GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「どういうことだね? 君の方で彼の考えを是正してくれると言っていたではないか。GBBBB内で彼がアセンブルを弄っている様子が見当たらないんだがね」
『まだ、迷っているのですよ。普通のMSを組むのも時間が掛かりますからね』
GBBBB内のユーザーのデータは基本的に上層部には筒抜けである。ログインや発言だけではなく、そのプレイヤーがどの様にガンプラを弄っているかまで分かるのだ。
「……良いかね? このゲームはガンダムを組み立てるだけのゲームでは無いんだよ? 将来的には世界を支えるマザーAIが、最初に運営したサービスになるのだからね。多くの人に愛された、という謳い文句を実現しなければならない」
彼らはゲームよりも、このサービスに関わっているマザーAI『アウラ』に多大な期待を寄せていた。将来的には自国だけではなく、各国のサービスやインフラなども担い、いずれは莫大な富と権力を手中に収める。
サーバーの運営費から広告、ガンプラ系列店への筐体や機器の導入など。将来を見据えた投資をしている手前、万全の手は打ちたい。その為にも羽虫のように漂う不安要素は全て消し去りたかった。
『しかし、そこまでのご期待をなさっているのでしたら。どうしてゲームではなく、もっと大々的に知られる物で運用されなかったのでしょうか?』
「このAIの基幹部分を作った男が、まずはプログラムの安全性や不具合を確かめに試験運用をしたいと言ったからだ」
と言っても、無碍に出来る意見では無かった。もしも、最初から社会インフラなどに携わる部分に出して失敗をすれば、今後の展望は危うくなる。その点、ゲーム位なら一般人の愚痴程度で許されるからだ。
『その男のお陰で、私達の学園にも入学希望者が大勢増えたのは感謝するしかありません』
「だったら、少しは恩を返せ」
短く告げて、男は電話を切った。GBBBBのデータは一瞥する程度だったが、彼が食い入るように見ていたのは、諸外国のデータだ。いずれもIT関係の企業であり、彼らに対してメールを打ち込んでいた。
『御社のコストの削減の為にも『AI』の導入は如何ですか?』
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「(なんで、こんな所に来てんだか)」
ガンブレ学園に居ても落ち着かないし、家に居てもGBBBBをプレイする気も起きなかった彼は、彩渡商店街へと足を運んでいた。気軽に立ち寄れる場所では無いが、学校にも家にも居づらいので何となく来てみた。
表通りはガンプラの聖地として家族連れから1人客まで幅広い年齢層の人間がいるが、少し裏通りに入れば閑散としている。ミサとリンの実家である模型屋に入店した。
「いらっしゃいませー。って、おや。君は……また来てくれたんだ。リンも帰って来ているよ。呼んで来ようか?」
「あ、いや別に……」
「呼んだ?」
店主であるユウイチが声を掛けるよりも先に、リンが近くに居たのか顔を出した。すると、彼女は目を丸くしていた。
「アレ? アラタじゃん。どうしたの?」
ここは模型屋なのだから買物に来た。でも、良かったのだが。誤魔化すつもりにもなれず、本当の所を言うことにした。
「ちょっと、色々と悩むことがあるからお邪魔しに来ました」
「何かあったの? いや、むしろあり過ぎる位だと思うんだけれど」
何もせずに長居するのは悪いと思ったのか。アラタは店内を見回して、とある商品に目を輝かせていた。
「デスティニー&ゼウスシルエット……」
「ごめんね。それ、予約注文分の物なんだ。通常販売分は売り切れちゃってね」
「ぐぬぬぬ。悔しいと思う気持ち半分、でも。そんなにも種自由のシンちゃんの活躍に惚れこんでいるファンが多いから嬉しいと思う気持ち半分。あ、転売とかじゃないですよね?」
「それは大丈夫だよ。最近は便利になったからね、ホラ。このアプリでガンプラの購入履歴が分かるんだ」
購入するには専用のアプリが必要だった。アラタもインストールしている物であり、特に人気な商品は過去に一定の履歴が無いと購入できない様になっている。
「始めて購入しよう! って子が、買えないのがちょっと気になるけれど」
「必要なハードルではあるから。ちょっと融通利かないアプリだとは思うけれど」
あまりガンプラを組み立てることが無いリンとしては思う所があった。ただ、アラタみたいなビルダーとしては全く問題なく使える代物であるらしい。
ただ、お目当ての品は買えなかったので諦めて『インフィニットジャスティスガンダム二式』を購入して、作業用スペースに移動していた。
「ねぇ、アラタ。私も見て良い?」
「良いよ」
リンは一緒に作業用スペースに移動して、アラタがガンプラを組み立てる様子を近くで見ていた。当たり前だが、素人の自分と違って彼は非常にスムーズにガンプラを組み立てている。
