マキマさん顔で行く、進撃の巨人   作:トロマグロ将軍

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 誤字報告ありがとうございます。今まで小説なんぞ書いたことのない人生で、恐らく誰にも読まれないだろうなぁーと勢いで始めた拙作です。それにもかかわらず感想欄で温かい言葉をかけて下さって誠に恐悦至極です(>_<)
やっぱ応援って大事ですね、、、
執筆をしているノーパソの横にマキマさんのフィギュアを置いているのですが、アイデアが枯渇して突っ伏してるとき御神体と目が合って、
「君が始めた物語だよね。エタっていいわけないよね?」
そう応援されている気がする、今日この頃です。


10:静止した闇の中で

 マキマとエリザベス。彼女たちはなんとか生存していた。二人は崩落を免れた小さい空間に閉じ込められていたのだ。ちょうど人間三人分ぐらいしかないようなスペースだ。それでも瓦礫に下敷きになることはなく、幸運なことに二人は五体満足な状態だった。

 だがしかし落盤からは逃れられたものの、彼女たちは次なる危機が迫っていた。それは酸欠だ。坑道側からガスが漏れ出ているらしい。そのためエリザベスは意識が混濁していて、マキマも眠気を感じていた。

 

(眠気が.....酸素をとらないと.....)

 

マキマは出口側の瓦礫の隙間に顔を近づけてみる。真っ暗な中、空気の通り道を探す。するとスゥーと冷たい外の空気が感じられる場所を何か所か見つける。

 

(あった。エリザベスに吸わせよう)

 

エリザベスの顔を小さな通風孔に近づかせる。

 

 

「エリザベス、息をしなさい。しっかり!」

 

 

(ダメだ。自発呼吸をしていない。人工呼吸しなきゃ)

 

でもこの酸素濃度で人工呼吸したところで焼石に水だ。自分も吐き気と眠気に襲われる中、必死に頭を働かせる。

 

(もっと大きな通風孔を確保しないといけない)

 

自分たちのいる隙間の真ん中にある〝赤い支柱のようなもの”と、目の前の瓦礫の山を見る。

 

(ダメ、〝これ”を抜けば、瓦礫をどかせるかもしれないけど、そうこうしている内に天井が崩れる)

 

必死に策を巡らす。このままではエリザベスは死んでしまう。

 

(そうだ。〝これ”を地上まで伸ばして、中を空洞にする。そうすれば通風孔として使えるかもしれない)

 

 早速自分の頭の中でイメージする。天井が崩れないように慎重に地上に伸ばす。あまりにも繊細な作業と酸欠により脳がパンクしそうだ。何度も吐き気をこらえる。マキマは真剣だった。

 

(できた。さ、早くしないと)

 

〝赤い支柱”は坑道の上の地上とつながり、そこから新鮮な空気をマキマは取りこむ。そしてエリザベスの口へ直接送り込む。何度も何度もそれを繰り返す。脈はあるのだ。マキマは何度も作業を反復した。

 

プハッ、

 

突然エリザベスが息を吐く音がした。胸を触ると肺が動き始めている。心臓の脈も正常だ。ふうっと肩をなで下ろすマキマ。しばらくして通風孔のお陰で二人のいるスペースに十分酸素が行き渡っていく。

 

(よかった。取り敢えずは大丈夫そう。はぁ、さすがに肝が冷えた。〝赤い相棒”とこの人間離れした〝目”がなければ、本当に危なかった)

 

 マキマは上から瓦礫が落ちていく中、一番スペースを確保できそうな場所を〝目”で判断して、エリザベスと自分の体を滑りこませていたのだ。通風孔を確保してからガスの匂いもしなくなり、マキマはようやく一息入れる。だが依然遠くで坑道が潰れる音がして、地面を揺らしている。

 

 

「……あ、あれ……ここは……どこ?」

 

 

エリザベスの意識が復活した。

 

ギュッ!!「え!? 誰?」

 

 

暗闇の中で抱きしめられたエリザベスは驚いてしまう。

 

 

「ちょっと誰よ! 返事しなさいよ!」

 

 

マキマは返事せずに、エリザベスの温かくなった体温を堪能する。

 

 

「ちょ、ほんとに怖いんだけど、返事してよ!」

 

 

 目を覚ましたら、真っ暗闇で何者かに抱き着かれている、意味不明なこの状況。エリザベスが混乱するのも無理はない。

 

 

