遊戯王 決闘探偵 -雲と鉄-   作:T3PO

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プロローグ 魅入られた男

怪しげに赤く染まった月が浮かんだ夜。

和のテイストの穏やかな旅館の一室で探偵は、自分の記憶を添削して納得できる言葉を探す。ゆっくりと言葉を紡ぐ。

今でも何億回だって思い出せる幸せな記憶と、それ以上に今を縛り上げる苦しみの記憶の混沌で、薄ら笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

・・・・・・・

 

あの娘の事が大好きだ。

 

世の中の殆どの事を疑ってしまう俺だったけれど。それでも彼女と一緒にいれる時はやさしい気持ちになれたんだ。

 

彼女とデュエルをする時間が、永遠に続ければいいと思っていた。

 

そして、・・・これからもずっと、ずっと共にいる時間はある。

 

ゆっくり、向かい合っていけばいい。これからだ。

 

そうはっきり思い始めたのは不良デュエリスト集団との戦いが終わった位だったかな・・・

 

少なくとも、あの1年は輝いていた。楽しかった。青春してた。

 

でも、全て、虚構だった。

 

忘れもしない12月23日。突然、彼女が消えた。学校にも突然顔を出さずになり、連絡が取れない。電話にも出ない。教師に聞いても首を振るばかり。クリスマスをどうやって誘おうか何て浮かれた考えは木端微塵になった。

その時になってやっと気が付いたんだ。俺は、彼女のデュエルや好みは知っていたけれど、彼女の生い立ちや家族、この街に来る前はどこにいたのか。これからどんな大人になりたいのか。そんな、ありふれた話題を少しも彼女が口にしなかった事を。ただいつも。目の前のお菓子を食べ、その瞬間のデュエルをして、今何をするかという事だけしか彼女は興味を示さなかった事を。

俺は、約一年間ずっと一緒にいた彼女の事を、何も知らなかったんだ。

 

だから俺達は、唯一の手がかりの一人暮らしをしている彼女の家に向かったんだ。

 

・・・

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

15年前 12月のある日。

 

トントントン!

 

少年「いる!?返事して!!いるなら!!返事して!!もう三日も来ないなんて!!」

 

ボーイッシュ少女「!!鍵が空いている!」

 

少年「!なら!入るよ!!」

 

少年「!靴がない!って事はここにもいない・・・のかな・・・」

 

ボーイッシュ少女「そうかもな。けど待ってな。何か手掛かりになるものがあるかもな」

 

 

(待って下さい)

 

青白い光と共に理を超えた力・・・カードの精霊「機皇帝ワイゼル∞」が俺のデッキから姿を現す。

 

ワイド「ーーー」

 

少年「!?どうしたんだよ!?勝手に出てきて!?」

 

ボーイッシュ少女「!!これが言ってたカードの精霊か!うひょ!?」

 

ワイド「----覚えていますか?御主人。私が初めて御主人の元に召喚され、具現化した場所はここでした。もっと早く判断出来た、と判断します。私のミスと評価します。エラー、エラー、エラー。」

 

ボーイッシュ少女「何?」

 

少年「何が言いたいんだよ!」

 

ワイド「御主人。落ち着いて下さい。説明を開始します。」

 

なんなんだよ。いや、どうせロクな事じゃないのは分かるけど。・・・考えろ。もっと最悪を想定しろ。そうすりゃどんなヘビーな事を言われても予防線で生き残れる。

 

・・・・・・・・・

 

シロアリが大量発生中とか?

 

 

だが、機械的に事務的に、ワイドから出た言葉は、重さとかそんな次元じゃなかった。ブラックホール級。濁流に飲み込まれる様に抜け出すことの出来ない言葉。

 

「この部屋は呪われています。」

 

「「は?」」

 

ワイド「以前。この街には違和感がある。何か、邪悪な「魔術」や「精霊」が蠢く気配がする、だから私はこの世界に現れた。そう、述べました。」

 

少年「だからなんだっ・・・ッ!」

 

ワイド「肯定です。この街全体に感じていた悪意。その中心は。」

 

ワイド「この部屋です」

 

・・・

 

