GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
『長かったクラバトもいよいよ、終わりが近付いています。お互いの相方は落ち、残るは互いに1機ずつ。奇しくも、このクラバトを始めるきっかけとなった『ジークアクス』のメインヒロイン2機を模した機体が残ったことには運命めいた物を感じますね!』
カルパッチョの司会進行にも熱が入る。接近して来るマチュッガイは、キャノンヘッドから奪い取ったザク・マシンガンとジャイアント・バズを乱射しながら近付いて来た。
リンも慌ててメガ粒子砲で反撃したが、見当違いの方向に飛んでいくだけだった。砲弾は回避できたが、マシンガンによる銃撃は幾らか被弾していた。
「(不味い! 不味い! HPがもう少ない!)」
先程までの殴り合いでHPが削られていたこともあり、リンには後がなくなっていた。一方、アラタのマチュッガイは損傷も少ない。
マトモに殴り合うのは良い選択とは言えない。アラタがしていた様に何か鹵獲できる物はないかと見ても、カオスのドラッガイが倒れているだけである。引っこ抜けそうな物はない。
「(盾にする? いや、だから何だって話だし!)」
盾にした所で、その後の選択が無い。ならば、攻め手に使うべきだ。真っ先に思いついたのは、これに追加攻撃を加えて爆弾の様に使うという方法だが、あまりに分かりやすい。狙って出来る物ではないだろう。
「(リンと俺の機体HP差は明白。射撃戦に持ち込めば勝てるとは思うが、非交戦的態度と取られるかもしれない。何より、カオスを撃破したばかりで浮足立っている今こそがチャンス!)」
耐久値に差が出ているので距離を取ってチクチク射撃をしていれば、安定して勝利を狙えるかもしれないが、前回の試合を鑑みて導入された『非交戦的態度』の文言が引っ掛かっているのだろう。アラタはこの場面で一気に攻めて来た。
「(やるしかない!)」
アラタが近付いて来たタイミングを見計らい、ドラッガイの周辺にミサイルを撃ち込んだ。爆炎が立ち込め、視界が遮られた後、今度は大きな爆発が起きた。
「(2回?)」
何故、最初にミサイルを撃ち込んだのか? 爆炎が立ち込め、視界の自由が利かない中、動き回るのは危険だ。アラタは神経を研ぎ澄ませ、敢えて立ち止まっていた。
「(迎え撃つ)」
時間が経てば爆炎も晴れる。仕掛けて来るならば、晴れる前。刹那、黒煙を切り裂いて、アイアンクローの先端が飛び出して来た。
不意を突いた攻撃だったが、彼は片腕を犠牲にして防御していた。そして、残された腕でカウンターを放った。返す一撃で相手の胴体を貫くはずだったが、空を切った。自分の腕に刺さったアイアンクローがあまりに軽いのが気になった。答えは直ぐに分かった。
「(これは!!)」
肌色ではなく。よく見れば先端が白く染められ、アーム部分が青色に塗装されている。このクローはドラッガイの物だ。
少し遅れて、ニャアッガイが飛び出して来た。今度こそ本物のアイアンクローが突き出されていた。使い物にならなくなった腕で受け止めた。リンもクローを引き抜けなくなったので、アラタは自らの腕を落とした。
「うっ!?」
がくんとニャアッガイが姿勢を崩した。片腕に重量が集中したので、バランスを崩したのだろう。マチュッガイは残された方の腕で、ニャアッガイの自由な方の腕を貫き、回転を加えて引きちぎっていた。
「終わりだ!」
リンの機体はもう武器を振るうことも敵わない。あまりに片腕に重量が掛かり過ぎている為だ。すると、彼女は体を捻って、アラタの攻撃を受け止めていた。
ドラッガイ、マチュッガイ、ニャアッガイ3機分の片腕が飛んだ。そのまま、転げると、猛スピードで回転を始めた。
「終わらない!! 終わりじゃない!!」
両腕と言うバランスを取る為の重量物が無くなった為、無茶苦茶な軌道で回っていた。速度を帯びた脚部が質量武器となり、マチュッガイを打ち据えた。
至近距離で連続ダメージが入り、耐久値が一気に減った。距離を取るべきかと考えたが、アラタは首を横に振った。
「(駄目だ。両腕を無くしたことで、バランスは取れなくなったが軽量化して速度は上がっている! 追い付かれる!)」
だが、こちらには回転するだけの余裕がない。ならばと、マチュッガイはしゃがみ込んだ。独楽所か台風もかくたるやと言わんばかりのスピードを帯びたニャアッガイを迎え撃つべく、アイアンクローを振るった。
