・・・大抵の「準備」は希望に溢れている、と寒々しい探偵事務所でTシャツを畳みながら私は思う。
私、お嬢の場合ならデュエルの「準備」、すなわちデッキの改良はとても楽しみなモノ。どんなトリックで相手を攪乱してやるか、如何に魅せるか、そしてどう勝つのかを考える。つまりは、自分が最高に輝く未来を想像する事と同じ。だから楽しくてしょうがない。ククク。
・・・よくデッキ作っている時の私の顔、「これから街にバイオテロを仕掛けようとするサイコパスの笑顔」とか酷い事を皆言ってくるけれど、そんなに酷いのかしら?
そして今、私が楽しんでいる「準備」は「旅行の荷物」。明後日からGWを利用して、お師匠と、そばかす娘、アイドルさんと行くことになった「合宿」。電車で2~3時間かかる山間の村に行くらしい。
何をするのかはまったく知らされてないけれど、お師匠達が色々と予定を組んでいるみたいだし、そこに対する心配はいらないみたい。
・・・今まで旅行なんて親に連れられた海外のリゾート(しかも殆どのスタッフ日本語使えるから海外感ゼロ!)しか行った事が無かったから、「国内の村」なんてパターン。逆に新鮮でウキウキしちゃう。それになにより、憧れのアイドルさんと一緒に旅行!ファンクラブが知ったら私殺されちゃうかも。
けど、何で。何で私が。
お嬢「何でみんなの分まで荷物の準備までしなきゃいけないのよ!」
ワイド「肯定。不公平と判断します。」
探偵 そばかす娘「「まじでゴメンなさい」」
私とワイドさんに怒られて全面降伏の平謝りする2人。そばかす娘はともかく、イイ年の大人がオボットと美人女子中学生(私よ、文句ある?)に首を垂れる構図は、滑稽で物悲しいわ。しかも頭下げたせいで最近皆つけ始めた「決闘ドラッグ」対策のPCメガネがブラーとずり下がって、情けなく揺れている。
お嬢「自分の準備位自分で管理しなさいよ!お師匠は大人でしょ!それに、そばかす娘はこの手の女子力イベント得意だと思っていたわ。」
探偵「荷物準備って女子力イベントなのか?いや。本当すまない。まさか明日に面接来るとは思わなくてね。そっちの「準備」が忙しいんだ。」
お嬢「「面接」?「準備」?何の?」
そばかす娘「・・・あたしの受験だよ。」
探偵「こういう場合は「編入」って言うんだよ。」
お嬢「あー。貴女ようやく高校に入るんだ。普通科?」
そばかす娘「うん。公立の夜間制だけどね。あたし何かが入れる学校なんてそんなないよ。」
探偵「とか言ってはいるけれど、学力テスト受けさせたら存外、偏差値は高かったんだ。」
そばかす娘「一応「チーム」の後輩には勉強教えていたからかな?たぶん、今日受けた入試試験の方は合格できたと思う。」
お嬢「やるじゃない。けれど、それなら何も準備する事ないじゃない。面接なんて堂々と適当に受け答えすれば楽勝よ。」
そばかす娘「~~~~~~~~~~。はあ。」
探偵「なんかな。面接の方が心配なんだってな。」
お嬢「なんで?」
そばかす娘「だってさ・・・あたし、元犯罪者だぜ!一発で面接アウトだよ・・・」
お嬢「あー。そこね。」
そばかす娘「あたしなんて、元強盗団だし、バカだし、すぐウジウジするし、親もいないし。」
お嬢「・・・貴女、最近ダメな方でお師匠に似てきたわね。」
探偵「酷ェや。」
お嬢「けれど、この様子じゃ心配だわ。お師匠なんかイイ解決法ないの?」
探偵「分からん。俺も面接苦手だしなー・・・プロ入りの時の面接試験も酷かった。噛み噛みでなあ。」
お嬢「・・・容易に想像出来るわ。当てが外れたわ。何か、いい方法とか練習法はないかしら・・・?」
ワイド「あります。」
お嬢「ワイドさん!本当!」
ワイド「肯定。私にはありとあらゆる知識があります。コミュニケーションの方法などお手の物です。」
探偵「・・・機械にコミュニケーションを教えられるとか、俺ら人間終わっているなぁ。」
ワイド「失礼な。」
そばかす娘「それで!どんな方法なんだよ!教えてくれ!」