「なんなのこの状況! 離しなさいよ、この変態!」

 

 

「生き返ってくれてよかった」

 

 

「マキマ!? え? マキマなの?」

 

 

「そうだよ……、変態なんて……助けてあげたのに酷いね」

 

 

耳元であの特徴的な声がくすぐられるように発せられる。幼さと悠然さが両立した、しっとりとした声が暗闇の中に響く。でも心なしかいつもより優しい声に聞こえるのは気のせいなのだろうか。それよりもエリザベスはこの状況について気になり、マキマに尋ねる。

 

 

「助けたってどういうこと? 私たちどうなってるの?」

 

 

「坑道が崩落して、私たち閉じ込められちゃったんだ。気絶した貴方を抱えて出口を目指したけど、あと一歩のところで出口が塞がっちゃったの。さっきまで貴方、呼吸が止まってたんだよ」

 

 

「……他のみんなは?」

 

 

「無事に出れたよ。私たちの助けを呼んでくれているといいんだけど」

 

 

マキマがそう答えた後、二人の会話が途絶える。

 

 

「エリザベスちゃん?」

 

 

今度はエリザベスがだんまりを決め込む。マキマは彼女の表情が分からないのがもどかく思った。

 

 

「どうしたの? 黙って? 死んじゃったの?」

 

 

マキマは冗談を言うがそれでも反応がない。彼女はボケにはちゃんとツッコミを返すタイプだ。しかしマキマは段々とエリザベスの様子に気がついてきた。抱きしめているので、彼女の体が小刻みに震えているのが分かるのだ。精一杯隠していたのだろう嗚咽が聞こえてきた。

 

 

「……泣いているの?」

 

 

「……っ、……ぅ」

 

 

「よし、よし」

 

 

「……っ、……ぅ、ごめんなさい……ホントにごめんなさい」

 

 

今度はブツブツと泣きながら謝罪を唱え始めたエリザベス。

 

 

「ごめんなさい? どうして謝るの?」

 

 

「……っ、……ぅ、だって、全部……私のせい……でしょ」

 

 

(たしかに爆発の原因はエリザベスが松明を落としたことだけど、あんなの誰にも予測できないことだ)

 

 

「あー、あれは運だよ。誰も責めれないよ」

 

 

「違う! 私を見捨てれば……マキマなら……逃げられたじゃない」

 

 

確かにエリザベスを置いていけば、マキマはとっくに日の光を浴びていたことだろう。

 

 

「……つまり、アンタは私のせいで、死ぬかもしれないんでしょ」

 

 

「……まあそれも悪くないかな。美少女を腕に抱えて死ぬなんて、そう悪い結末じゃないかもね」

 

 

この暗闇の中で、長くは生きられない。救助が来なければ……。エリザベスには声の様子で理解できた。マキマが半分ふざけてだが、半分は真面目に言っていることが。

 

 

「……なんでよ! アンタは、死んでもいいの?」

 

 

「死にたいわけじゃないよ。私は……」

 

 

その時だった。遠くから微かに声が聞こえてきた。男の声。

 

 

「マキマーーーー! エリザベスーーーーー!」

 

 

「「ゲルガー!?」」

 

 

二人は離れて、ゲルガーに声を届けるために声を張り上げる。

 

 

「私たちはここよー!! 助けてー!!!」

「HーEーLーPー」

 

 

「!? お前ら!? 無事なのかー?」

 

 

 そうしてゲルガーたちに生存を伝えることに成功した二人。声を張り上げて閉じ込められていることを伝える。トラウテたちが教官に緊急事態を伝えに行っているらしい。何回かゲルガーと会話ができたが、瓦礫を挟んでるせいか、声が不明瞭でやり取りには限界がある。ずっと大声を出して闇雲に体力を失うわけにもいかない。それでも二人にとって、生存を伝え救助が来ることを知れたのはでかかった。

 

 

「これで助かるかな。よかった、よかった」

 

 

「……う、うん」

 

 

安堵をして思わずまた涙ぐむエリザベス。

 

 

「……でも、いつになったら出られると思う?」

 

 

「う~ん、今は多分15時ぐらいだから、救助は夕方からかな。それで夜通し救助活動するとして、遅くても明日の昼までには出られると思う」

 

 

あとは助けを待つのみ、二人は狭い隙間の中で精一杯楽な姿勢にするしかなかった。

 

 

*************************************

 