「……何かあったの?」
「もう、それは色々と。なぁ、リン。GBBBB、好きか?」
何を意図しての問かは理解しかねる所であったが、リンはGBBBBの光景を思い出した。確かに魍魎跋扈と言った具合だが、以前ほどの嫌悪感はない。
「好きってのは公言しにくいけれど、皆が居るしね。結構気に入っているよ」
「そうか。俺も気に入っている」
「知っている」
散々、タオとリンを連れ回して馬鹿をして、マシマとセリトのダブル馬鹿男子と大騒ぎしたかと思ったら、シーナとカルパチョッというアホ2人と騒ぎまわり、コウラがキレ散らかして、ミサがリアクション要員となり。文が眺めているのがいつもの光景だったからだ。楽しそうに見えない訳が無い。
「実はな。今、ちょっと偉い人に相談されているんだよ。GBBBBの決勝戦は普通の機体で出てくれって。PRの為にもクリーンなイメージで行きたいって」
「……え?」
つくづく、このアラタと言う少年は目上の人間から絡まれやすい性質を持っているらしい。たかが、ゲームで上の方から『お願い』されることになるとは思っても居なかったので、リンも驚いていた。
「リンの方には何も?」
「私は特に……」
「じゃあ、俺だけかな。この分なら、タオも無事かな?」
一安心している様だった。恐らく、タオの方にも声は掛かってないだろうと思うが、リンは気になることがあった。
「アラタ。その『お願い』ってのに、従わなかったらどうなるの? まさか、学校を退学とか。部活を辞めさせられちゃうとか?」
「漫画やアニメじゃないんだから。俺がどうこうされたりしないよ。むしろ、要求を呑み込んだら、良くしてくれるよってさ。負けろとか言われている訳でもないしな」
今の時代、脅しを掛けたりした時の証拠が残れば致命的なダメージが行きやすい。ならば、甘やかした方が相手も動かしやすいと言う物だ。
機体を普通の物にするだけ。魔改造ふみなやら異常美プラを毛嫌いしていたリンとしては願ってもいないハズだが、素直に賛同する気にはなれなかった。
「アラタはどうするつもり?」
「正直に言うとさ。ビビっているんだ。だってよ、ここで『はい』って頷いたらさ。絵面的には良いかもしれないけれど、将来ガンプラにもガンダムにも飽きた時にさ。どうして、あの時にあんなことしちゃったんだろう? って、思っちゃいそうでさ」
利益を突っぱねることは絵面や武勇伝的には悪くはない。だが、将来的に自分が大成できるとは限らないし、いずれはガンダムにも飽きる時がやって来るかもしれない。そうなった時、果たして自分は利益を切り捨てたことを良しと思えるのだろうかと言う不安がまとわりついていた。
「もっと言えば、GBBBBってサービスがいつまで続くかも分からないし」
リンは少し驚いていた。彼女が知っているアラタは皮肉気な所はあるが、基本的に人が良く、意外な所で熱さも見せていたので、こう言った即物的な物で悩んでいるのが予想外だった。彼のことだから跳ね除けると思っていたのだ。
だが、見方を変えれば将来について真剣に悩んでいるということでもある。だから、軽々に『突っぱねろ』なんてことを言う気にも慣れなかった。なので、リンも本心から当たることにした。
「ねぇ、アラタ。私の両親の話、聞いているよね?」
「え。あぁ……」
リンの両親は死去しており、親戚であるミサの家に引き取られたという話は聞いているが。
「私ね。お父さんとお母さんっていつまでも一緒にいる物だと思っていた。別れるにしても、2人がお爺ちゃん、お婆ちゃんになってからだと思っていた。当たり前の日々は、当たり前じゃなかった」
アラタだけではなくユウイチも意識を向けている。彼女が経験した別れはあまりに辛い物だった。心を閉ざしてしまう程に。
「どうして、もっとちゃんと話をしたり。もっと色々として上げられなかったのかなって。だって、意識したことも無かったから。この先にも機会はあるだろうし、いつかやればいいと思っていた」
無くしてから気が付く。なんて言葉は有り触れたフレーズだが、誰もが共通して分かる位に明白なことなのだ。
「私はまだ未来とか将来に対してしっかりと考えを持てる訳じゃない。でも、二度と後悔したくないから。私は今を全力で生きたいと思っている。だって、今は『今』にしか無いんだから」
いずれ、またタイミングが巡って来るだろうなんて考え方を彼女は持っていなかった。終わるから、と距離を取っていたアラタに対して彼女は真反対の意見を持っていた。何時か終わってしまうなら、今を全力で当たるのだと。
「参ったなぁ。そう言う真っすぐさに俺、弱いんだよなぁ」
「惚れた?」「割と」
軽口を叩き合いながら、アラタはインフィニットジャスティスガンダム二式を組み立てていた。ただ、この店に入って来た時の鬱屈とした表情は消えて、前の様に笑顔を浮かべているのを見て、店主であるユウイチは微笑んでいた。