GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「今日もコウラちゃん、シミュレーターに籠っているの?」
ガンブレ学園、昼休み。コウラは部室内にあるシミュレーターに籠って、有名プレイヤーのAIと対戦していた。彼女の代わりに、筐体の傍で昼飯を食している新田に、ユイが話し掛けた。
「先日、自分が碌に結果も出せなかったことが悔しいってことらしいです」
ユイ単体なら、彼の反応もまだ柔らかい。当然、ガンブレ学園でもGBBBBは有名であり、昨夜のバトルトーナメントについても知っている者は多い。
「いや、あれは相手が悪かったとしか」
「それでも許せないみたいです」
きっと、新田も制動は掛けていたのだろう。だが、コウラが聞いてくれないので、こうして筐体の傍で彼女の様子を見ている。
出ていけ。という程、攻撃的でもないが部室内は居心地が悪い。自分達のことは放って、他所に行って欲しいという空気を感じる中、部室のドアが開いた。両手に大量の紙袋を抱えたショウゴが満面の笑み出入って来た。
「おぉーぃ。アラタぁ! 何か、食堂の方で発注数をミスったとかなんかでパンが爆安になっていたんだよ! 一緒に食おうぜ!!」
先程までの空気を蹴り飛ばすかの様な勢いだった。空気が読めていないとも言えるが、逆にこれだけ沈んだ空気を打破したのはむしろ空気が読めているのかもしれない。
「弁当食っちゃったから、菓子パンだけ貰って良いですか?」
「俺、ジャムパン嫌いだからお前にやるわ!」
3食パンでジャムの部分だけを新田に渡し、チョコとカスタードの部分だけを美味そうに食っていた。態々、嫌いと宣言してから渡す辺りはノンデリの見本のような男だった。それでも彼はモソモソと食っていた。
「あの。新田君? 怒らないの?」
「ショウゴ先輩は正直者なので」
「だろ? 俺って、誠実で相手を騙さない紳士なんだよ」
「私にすーぱーふみなのコスプレをさせようとしていた男が何か言っている……」
見た目のチンピラ感を裏切らない過去を持っている彼は女子陣からの人気は壊滅的に低いが、この豪放磊落と言わんばかりのスタンスで何故か一定の支持を集めているのが不思議だった。
「新田、おめー。この間の試合凄かったじゃねぇか。俺も先輩として鼻が高ぇよ。お前を見ていて、俺もGBBBBプレイヤーとして頑張らねぇと。ってなって、サラちゃん堀頑張っているんだ。運営の規制があんなに厳しいとは思わなかったけれど、いずれ乗り越える」
「スゲェっす。先輩、女子が2人もいる空間で堂々のロリコン発言。感動しちゃうね」
学園内でも変な人だと有名なユイですら引いていた。どうして、丹生とは仲良くできないのに、コレとは仲が良いのだろう? というのが、ずっと疑問として付き纏っていた。
「(あるいは)」
今も筐体から出て来ない彼女のことを思う。丹生が嫌いと言うよりかは、彼女の感情に呼応しているのではないか? と考えていると、再び部室の扉が開いた。1本だけ缶ジュースを持った丹生が立っていた。
「自販機に皆の分を買おうと思って1000円札を入れたら、1本買っただけで全額取られた……」
「後で自販機の会社に連絡しといた方が良いですよ」
ショウゴに対する物とは打って変わって、新田が吐き捨てる様に言った。だが、これにはショウゴも首を傾げていた。
「なんか、今日は学園の機械の調子がおかしいみたいだな。てか、この間の電車の件と言い、そう言うの多くね?」
「なんか起きているのかもしれませんね」
こうも日々連続でトラブルが起きていたら、流石に何かが起きているのではないかと疑念位は抱く。スマホでニュースを見ると、キャスターが色々と説明をしていた。
『今や、AIの管理が無い箇所は数える位しかありません。スーパーなどの在庫情報から、自販機の温度管理や入金情報等』
『じゃあ、一昔前にあった様な軌道エレベーターのAIがウィルスに侵入された時の様に、悪意を持った第三者によって国が滅茶苦茶にされることもあり得るのではないでしょうか?』
『それについては、専門家の方を呼んでおります。本日、お越しいただいております。情報工学の専門家、カドマツさんです』