いつか来たときの様に、シンプルで色のない部屋だった。

女の子の部屋にしては服や小道具が少ないけれど、その分、彼女が大好きでたまらない「デュエルモンスターズ」のファイルやボックスと、モンスターをモチーフにした縫いぐるみがぎっしり置いてある。縫いぐるみの一つは、今年の文化祭の時に俺が顔を真っ赤にしながらプレゼントした「ライトロード・ハンター ライコウ」だ。・・・飾ってもらってるだけで嬉しい。

 

少年「・・・何が呪われているだよ!ただの普通の部屋じゃないか。

 

ボーイッシュ少女「何もおかしな物はないぜ。」

 

少年「こっちもだよ!どうせ機械の故障だったんだよ!」

 

ワイド「ーーーではマスター。最後の部屋を開けましょう」

 

少年「分かってるよ!これで何もなかったら「システムダウン」かけるからな!覚悟しろよ!」

 

 

最後に残った部屋は、一番の奥。元々カップルとか友人とシェアして数人で住むコンセプトのアパートのせいか、個人が個人として使う部屋が2つあった。1つは前にパンツとかチラ見した部屋。そしてもう1つが最後のそれ。

 

・・・分かっているさ。

なんと言うか、あー、あれだ。

 

「こんな殺人犯と一緒の部屋に居られるか!私の部屋に帰るからな!」

と言うか。

 

「押すなよ!押すなよ!」と言うか。

 

「「おいおいミーの勝ちじゃないか」」

 

と言うか。

 

嫌な予感しかしない・・・。

 

 

でも、「彼女」の行方の手掛かりは・・・あー南無三!

 

少年「開けるぞ!」

 

ワイド「肯定」

 

あれ、鍵がかかってる?

・・・!「彼女」が中にいるかも!?

 

 

少年「いるなら返事して!」

 

・・・返答は沈黙。

 

少年「返事はないか」

 

ボーイッシュ少女「どうやら部屋は外から鍵が掛けられているな。管理人さんを呼ぶか?」

 

少年「いや・・・どうせ色々事情とか聞かれて面倒臭いから・・・wide!」

 

ワイド「肯定。チャージ開始」

 

ボーイッシュ少女「壊すの!?」

 

少年「チャージは何秒かかるかな?」

 

ワイド「後30秒と判断します。」

 

ボーイッシュ少女「アカン。目が逝ってる。」

 

少年「25、、24、・・・駄目だ待てない!よく見たらドアの下の方に、隙間あるじゃん!覗こ!」

 

 

随分埃っぽいな。客観的に見たら、女子高生の部屋前で這う、ただの変態だろうけど・・・今はいい!

 

よし、隙間に目を当てて・・・

 

・・・

 

なんだこれ?

 

 

 

 

赤色?

 

 

 

 

 

 

 

 

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少年「・・・うおおおおおおおおおお!?!?!?うわああああああああああああああ!顔ォォォォォォ!?」

 

ワイド「チャージ完了。切断開始」

 

 

斬ッ!

 

少年「お。お。なんだよ。なんなんだよ。これは!!なんだよおお!?」

ボーイッシュ少女「いやああああああああああああああああああああああああ!?」

 

ワイド「ーーー」

 

 

逃げ出したい気持ちを必死で留め目を向ける。

 

ぬるい空気が、生臭い獣の匂いと共に流れ込む。

 

一面に描かれた赤い顔。その顔はいずれもニヤニヤと。ニヤニヤとこちらを覗く。

 

丑の刻参りの様に悪意をもって引きちぎられた、大量のデュエルモンスターズのカード。

 

血で描かれた、難解だがその意味が邪であると伝わる文字列と、それを連ねて出来た円陣。

 

何かで詰まったペットボトル・・・入っているのは、爪。血が固まってマニキュア状態になっている。

 

その中心に佇む禍々しい紫色の鏡台。そして長い長い黒髪が束ねられ、鏡に映るものに捧げるかのように置かれている。

 

「ここにいてはいけない」・・・動物の本能がそう告げる。

 

普通の高級マンションの一室だけに余計にその異質さは際立っていた。

 

2人と1機は、口にせずとも同じ言葉を浮かべていた。

 

「呪われている」、と。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

少年「・・・」ガサガサ

ワイド「御主人。ここは危険です。長くいると精神的に追い込まれます。御友人の様に一度離れましょう」

 

少年「もうちょっと」

 

ワイド「警告します。避難して下さい」

 

少年「うるさい」ガサガサ

 

ワイド「御主人」

 

