GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
男は中東の生まれだった。世界を支えるエネルギーの産出国に生まれ、自分達が人類の未来を担うと信じて疑っていなかった。軌道エレベーターに宇宙太陽光発電なんて物が出来なければ。
世界的に宇宙開発の進捗が遅々としていたのは技術力や資金の問題もあっただろう。だが、もう一つ大きな問題として立ちはだかっていたのは『利権問題』だった。世界中を賄うエネルギーの産出国が異議を申し立てていたこともあり、中々世論は動こうとしなかった。
交渉、討論、技術検証。各国が協議を重ね続ければ、続ける程。市民にとっては遠い世界の出来事になり、ネガティブキャンペーンやデマゴーグなどを用いて、倦厭感情を煽り立てて行く中。1つの事件が起きた。
「……あの無能め」
悪徳セキュリティ会社の社長を使い、軌道エレベーターで大事故を引き起こし、宇宙開発はとん挫するハズだった。そうはならなかった。
世界中で流行っているホビーを再現した工業機械に乗った少年、少女が世界を救った。誰にとっても分かりやすく、夢と希望に溢れたおとぎ話。大衆の感動は停滞を破壊し、宇宙開発は加速した。
「何故、お前まで」
男は写真立てに映っている男に問いかけた。彼と共に並んでいる男の名は『ナジール』。件の事件以降、加速する宇宙開発を止めるべく奔走したが、やはり彼を止めたのも先の事件の少年、少女だった。
もはや、エネルギーの産出国は身売りを始めている有様だ。かつて、世界を支えて来たということも忘れ去られて。
中には、石油などをホビーに転用できないかと画策している所もあるらしいが、男にしてみれば、自分達を貶めた存在に擦り寄る惨めであさましい連中だとしか思えなかった。
こうして苦境に喘ぐ中、世界は自分達が陥っている状況も知らずに進み続けている。許せるハズなど無かった。特に、自分達を混迷に陥れた玩具と件の少年、少女達を。
「ラシード様。マザーAIに関してのことです。社会インフラにも使われることを想定して、ほぼ新規で作る為ウィルスを混入させることは難しい様です。……ですが、特定の因子をバックドアの様に仕込むことは出来るでしょう」
「どうやってですか?」
「例のオンラインゲームで生まれた特異的派生AI。彼女の周辺のログを解析した結果、彼女自身を恣意的に変化させます。我々が味わった苦痛を経てね」
「良いアイデアです。ぜひ」
ラシードと呼ばれた男は口角を釣り上げていた。6年前に止められた野望は再び動き出そうとしていた。
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「おぉーい。お前ら、見てくれよー!」
放課後のガンブレ学園。GBBBBなどに感化されたガンプラのビルドに精を出している部員達の集中力をかき乱す様な間抜けな声と共に現れたのは、モリタ・ショウゴだった。
手には『機動戦士ガンダム連邦VSジオンDX』と書かれたパッケージが握られている。全部員がアラタの方を見た『お前担当だろ』と。仕方なく対応した。
「先輩、なんですかそれ?」
「爺ちゃんの家で見つけたんだよ。筐体に入ってやらないタイプのガンダムゲーだぜ? これはもう、GBBBBの先駆けだろ!! ウチの部室にコレを遊ぶためのゲーム機あったよな! 一緒にやらねぇか?」
「ここガンプラを作る部なんですけれど……」
「資料の一環だよ!」
こんな日に限って、ユイ、丹生、コウラもいないので仕方なくアラタが対応することにした。先輩が置いて行ったという『PS2』というゲーム機を取り出したが、2人して操作方法が分からなかった。
「もしかして、この右下のボタン押すんじゃね?」
「うわ。ディスクトレイが開いた。リアルで初めて見た……」
今の時代、ディスクトレイに態々納めるタイプの物の方が少ない。おっかなびっくり、スマホで起動方法を調べながら二人は頑張って起動させようとしていたが、ここでまた一つ問題が起きた。
「電源を繋ぐところは分かったけれどよ。テレビと繋げる線はどれだ? HDMI端子がねぇぞ? 何か、黄色、白色、赤色の3本まとまった線はあるけれど」
「先輩。スマホで調べてみた所、これがAVケーブルって言われる奴で、テレビとゲーム機を繋ぐ奴らしいです」