 気温が下がってきた。元から真っ暗だから正確な時間が分からないが、夜になりつつあるのが分かる。まだガスに引火すると怖いので火は起こせない。二人は狭いスペースを上手く使って無為の時間を過ごしていた。

 

 

「にしても、飲む物と食べる物があってよかったわ」

 

 

「お肉美味しい」

 

 

 二人はマキマが服に忍ばせていた鹿肉の残りを胃に入れている。水は二人とも腰に軍用水筒を下げていたので一日分ぐらいはありそうだ。

 

 

「そうね、モブリットがちゃんと処理してくれたお陰で、美味しく食べられるわ。あんたに処理を任せないで、よかったわよ」

 

 

マキマは鹿を捕らえたものの、適切な捌き方を知らないで適当にやろうとした所、モブリットに注意されたのだ。

 

 

「巨人のうなじを斬るのと、鹿を美味しく斬るのは違うみたい。モブリット君の隠れた才能に感謝しなきゃだね」

 

 

「フ、ハハ、何よそれ。……でもあんたにも不得意なことがあるのね」

 

 

 牧場で育ったモブリットは肉用牛の解体を手伝っていたらしい。鹿一頭解体するぐらいはお手の物だということだ。持ち運びやすいように燻製処理までしてくれたモブリットに、二人は穴倉の中で感謝していた。

 

 

「でもさ、ソフィーが熱を出した時、モブリットの奴が一番張り切っていたのは意外だったわ」

 

 

「う~ん、確かに」

 

 

「もしかして、ソフィアのこと好きなのかも!!」

 

 

真っ暗の密閉空間で二人の少女たちは、年相応に恋愛の話題に花を咲かせる。

 

 

「お互い落ちついている感じだし、お似合いかもね。ソフィアちゃんの気持ち次第だけど」

 

 

「そうよね! モブリットならソフィーを任せられるわ!」

 

 

「……高熱出していたけど大丈夫かな、ソフィアちゃん」

 

 

マキマが恋愛の話から、ソフィアの病気の状態について思案が巡る。

 

 

「……そうね、心配だけど、あの子はそんなヤワじゃないわよ」

 

 

 マキマはソフィアが語っていたのを思い出す。今回の旅でソフィアとある程度仲良くなっていたマキマは、彼女が兵士になりたい理由を聞いていた。

 

[私は本当は大学に行きたかったんだ。昔から物作りが好きでね。実家の小さい鍛冶工場を見て育ったからだと思う。でも経営が厳しくてね。だから私が王都の大学に通って、そこで得た最新の知識でもう一度再興させたいの。当然私には王都の大学に行けるお金も人脈もない。だけど工兵技術班になれれば公費で働きながら大学の研究室に通える。私はそれ狙いで兵士になったわけなんだ]

 

一緒の班にならなければ、彼女がここへ来た意思を知ることはなく、訓練兵を卒業していただろう。体が小さくて運動はそこまで得意ではなさそうだが、どの訓練も必死に食らいついている。彼女は根性はある子なのだ。二人は座学ではいつも生き生きとしていたソフィアのことを思い出す。

 

 

「彼女の無事を確認するためにも、ここから生きて出ないとね」

 

 

「……そうね」

 

 

エリザベスは外にいるだろう同期の訓練兵たちの顔が、走馬灯のように頭の中で流れていく。その中でも一人の青年との思い出が強く再生された。

 

(……モーゼスに会いたい。死ぬならあの人の側で死にたい。恋敵の側で死ぬなんて、そんな皮肉的な最後は嫌だ)

 

 

「……あのさ、マキマはさ、訓練兵の男の中で、少しでもいいなとか、思う人はいないの?」

 

 

しばらくマキマとこの狭い空間の中で二人きりなのだ。エリザベスは言いづらいことでも、互いの表情が見えない今なら言える気がした。

 

 

「う~ん、いないかな」

 

 

訓練兵の全男子が絶望しそうなことをさらっというマキマさん。

 

 

「本当なの? ここは二人しかいないから、正直に答えて欲しいの。付き合ってといわれたら、付き合える人とかは?」

 

 

エリザベスの真剣な声がまるで懇願するものに、マキマには聞こえた。マキマは少し考え込んでから話す。

 

 

「男の子にどうやったら惚れるの?」

 

 

「// え!? わ、私は知らないわ!」

 

 

「いつもモーゼス君を見てるよね。彼のこと好きなんでしょ?」

 

