GOD EATER;亜 {狂想円環のカーディナル}   作:秋並 真貳佳

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第二話です。ゆっくりしていってね。


壹 朝 {普遍日常のノート•プロローグ}

 雨だ。

 朝だというのにあんまりすっきりしないな、なんて思って少し光の加減が抑え気味なカーテンを開けた途端、外の灰色に気づかされたのだった。……湿気がこもってじめっとしている。よれたタンクトップに半ズボンという俺の薄着でも蒸し暑い。

 昔は梅雨、なんて季節があったらしく、その時期になると毎日雨が降り続けたのだとか。俺は別に雨が好きとか嫌いとかこだわりはないけど、ホントにそんなだったら相当鬱な気分になること請け合いだろうな。昔、と言うからには当然今はそんなことはなく、今じゃ季節の移り変わりなんてほとんどわからない。もうずっと続いている異常気象は回復の目処が立たない、とか先輩が言ってたっけな。

 人はちょっとした伸びをするだけでも気分転換ができるものだ。とも言っていたのを思い出した俺は、少し窓と間を開けて、両手の指を絡ませてスタンバイした。……まだだ。まだ早い。何事も焦らせば焦らすほど、溜めれば溜めるほど効果は三割くらい増しになるものだ。

 ふふっ。俺の灰色の脳細胞は今日も絶好調らしい。俺には何をすれば自分にとって一番利益が生じるか、何が俺に収益をもたらすのかという不確定可能性理論を理解し操る技能{スキル}が天から与えられている。と俺は思っている。

 よし、頃合いだろう、と俺はすこうしずつ前方の手を上昇させる。……ゆっくりだ。ゆっくり行け。伸ばしきった際の快感を三割増しにするために。でもゆっくり過ぎず。ゆっくり過ぎると逆効果、ただの伸びになって快感は消えるからだ。よし。良い調子だ。水平ラインを超えるぞ。

 ……今だ!一気に伸ばせ!

 

 バァン!

 

 その瞬間、背後のドアが爆発したような音を立てて乱暴に開かれた。

「ぬおう!?」

「リュウ!いつまで寝て……なにしてんの?」

その時俺は、水平ラインを超した両手を上げ損ねて、腰を後ろに突き出して、腕だけ上にもつれたまま上げるという変な体制になっていた。びびったわけではない……はずだ。これはそう、来るべき「敵」の襲来に備えた対ショック姿勢なのだ。そうなのだ。誰が何と言おうとそうなのだ。疑うな。

「ちょ……リュウ?」

「どぅっ……黙れ!お前まで疑うのか……!」

「何をだよ。てかまずその体制どうにかなんないの?」

俺はまだ対ショック姿勢を崩さない。だって対ショックなんだもん。こいつから攻撃が来ない保証がない以上、対ショックと言う設定のこの姿勢は崩してはならない。

「やっぱり疑ってるじゃないか、妹の分際で」

「いつから私はリュウの妹になったんだよ。……まあいいや、まだ寝てると思って起こしにきたんだけど。起きてたなら早く朝ご飯食べちゃってよ、食器片付けらんないから」

そう言ってハルカは部屋を出て行った。

 しかたないな、行ってやるか。俺の胃袋も絶好調だからな、寝てる間に空っぽになったみたいだし。伸びを邪魔したのもお返ししなくてはだし。

 

 

 ハルカが出て行った後、わずか数秒で寝間着から着替える神業を家具に見せつけた俺は二階の自分の部屋から一階のリビングへと降りた。

「あ、やっと来た」

ハルカがポツリと言った。……な、何だと……!?「やっと」と言ったかこの小娘。

「今……何と、言った……?」

そこでハルカが「あ、やべぇ」という顔になった。

「ああいや、その、朝ご飯を用意してから結構時間空いちゃった、って意味であって」

「……そうか、ならいいんだ」

ハルカが面倒そうにふう、とため息をついたのを俺は聞かなかったことにした。

 俺は昔から、「速い」という言葉に魅せられてきた。そして俺は速さを求め、結果俺は足の速さはもちろん、食べる速さも、爪が伸びる速さも速くなったのだ。だから俺は遅いとか言われるのが嫌いなのだ。余談だが、俺は自分の「速さ」が全部で百七つあることを把握している。「あと一つで欲望の数と同じ」とかハルカに言われたことがあるが気にしない。ちなみに、「あなたがいると場が冷めるのが速いね」と言われたこともあるがそれはカウントしていない。別に、悔しいからとか欲望と数が同じなのが恥ずかしいからとかじゃないぞ。疑うな。