ワイド「肯定。皆様は「他己紹介」と言う言葉をご存知ですか?」
そばかす娘「タコ・・・?」
お嬢「「他人の紹介」って事?」
ワイド「肯定。説明するよりも実際にお見せした方が分かりやすいでしょう。御主人を例に私がお見せします。」
探偵「俺ェ?」
ワイド「「他己紹介」・・・開始。」
「御主人である「探偵」について。」
御主人の年齢は28才。誕生日は8月23日。性別は男性。身長180センチのやせ形です。
「職業」
現在の職業は「探偵」。前職の関係上「デュエル」に関連した事件を主に受け持っています。
「前職」
「プロデュエリスト」でした。18才から25才の間を国内リーグ及び「カイザーリーグ」に所属。決してトップに立つ事はありませんでしたが、安定した戦法と徹底したメタによって6割以上の勝率を維持しました。数年前の海外で行われた国際大会で2位という結果を出すと引退しました。
「性格」
非常にネガティブ。デュエル以外の時は冷めた雰囲気を出していますが実際のところ虚構であり、地の性格はネガティブです。またプライドだけは高く、調子に乗りやすい、気障な演出を好みます。比較的優しい性格でもありますが、後悔や気おくれが多いです。
「デュエル」
使用デッキは、「スクラップ」。「スクラップファクトリー」などの効果で「スクラップ・ドラゴン」や「スクラップ・ツイン・ドラゴン」を呼び出し、その効果アドバンテージを稼ぎつつ追いつめるシンクロデッキです。その一方で「スクラップ・ゴブリン」や「バトルフェーダー」「スキル・プリズナー」「エフェクトヴェーラ―」なども摘んだ防御面も堅いデッキとなっています。切り札とカードの精霊は、お恥ずかしながら私「機皇帝ワイゼル∞」。またメインのスクラップデッキとは別に「ペンデュラム召喚」のギミックを積んだ「スクラップ」デッキも持っています。
・・・以上。
探偵「・・・何か、半分くらい悪口言われた気がするけど・・・」
そばかす娘「要は自分についてを他の人に説明してもらうって事?」
ワイド「肯定。これにより、「自分がどんな人間であるか。」「自分がどう人に思われているか」を再認識及び発見し、自己紹介の材料へ活用することが出来ます。」
そばかす娘「う~んよく分からないけど、有効なのか。」
探偵「まあやるだけなら無料だ。それじゃあ俺が君の紹介をしてみる、」
そばかす娘「!?!?!?ダメ!!!アンタはダメ!」
探偵「え。あ。はい。」
お嬢「そんなバカみたいに大声出さなくてもいいじゃない。」
そばかす娘「だ、だって。そんな探偵さんがあたしの事をどう思っているかなんて、き、聞きたくないし//恥ずかしいし//」ぼそぼそ
お嬢「ティーンエイジャー真っ最中ね。しょうがないわ。私が貴女を説明してあげる。」
そばかす娘「それはそれで嫌だ!」
お嬢「知ったことじゃないわ。行くわよ。」
「友人?「そばかす娘」について。」
彼女は今高校一年生になろうとしているのだから、16歳、のハズ。
身長は私よりは小さいし、159センチくらいかしら?顔に黒髪セミロングでネコ目ボインとかどこの萌えキャラよ。しかも頬にある「そばかす」がこれまた萌えポイントね。
「境遇・経歴」
ほんの数か月前までは、貧困故にレアカードだけを狙うカード強盗団の頭領だったのよね。
実際はもっと悪い連中の手先だったのだけど、20人位の中学~高校生グループまとめて、この街の金持ちを狙っていた。というか、私も被害者の一人だし。この頃は結構な屑よね。
その後、足を洗おうとして、それを察知した「悪い連中」に連れ去らわれそうだったところを、お師匠が現ナマ500万円払って救ったと。・・・冷静に考えればお師匠相当なクレイジーね。それ以来はお師匠の家でハウスキーパーして、現状に至る。って感じかしら・・・確かにロクでもない経歴だわ。
「性格」
