GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
コウラはオンライン状態を隠したままチャットにログインして、自分あてにメッセージが来ていないことを確認すると直ぐに閉じた。
彼女の部屋の本棚にあるガンダム関連の書籍と言えば『サンダーボルト』全巻位で、彼女のガンダムに対する熱量が然程でないことは伺えた。
ガンプラが納められているディスプレイケースの天面には薄っすらと埃が積もっており、ニッパーやマーカーなどを始めとしたツールも暫く手に取っていないのか整然としていた。
「(何処でも当て馬でしかないか……)」
イキっていた中学生の頃は『ソロモンの魔女』と言われ、持てはやされていたが彩渡商店街のチームに撃破された。彼らの踏み台でしかなかった。
更生して、ガンブレ学園で普通にガンプラバトルに興じ、誰かと深い仲になれるかと思ったら、相手は別の人間を選んでいた。
拗ねて、捻くれていると寄り添ってくれた男子が居たので、今度こそはと思ったら、結局彼も別の娘と結ばれていた。
「(コレで遊び始めてから碌なことがない)」
彼女はジィっとディスプレイケースの方を見た。ガンブレ学園で使っている『ガンダム・サファイア』だ。他にはクラバトで使った青色の軽キャノンも並んでいるが、いずれにしてもそこまで愛着がある訳ではない。中古で売り払おうにも、こんな物を買う奴は居ないだろう。
ガンプラを切っ掛けに始まった恋心が2度も敗れた、となったら。同時に熱が急激に冷めて行くのも無理はないことだった。周りとの熱量は開いて行くばかりで、今となってはGBBBBを立ち上げてすらいなかった。
「(なんで、私だけ?)」
他のクランメンバーがGBBBBを通して出会いや成長している中、どうして自分だけがこんな思いをしないといけないのだろうか?
この疑問が攻撃性に変わらない様に目背ける。すると、更に周りとの距離が広がって行く。やがて、1つの考えに達するのだ。
「(私、必要?)」
戦力的な物としてはマシマもいるだろうし、賑やかしならカルパッチョもいる。指導役や牽引役を買って出ていたつもりだが、正直必要だったかは疑問だ。
もしかしたら、自分が居ない間に陰口でも叩かれているんじゃないんだろうか。戻った所で誰からも歓迎されないんじゃないんだろうか?
「(なんで、私ばかり……)」
ログインして、皆と交流すればこんな誤解も解けるかもしれないが、答え合わせをするのも億劫になり、ベッドに潜った。彼女の心は衰弱していた。
~~
アラタは悩んでいた。晴れて、リンとは恋人関係になりバトルトーナメントも決勝戦まで進んだ。順風満喫と言えたが、どうしても心に引っ掛かり続けることがあった。コウラのことだ。
「それで、僕に相談に来たって訳? まぁ、内容は想像できるよ? 自分が振ったコウラと、どう接すればいいか分からない。って所でしょ?」
同じ様な経験のある丹生に相談を持ち掛けたが、彼は既に察していたらしい。憎らしい位に聡いが、同時に少しばかり希望もわいた。つまり、彼は対応方法を知っているのではないかと。
「先輩はどうしたんですか?」
「別に何も? なんで、僕がユイ姉ェと付き合うのに許可を取らないといけないんだよ。それとも、コウラに『ゴメン、僕。ユイ姉ェと付き合うから君の気持には応えられない』って、言ったとでも思っていた? うわ、はっずかしー。そんな風に想われるなんて予想する程、僕は自信家じゃないんで」
言い方は、この上なく腹立つが意外と筋は通っている。別に、自分が誰と付き合うが勝手だし、自分の思い上がりを鼻で笑われている様に思えた。
「いや、そうじゃなくて。その後は、コウラ先輩とどう接していたかって」
「言わなきゃ分かんない?」
初期のサイド0がキンキンに冷えていたことを考えれば、関係が滅茶苦茶悪化したことは想像に容易かった。かくいう自分も悪化側に加担していたので、何とも言えなかったが。
こうはなるまい。と思っていたが、いざ自分が同じ立場になると何も言えなくなった。そんな彼を嘲笑う様に丹生が続けた。
「ね? いざ、同じ立場になればそうするんだって。君も僕の悩みが分かったでしょ? だから、同じ様に……」
すると、ガラリとサイド0の扉が開けられた。入って来たユイは、丹生の脳天にチョップを落とした。
「何をするんだい」
「アラタ君に余計なことを言わないの」
何をやっているんだと思ったが、少し前までは鬱陶しい遣り取り位に思っていたが、いざ自分も恋人が出来たとなれば、少し羨ましい位に思えた。そんな彼の様子を見て、ユイは微笑んでいた。
「アラタ君は何がしたい?」
「何がって……」
この座りの悪さを解消したいのか、あるいはコウラに良い訳でもすれば胸の蟠りが取れるのだろうか?