見ていた新田は噴き出しそうになっていた。どうやら、自分が思うよりも彼は相当えらい立場にいる人間であるらしい。
『仰る通り、AIの暴走によってというリスクは付き纏います。如何に人間が強固なセキュリティを作ろうと、同じ人間が作る以上は突破できる訳ですから』
『では、対策はどの様に?』
『人間では届かない領域で行うしかないでしょうね。それこそ、AIが追い付かない程のAIの様な。一種、彼らが持つ聖域のような場所を作ることでしょう』
その為にGBBBBを稼働させているのかと思うと、GBBBBは案外国家的なプロジェクトの一環なのかもしれないとすら思えて来た。
「じゃあ、今は誰かが悪さしているから色々とバカになってんのか? ったく、ふざけやがって」
「そのバカの恩恵を思いっきり預かっているんだよなぁ……」
ショウゴは次にコーンマヨパンを取り出してモソモソと食っていた。水分も無く、よくもパンをそんだけ食えるなと感心しながら、昼休みは過ぎていく。
~~
「よし。サラちゃんを手に入れ……」
ロビーにて。激低確率のハードを飛び越え、サラちゃんヘッドを手にしたプレイヤーが居た。頭部さえどうにかなれば、欲望を発露させるには十分なアイデアがあった。だが、GBBBBも対策はバッチリだった。
『おめでとうございます! サラちゃんの頭部を入手した人が出ました!』
「!?」
秘密裏に手に入れていたらコッソリと試すつもりだったが、ロビー全体に入手情報が告知されていた。周囲のプレイヤーから一斉に関心を向けられていた。
もしも、彼が猥褻な考えを実現した場合、打ち首になるだけではなくSNSなどのアカウントにも全力ファンネルが飛ばされ、囲んで棒で叩かれることになるだろう。かと言って、ビルドをしなければ妬み嫉みのやっかみを受けるだろう。
「良いだろう……」
しかし、標準的プレイヤーである彼は周囲のプレッシャーに屈することはなかった。直ぐにマイルームに入った彼は、予め保存していたビルドを読み込み、頭部にそっとサラちゃんを据えて、微細な調整を施して表に出て来た。
「見ろよ。スク水だ」
「レコちゃん! 判定は!!」
スク水サラちゃんだ。ご丁寧に浮き輪とスイカまで再現してある。露骨なアレではないが、判断は非常に難しい。健康的な姿まで規制してしまえば、これもやはり表現関係に引っ掛かってしまうからだ。……彼は打ち首にならなかった。
周囲からは歓喜の声が上がった。一転して、彼は確率の壁を越え、規制を潜り抜け、カワイイヤッター! を体現した英雄となった。
「という訳で、アイツが私とグスタフに続く3番目のメンバーなんだが」
「紹介方法ぉ!?」
ビアンカの元に挨拶に来ていたドーラがそんな解説を付け加えていた。あまりに斬新な紹介にタオも奇声を上げていた。グスタフは仲間の雄姿に静かに拍手を送っていた。
フリーダムフリート程の大規模な物になれば、1つのクランから2つのチームが出場することもあるだろう。驚くべきは彼らの機体だった。リンもちょっと引いている。
「あの。なんで、皆同じ様なビルドで? しかも、ドーラさんみたいな……」
「当然だよ。私の再現をしてあるんだからな。お前達の渾身の作品は私に蹴散らされるんだ」
まさか、プレイヤーとしてではなく機体としても参戦して来る気骨溢れる発言に、ビアンカのメンバーは戦慄していたが、一部の者達は感心すら覚えていた。
「美プラで参加して来る奴はたま~にいたけれどよ。自分のアバター再現する奴は初めて見たぜ……」
プロの世界に身を置き、アマチュアの戦いも見て来たマシマからしても相当珍しい類だったらしい。アラタも冷や汗をかいていた。
「自分のアバターを再現して戦わせるなんて、発想。自分に絶対の自信がなければ、出来ないことだぜ。スゲェ、ストロング☆レディだぜぃ!」
「自身の考えをアバターだけでなくフィールドやロビーでまで再現させるだなんて。コレが本当の没入と言う物なのですね」
シーナも甚く関心を示していた。先の戦いでもあったが、美プラを大舞台に駆り出した時、パーツアウトなどをした時に著しく美観を損ねる。吹っ飛ばされた箇所はワイヤーフレーム状として形は保たれるのだが、美プラがそうなっているのを見るのは心苦しく思う奴もいれば、そうでもないリョナラーもいる。
