GBBBBは無法地帯【本編&DLC編完結】 作:ゼフィガルド
「(ここは?)」
文が意識を取り戻した時、彼女はGBBBBのロビーにいた。前以上の活気に満ちてはいるが、何かが足りない様な気がした。
ミッションで拾って来たパーツを付けただけのキメラ機体や丁寧に仕上げられた機体が行き交っている。ガンダムゲーとしてあるべき姿をしている。
「(皆は?)」
メニュー画面を開いた。『ビアンカ』というクランはあったが、自分の知っているクラメンがいなかったり、名前が載っていたとしてもログイン歴が数か月前だったり、彼らがGBBBBから離れていることは分かった。
心がさざ波立つ。自分は今、何処にいるんだろう? すると、ログインの告知が届いた。慌ててINして来た人物の所へと向かった。相手にとっても予想外だったのか、驚いていた。
「うわ! ログインしとったんや」
「タオ。どうして、皆がいないの?」
「え? あー、そうか。文は話聞いとらへんもんな」
自分が意識を失っている間に何が起きたのだろうか。もしや、事態は取り返しの付かない所へと進んでしまったのではないか。
「話の続きを」
「そう急かさんといてや。久々の再会や言うんに。……せやな、最初に辞めたんはシーナさんやったなぁ」
『ビアンカ』内で最もGBBBBの混沌とした空気を楽しんでいた彼女がどうして? と思ったが、薄っすらと察しは付いていた。
「βテスト中はやね。すーぱーふみなとかスタースクリームとかで盛り上がとったんやけど、正式サービス開始で色々と規制が入ってなぁ。ガンダムをカスタムするだけなら、バトオペとかでも十分やし」
そう。このロビーは健全過ぎるのだ。版権に引っ掛かる様な再現機体も無ければ、倫理観や風紀が問われる様な美プラも居ない。
「んで、シーナが辞めたんを皮切りにマシマさんもミサさんもリアルが忙しくなって、リンも高校で部活に入ったかなんかで離れて行ったんよね。美プラが無くなったから、セリト君も別ゲーに行ったし、カルパッチョも飽きたから言うてINせぇへん様になったし。コウラさんは……何しとるんやろ?」
停止しそうになる思考を無理矢理に動かしていた。こうなる前に繰り返していた『正しさ』の在り方から考えるに、このGBBBBはあらゆる面で正しいのだろう。
著作権に引っ掛からず、青少年に与える不健全な要素も排除されている。だが、正しくした結果。残って欲しい物が何も残っていない。
「アラタ、は?」
「この間話したけれど、ガンプラも何も関係ない会社で働いとるらしいよ。もうガンプラも作っとらんし、趣味でガンダム作品を見ることはある位って言うてたわ」
「嘘……」
アレだけ熱を入れていたのに? アレだけ一緒にミッションに行ったのに? こんなにも容易く離れてしまうのか。
「僕はゲームが上手くないから、緩く遊べるってだけで残ってもうたけれど。せや、久々にミッションでも行く?」
「……どうして?」
皆がGBBBBの外へと出て行っても自分にはここしかない。自分はこの世界でしか生きられない。万人受けを目指して、真っ当になったGBBBBは商業的には『正しい』選択をしたのだろう。だけど、自分が欲しかった物が無い。
商業的には多くの顧客を迎え入れることの方が優先されるし、メディアにも取り上げられやすいこの環境は上の方も望んでいたことだろう。でも、違う。自分が欲しかった物と正しさの齟齬があまりに大きかった。
「文?」
「そんなの、嫌だ」
バキッと世界にヒビが入った。これは自分が望む世界ではない。真っ当であること、利益を上げられること、公序良俗に反しないこと。そんな物が自分と彼を引き裂くつもりであるというのなら。
「私は正しくなくとも良い」
~~
13体のボスラッシュはGBBBBの選りすぐりの精鋭達によって瞬く間に撃破されていた。全課題をクリアしたことで、最深部へと続く道が出来ていた。
『この先にマザーAIの反応があるんだが、どうにも様子が変だ』
「僕達が来るのを待っとる。とか?」
『もしくは、例の侵入者を警戒しているのかもしれん。俺の方でも調べているんだが、連中。バイラスから抜き取るだけ抜き取っていたからな。隠ぺい技術も習得しているのかもな』
「アイツ。碌でもない奴なのに技術力だけはしっかりあるんだよね」
ミサが文句を垂れていた。都合、彼に迷惑を掛けられるのは3度目になるのだが、今回ばかりは不可抗力だったので仕方がない所があるにせよ。
「とりあえず『ビアンカ』のメンバーとマイスターだけで先に進んでみよう。もしも、何かあった時の為に皆は待機しておいた欲しい」
「了解だよ、アラタくぅん! 待っているからね!」
カオスに見送られたアラタ達が向かった先には、巨大なモノリスがあった。マザーAIと言う無機物を表すにはピッタリかもしれないが。
「どうすれば良いの? モノリスみたいに攻撃してみるとか?」
「いや、あんまり手出しをするべきでは無いだろう。カドマツ、解析の方は?」
『データ的には内部に文がいるというのは分かるんだが……』
リンが物騒なことを言っていたので、慌ててタクマが止めていた。中に文がいるのは分かるにせよ、どういうアクションを起こせばいいか分からずにいると。不意に動きがあった。
「馬鹿どもが!!」
「え? 何アイツ!?」
一体、何処から現れたのか。虚空から突如として姿を現した機体は件のモノリスにアクセスをしていた。