いや、そもそも。どうして、自分は彼女と一緒にいたのだろうか? 共に過ごした時間や話したこと。振り返ることは色々とあった。
「丹生君の時はね。何も言えなかったけれど、君の背中なら押してあげたいと思っているんだ」
「……自分が分捕った時には何も言えませんからね」
皮肉気味に言うと、ユイも苦笑するばかりだった。だけど、何をしたいかは分かった。サイド0の部室を抜けて、アラタはコウラにメールを送った。
――
「話したい事ってなに?」
呼び出されたコウラは平静であることに務めていたが、却って声が無機質気味になってしまったので『怒っている』という印象を与えかねない物だった。
「ちょっとだけ付いて来て貰って良いですか?」
素直にアラタの後を付いて行った先にあったのは屋上だった。昼休みにもなればランチを取っている生徒がいないことも無いのだが、冬~春に掛けては基本的に殆どいない。
突っ立ったまま話すのもどうかと言うことで、アラタが先んじてベンチに座ると、コウラも隣に腰掛けた。暫くして、彼の方から口を開いた。
「こうして、2人でいると。少し前のことを思い出しません?」
「そうね。あの頃は、この学園もガンダムも嫌いだった」
それだけ不満を撒き散らしながらも、ここに齧りつく位しか出来なかった自分も含めて。と言いかけたが、引っ込めた。
「俺も似たような物でした。どうして、俺のガンプラは評価されないで他の奴ばっかり。でも、評価されたくて組んだ奴はどうも好きになれなくて。でも、一番嫌いだったのは、そう言うことが言えなくて。『楽しい』しかも認められない空気が嫌だったんですよね」
共感を主とされる時代。少しでも、人の趣味や好みを否定すれば何十倍もの制裁が加えられる世の中で、否定的な感情を出すことは好ましくないと考えられていた。
「そうなの? 意外ね。今の貴方は、とても楽しそうにガンプラを弄っているから」
「GBBBBがあったからですかね。……でもね、きっと。俺一人だったら、GBBBBに辿り着くこともなく、途中でやめていたと思うんですよ」
コウラも彼の言葉には心当たりがあった。もしも、自分一人だけなら大学の中退も考えていたかもしれないと。どうして、今もここに居るのか。すると、アラタは意を決する様にして彼女の方を見て、言った。
「先輩がいてくれたから、なんです。あの時、苛立っていた俺が一緒にいられる相手がいたから、ガンプラを続けることが出来て、GBBBBにも辿り着くことが出来たんです」
「その割には、私に黙ってGBBBBをやり始めたじゃない」
「いや、その、裸一貫で始めたいというか……。やっぱり、リアル人間関係はゲームに持ち込みたくは……」
「冗談よ。幸せそうにしているアラタに、ちょっと意地悪したくなっただけ」
今まで抱えていたモヤモヤから解き放たれた様に、コウラはクスリと笑っていた。釣られて、アラタも笑っていた。
「だから、俺。リンと付き合い始めてから、先輩が遠くに離れていくような気がして……。自分、先輩とまだ一緒に遊びたくて」
「キープしておきたいってこと?」
「いやいや、そんな人のことをタラシみたいに……これも冗談っすよね?」
コウラは静かに笑っているだけだった。なお、彼女の脳内にはフリーダムフリートのリーダーやショウゴの顔も浮かんだりしていたが、言わない様にしていた。
ただ、心持は幾らか軽くなった。きっと、避け続けていても事態は何も好転したりはしなかっただろう。
「えぇ、――冗談よ。アラタ、貴方は年上なんだからリンちゃんをしっかりとリードして上げるのよ」
「はい! 先輩、今晩一緒にGBBBBやりましょうよ」
「そうね。じゃあ、今夜にでもログインするわ」
晴れ晴れしい気持ちになった。校門前で別れ、1人帰路に着いた。
疎んじられている訳でないことは分かったし、今ならGBBBBへログインすることにも躊躇いは無い。……そうして、冷静になればなるほどジワジワと現実が胸に染みた。帰るまでの間、暫し景色が滲んでいた。