「え? 3本も繋ぐのか? 繋ぐ所あったっけかな……」
これまた四苦八苦しながら、頑張って繋げた所で映像が出力された。機動戦士ガンダム連邦VSジオンDXのタイトル画面になっていたが、2人して目を細めていた。
「画面汚いっすね……」
「なんか、ボソボソしているよな」
ガンプラのビルドに集中していた部員達も気になっているのか、チラチラこちらの方を見ていた。とりあえずゲームであれば感覚だけで始められるので『アーケード』を選択して、ジオンを選択していた。
「お。連邦の機体も鹵獲カラーって設定で使えるんだ。でも、俺は王道を行くザクⅡだな」
「アレ? イフリートとか、ヅダとかは無いんす?」
「無いみたいだな」
早速、バトルに入っていた。ゲームスピードはあまり早くなく、周囲のテクスチャや機体のモデリングが気になる所だが、いざゲームを始めてみれば2人共、細かいことは気にしていなかった。
「先輩! 後ろから、ビームライフル来ているって!」
「ガードコマンドは……ねぇの!?」
どうやら、対戦ゲーだというにガードコマンドが無いらしい。もはや、スタイリッシュに戦うことを諦めて、ヒートホークでガンガン殴っている姿は、正に新兵めいたムーヴだった。
さて、こんな楽しい雰囲気に周りの部員達が惹かれない訳が無い。いつしか、皆がガンプラを作る手を止めて、2人の背後に来ていた。
GBBBBの様な高度な駆け引きがある訳でも無ければ、美麗と言うには少し苦しいグラフィックであるにも関わらず、夢中になれるだけのものがあった。
「っしゃあ、勝ったぞ!」
何とか、相手の戦力ゲージを0にした時。アラタを含め、部員達から歓声の声が上がった。……位で、彼らを睨みつける女性が1人。コウラだ。
「なにやってんの?」
「ガンダムだよ。ガンブレ学園の生徒なのに、分かんねぇのか?」
相手の威圧を跳ね除ける胆力だけは、アラタも皮肉抜きで尊敬していた。だが、周りは蜘蛛の子を散らす様にして作業に戻って行った。流石に本人も空気を察して、渋々電源を落としていた。
「なんで、アラタも止めなかったのよ」
「いや、その。昔のガンダムゲーって、どんなのかな? って思ったんで」
「呆れた。今更、昔のゲームをやって何になるのよ。少しでも筐体の方でバトルトーナメントに向けての……」
彼女の物言いにアラタがムスーっとしていたので、コウラも言葉を引っ込めていた。そんな二人の空気を察したのか、モリタが間に入った。
「今を見る為によ。昔を振り返ることも大事だと思うんだよ。今も連綿と続くガンダムゲーはここにあったんだよ! 当時の感動と楽しさがここにある。これはもう歴史の授業だよ!」
「?????」
ショウゴが何をそんなに熱く語っているかよく分からなかったが、部員達がニッコリと笑顔を浮かべていた。
「ショウゴ先輩。マジ半端ねぇっす」
「だろ?」
「バカなこと言っていないで、その邪魔なゲーム機を仕舞いなさい。他の部員の妨げになるでしょう」
結局、コウラの正論パンチには敵わず。アラタとショウゴは渋々とゲーム機とソフトを片付けていた。その際のことである。
「先輩。このパッケージ汚いっすよ。ちゃんと拭いておかないと」
「暫く放置されていたからな。飽きちまえば、そんなモンだろ」
別段珍しいことではない。アニメ、ゲーム、漫画。色々な物にハマることはあるが、いずれは飽きてしまい、やがて触られなくもなり埃も積もる。
だが、それはおかしなことではない。1つの物に飽きて、次の物に目を向けることが出来るから、新たな作品を知って行くことが出来るのだ。
「(でも)」
ふと、アラタは思った。自分もいつかGBBBBにも飽きてしまう日が来るのだろうか? 今は快進撃が続いているから良いとしても、マイスターに負けるにしても勝つにしても、ある日急にやる気が無くなって。なんてことはあり得るかもしれないし、不思議なことでもない。
共通の話題が無くなって、皆とも疎遠になるかもしれない。今はガンブレ学園に通っているからガンプラのことは日常的に意識しているが、ひょっとしたら全く関係のない仕事に就いている可能性だってなくも無いのだから。
「(そん時に考えれば良いか)」
少なくとも今は無縁の話だ。文のことだって気になるし、バトルトーナメント決勝戦のことだってある。ゲーム機を片付けた後、アラタは作業机に向かいガンプラのカスタムを始めた。