GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「そして時間は過ぎていく 今を思い出に 未来を現実に変えながら」
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『バトルトーナメントもいよいよ準決勝! 龍虎相打つ。アムロとシャア。キラとクルーゼ。もはや、このチームとチームがぶつかり合うのは宿命だったのでしょう。『ビアンカ』VS『フリーダムフリート』! このGBBBBの頂点を決める戦いへと挑む切符を手に入れられるのは、どちらになるか!』
『リベンジを果たすか。あるいは、再び打ち破るのか!』
レコとミスターガンプラの実況に彩られながら、バトルトーナメント準決勝が始まった。ビアンカのメンバーは『アラタ』『マシマ』『ミサ』とクランメンバーのTOP3で編成されており、フリーダムフリートのメンバーも『カオス』『クロカンテ』『丹生』と、ほぼ同様の編成がされていた。
「不謹慎な話だがね。アラタ君、私は今。このチャンスが訪れた幸運に感謝している。碌でもない事件だったからこそ、私達の手でGBBBBをもう一度盛り上げることが出来、君と再び! この大舞台で戦えることを! 私は悦んでいる!」
「俺もだよ! マシマ! ミサさん! 行くぞ!」
フィールドに号令が響き渡る。両陣営、力の限り全力で交戦している姿はユーザーだけではなく、動画を視聴しているユーザー達の心をも揺らしていた。
まだ、始めていないけれど。自分も始めて見れば、こんな胸躍る舞台に行けるのだろうか? ガンダムも知らない。ガンプラを組み立てたこともない。広告だけでしか存在を知らないユーザーがまた一人、GBBBBのクライアントをダウンロードした。
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「シミュレーター技術の転用。か……」
タイムズユニバース社長室。ウィルに呼び出されたカドマツは、彼から渡された次世代プロジェクトのパラパラと捲った上で、目に留まった項目を読み上げた。
「そう。もしも、上手く行けば。ゲームのトッププレイヤーがそのまま操縦者へと転用できるようになる。提携企業の中には、ミサ君が務めている会社もある」
リストに目を通してみれば、確かに彼女が務めている会社も名を連ねていた。成功すれば、このプロジェクトは人類を宇宙へと上げる物になるだろう。
「今まで、水面下で進めてはいたけれどよ。こうして具体的な形になったのは、やっぱり。この間のラシードの一件か?」
「そういうこと。連中はまだ、現段階なら頓挫させれば主権は戻って来ると思っている。嘗めた真似する連中に、そろそろ資本主義の恐ろしさを見せてやろうと思ってね。アイツらの思惑が挟み込む隙も無い位に徹底的に宇宙開発を進めてやる」
前回の騒動の際、ウィルに動きが殆ど見られなかったのは本気で叩き潰す為の準備を進めていたからなのだろう。ただ、カドマツとしては引っ掛かる所もあった。
「でもよ。ナジールの国みたいに、エネルギー産出国の食い扶持を完全に潰したら、それこそ別の問題が起きるんじゃないか?」
「そうならない様に。連中を分断させる為の宇宙開発広報も流している。……宇宙船を作るとして、燃料には何が使われていると思う?」
一部では軌道エレベーターが使われているが、誰もが使える訳ではない。今後、企業による宇宙開発が過熱して行けば、太陽光発電だけでは賄いきれない位に大量の『燃料』が必要とされるだろう。
「ナジールさんの国で産出される石油も、当社で取引させて頂いております。燃料、だけではなく。ガンプラの材料としても」
傍に控えていた、時給メイドのドロシーが付け加えていた。つまり、人間を支える方向から、打ち上げて行く方向へと使う訳だ。
「時々、アンタが冷酷なのかどうか分からなくなるよ」