「何を言っているんだい。戦いの中で傷付いてこそ、美しさが輝くのさ。だから、こいつらに使わせているのさ」
物静かな巨漢であるグスタフもサムズアップをしていた。だが、彼女の意見に真っ向から反対した者がいた。彼は愛機の真TALE・レコでプリプリ怒るエモーションを繰り出しながら声を上げた。
「そんなの、間違っている! 愛した娘が傷つくことをよしとするなんて!」
「主人公みてぇなこと言ってんな」
彼の愛機の製作者であるアラタが揶揄する様に言ったが、内心はちょっぴり喜んでいた。そこまで愛着を持ってもらえれば、ビルダー冥利に尽きる。
だが、彼の優しく甘い意見を断罪する様にして、無言だったグスタフが重い口を開いた。
「お前は、その機体を、信用していないのか?」
「なに?」
「傷付いた位で、ドーラの美しさに陰りが出るなどあり得ない。戦うのが嫌なら、仕舞っておくんだな」
「グスタフ、止めな。こんなチェリー☆ボゥイにアンタの思想はデカすぎるよ」
なんと、先程の一瞬でドーラはアラタのキャラ付けまで奪おうとしていた。紳士的だったカオスやクロカンテ達と違い、非常に挑発的で好戦的な者達だった。
先程から彼女の掌の上で転がされているアラタ達が楽しそうに見える一方、このノリについて行けないタオは、先程から微動だにしないカルパッチョに耳打ちをしていた。
「カルパッチョさん。この人ら、いつもこんなノリで……?」
『おっほっほほホオーウホッホアアー!!!』
彼女のVCから聞こえて来たのは謎の奇声だった。ただし、カルパッチョの物ではなく、声優と思しき誰かのボイスをAIで加工している様な感じだった。
「なにしてんの……?」
「何って。見て分からない? コンポートの声を生み出そうとしているのよ。コイツらの会話を聞いているより有意義よ」
ひょっとして、フリーダムフリートってヤバい奴しかいないんじゃないんだろうか? カオスとクロカンテだけが例外で、ボーボボの方が標準的だったんじゃないんだろうかと。
右も左もバカしかいないので、先程からこれまたお地蔵さんの様に微動だにしない、文の方へと話しかけた。
「文。大丈夫?」
「すいません。彼らの言うことが一つも分からなくて、思考が停止していました」
「なんて普通の反応なんや……」
タオは感心していた。こういった常識的な考え方が蔑ろにされるGBBBBの現状こそがおかしいのだ。ただ、彼らがどう思おうが会話は進んでいたらしく、一応まとまりを見せていた。
「良いぜ! 4回戦目。俺も出る!! リンちゃん! 俺と一緒に」
「いーーーやーーーー!!!」
グスタフの挑戦を受けたセリトが意気揚々と出撃しようとしたが、リンからは思いっきり拒否られていた。タオの方へと視線を向けたが、やはり彼も首を横にブンブンと振っていた。
「なんでだよ! お前も、俺をすーぱーふみなで撃破していただろ!!」
「いや、あれは当時の冷めていたセリト君を目覚めさせるためだけにやっただけで……」
ここまで変貌するなんて、僕。聞いとらへんで! と言いたげそうだったが、止めた。彼をこの道へと突き飛ばした責任があるのだ。ならば、やはり出場するべきかと思って、コッソリと文が手を挙げていた。
「彼らの思想は非常に興味深いです。アラタ、私も彼らの事を知りたいので、参加させて貰っても良いですか?」
「勿論だぜぃ! ここに、史上最強の美女合戦が行われる訳だ!」
美プラ、美少女、美女アバター。間に挟まるガンダム・タンクと黒人パイロットが物凄いノイズになっていたが、ドーラは高笑いをしていた。
「アハハハハ! GBBBB史上。前代未聞の戦いになりそうじゃないか。ガンプラを磨いて、待ってな!」
実に悪役美女らしいムーヴを見せながら、彼女はロビー中央で絡まれている3人目のメンバーを回収して、アラタ達が居るサーバーから抜けて行った。かくして、4回戦のメンバーは決まった訳だが。
「やぁ、皆! ……なんか、変な空気だけれど、何かあったの?」
丁度、会話が終わった位にミスターが入って来たので戸惑っていた。流石にあんな来訪者の存在は想定しなかったのか、皆も困惑していた。