GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
カルパッチョが企画・開催した上位クラン同士のイベント戦は概ね好評であり、他の配信者も似たようなことをしていた。
先行上映されているジークアクスの人気も凄まじく、更には特別映像の遣いまで発表され、ガンダム界隈は賑わいを見せている。
「(スケジュール的に、特典映像の公開日は避けないとね。公式様の話題には絶対に勝てないしね。その日まで、私も見に行かない様にしないと)」
部屋には空のペットボトルや読みかけの漫画が散らかっており、よく見れば掃除しきれなかったランナーの破片も落ちている。
その癖、直射日光を避ける様に設置されているガンプラ用のディスプレイケースには埃すら積もっていない。収められているのはアビスガンダムやフォビドゥンガンダム。インフィニットジャスティス等、何となく共通点は見えそうなラインナップだった。
「(けどなぁ。ラストは一試合だけだし、盛り上がるかなぁ? 3位決定戦も盛り上がりそうな気はするんだけれど)」
だが、この戦いは優勝者を決める物なので、3位決定戦なんてやる必要があるのだろうか? そもそも、トーナメントの形式自体も盛り上がりや動画を意識して作った物である為、実力を図るという意味では適した物ではない。
では、決勝戦1回だけ配信するというのも短すぎる。どうやって尺を稼ごうかと考えていると、部屋の扉が開かれた。
「美智代、ご飯よ。って、部屋片づけなさいよ。って、痛ァ!」
「あ、ママ! 動き回らないで! って、無くなっていたと思っていたパーツそこにあったんだ!」
ランナー以外にもガンプラの宿命とでも言うべきか、紛失したパーツによるトラップにカルパッチョママが引っ掛かっていた。彼女の反応を見るに、カルパッチョのリアクション芸は母親から受け継いだ物であるらしい。
「アンタねぇ! 1日中、家にいて家事も手伝わないんならせめて自分の部屋の掃除位はしなさいよ! 動画配信? で、家にお金入れているから許しているけれど!!」
母からの怒涛の攻撃を食らい、しおしおになっていると。スマホから通知音が鳴った。と言っても、説教されている中で覗く訳にもいかない。
一頻り、怒られた後。スマホに来たメールの文面を読んだ彼女は目を見開いていた。差出人は『GBBBB運営チーム』だったからだ。
「(……まさか)」
自分が企画・主催したクラバトに関することだろうか。直ぐにでも返信文を返したいが、ただでさえ不機嫌になっている母を刺激する訳にはいかまいと、彼女はリビングへと向かった。
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「カドマツ。本当にやるつもりなのか?」
「上からのお達しだ。現在、クラバトの動画で一番盛り上がっているのは、例のクランで配信されている物だからな」
カドマツが溜息を吐いた。タクマもあまり乗り気ではなさそうだ。彼らが見ている画面には、カルパッチョへと送ったメールの文面と同じ物があった。
「ザックリと要約すると。彼女達が行っているクラバトに新規実装された『ジークアクス』とジークアクス版『ガンダム』で、優勝者とのエキシビションマッチが行えないかという打診だが」
「運営からすりゃ広告費を掛けずに宣伝できる。って、考えだろうな。他人の成果物を横取るみたいだが……」
それなら、公式で企画を立ててやるべきではないか? 呼ぶべき人間を呼んで、キチンと告知も行うべきではないか。
重大な情報ならば普段から配信を見ている層だけではなく、ゲームだけをやっている層にも届くようにするべきではないか? どうにも、上の方は浮足立っている様に思えた。
「何より。彼らが自主的に積み重ねて来たクラバトの『決勝』の後に、エキシビションマッチというのが気に食わない。まるで、彼らの切磋琢磨を前座の様に思っているんじゃないか?」