「僕から言わせてみれば、冷酷なだけの経営者なんて三流だね。日本には『三方良し』って言葉があるだろう? 不正をしている奴らや犯罪者は兎も角として、無辜の人間に恨みを買う様な真似をする意味がないからね」
要するに、これもまた経営者である彼にとっては合理的な判断であると言うことらしい。ならば、自分は気兼ねする必要はないと言うことだ。
「シミュレーターの転用の為に、マザーAIのデータを使っても?」
「勿論、企画書の方をよく読み込んでおいてくれ」
宇宙。大勢の人間が存在を知っていて、サブカルチャーなどでは頻繁に出される物だが、一般人にとってはまだまだ遠い場所だ。
だが、もしも。このプロジェクトを皮切りに、人々が宇宙に進出することになれば、それこそ『機動戦士ガンダム』のような世界が訪れるかもしれない。夢想していた未来は現実の輪郭を帯び始めていた。
「(そうすれば、もしかして。迎えに行けるかもしれんな)」
6年前。少年少女を守る為に身を挺した、彼らにとっての友達であり、カドマツにとって子供のような存在。
今生の再会は不可能だと思っていただけに、湧いて来た可能性を掴み取るべく、彼は文面に目を走らせていた。
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「お、お邪魔しまーす」
「あら、貴方がリンちゃん! まさか、本当に連れて来るなんて!」
「お母さん。リン、困っているから」
アラタの家に招かれたリンは、彼の母親から手厚く歓迎されていた。人の家に上がるのが久々と言うこともあって、愛想笑いと相槌で誤魔化しがちになったが、温かい雰囲気は伝わって来た。胸の奥が熱くなった。
彼の部屋に上がってみれば、ガンプラが展示されているスペース、作業用スペースとくっきり分けられていた。飾られているガンプラを見る。どれもこれもGBBBBで偶に見かけるような、正気を保ったような普遍的な物だが、途中から『ガンダム・タンク』を始めとして明らかにおかしくなっていた。
「なんだろう。バイオハザードの日記とかを見るような並び方だね」
「かゆ、うま」
最終的には『すーぱーふみな・轟』に落ち着いていた。部屋に付いたのは良いとして、何をするか? 残念ながら、2人でガンプラを組み立てられる程、作業用スペースは広くない。
「今日はリンの為にな、用意した物があるんだ」
ドキッとした。一体、自分の為に何を用意してくれたのだろう? すると、アラタはPCを立ち上げた。デスクトップ画面には文の姿が表示されている。
『リン、お待ちしていました。今日は私とアラタが用意させて貰った、とっておきをお見せします』
ゲームが起動し、タイトル画面が表示された。『GUNDAM 0079 The War For Earth』と。正に、今話題の1年戦争を取り扱った伝説的ゲームである。
「え? なにコレ?」
『何って。『GUNDAM 0079 The War For Earth』です。いわゆる『ケツアゴシャア』『クソゲー』『やられ千葉ぁ!』で有名な奴です。実機でプレイするのは苦痛以外の何物でもないので、公式から配布されているバーチャルコンソールで動くようにしています』
折角、部屋に招かれたのに『GUNDAM 0079 The War For Earth』のプレイ動画を見せられるという、思いもしない苦痛を与えられることになったリンは苦悶の表情を浮かべていた。
このまま帰宅して、チャット類とSNS全ブロック必須の悪行と言えるだろう。しかし、惚れた弱み。リンはこの苦行に付き合わされる羽目になった。
「じゃあ、リン。プレイしてみよう」
「え????」
急にコントローラーを渡された。ローポリと実写が混じった奇妙な映像だったが、何処で操作をすればいいかまるで分らない。放置していると、侵入して来たザクⅡがガンダムをザク・マシンガンで撃ち抜いてゲームオーバーになった。
『今のは駄目ですね。インタラクトして、エレベーターに乗ってガンダムに搭乗しませんと。ビギニングでシャア少佐もやっていたでしょう?』