強盗団やっていた、って割には純情で真面目ね。元々チームの下級生の面倒見もいいみたいだし、強盗を始めたのも半ば仲間の為だったみたいだし・・・こういう事言うと必死で顔を振って否定する感じも、「真面目」だわ。境遇こそアレだけれど、真っ直ぐなんじゃないかしら?それと照れ屋ね。私が思うに、もう少し自己肯定をもっとするべきだわ。後ろめたさバリバリなのよ貴女。それとやたらと家事上手よね。特に料理。劇的に美味しい!って感じではないけど、なんか安心させる味なのよね。家庭料理っぽいというか。・・・さっさと主婦になれば?・・・ククク、貴女のすぐ顔を真っ赤にするベタな感じ、好きよ。
「デュエル」
「BK」・・・いいえ。「HCBK(ヒロイック・バーニングナックラー)」ね。BKを中心にランク4の戦士族でパワー勝ちする単純明快な動きだわ。最近は「HC」モンスターによる様子見や牽制、他の罠カードによるガードもするようになったわね。・・・え、私への対策?私、そんな対策される程の戦略、したかしら?エースカードは、「No.105 BK 流星のセスタス」とか「No.86 H-Cロンゴミアント」なんでしょ?どちらもお師匠に貰ったから大切にしている・・・ベタね。本当に。
お嬢「・・・って感じかしら?」
そばかす娘「半分位おちょくっているだけじゃん!しかも、やっぱり強盗チームやってた事には変わらないしさ!」
お嬢「そりゃ貴女簡単に罪が消えると思ったら大間違いよ。別に面接で言う必要はないと思うけれど。それに重要なのは、どうしてそれに至ったのか、何がそうさせたのかよ。それを考えることが貴女の性格やアピールすべき事に繋がるはずだわ。」
そばかす娘「・・・分かった。けど!何でお前がそんな専門家ちっくにアドバイスしてくるんだよ!悔しい!こうなったらあたしもアンタを説明して恥ずかしい気持ちにさせてやる。」
お嬢「どーぞお好きなように。あ、でも変に褒める必要ないわよ。「○○ちゃんカワイイ~」「××ちゃんこそキレイ~~」みたいな、昼休みのブスがやる、女同士の褒め合いっこは嫌いなの。」
そばかす娘「お前本当性格悪いな!?ええい!説明しよう!」
「天敵 「お嬢」について」
えっと、コイツは確か14歳だから・・・!?え!?嘘、14歳!?年下!?・・・マジ?本気で忘れてた・・・見えねエ・・・。そう、大人びた顔立ちしてるね。身長も170センチくらいはあるし。髪もさらさらストレートの綺麗な青髪だし、悔しいけどモデルとかやってそうな顔と体型してるよ。あ、でも三白眼でキツイからそれは無理か・・・だから!その目が怖い!
「境遇・経歴」
この観光都市の交通や土地の殆どを持っている大地主の娘、なんだよな。だから滅茶苦茶金持ちの御嬢様、の割にはアクティブだけど。将来の夢の為に今、探偵さんの元でデュエル修行をしているし、確か街で一番大きいデュエル塾にも通っているとか。後は知らない!
「性格」
下衆!強盗したあたしがいう事じゃないのは分かっているけれど、その上で断言する!性格悪い!怪しげに「ククク」って笑うし!それにオブラートに包んだ言い方をしない!歯にコロモきぬ・・・、し、知っているし!歯にキヌきぬだし!言われなくても知ってる!ちょっと間違っただけだし!
そう、ズバズバ物事言い過ぎだよコイツ。自分にドレだけ自信あるんだって。
・・・でも、うん。努力家だよね。色々そつなくこなせるけど、天才肌ってワケじゃないし。だからこそ、デュエルに対しては地道に努力してる、って事は知ってる。夢は「デュエルで世界征服」。具体的にはとりあえず「プロ」を目指している。・・・「とりあえず」でプロを目指す奴なんて初めて見たよ。でも、冗談みたいだけれど、全世界の人を魅了するデュエルをガチで目指している。何でも、「デュエルだけは世の中で基本的には身分立場に囚われない世界」だから、万人を喜ばすことが出来るのはデュエルだけだ・・・みたいな事、この前ドヤ顔で語ってよな。根本的には、結構根暗な発想だな。
あと、たぶん、年下好き。と言うか、しょt、痛い!!殴るな!