少年「どうせ手がかりがありそうのはここだけなんだ。探すしかないだろ」

 

ワイド「肯定と判断します。しかしご自身の精神力の弱さをお忘れない様に」

 

少年「はいはい」

 

 

少年「・・・」ガサ

 

 

ワイド「ーーー」

 

少年「・・・いやさ。そりゃ完全に知るなんておごがましいし、どうせ無理だとは分かっていたよ。でもここまでとはねー。あー首吊りてー。なーんて。はっ」

 

ワイド「洒落になりません。」

 

少年「確かに。・・・あーあーあー」ガサガサ

 

少年「何だろうね。お前とか何体かの「カードの精霊」には遭遇したし、

「オリハルコンの眼」なんてマジックアイテムも見た。ここ最近そういう非理論的でオカルトなもの充分見ていたのにさ。なんで、この部屋はこんなにムリなんだろう。」

 

ワイド「肯定です。理解不能と私も判断します。この部屋は確かな「悪意」で満ちています。」

 

少年「本当だよな。あー。この前のデュエルでまた少し、彼女に近づけたと思っていたんだけどな。」

 

少年「他人のプライベートなんて知らないし、近づきたくもない。そう思っていたけれど、彼女だけはもっと仲良くなりたかったんだ。付き合いたいとかエロとか以上に。」

 

少年「何であんなにもいつもニコニコと笑う事が出来るのだろうって。ずっと不思議だった。それで必死で話しかけて。少しは彼女と仲良くなれた・・・ってのは只の思い上がりだっただろうな。」

 

ワイド「自虐は辞めてください。御主人の精神衛生へのダメージが見込まれます。」

 

少年「・・・駄目だコリャ。床に散らばったカードの下に何か埋もれてないかと思ったけど何にもないや。っていうか、「レスキューキャット」「猫耳族」「キャットレディ」・・・猫に恨むあり過ぎだろ。こんなバラバラにして。ナイフか何かで切り刻まれてるじゃん。」

 

少年「カードをこんなにするなんて・・・最低だよ・・・」

 

少年「あー。うん。出よう」

 

ワイド「ーーーお待ち下さい。鏡台を調べてみる事を推奨します」

 

少年「?なんか反応あるの?」

 

ワイド「否定です。単なる乱数による推奨です」

 

少年「気まぐれか。了解了解、乗ってやるよ。・・・気味悪い鏡台だな。紫色って・・・どうせ大した物はないだろうけど・・・さ」がらがらがら

 

少年「・・・封筒?開くか」

 

少年「ッ!」

 

ワイド「ーーーこれは」

 

少年「あ。あー」

 

 

 

なんでこう。

 

ままらない。

 

いっそ、放っといてくれよ。

 

 

「No.39 希望皇 ホープ」

 

 

この腐敗した部屋に唯一光る希望。

 

 

想像する。

 

きっといつもみたいにニコニコしながら鏡台の引き出しを開けて、ホープを入れる彼女。

 

連れ去られたのか自分の意志で消えたのか。何もはっきりとした事は分からないけど、きっと彼女の向かう先は、この部屋のような暗黒なんだろう。

 

だからこそ彼女はホープを入れた。意味は分からない。けど、意思を残したかったんだ。

 

きっとそれは最後のSOS。

 

ああ。もう。

 

このカードがある限り、もう風化すらさせてもらえない。

 

良いことなのか悪いことなのか、それすら曖昧。

 

どうせ、これは呪いだ。呪縛だ。

 

もう、どう抗おうと、絶望しかない。

 

だったら。どうせ、もうどうしようもない、からこそ。

 

 

 

 

少年「ワイド」

 

ワイド「はい。」

 

少年「俺は最後まで・・・頑張る」

 

ワイド「はい。」

 

少年「だから、探す。」

ワイド「はい。」

 

少年「・・・だから・・・頼む!」

 

少年「もう一度、彼女に会いたいんだ!俺を手伝ってくれ!頼むッ!」

 

ワイド「当然です。肯定。」

 

 

修羅の道の最初の一歩を踏み出した。





今後の話は単体でも読めるようにはしていますが、私の前作と繋がってるためもしお時間があればそちらの方も読んでいただけるとより楽しめると思います。
またストーリー抜きにしてもかなり考えたデュエル構成を用意してますのでどうか御期待下さい。
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