「不親切が!! 過ぎる!!!」
ここら辺は文の優しさなのか。本来は最初のタイトル画面から何度も見直す羽目になるムービーは飛ばして、先程の選択画面からやり直させてくれた。
とりあえずボタンを押したらガンダムに搭乗した。そして、アムロやシャアがやった様に。格好良く敵を撃破するのだろう。
『MSをもう1機見つけました。白い奴です』
「このおっさん、誰?」
一応、パイロットスーツはそれっぽいのだが、アニメ調ではなく実写映像が使われている為、リンにはザクⅡのパイロットが誰なのかまるで分らなかった。
『ジーンですね。ジークアクスで省かれた人です』
文の解説が入っても納得し難い物があった。これからガンダムに乗って戦うのだろうが、リンが想像するのはビームサーベルを引き抜いて格好良くズバっと行くところなのだが、それと思しきアイコンを選択しても何もしない。
『やります!』
そして、ジーンが駆るザクⅡのマシンガンにより、ガンダムは蜂の巣にされて爆散していた。幾ら何でも酷過ぎると思った。
「アラタさぁ! もう無理なんだからさァ!!」
『さぁ、リン。頑張りましょう』
ザクⅡのマシンガンで一発大破するガンダムなんて物は見たくなかった。あれやこれやと武装を試した結果、正解は……バルカン砲だった。
これは現代っ子であるリンには仕方がないのだが、現代の映像技術を見慣れているリンにとっては、躍動感も無い棒立ちバルカンだけで対抗する絵面が滑稽に見えた。
「ねぇ、なんでこんなに動かないの?」
『昔のゲームですからね。動かすのにも凄い労力が必要なんですよ』
かくして、バルカン砲だけで済まされた、史上初のMS戦は盛り上がりもクソも無く終えた。何とか機体を動かして、壁に立てかけていたシールドにインタラクトした。もっそりした動きでシールドを手に取り、ドヤ顔で正面に掲げて来るのだから、画面越しに喧嘩を売られているのではないかとすら思えた。
『よくもジーンを!!』
「へ?」
目の前にヒートホークを振り被るザクⅡ。急にアクションを求められても反応できる訳が無く、連邦が誇るガンダムはヒートホーク1発で両断されていた。
「もしかして、これを作った人ってガンダム嫌い?」
『駄目です。折角、シールドを取ったのだから有効活用しましょう。もう少しで、ビームサーベルを使うカッコいいガンダムが見れますよ』
「誰もがシャア少佐やアムロみたいにうまくガンダムを使える訳じゃないんだよ」
文とアラタから温かいフォローが入ったが、リンは思った。一番ガンダムと言うIPを使いこなせていないのは、このゲームだよと。
親切なことに文が直前まで巻き戻してくれたので、改めて選択を選ぶ機会があった。とりあえず不意打ちに対してシールドを使って防いだ後、ビームサーベルを使った。
すると、ローポリながらも割とカッコいい感じにザクⅡを切り裂いていた。これだけの苦行を経て、ようやくガンダムがビームサーベルを引き抜いたことには感動すら覚えた。
「やったぁ!」
『あ、リン』
しかし、溶断されたザクⅡの核エンジンに誘爆して、ガンダムは愚かコロニーすら吹っ飛んで、ゲームオーバーになっていた。こればっかりはちゃんと原作に則っているので、リンも何も言えなかった。
「でも、だんだんコツが掴めて来たよ!」
「そうだ。リン! やっぱり、お前は凄い…!」
初めて部屋に呼んだ彼女に『GUNDAM 0079 The War For Earth』をやらせるアラタには、きっとDVの気があるのだろう。健気に応えるリンに2人の未来図を垣間見た気がした。
そして、文のお陰でビームサーベルの所まで戻り、驚異的な適応力を見せたリンはザクⅡの爆発をシールドで防ぐという神対応を見せた。そして、外に出たガンダムを待ち受けていたのは、お馴染みのライバル。今、最も輝いている赤い彗星なのだが。
「なんで、ケツアゴ……?」
『実写なので』
しかし、声だけは池田秀一なので顔とCVの同期ズレが酷かった。そして、彼らの待ち伏せによる襲撃を避けられることも無く、ガンダムは大破した。
