GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「何をしに来た。裏切者め」
国際犯罪者が収容される施設の面会所にて、ラシードは忌々し気に相手を睨みつけていた。自分と同じく中東系の顔立ちをした男の名はナジールと言う。
かつて、軌道エレベーターを破壊しようとした未曽有のテロリストであり、現在は贖罪の為に、とある人物の下で働いている。
「タイムズユニバースと提携企業は、今後の人類発展の為に宇宙開発を推進していくという声明を発表しました。将来的に石油はエネルギー資源としてだけではなく、人類を宇宙(そら)へと上げる羽として使われて行くことでしょう」
「お前は、それで良いのか? 世界を支えて来た産油国が! 資本主義のまやかしに使われるんだぞ! それでもいいというのか!?」
ラシードは声を荒げたが、ナジールの表情が変わることは無かった。
「まやかしではありません。私達はいずれ地球から巣立つことも出来る筈です。人類の発展は、決して我々を食い散らかすだけの物ではないことを貴方にも知っておいて欲しかったのです」
「騙されるな! ……そうか。路頭に迷った俺達を惑わせ、今度は内ゲバで潰させる気だな!? 詐欺師どもめ!!」
「時間だ」
時間が来たので、面会は途中で中断された。分厚い壁に阻まれているので受話器越しでなければ会話も出来ないのだが、去って行くラシードの表情や剣幕から、何を言っているかは予想できた。
施設を出た後、ナジールは深い溜息を吐いていた。彼の怒りは理解できる。世界から用済みだと見捨てられる恐怖は容易に憤怒へと転じる。
「(ですが、未来は絶望ばかりではないのです)」
偶々、自分はウィルに拾われた幸運があった。その縁で自国の『石油』を優先的に買ってくれるという契約をも結べた。良く言えば、時代に適応し、悪く言えば矜持も何もかも売り払った。
「(彼の言う通り、まやかしに過ぎないか。それとも、Mr.カドマツが言っていた様に。希望に転じてくれるか。今は、信じるしか出来ません)」
願わくば、猜疑心と恐怖に囚われた同胞が、恩讐から解き放たれることを願って、ナジールは闇の中へと消えて行った。
~~
「(う~。緊張する)」
「ミサ君。くれぐれも、粗相のない様に」
ミサを少しでも緊張させまいと、上司は努めて平静に振舞っていた。タイムズユニバースを主体として企業群は『宇宙開発』を推進していくという声明を打ち出した。
ミサが所属する会社も傘下にあった為、これから更に力を入れていくだろうとスタッフ全員が意気込んでいた所。なんと、親会社の社長直々に『サツキノ・ミサ』を呼んで欲しいと指名が掛ったのだ。
「(ウィルだろうなぁ。ウィルだろうなぁ!!)」
「失礼します」
上司が毅然とした声と態度で部屋に入ると、少し大人びたウィルと何故か6年前と一つも容姿が変わらないメイドのドロシー。そして、傍らにはタクマとカドマツの姿もあった。だが、今は仕事中なので余計なことを言ってはならない。
「よく来てくれたね。久しぶり」
「ミサ君。知り合いかい?」
「まぁ、そんな所です」
親会社の社長と知り合いというのは、凄いアドバンテージを得られそうに思えるが、別に便宜を図って貰える訳でもなさそうだし、なるべく彼女は同僚達には言わない様にしていたのだが。
「紹介するよ。こちらにいるのがAIを始めとした情報工学に精通したカドマツ氏と、今度。宇宙開発におけるプロジェクトに必要になるであろう人材のタクマだ」
「よろしくお願いします」
タクマが社会人をやっているのを見て、ミサは噴き出しそうになっていた。
いや、ビルドファイターだからと言って無頼でやって来た訳ではないので、一定のマナーと教養はあると知っていたとしても、仕事中に見ることになるとは思ってもいなかったからだ。ミサの上司が首を傾げた。
「彼は一体? 宇宙飛行士にしては若すぎる様に見えますが」