「アラタァアアアアア!!」
「リィイイイイイイイイン!」
二機がぶつかった。パキンと何かの折れる音が響いた。ニャアッガイの回転は止まっていた。誰もが固唾を飲んで見守っていた。先に声を上げたのは。
「やられ千葉ァ!!」
マチュッガイの頭部が遠く離れ場所に落ちて、彼の機体が爆散した。わぁッと、歓声が上がった。
『こんな、こんな結末を予想していたでしょうか! 2大クラン合同イベント! クラバトを制したのは! 『リン・サーヤ』ペアです!!』
ジンと喉の奥が痺れる様だった。やがて、それはせり上がって来て鼻孔を突き抜けて、涙腺まで刺激して、リンは思わず叫んでしまった。
「やったぁああああ!」
配信でもコメントが怒涛の勢いで流れて来た。かくして、リン達はクラバトの優勝者となった。クランメンバーや関係者達から惜しみのない賛辞が送られ、一晩中、彼女はこの喜びをかみしめていた。
~~
「うん。似合っている、似合っている」
数日後のことである。ミサは妹の気合が入ったおめかしを見て、率直な感想を漏らした。声色だけではなく、表情も優しい物だった。
「大丈夫、かな?」
「……どういう結果でも。ウチに帰って来たら、お姉ちゃんが話聞いてあげるから。行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
心臓が早鐘を打つ。商店街を出て、約束の場所へ向かうと。約束をしていた人間は既に待機していた。
「お、リン。似合っているじゃん」
「そうかな?」
いつもは何処か飄々としているハズのアラタが、今日に限っては何処か初々しい。お互い、必要以上に喋ることなく昼食を済ませ、ガンプラなどのホビーを見て、ちょっと書店へと寄ったり、服を見たり。極当たり前に遊んでいた。
お互い、分かっている。このまま分かれたら、何の決意も必要なく心地良い明日が来る。先にどちらが踏み出すかは分かっていた。
「ねぇ、アラタ。聞いて欲しいことがあるんだけれど。良いかな」
「……良いぞ」
バレンタインデーの時はどんな反応を取られても大丈夫なように、自宅の前でプレゼントを渡した。でも、今日は駅に降りてから言った。どんな返事があったとしても、暫くは1人で抱えていたい。
「私ね。GBBBBを始めてから色々な人と出会って、色々なことを知って、少しだけ前向きになれたと思う」
殻に閉じこもっていた時。姉から勧められて、何となく始めたゲーム。たかがゲーム。生産性も無ければ、時間の浪費とまで揶揄される物でしかない。でも、そこには掛け替えのない時間があった。
「そうだな。俺もそんな感じだ」
「うん。……それはね、きっと。アラタが手を引っ張ってくれたからだと思う」
あの日、変態共が介入して来たミッションで彼らと出会わなければ、あのバグが無ければ、きっと今。自分達はここに居なかっただろう。
一つ、リンは深呼吸をした。一歩踏み出して、アラタの両手を取って、包み込むようにして握った。
「私。貴方のことが好き。友達じゃなくて、1人の異性として。アラタはどう?」
包み込む手から震えが伝わって来た。彼女がこの告白を絞り出す為にどれだけの勇気が要ったことだろう。
「……俺ってさ。普段は気を遣ったりしているけれど、本当はさ。周りからよく見られたいと思っているだけなんだよ。だから、善人でも無ければ立派でもないけれど、それでも……その気持ちに応えたい」
もしも、自分がGBBBBをプレイしていなければ、もしも、自分があの時タオに誘われていなければ。今も見てくれと風評を気にして、褒められる存在で居続けようとしていたのだろうか。
僅かながらに抱いた反抗心も、ありふれた物と茶化して、自分でない自分を続けていたのだろうか? でも、今は自分の気持ちで応えたいと思った。正解でないかもしれないが、自分の素直な心を打ち明けた。
「……」
雪が降っている。震えていたのは寒かったこともあるのかもしれない。互いの吐息が掛かる距離にいるのだが、不思議と不快では無かった。
お互いに小さく頷いた。リンは1人で帰ろうと考えていたが、もう少しこの余韻に浸っていたくて、彼の手を握って帰路へと着いた。こんこんと降る雪が、自分達を祝福してくれている様だった。