マキマさん顔で行く、進撃の巨人   作:トロマグロ将軍

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 今回の話には挿入歌が三曲入っています。そうです。マキマさんに歌を歌わせます。どの曲も私が好きだからお勧めしたい(まあ好きだけど)、というよりストーリーに合わせた選曲をしました。ぜひよかったら曲を聞きながら読んでください。三曲ともYouTubeにギター弾き語りがあります。

 歌や曲を入れることは、やりすぎると物語のノイズになってしまうと考えています。また作者は音楽に疎い方です。それでも執筆中は音楽を聴くことが多いので、どうしても入れたくなってしまうのです。チェンソーマンで退場してしまった(多分?)マキマさんに、色んなことをさせたいと思って書き始めた本作。どうか浅ましい作者の欲望にお付き合い下さい。

 歌詞使用のルールに抵触している部分があれば教えて下さい。ハーメルン初心者なので間違ってないかすごい不安。。。


11:心、溶けゆく歌

 二人の無事が確認され、訓練兵たちは麓の山小屋に戻った。そして明後日の朝まで山小屋で休むことになる。本当なら今日訓練地に帰る予定だったが、マキマたちを救出するため滞在の延長を決定していたからだ。教官も訓練兵たちに温泉につかってゆっくりして欲しいという気持ちがあった。だが訓練兵たちは若者だ。疲れていて休みたいと思う気持ちと、同じくらい急遽決まった休みに騒ぎたい気持ちがあった。夏の温泉と川遊びを堪能した後、夜は川で採った魚でバーベキュー大会とキャンプファイヤー。皆短い青春を謳歌するために必死だ。

 

 そして場面は河原のキャンプファイヤーに移る。近くの林の木で井桁組で組まれたキャンプファイヤー。轟々と燃えがる火が、笑い合う訓練兵たちの顔を明るく照らす。

 

 

「オイオイ騒ぎすぎじゃないか?」

 

 

「大丈夫だよ、教官も今日は多めに見るとのお達しがあったんだ」

 

 

「せっかくの休みなんだ! 楽しまないと損だぜぇ」

 

 

皆、思い思いに楽しんでいる。

 

 

「みなさん」

 

 

そんな中突然、マキマがみんなに向かって呼びかける。

 

 

「先日はご心配をおかけしました。今こうして立ってられるのは、皆さんのお陰です」

 

 

「マキマさぁん!! そんな水臭いっすよ!!」

 

 

「そうだぜ!! 仲間なんだからよぉぉ」

 

 

調子の良い声があがる。マキマは微笑んで彼らの声に応える。

 

 

「それで……、感謝の印として歌を披露したいと思います」

 

 

 ギターを掲げながらそう言ったマキマに群衆は歓声をあげる。マキマは椅子に姿勢よく座り右足を組んだ。その上にギターを置く。マキマが自らこんな風に耳目を集めるのは一度もなかったこと。そのためその場は自然と静かになって、ギターを抱える姿に皆の視線が釘付けになる。マキマが少しチューニングと腕鳴らしにギターから音を引き出す。容姿端麗な首席の彼女はどんな歌を聞かせてくれるのだろう。皆の期待のボルテージは最高潮に達する。

 

 

「それでは、歌います。『花に亡霊』

 

もう忘れてしまったかな

夏の木陰に座ったまま

氷菓を口に放り込んで風を待っていた

 

もう忘れてしまったかな 世の中の全部嘘だらけ

本当の価値を二人で探しに行こうと笑ったこと

 

忘れないように 色褪せないように

形に残るものが全てじゃないように

 

言葉をもっと教えて 夏が来るって教えて……」

 

 

透明感あふれる柔らかなハイトーンボイスが会場に響く。夏らしい爽やかなリズムと歌詞が、夜風に気持ちよく溶け込む。

 

間奏のギターさばき。マキマらしい丁寧な演奏。細い指がギターを滑っていく。

 

忘れないように

色褪せないように

歴史に残るものが全てじゃないから……

 

マキマは弾き語りをしながら、自身の演奏に目を輝かせて耳を傾けてくれる、若人たちの顔を見た。その目はどこまでも純粋だった。痛々しいばかりの昂揚が目に入る。手を動かしながらマキマは目を閉じた。

 

(あぁ、今は……この時を……)

 

 

【挿絵表示】

 

 

ギターを鳴らす手と、美声を出す口に、力が入る。

 

 

忘れないように

色褪せないように

心に響くものが全てじゃないから

 

言葉をもっと教えて

さよならだって教えて

今も見るんだよ

夏に咲いてる花に亡霊を

言葉じゃなくて時間を

時間じゃなくて心を

浅い呼吸をする、汗を拭って夏めく

 

夏の匂いがする

 

もう忘れてしまったかな

夏の木陰に座ったまま、

氷菓を口に放り込んで風を待っていた」

 

 

パチパチパチパチ

 

ヒュー!ヒュー!ヒュー!