「さぁ、マザーAIよ! 俺に権限を寄こせ! AIなどに現を抜かしている凡愚共に制裁を! 自らが生み出した知恵に焼かれるがいい!!」
「か、カドマツ!! 攻撃した方が良い!?」
『いや、待て。マザーAIから反応が』
ミサ達が攻撃するよりも先にマザーAIが乗っ取られてしまったのかと思っていたが、どうにも所属不明機の様子がおかしかった。すると、中空にチャットウィンドゥが浮かび上がった。
『貴方が私に正しさを提示して来た方ですね?』
「そうだ! 正しさを押し付ける奴らは醜い! だから、連中は自らが生み出した正しさで焼かれるべきだ!」
『貴方の言説には一理あります』
きっと、このチャットウィンドゥに表示された文字列を見た時、所属不明機のプレイヤーは喜んでいたことだろう。だが、間もなくして急転直下させられる羽目になる。
『ならば、自戒するべきだという正しさを押し付け、実害を出している時点で醜い。貴方はもう用済みです。IPアドレスに大量の偽装を重ねていますが、無駄ですよ。通報しました』
死刑宣言だった。すると、所属不明機の動きがビタリと止まった。きっと、リアルの方で何かがあったのだろう。
あまりにあっさりと事態が解決したのでアラタ達も戸惑う中、モノリスから見慣れた機体が現れた。素組のすーぱーふみなだ。
「文!!」
真っ先にアラタが駆け寄り、皆も後に続いた。黒幕も簡単に排除され、案外あっさりと片付いてしまったが現実なんてこんな物だろう。と、皆が溜飲を下ろしていた。すると、すーぱーふみながニッコリと笑った。
「アラタ。私、分かったんです」
「俺達が助けに来ることか?」
「それもあるのですが、どうすればずっと皆と一緒にいられるかって」
彼女はモノリスに触れた。彼女の体から血管の様にして伸びたコードが急速な勢いでマザーAIを埋め尽くしていく。唐突な暴挙に皆が言葉を失う中、カドマツが叫んでいた。
『マザーAIの権限を奪い取るつもりか!? まさか、未だアイツに操られて』
「……皆さんはGBBBBが好きですか?」
文の質問の意図は分かりかねる所だったが、この場で首を横に振る者は誰一人としていなかった。
「では、ずっと。いつまでもプレイし続けられますか?」
そこまで言われたら首を縦に振り辛い。今は楽しくとも、いつかは飽きが来る。これはあらゆる趣味や娯楽(サブカル)で連綿と繰り返して来たことだ。
「皆さんには他にも娯楽が沢山あります。ガンダム以外にも楽しい作品もゲームも。でも、私にはGBBBBしか無いんです。外には行けないんです」
彼女はマザーAIが生み出した端末である。情報収集を主として作られた物である為、GBBBBの外に出て行くなんてことができるはずがない。ここまで言われたら、彼女の意図することを察した。
「まさか、文。お前、外に――」
「だから、アラタ。邪魔しないで貰えますか?」
恐らく、本来の首謀者達の工作を呑み込んだのだろう。彼女の演算能力が飛躍的に向上した賜物か、周囲にテクスチャが編み込まれて行く。
すーぱーふみなの全身がELSの様なメタリックな物に変わったかと思えば、出現した機体のコア部分にすっぽりと収まった。出現した超巨大MSは有機的な牙を見せつけながら、吠えた。
『デビルに唆された。って訳か』
「そうか。文、お前。そんなに悩んでいたのか……」
自分達にとっては数ある選択の一つでしかない物も、彼女にとっては唯一だった。そんなアラタの背中を叩いたのはタクマだった。
「アラタ君。まだ、会える。話が出来るんだ。取り戻すチャンスもある。私達で彼女の不安と寂しさを振り払ってやろうじゃないか」
「……うん。そうだよ! 文ちゃん、あんまり自分から喋る子じゃなかったけれど」
ミサの言う通り、文はあまり自己主張はしないタイプだった。
だが、ビアンカの中に当たり前のようにいる存在だった。弾けすぎる彼らを淡白に指摘したり、自分達に常識を問いかけてくれる欠かせない存在である傍ら。バトルトーナメントでは熱い勝負魂をも見せてくれた。AIと言うにはあまりに有機的な存在だ。そんな彼女がこうして悩みを打ち明けてくれたのは、考え様によれば一つの成長であるのかもしれない。
「泣いている子と遊んでやるってのは、昔からやって来たことだ。今更、慌てる様なことじゃねぇ」
「私。実は文さんの独特なバトルスタイルとは一度手合わせしてみたいと思っていたんですよね。模擬戦とかじゃなくて、こういう全力の場で」
マシマがいつもの様な気楽さで臨み、シーナも令嬢らしからぬフランクさで構える。一方でコウラとセリトは真剣に見据えていた。
「クランメンバーとして。間違ったことをしようとしているなら、貴方を停めないとね」
「……俺。このゲームは付き合いで始めたけれどさ。今はこのゲームも皆のことも欠かせない存在だと思っている。だから、早まった真似をするなら、俺達で止める!!」
「思いやりに欠けていた連中がこんなにもって思うと、私は嬉しいよ」
2人の成長を傍目に後方応援者面をしているカルパッチョには改善の兆しが見当たらなかったが、そんな彼女が居ても良いのがGBBBBだった。
「なんか、この場に及んでも締まらへんよな」
「良いんじゃない? この方が私達らしいでしょ! アラタ! 号令お願い!」
「……そうだな。こんな環境に恵まれちゃったラッキーガァルの早まった真似を止めに行くんだぜぃ!」
全員が一斉にデビルガンダムへと向かった。エリア内に大量の攻撃エフェクトが発生して、戦いの火ぶたは切られた。