「今後、宇宙に飛び立つ予定になる男です。企業群合同プロジェクト……『GUNDAM』によって。プロジェクトの情報共有の為に、僕や彼と知り合いであるミサ君に出向して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
親会社から言われたなら、自分達が拒否できるはずもない。だが、上司はミサの方を見て言った。
「君はどうしたい?」
彼女に選択権を与えた。これは彼女に責任を押し付ける為の問いかけであった様に思えるし、同時に彼女の意思を尊重する様な物とも取れた。
かつての顔見知りからの提案、それとタクマとも一緒にいる時間が長く取れるかもしれない。あまりに好条件の様に思えたからこそ、ミサは問うた。
「タクマさん。どうして、貴方はこのプロジェクトに立候補したのですか? 理由をお聞かせください」
彼女には確固たる理由がある。もしも、彼が自分の立場を利用したか、あるいはウィルから指名されたというだけでここに居るなら、ミサは降りるつもりだった。
「人類の発展を願って。という体裁もあるし少なからず思っている。だが、本当のことを言えば、友達を探している。6年前、宇宙で別れた友人を。正直、諦めていた。でも、未来は俺達に可能性を見せてくれた。だから、俺も信じたい。出来ることをしたい。だから、立候補させて貰った」
普通の人間なら一笑に付すだろう。宇宙で別れた相手と再会できるはずなど無い。普通は死んでいるだろうと。
だが、ミサの上司は笑いもしなかった。彼女の上司であると言うことは、目の前にいる青年が何者なのか。何をして来たかを理解したからだ。
「分かりました。よろしくお願いします。カドマツさん、タクマさん」
ミサは2人と固い握手を交わしていた。上司の男は彼女達の交友を見て、静かに微笑みながら言った。
「ミサ君。出向前に業務の引継ぎだけはキチンとやって行くようにお願いします」
「あ、はい! 分かりました、ミナヅキさん!」
彼らが守った未来が、素敵な現実を連れて来る。その始まりの一歩が踏み出されようとしていた。
~~
バトルトーナメント決勝戦を目の前に控えた今。ビアンカの最終メンバーが選出された。タオ、リン、アラタの3人だった。
「もう、僕はネガティブなことは言わへんよ。この間のクラバトでフドウ先生にも励まされたし、リンともええ勝負はしたしね」
「タオ……おめぇ、逞しくなって」
「また、マシマが保護者面している」
マシマが感極まっている様子をカルパッチョが茶化していた。
前回と違ってリンもバトルトーナメント本戦に幾度か出場していることもあって、戦力的には申し分も無いのだが。
「お姉ちゃん。本当に出なくて大丈夫?」
「うん。それにまぁ、リアルでもちょっと忙しくなりそうだしね。だから、普通に参加が難しいんだよ」
「社会人の方達はお仕事の兼ね合いもありますからね」
シーナがフォローを入れていた。バトルトーナメントには殆ど出場してくれていたので、戦力的にも心強いのだが生活との兼ね合いもあるのだから仕方ない。
「じゃあ、今後。ミサさんはIN率も低くなるんですか?」
「うん。多分、下がると思う。落ち着いたら、またINする様になると思うから。その時は……ブランク埋めを手伝ってくれると嬉しいな」
ブランクが出来る程、開けると言うことだろうか。あるいは、そうなることを見越してバトルトーナメントでは獅子奮迅の活躍を見せてくれたのかもしれない。
「勿論だぜぃ。ミサさんの席は何時でも取ってあるからよ☆」
「ゲームやってから気付いたけれど、アラタの真似ってあんまり似てないよね」
本家本元を知ってしまったら、紛い物では満足できなくなるのだ。コレにはアラタも苦悶の表情を浮かべるしかなかった。
「そっか。ミサさんもINしなくなるのか……」
アラタはクランメンバーリストを開いた。文を除いて、数日間ログインしていない名前を見た。櫛の歯が欠けて行く様な、そんな予感めいた物があった。