 

「……っく、……そう、好きよ! ……モーゼスといると……心がポカポカして、暖かい。もっと……側にいたいって気持ちになる。他の女といるのを見たら……、胸が締め付けられる。もっと……っ、私を見てって!」

 

 

 自分の恋慕がバレバレだと分かってエリザベスはマキマに告白をする。そして一度出た彼への思いは止まらない。頭で考えるより先に彼への慕情の言葉があふれ出す。

 

 

「……ん、ぽかぽか……ね。そんな気持ち久しく感じてないなぁ」

 

 

「アンタは何を考えているか分からないけど、人間嫌いだと思ってた。そして男も嫌い。人に距離を置いているし」

 

 

「……人のことは好きだよ。可愛い子は好きだし、犬みたいに忠実で扱いやすい人は特に。男性も私のことが大好きで、よく言いなりになってくれる。調子に乗って私を支配したいって欲深くなるのがたまに傷だけど」

 

 

エリザベスは、マキマの何処かずれた人間観を聞かさせれる。

 

 

「モーゼスはなんであなたなんか性悪女を……。……ねぇ、マキマ。……モーゼスの好意、あなたは気づいていたんでしょ?」

 

 

「気づいているよ」

 

 

あっけらかんとした声が返ってくる。モーゼスという男子から憧れと恋の感情を向けられているのは知っている。マキマは女性として見られる視線に決して鈍感ではない。そして悪意やそれに準ずる感情のベクトルにも敏感だ。

 

 

「エリザベスちゃんが私に嫉妬の感情を向けているのも知っているよ。結構嫌ってたよね、私のこと」

 

 

「……アンタのそういうところが嫌い、一人だけ何もかも……分かったように、私には関係ないって感じですまし顔で、……」

 

 

鋭いなと思う。よく見ているとも。この子の思ったことをズバズバ言えるのは、短所でもあり長所でもある。

 

(嫌いだからこそなのかな、よく見て私の核心の近い場所をついている。私は……兵士じゃない。所詮、兵士を演じているにすぎない。憲兵を目指しているのも、王家に近づくための手段。正体まで知られていないだろうが、みんなより一歩引いていること、見透かされているのだろう)

 

マキマが感心している中でエリザベスは続けて言う。

 

 

「でも、それと同じくらいアンタのことすごいとも思ってる。色んな面でとんでもないくらい優秀で、頼りになる奴だって。同じ班になって嫌でも分かったわ。今回もアンタがいなけりゃ私はとっくに死んでたし。だから、モーゼスがアンタに憧れるの気持ちも分かるの。モーゼスやアンタみたいな人が時代を変えるのかなって思ったの」

 

 

「……ん」

 

 

 エリザベスは、マキマに対する複雑な心情を吐露する。ホントに凄い人だと尊敬している他方で気に食わないとも思っているのだ。みんなの憧れの優等生であり、自身の思い人さえ彼女へ小さくない感情を向けている。十代の少女にとってマキマは劇薬みたいな存在だった。

 

 

「それにモーゼスには返しきれない恩があるの。だからモーゼスがあなたに恋しているのなら……ほんとに悔しいけど応援するつもり……」

 

(残念だけど、モーゼス君には懐いてくる子犬以上の感情はない。それに訓練兵での私が頼りになる……か。それは“私”のごく一部でしかないことを彼らは知らない。本当の私はもっと……。

――――ふっ、こんなこと考えたってしょうがないのにね)

 

余計な考えを振り払うように、エリザベスに質問する。

 

 

「エリザベスちゃんはなんでそんなに彼にこだわるの? 返しきれない恩って?」

 

 

「誰にも言わないでね……。……モーゼスは貴族の妾腹なのは知っているでしょ。実は私その貴族家に代々使えるメイドの家系なの。彼と私も、昔はただの家人とメイド見習らいの関係だった。モーゼスはね、貴族の家にいる時から領民の仕事を手伝ったり、目下の者にも気に掛けることができる人だったわ。不正や不公平を極端に嫌う、真面目すぎる点もあったけど人気もあったのよ。次の当主は彼だってね。でも彼には腹違いの兄がいた。そいつはモーゼスとは正反対のやつで、暴虐で傲慢なクソ豚野郎だった。すぐに癇癪を起して暴力を振るって、大声で怒鳴りつける。