タクマが拒否感を示す理由はここにあった。彼らが繰り広げて来たクラバトは、プレイヤー同士が本気でバトルしたが故の盛り上がりだった。
誰が一番強いか? というのは、子供じみた問だが、その答えを出す為に全力で挑んでいる者達の信念を軽んじている様に思えた。
「ユーザーに近しい運営って方針で行きたいのかね? ただ、俺らから口を挟むべきじゃない。嬢ちゃん達がどう受け取るか次第だ」
個人的な心情としては反対して欲しいが、この案件を受けるかどうかは彼女達次第だ。タクマは、新しくモデリングが起こされたジークアクス版のガンダムを動かしていたが、何処か精彩を欠いていた。
~~
「ムムム……」
母親の機嫌を取りながら、カルパッチョは自室にてメッセージの内容を眺めていた。サプライズゲストとしてマイスターと新機体を参加させて欲しいと言うこと。もしも、協力をして貰えれば関連企業に『広報』として雇い入れたいという文言まで入れられていた。
「(そうしたら、就職するってことだよね? 今は動画配信者として、収入やら確定申告やらをしているけれど……)」
今は何とか生活できているが、今後も同じ様な生活が続けて行けるかどうかは分からない。ある日、突然鳴かず飛ばずになったり、SNSが炎上して消え去ったりと。常に消え去る危険が隣にある。
企業に就職すると言うことは社会的な信用を得られるし、クレジットカードも作れて、保険なんかも入れる。何よりも母親から1人の成人として認められるのが大きい。
「(そりゃ、傍目には遊んでいる様にしか見えないけれどさ)」
昨今は、動画配信もビジネスとして認められているし、テレビに配信者の姿が映ることだってある。だが、やはり世代を経ると理解されないことも多い。
カルパッチョも気分やノリだけで配信をしている訳ではない。事前に台本を作り、人が多い時間帯を調査して、SNSでエゴサーチなどもしつつ、ネタや話題になることをキチンと調べて、その上GBBBBプレイヤーとしてガチ勢の空気にも参加できるように調整や練習などをしてから挑んでいる。まぁ、結構抜けがあるので奇行や勢いで誤魔化すことも多いが。
「(でも、決勝戦よ? アラタやリンちゃん達が頑張って来た最後の勝負の後で、そんなサプライズをぶつけられても良いのかな?)」
これらのスタンスから分かる様に、彼女はGBBBBにおいてはプレイヤーとしても配信者としても真摯で誠実だった。
ノリだけで行動した結果、フリーダムフリートを追われた自分を受け入れてくれて、今日まで配信やら何やら色々と世話になって来た年下のクランリーダー。そんな彼に金魚の糞みたいにくっ付いていたが、直向きに頑張り続けて、カルパッチョでさえ予想だにしない成長を見せた少女。
「(優勝者がそのまま、新機体を引っ提げて来たマイスターとぶつかるって絵面は、盛り上がるかもしれないけれど)」
ただでさえ、近日中には追加映像も公開されるということで熱が上がっている。このタイミングで本格的なお披露目は正に……と言った具合か。
「(でも、このまま私が配信者を続けていて、こんな案件が舞い込んでくる機会が今後にあるのかな?)」
もしも、ジークアクス熱が冷めてしまったら? もしも、GBBBBが廃れたら? 年齢を重ねれば、重ねる程チャンスは遠のいていく。
「(2人に相談。って訳には行かないか。言ってみれば、これは案件だし。いや、でも、本題を隠せばちょっと位は話しても大丈夫かな……)」
リンは兎も角として、アラタ……のペアが気になるが、彼は口が堅いし、話しても口外はしないだろうという信頼はあった。
丁度、チャットツールに件の人物達がINしているのが見えたので、彼女は文章を打ち込んだ。
『こんばんは~。皆は、追加映像も見に行く?』
まずは、軽い趣味の話から始めて、徐々に本題へと移して行こう。揺れる考えの中、彼女にしては珍しく勢いのないフラフラとした状態で文書を打っていた。