 

「感動したよ!!!」

 

「スゲーぇぇぇ!!」

 

「マキマちゃんーー!! 好きだ!!!愛してる!!」

 

「マキマさぁぁん、かっこよすぎるぜ!!」

 

「アンコール!! アンコール!! アンコール!!!」

 

 

賞賛の嵐が吹き荒れる。それを微笑んで返す。だがここからが本番なのだ。

 

(十分場を温めたよ、エリザベスちゃん)

 

 

「一曲しか歌わないとは言ってないよ。でも歌うのは私じゃない。エリザべスちゃん、おいで」

 

 

するとエリザべスが恥ずかしそうにしながらマキマの側に来た。

 

 

「//やっぱり恥ずかしいぃ!! みんなの前で恋の歌を歌うなんて……、変な声出たらしたら……」

 

 

「練習したでしょ? それに私はエリザベスちゃんと歌いたいな」

 

 

「//分かったわよぉぉ」

 

 

小声でやり取りしていた二人だったが、ついに演奏する覚悟ができた。

 

 

「次の曲は『時の流れに身をまかせ』」

 

マキマがギターの前奏が場を盛り上げる。

 

「……っ、歌います!

 

もしもあなたと逢えずにいたら

わたしは何をしてたでしょうか

平凡だけど誰かを愛し

普通の暮らししてたでしょうか

 

時の流れに身をまかせ

貴方の色に染められ

一度の人生それさえ

捨てることもかまわない

 

だからお願いそばにおいてね

いまはあなたしか愛せない……」

 

 普段は勝気のイメージのエリザベス。儚い恋の歌だが、そんな彼女が頬赤らめて歌っているため、必要以上に暗い歌には聞こえない。マキマの高い声とは違った、低中音のチェストボイスがいい味を出す。そうやって純粋な彼女の気持ちが歌に乗る。

 

時の流れに身をまかせ

あなたの胸により添い

綺麗になれたそれだけで

いのちさえもいらないわ

 

だからお願いそばに置いてね

いまはあなたしか見えないの……」

 

急に始まった純愛の歌。一人の青年に向けて歌われていることに誰もが気がつく。涙ぐみながら歌うエリザベスの視線がそれを語る。

 

 

「エリーゼ……」

 

 

 モーゼスは慎ましやかな姿の幼馴染を見ていた。救出された後、真っ先に自分に駆け寄ってくれた彼女。熱い抱擁を交わしたエリザベスをいじらしく思う。彼の頭の中で歌詞の言葉が耳に入ってくる。自身の顔も熱くなる。終わるのが勿体ないとさえ……、だがあっという間に歌は終わってしまう。

 

 

「ぶ、ブラボー!!!」

 

「私感動しました!! エリーちゃーん、よかったよーー!!!」

 

「俺にもあんな幼馴染がいたらよぉぉぉ」

 

「俺は地元の幼馴染に会いたくなったぜ」

 

「リア充爆発しろ、リア充死すべし、死すべし……」

 

ゆっくり休んで熱を治したソフィアが、エリザベスを声援を送る。他にも妬みと羨望が入り混じる声が多数あがる。

 

 

「「「アンコール! アンコール! アンコール!」」」

 

 

「ありがとう。では最後にもう一曲」

 

 

そう言ってギターを肩にかけて椅子から立ち上がるマキマ。

 

 

「えぇ、……あれ、本当に……歌うの?」

 

 

対してエリザベスは渋い顔だ。

 

 

「最後のメインディッシュは明るい曲で締めないとね。それに今度は私も歌うんだから」

 

 

「……はぁ、もう最後まで付き合うわよ!」

 

 

二人は隣り合い聴衆の前に立つ。

 

 

「最後はデュオで歌います。『貴方解剖純愛歌~死ね~』、1、2,3……

 

 

あなたの両腕を切り落として

私の腰に巻きつければ

あなたはもう二度とほかの女を抱けないわ……」

 

最初の内は代わりばんこで二人は歌う。激しいアップテンポのメロディーとともに、二人の声が突き抜けていく。歌詞の内容は狂気的だが、軍人である彼女達らしい、直線的な歌。二人は男に傅くだけに甘んじる、か弱い女性ではない。純粋だけど下手に手を出せば、大やけど間違いなしのGirly girl!