貴族以外の人種は劣等種、それが奴の口癖。幼いころ何度も杖で叩かれたわ。自身の行動のせいなのに、モーゼスが人気なのを知ると、彼にもちょっかいを出していたし。それで……、私が14歳になって……ソイツは伽を私に命令したの……っ。目の前が真っ暗に……なったのを、覚えているわ……あんな奴に処女を捧げるなんて……、最低の気分だった。それに何をされるのか……恐ろしくて堪らなかった」

 

 

エリザベスは当時のことを思い出して、身の毛がよだつ体を抱えた。声が震えるのを必死に我慢して続きを話す。

 

 

「拒否したくて、怖くて母親に相談した。……でも返ってきたのは、命令だったわ。我慢しなさい。子供を産めば、あなたは次期領主の妻になれるかもしれないのだからと。所詮私たちは貴族のしもべ、誰も逆らえない。……私の味方なんて誰もいないかった。

 そう思っていた……でも偶然母との会話を聞いたモーゼスがいたの。私を連れて豚の部屋に入って、無理やり手籠めにするなんて最低だって堂々と言ってくれたの。当然言い合いになって、取っ組み合い喧嘩に発展したわ。それで……モーゼスは豚にケガをさせてしまった。結果、モーゼスとそのお母様は領地外に追放処分になった。私のせいでね。醜聞の元になった私も居場所はなくなった。

 

領地を飛び出して追いかけてきた私を二人は温かく迎えてくれた。そこで思ったわ。私はモーゼスを支えたいって。彼とお母様に恩を返したいってね。モーゼスが調査兵団に憧れて兵士になるなら、私もそうする。私の……私の王子様を見ているだけでもいい、でも近くに側にいたいの」

 

 

 想像以上に重い身の上話が終わった。性をまだ自覚できないほどの少女が食い物にされかけた醜悪な体験。エリザベスの声から、味わった絶望の大きさが重い測れた。そして暗闇の絶望の淵から救ってくれた人。馴染みの男の子を王子様のように感じてもおかしくない。途中声が震えるも最後は自身のヒーローを思い出して、彼のことを恋い慕う可愛らしい乙女がそこにいた。

 

ガバッ

 

 

「ヨシヨシ、そんなことがあったんだ。……エリザベスちゃんは、健気だね」

 

 

「//ちょっと急に抱き着くのやめてくれる! 子供扱いしないで」

 

 

(……こんな拗らせちゃってさ)

 

 

「でもモーゼス君には正直失望したな」

 

 

マキマの声は静かだが、確かにモーゼスへの落胆が感じられた。

 

 

「え!? なんでよ? 今の話はモーゼスは私を救ってくれたって話なのよ!」

 

 

「そう、救ったあと、どこぞの女にかまけてちゃってる。そしてエリザベスちゃんもだよ。そういうのは上手く手懐けとかなきゃだよ」

 

 

「どこぞの女って、それアンタなんだけど、、、。しかも手懐けるって」

 

 

「モーゼス君はバカだなぁ。こんなに可愛い子が隣にいるのに。だから私に彼女の初キス奪われちゃってもしょうがないよね」

 

 

「……ああ、まさか」

 

 

「さっきの覚えてない?」

 

 

「//もう忘れたわよ。うぅ、あ、あれはそうノーカンだから! 人口呼吸は初キスに入らないから!」

 

 

視界が悪い中マキマは絶対に微笑ましい顔をしていると、エリザベスは確信する。こういう時のマキマはいじっているというより、お気に入りのイヌと遊んであげている感じなのが、余計に質が悪い。

 

 

「じゃあお詫びに、本命キスが成功するのを手伝ってあげるよ」

 

 

「からかってばっかり! ……で、どう手伝ってくれるのよ//」

 

 

「未だに主従っぽく振る舞っているのが問題だと思うよ。モーゼス君に君の好意が、異性としてのものだということに気づいてないんじゃないかな」

 

 

「//だって……モーゼスの初恋だから……邪魔したくなくて……」

 

 

「……本当に健気だね」

 

 

「//じゃあ、どうしたらいいと思う?」

 

 

「ここに閉じ込めれているのはもしかしたらチャンスかもしれないよ。大事なものはいなくなってからわかるもの。モーゼス君は今頃幼馴染を心配しているはず。君がここから出た瞬間、彼に抱きついたりなんかしたら……」

 

 

ギュッ

 

「……イチコロだとは思わないかな?」

 

 