「デュエル」
雲魔物使い!正直コイツに会うまで「雲魔物」使ってる奴見た事なかったけれど、すごくウザったいデュエルしてくる!単体能力は高くないけど気づいたら追いつめられてるし!「強制転移アシッドゴーレム」とか「クリスティア」とか「何もできなくする」系のカードばっか使ってくるし!切り札も「D-Hero Blood」で、能力無効化の上に吸収とか、もう、反撃する気が失せるよ。一枚一枚のパワーは高くないけれど、戦略性と予測出来ない作戦はとにかく凄い、・・・まあ、下衆い作戦ばっかりでたまにデュエルしたくなくなるけれどさあ。
・・・
そばかす娘「・・・どうだ!恥ずかしいっしょ!他人に自分の事を話されるのは!」
お嬢「いえ全然。」
そばかす娘「え!?」
お嬢「実力や魅力がある人なら、他人に語られて当然なのよ。そんな事で一々恥ずかしがってたら、私の野望は辿り着かないわ。もっと褒めても構わないのよ?」
そばかす娘「うぜえ!ってか褒められるのが前提かよ!この年下のくせに!」
お嬢「ククク。幼稚な罵倒ね。可愛いわ。」
そばかす娘「Uzeeeeeeeeeee!!!」
探偵「・・・これ本当に面接の練習になっているのか?」
ワイド「肯定しかねます。ですが、少なくとも緊張を解せたとは思います。」
探偵「だな。・・・おっ。お嬢さん、例のアイドルが出る「このデュエリストを見よ」、そろそろ始まるよ。」
お嬢「あら本当!見なくちゃ!生放送だし、見逃せないわ!」
P!
そばかす娘「アイドル?」
探偵「俺の昔なじみがアイドルやってるんだけど、お嬢さんが熱烈なファンなんだって。」
そばかす娘「へー意外だな。お前そういうの好きなんだ。どれどれ、どの人かなーっと。」
アイドル「「カリスマ草植系の漏れ君がゲストだよんwwwwwwうっひょ生放送コワスwww」」
そばかす娘「完全に痛い人じゃん!?」
探偵「因みにそいつ、明後日一緒に旅行行く人です。」
そばかす娘「うわー。嫌だなー。あ、でも、TV用のキャラとか?」
お嬢「普段から彼女の性格は変わらないわ。」
そばかす娘「・・・探偵さん、キャンセルしてもいいかな、あたし?」
探偵「もう宿予約してるからダメ。」
そばかす娘「うわ・・・あたし、人見知りするし嫌だわ・・・」
お嬢「そんな事言ってないで一緒に生放送見ましょ!」
そばかす娘「いやだ!こんな痛い番組見てられねえ!」
探偵「・・・あ。そうだ。お嬢さん。」
お嬢「あ?番組見たいんだけど?」
探偵「ひえ!?そんなドス効かせた声を出すな。すぐ要件は終わるから。」
お嬢「何よ。」
私が不機嫌に答えると、お師匠はポケットから何か黄緑のケースを取り出した。
何か紐がついていて、子どもが持つ防犯ブザーの様なプラスチック製のモノだった。
探偵「これから万が一、何かトラブルに遭ったら。その紐を引っ張ってほしい。」
お嬢「単なる防犯ブザーならもう持っているのだけれど?」
探偵「いや、もっとハイテクなものだ。ひもを引っ張るだけで知り合いのレスキューを呼べる。特にまあ、デュエル関係でどうしようもない時は使ってくれ。」
お嬢「分かったけれど。まあお師匠と一緒にいる限りはそんな大変なことにはならないでしょう。」
探偵「・・・まあ。な。」
・・・後々になって気づくのだけれど。
この時既にお師匠は、自分が私たちのそばにいられなくなるかもしれない、と察知していたのだと思う。もっといえば、最初に私たちを誘ったときから既に、この旅行の結末をおぼろげながら捉えていたのだろう。
そして、悲しい事に、お師匠は姿を消して、このベルは存分に活用されることになるのだけれど。
準備に期待と希望を無想するこの時の私には知るはずもなく、楽しみにすることしかできなかった。
この一週間はこまめに短い話を投稿しますのでよろしくお願いいたします。