だが、リンはめげなかった。直ぐに文に巻き戻して貰い、この不意打ちから逃げるべく飛翔して、ようやくこの苦行のchapter1を終えていた。
「リンにも俺と同じ感動を共有出来て嬉しいよ」
「同じだけの苦痛も体験させられたんだけれど???」
『大丈夫です。アラタはきっと、私が居なかった場合は何度も冒頭のムービーからやり直していたハズでしたから』
ゾッとした。あの面白くも何もないムービーを1から何度も見せられるなんて、自分ではきっと耐え難い程の苦痛だろう。
「でも、俺はこのガンダムを見て思ったんだ。バルカンしか使えない、ザクⅡのマシンガンでもぶち抜かれ、ヒートホーク一発で切り裂かれるガンダムが居ても良いんだって」
「自由の原点がネガティブ過ぎない?」
とは言え、クリアした時には謎の充実感はあったし、こんなゲームでも彼には何かしらの感動をもたらしてくれたのだろう。
『では、chapter2を……』
「やらないよ!?」
「でも、俺。リンと一緒にワイワイ騒げるならこれが一番って」
アラタと文が折角選んでくれたのだ。ゲームのクオリティや設定とかは兎も角として、ここまで遊びやすくしてくれているのだから期待に応えない訳にはいかない。
「分かった。Chapter2もやるよ!」
『凄く……嬉しいです……』
「俺も嬉しいぜ!」
ネットなどが無い時は、こうしてリアルで集まってゲームをしていたらしい。
確かに、これは反応が見られて面白いというのもあるのだろうが、ゲームはもう少し選んで欲しかった。リンは健気に応え続けた。
「ねぇ。なんで、バッジを受け取らなかっただけでゲームオーバーになるの? しかも、滅茶苦茶受付時間短くない?」
『このゲームの鬼門であり、最大のクソゲーポイントですね』
何故か、士官バッジを受けとらなかっただけでゲームオーバーになったり、マジで誰かも分からないおばさんから『貴方誰です?』という、士官とは思えない位に無礼な発言を浴びせられたりもした。だが、彼女は運命と出会う。
『アンタかい? ガンダムを操縦していたって言う無茶な奴は? 俺はカイ・シデン。ガンキャノンのパイロットをしている』
「ねぇ。このカイさん、髪薄くない?」
「戦争という狂気が彼を蝕んだんだ」
一番の狂気はこのゲームだよと言う言葉をグッと呑み込んだ。だが、彼女の関心は別の方にあった。彼の隣にいた色黒の黒人男性があまりに見覚えがあったからだ。具体的に言うと、GBBBBのアラタのアバターだが。
『俺はリュウ・ホセイ。ガンタンクのパイロットだ』
「アラタ!!!!」
ようやく点と点が結ばれたような気がした。同時に、なんでこのゲームがGBBBBに繋がるんだという不思議さに頭を抱えずにはいられなかった。
かくして、ホワイトベースは地球に降下しようとするのだが、赤い彗星の慧眼は彼らを見逃さなかった。
『そこでだガルマ大佐。ご自慢のソア・キャノンを借りたいんだ』
「諏訪キャノン?」
『ソア・キャノンです』
活舌が悪いというか、ガンダムを通してそんな兵器が存在していた記憶が無かったので、文字で起こすことが出来なかった。
かくして、シャアとの2度目の対峙が行われるのだが、何故か頑なにバルカンばっかりを使い、相手もマシンガンを使うのでやたらと軽い発砲音で戦闘が済まされるので、本当に戦闘シーンの見栄えがしなかった。このローポリも段々見慣れて、何も思わなくなり始めていた。
そして、ついにあのシーンに巡り合う。赤い彗星との戦いを終えて、帰投したガンダムのパイロット(未だに名前なし)を労う様にして、リュウが言った。
『辛い戦闘だったなぁ。あの赤い彗星とやり合って生きているとは、ラッキィボゥイだぜぃ』
「あ、これかぁ!」
パァっと。この不毛地帯に芽吹く何かを見つけた、リンの表情が輝いていた。アラタと文はこの悪質な洗脳の効果を実感して笑顔を浮かべていた。初デートの時間は無惨に浪費されつつあった。