マキマの声がエリザベスの耳元で囁かれる。

 

 

「////きゃあ!! もうやめて、恥ずかしすぎる!」

 

 

照れてしまうエリザベスの抱き心地を堪能するマキマさん。実にからかい甲斐がある。悪戯が成功して満足したマキマはエリザベスから離れた。

 

 

「要は、再会した気持ちを利用してそのまま恋人になっちゃえばいいんじゃない」

 

 

「でも、同じく……モーゼスにとって初恋のアンタも閉じ込められているけど? そんな風に上手くはならないわよ」

 

 

「う~ん、もうひとつインパクトがあったほうがいいね」

 

 

「インパクト?」

 

 

「恋文とか……思いの丈を伝えて、彼の心を捉えてしまうような何かがあれば……」

 

 

マキマのことなんて忘れてしまうような強烈なのがいいだろう。誰でも猛烈な好意を伝えられたら、その気持ちに応えたくなるもの。

 

 

「え!? 恋文? そんな上手い文章をかける自信がないわ……」

 

 

「う~ん……、じゃあ、恋の歌とか? 麓の山小屋にギターがあったから、それで恋の歌を彼にぶつけるなんてやってみたら? 私の知ってる曲を教えてあげるから、それをエリザベスちゃんが歌って披露するの」

 

 

「歌は教会で歌ったことがあるけど……」

 

 

「じゃあ、決まりだね。おすすめの曲は……」

 

 

年頃の乙女たちの恋の話題は佳境に入る。閉じ込められていることを忘れるくらい、話に熱気が帯びた。その後話し疲れた二人は、夏の夜の肌寒さを寄り添い合って眠る。

 

*******************************

 

 

 急ピッチで進められた救出作業。下山し終えた訓練兵たちは総出で当たった。もし雨でも降れば、救出は困難になり坑道は水没するかもしれない。それに二人のいる空間が何らかの拍子で潰れてしまう可能性もある。同期の少女二人を一刻も早く助けるために、皆代わる代わる作業した。文句を言う奴はいない。なぜならば、二人は仲間だから。二年間訓練を共にした仲間を見殺しなどできない。

 

坑道の出口で閉じ込められたマキマとエリザベス、二人のいる空間がついに掘り起こされた。

 

 

「いた! いた! 二人が見つかったぞ!!!」

 

 

「二人とも無事だ!!」

 

 

歓声があがる。そこには久しぶりの日光に目を眩しそうにするマキマとエリザベスの姿があった。

 

 

「マキマ!! エリザベス!! ったく、……っ、心配かけやがってっ」

 

 

「……っ、二人とも本当に無事でよかった!」

 

 

「……また会えて……よかったよ」

 

 

ゲルガー、モブリット、トラウテ。二人と同じ班員たちは、クマをこさえた目で涙ぐむ。周りを見渡すと、泥だらけで同じように鍬やシャベルを持った同期たち。

 

 

「エリザベス! マキマ!」

 

 

切羽詰まった大声で金髪の青年が駆け寄る。

 

 

「二人とも怪我はないのか!?」

 

 

「私は無事。彼女は君が確かめてあげたら?」

 

 

マキマは隣の少女の方に目線を向けた。

 

 

「モーゼス……っ、……ぅ、あいだがっだ」

 

 

お姫様は、王子様の胸に飛び込む。

 

 

「……っ、俺もだよ、エリー!!」

 

 

 彼は彼女を優しく包み込む。いつもと違い周囲も茶化したりはしない。再会を喜ぶ気持ちは良く分かるから。二人ともいい顔をしている。二人を見つめていたマキマの体に衝撃が走る。そう嬉しい衝撃が。

 

 

「元気してた?」

 

 

リコとナナバが抱き着いてきた。二人とも可愛い顔が涙でぐちゃぐちゃだ。

 

 

「……っバカ!」「お前が、死ぬわけ……ないだろ!」

 

 

「よしよし」

 

 

マキマはそんな二人の頭をなでなでしていた。

 

 

「ミタビ、頑張って堀った甲斐があったな」

 

 

「ああ、そうだね」

 

 

 ミタビとイアンは抱き合う彼女たちを見ながら笑って拳をぶつけあう。そんな暖かい光景を祝福するように一筋の涼しい夏の風が吹いていった。

 

 

 




なんで原作でもチラッとしか出てないモブとオリモブの恋愛話をこんなに大真面目に書いているんだろ? 
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