「……昔からリュウは面倒だな」

なんだとこの小娘が。

「……聞こえてるぞハルカ」

ぎくり!、なんて効果音が聞こえた。気がした。

「あ、ええと、いまのはね、あ、あはは……」

まったく。昔からそうだ。

 俺が面倒なのが昔から、ではない。いやそうかもしれんが。昔からハルカは人の地味な部分を突くくせに言い訳がへったくそなのだ。

 俺はハルカとは幼なじみだ。小さい頃に片親だった親父が蒸発した俺は、幼なじみのハルカの親に引き取られた。それからはずっとハルカの家に住ませてもらっている。だから結構赤裸々な秘密も互いに知っちゃっているのだ。まぁハルカは好んで俺の秘密を(無理矢理)知ろうとするからあっちの方が情報は多いのだが。

「あ、えっとね、面倒っていうのは手を焼かせるって意味であってね?一種の母性であってね。……母性?……母……フヒヒ」

なんか話がずれてるぞ。

 ハルカは少々(たぶん少々)変態的な面がある。見た目は悪くない奴だが、えらくやなオーラが見えることがある。まさに今がそれだ。スイッチが入るタイミングはかなり運任せだが、こうなるとこいつの方が面倒くさい。

「リュウ……フヒヒヒ……」

 そろそろ止まっとけ変態、と言ってから俺は絶賛空腹なうということに気づいて、用意されていた朝飯のサンドイッチを食べ始めた。

「あ、リュウいけないんだー。いただきますって言ってないでしょー」

トリップから帰ってきたハルカが俺を指で指した。

「……むうう。イタダキマス」

「感情がこもってないよ。作った人に感謝ぐらいしてよー」

「イタダキマス」

「……」

「イッタダッキマース」

「……」

諦めた様子のハルカは、溜息をつきながらキッチンに入っていった。

 岡寺ハルカ。十五歳。俺の幼なじみ。趣味は写真というだけあって、いつもレトロな大きい一眼のカメラを持ち歩いている。撮る写真は様々で、風景の写真から俺の入浴場まで。性格は明朗快活で、とても前向きだ。絶対に本人には言わないが一緒にいて楽しいし落ち着く。顔立ちは整っているが、まだまだ幼い感じが抜けない少女だ。小さい頃に父親を無くし、母はそれがきっかけで病気を患い、ずっと寝込みっぱなし。家業の薬局をこの歳で引き継ぎ、たった一人で店を切り盛りしている。……変態要素が無ければ惚れてもおかしくないが、非常に脆い部分もあるから見ててやらないと不安になる。どこか妹みたいな奴だ。

 俺はというと、配給だけでは足りないし、とてもではないが生きていけないので、こいつの収入に完全に頼っている。ヒモとか言うな。確かに学校は途中で止めたが。

 学校で思い出した。

「おういハルカぁ」

もう食べ終わったの、とキッチンに掛けてあるのれんを分けてちっこいセミロングの頭が出てきた。

「うわほんとに食べ終わってる」

「俺は超神速{トップ•スピード}だからな。あそうだ、違う違う。今日は出かけるからな」

む、という顔をしてからむむう、という顔になるハルカ。

「またあの女の所?」

「あのお方をあの女とかいうでない。俺の師匠だぞ」

「むうう……」

ハルカは唸りながら、またキッチンに引っ込んでった。

 のだが。

「あああああああああああああああああ!」

いきなり叫び声が聞こえてきた。もちろんハルカの声が、キッチンから。

「うるさいぞ。焼きそば流し台にぶちまけたりでもしたか」

キッチンからちっこいセミロングが出てきた。おお激しくデジャヴ。でもさっきより心なしか顔がうつむいているっぽい。

 わすれてたぁと言いながらソファに深々と腰を落とすハルカ。ここからだと短いワンピースの中が丸見えだがスパッツをはいているので全然ブツは見えたりなどしない。疑うな。

「うう。今日本部の視察団が来るんだった」

……ああなるほど。ってかまたかよ。

 ここ極東支部にはちょくちょく本部の奴らが視察にくる。その度にハルカは、薬局員としていろいろ挨拶だの接待だのするのだが、ハルカはそういう大人の社交的関係に苦手意識があるのだ。いろいろ接待の準備もあるはずだが、この調子だと全然やってないんだろう。

