送った?」
「え。まだ……」
「それは良くない。アラタ君にだって予定はあるかもしれないから、早めに入れておかないと
ミサの言うことは正しいのだが、いざと言うときに言い出そうとすると億劫になる。という程度には、リンは普通の少女なのだ。
「でも、ベタベタして来る奴だとか。もしくは面倒臭い女だとか思われないかな」
「我が妹ながらシットリしている。大丈夫だよ。私を見てごらん。6年も待ち続けた激重感情の持ち主だけれど、見事に成就しているでしょ?」
「なんて、心強い応援なの……」
これ以上ない位の激励だった。自分の姉に比べたら、ちょっと失敗するかもなんてビビっていた自分がちっぽけすぎる。
この気持ちに動かされるまま、リンはアラタにメッセージを送っていた。のだが、不思議と姉のスマホから通知音が鳴った。間違えて、ミサに送ったのかと思い、画面を見た。リンの顔から血の気が引いて行った。
~~
「うわぁ。リン、大胆やなぁ」
朝のSHRも始まっていない時間。タオは、ビアンカの全体チャットに流れて来た、リンのメッセージを見て驚いていた。隣では、セリトがメッセージを送っている。
「『ここ全体チャットだぞ』っと……」
「全員分の既読着いているし、もう遅いんちゃうんかな?」
打って、直ぐならメッセージの削除も出来た。ただ、本当に運が悪いことに、ちょうどビアンカメンバー全員がチャットを見ていたらしい。真っ先に囃し立てたのは、カルパッチョだった。
『さぁ、コウラちゃん! 血のバレンタインデーの……開催よ!』
『アンタは何を言っているのよ』
『若いってのは良いなぁ』
コウラの素っ気ない反応に対し、マシマが実におっさん臭い反応をしていた。ただ、一番反応が気になる人間からはまだ来ていないので、シーナが促す様なメッセージを送って来た。
『アラタさんはどうなんですか?』
『いいぞ。じゃあ、帰りは彩渡商店街に寄ってくわ』
タオは思わずガッツポーズを取ってしまった。同期の挑戦が上手く行っている様子を見るのは、我がことの様に嬉しかった。
「最近のリンちゃんは積極的だよなぁ」
「2人が仲良ぅなって、僕も嬉しいわ」
かつて、陽キャグループに所属していたこともある程度には、セリトは周囲の人間関係に聡い。故に、タオが最初の3人の中で置いて行かれていることに対する寂しさを覚えていることも見抜いてはいたが。
「だったら、俺達も祝福してくれよ。今日はグスタフと遊ぶ約束しているからな」
「なんやとぉ……。リン達は良いけれど、セリト君に先んじられるのは、何か納得いかん所があるわ!」
だからこそ、彼らは実に中学生男子らしい遣り取りへと移行するのだった。
~~
「(不味い、不味い)」
チャットでは素っ気ない態度を取っていたコウラだったが、実は滅茶苦茶焦っていた。過去にあったゴタゴタから意識しない様にしていたが、本来はそう言う浮かれちゃう日なのだ。
しかも、こういう日に限って、ユイは裏でコッソリとチョコレートの贈答をしているので気付けなかった。
「(多分、私の前で渡さない様に、気を回しているんだろうけれど)」
単純に気まずさを避ける為というのもあるかもしれない。当然、学校内でチョコレートを作るなんてことが出来る筈もない。彼女は購買部へと向かった後、サイド0へと訪れた。すると、そこでは……。
「ヒャッハー!! ナチュラル共覚悟ォ!!」
「宇宙人は宇宙に帰りなさいッッ!!」
シミュレーターでSEEDごっこをしている部員達の姿があった。ここはガンブレ学園だから、バレンタインデーがSEED合戦になるのはもはや名物である。
お目当ての人物ことアラタはと言えば、ストライクガンダムを用いてジン達を蹴り飛ばしていた。
「バレンタインデーは俺が守る!!」
「ほざけっ!」
果敢にストライクガンダムを動かしていたが、ワラワラと湧きだしたストライクダガー達に囲まれてボコボコにされていた。
「ちょ。素組じゃ無理だって!!」
コウラは溜息を一つ漏らした後、部室内に展示されていたデュエルガンダムを引っ張り出して、シミュレーターに読み込ませて乱入しては、ストライクダガー達をちぎっては投げていた。
「先輩!」
「バカなことして、シミュレーターを占領しないの。気のすむまで相手をしてあげるから」