「極東、激戦区だからな……今日は誰が来るんだ」

誰、というのはなんという名目で来るか、というのを意味する。前までは普通に業務視察とか居住区視察とかまあ普通だったが、最近はなんか回数が多い。だから俺、と言うより俺たち居住区の住民は何となく怪しんでいるのである。だからどんな目的で来るか気になるし、誰が来るかわかれば何が目的かおおよその検討がつく。それが不自然に違ってたりすればまあ怪しいのだ。なにかできる訳ではないのだが。

「……ん。本部の何とかって幹部と……特殊部隊の連中らしいよ」

おかしいな。幹部ってのはよくある、というより一番メジャーな人種だ。だが特殊部隊?護衛なら一般の奴に任せれば良いものを、なんでそんな大掛かりな。

「……しかも小隊一つまるまる」

ハルカが心底疲れた顔で言う。特殊部隊、しかも小隊一つ?大胆だな。最近のうちではかなりの異例な気がする。

「……だいじょぶ?」

なんとなくハルカが心配げに俺の顔を覗き込む。見えないけどワンピースは直せ。

「……ああ」

さっきからハルカが歯切れ悪いのは少し理由がある。俺の親父は、

 

ゴッドイーターだった。

 

 ゴッドイーター。世界を救う唯一の希望。生化学企業フェンリルに所属する、人類の切り札。人類最後の砦。

 数十年前、突如世界に広がった謎の生物、アラガミ。アラガミは世界の何もかもを「喰」い散らし、人類も相当数が「喰」われてしまった。地球のあらゆるものが「喰」われていくなか、人類がいまだ絶滅していないのはゴッドイーターの活躍のおかげである。彼らは唯一アラガミにダメージを与えることのできる武器、神機を用いて戦い、俺たちを護ってくれている。

 親父はそのゴッドイーターだった。その頃はまだ今のような強力な神機ではなく、ピストル型のものを使っていたという違いはあったが、神機を使って人を護るという点は一緒だ。親父は本部直属の特殊部隊に所属していたが、数年前に特殊任務を受けて以来戻っていない。生命反応は途絶えていて、親父以外の隊員はほとんど喰い残しが見つかっており、生存は絶望的。実際、フェンリルでは戦闘中行方不明として捜索は随分前に打ち切られている。

 ハルカはそれが俺のトラウマとなっているんじゃないか、と思って気を使っているらしい。普段はアレだけど、こういう時には気を使ってくれる。かわいい奴め。

「そう気を使うな。大丈夫だ、問題ない」

そう言ってやると、ハルカはほ、と息をついてからまたべちゃあっとソファに沈みこんだ。何度も言うがスパッツをはいているので見えない。疑うな。

「……正直めんどいなぁ」

何の気なしに窓の外、灰色の空を眺めるハルカ。

 なんとなく、いつも通りの日常だな、と思う。窮屈だけど幸せだ。

 

 まだ大丈夫

 

 ……?不意にそんな言葉が浮かぶ。……まだ。……。ええいうるさい。そうかもしれんがそれでいい。今が大事だ。

 俺は頭に勝手に浮かんだ文に一人で悶々としつつ、食後のコーヒーを味わい始めた。と同時にハルカが愚痴を再開した。俺は別にいつだかの士官がウザいとか興味ないんだが、まぁ付き合ってやる。

 伸びの邪魔をしたのも免除してやるか。今日は気分が良いし、何より。

 

 さっきの礼だ。

 

 

 




ちょっと短かったかな。とにかく読んでくれてありがとうございます。今回はただの日常でしたが、多分次回もそうなるかなあ。ま気長に待っててくださいね。戦闘シーンが欲しい人はもっちょい待って!おらがんばるから!じ、次回もよろしくね!
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