かくして、サイド0で大規模ドンパチが行われる運びになった。GBBBBでは良い所を見せられていないが、彼女のビルドファイターとしての腕は高水準である。
少なくとも、アラタ以外の部員達を寄せ付けない位の強さは持っていた。暫く、彼女にボコられたことで気が済んだのか、部員達はガンプラ製作へと戻って行った。アラタも一息ついていた。
「いやぁ、やっぱりバカ騒ぎは楽しいですねぇ」
「こんなバカなことに付き合っていないで、バトルトーナメントとかを考えた方が建設的だってのに。あ、それと。コレ」
実に自然な動作で、彼女は購買部で買って来た板チョコを渡していた。手作りでも無ければ、百貨店に並んでいる様な高級品でもない。ありふれた市販品だ。
「お、マジですか。ありがとうございます!」
ぱりぱりと銀紙を破いて、現れたチョコレートにかじりついていた。きっと、この後には年下の少女が手作りチョコでも渡すんだろうかと考えると、何とも言えない気分になっていた。
ここで引き留めるか、あるいは何処かに連れ回そうかという考えが脳裏を過りもしたが、グッと堪えた。
「ちゃんと、リンちゃんとの約束も守りなさいよ」
「勿論ですって。それじゃあ、先輩。チョコレートありがとうございました!」
鞄を持って部室から出て行く彼を見送った後、この浮かれた空気が肌に合わずに、自分も外に出た所。少し離れた場所から丹生とユイが覗き込んでいた。2人は親指をグッと立てていた。
~~
今日、一日中。学校では浮ついた空気が流れていた。教師からチョコを没収された生徒も少なからずいたが、リンはカバンの奥底に隠していたので、難を逃れていた。
「(本当に渡すの。本当に渡すの??)」
ここに来て、まさかの臆病風に吹かれていた。ただ、やっぱり無し! とするには、既に時間が過ぎ過ぎていたし、もう腹を括るしかない。
実家のある彩渡商店街でも浮ついた空気は漂っているし、タイムズユニバースが入った店では、やはりバレンタインデーに託けたセールをしている。
ガンプラショップには大量のジンとストライク。『血のバレンタインデーを防ぐか、報復しよう!』という、ファンキーなロゴが躍るPOPが通行人の興味を惹き付けて止まない。そして、店先にはインフォちゃん。
『今なら、組み立てたジンやストライクで『血のバレンタインデー』ミッションがプレイできますよー。イラトゲームセンターでプレイできますよ~。ご購入したレシートを見せてくれたら、1プレイ無料で~す』
悪く言えばがめつく、良く言えば何時まで経ってもみずみずしい商売人魂を持っているなと感心していた。購入を検討している子供達に混じって、特徴的な学生服を着ている少年が1人。お目当ての人物である。
「アラタ?」
「お、リン。一緒にどうよ?」
クイとジンを指差していた。このまま買って、一緒に組み立てて、ゲームして〆に渡す。うん、綺麗な流れだ。いつも通りで、とても楽しそうではあるのだが。
「嫌。今日は、こっちの方を優先して」
それでは、ずっと同じ様な流れでは無いだろうか? だから、姉を見習って、もっと強引にワガママに行くことにした。この反応はアラタも予想していなかったのか、少しびっくりしていたが。
「分かった」
直ぐに気を取り直していた。ホビーショップから少し離れて、歩きつつ。自宅の手前まで来た後、バッグから例の物を取り出していた。
既に心臓はかなりの早鐘を打っているが、ここで止まる訳には行かない。声を震わせながら差し出した。
「今、ここで食べて。感想をお願い」
言われた通り、アラタがラッピングを解いていくと。ガンダム好きとしては実にフォーマルなハロ型のチョコレートが姿を現した。
ライトグリーンなそれを口に入れるとミントの味がした。べた付かない、鼻に通り抜けるような爽やかな風味が特徴的だった。
「うん、スッキリしていて美味いぞ!!」
彼からの感謝を聞くと同時に、リンはペタリと座り込んでいた。慌ててアラタが駆け寄り、手を差し出していた。
「ど、どうした?」
「いや。なんか、力が抜けて……」
万が一のことを考えて、店舗兼住宅の前まで来ていたのが幸いした。リンはアラタに抱えられながら店に入った。そんな彼らの様子を、店主であるユウイチは微笑みながら見守っていた。
実は数年前に書いたNewガンダムブレイカーの二次創作におけるバレンタインデーネタではコウラちゃんの扱い酷かったんだけれど、今回はマシに出来たぜ。