 クールでロックにイカす二人を見て、自然とリズムに乗った手拍子がはじまった。サビに移り、二人の勢いはとどまることを知らない。二人は背中を合わせて熱唱する。

 

ねぇ?

どうしてそばに来てくれないの

死ね。

私を好きじゃないのならば……

 

 

歌詞に忠実に死ねと歌うマキマと、嘘でも死ねと言いたくなくて好きだと言うエリザベス。

 

 

 

間奏中、マキマがギターを一人かき鳴らす。

 

そしてエリザベスと顔を見合わせ、二人は笑い合う。エリザベスは歌うのに感じていた躊躇が吹き飛ぶ。二人で歌う内にそんなことはどうでもよくなる。暗青色の髪と赤髪の美女の即席ユニットは、この日誰よりも、そして真夏の焚火よりも熱く輝いていた。

 楽しい! 閉じ込められた二人には、確かに絆が生まれていた。それは目に見ることはできないが確かに存在していた。

 

 

ねぇ?

私はどこかおかしいですか

好きすぎて

あなたが欲しすぎて……

 

大事なCメロ部分はエリザベスが歌う。この歌の主人公は彼女だから。そして大サビは二人一緒で。

 

 

ねぇ?

どうしてそばに来てくれないの

死ね。

私を好きじゃないのならば」

 

 

 

*****************************

 

パーティーは解散。焚火の火が消されて残り火が香る中、人知れず一組男女が会合する。

 

 

「エリー! ……歌、良かったよ」

 

 

「//……モーゼス! あ、ありがとう」

 

 

お互いなんとなくぎこちない。だがモーゼスが彼女を引き留めたのは歌を褒めるためだけじゃない。モーゼスはケジメをつけるために切り出した。

 

「気づけなくてごめん、君が僕にそこまでの好意を……。君がまだ昔のことを引きずって、僕に負い目を感じていると思っていたから……。僕はあの家で起きたことを忘れて、君には自由に生きて欲しかった」

 

 

自分の家で起きたおぞましい事件。被害者である目の前の黒髪の少女を見て、モーゼスは悔しそうな顔をする。

 

 

「モーゼス様っ! そんな忘れる事などできません! 私を救ってくれたのは、あなた様だけだったのですから!私のせいでモーゼス様の人生を狂わせた。せめての恩返しとして私の人生は、モーゼス様に捧げると誓ったのです! ですが、……私はやはりメイド失格です。仕えるべき主人の側に侍るほど……思慕の思いを強くしてしまうなど、あってはならないことなのに……」

 

 

モーゼスにとってはそれが負い目だと思っていた。彼女がメイドに徹する、それこそが過去の事件の延長線上だと。

 

 

「エリザベス……。僕の人生は僕が決めたものだ。君のせいなんかじゃない。それに君はもうメイドじゃないよ。僕が領地から追放された件も、かえってよかったと思っている。真面目すぎる性格な自分には、貴族より兵士の方が性に合っているよ」

 

 

「モーゼス様、お願いします! 浅ましい女の好意に応える必要はありません! ですが、あなたの側にいられる理由まで取らないで下さい!」

 

 

エリザベスは必死だった。側仕えという立場を自称しているから、彼の近くにいれたというのに。

 

 

「だったら、僕の思い人として側にいてくれないかな?」

 

 

「……へ?」

 

 

彼女にはモーゼスの言っていることが分からなかった。そんな彼女にモーゼスはとどめを刺す。

 

 

「僕も君が好きだ」

 

 

だが困惑する彼女は信じられない。信じることができない。主人の思い人は彼の口から聞いたことがあるから。

 

 

「//え、そ、そ、そんなこと、嘘の慰めなど必要ありません!! それにマキマ、彼女のことはどうなのですか!? 彼女は確かに優秀で、頼りになる、そしてなにより……っ、私など霞むくらい魅力的な女性です。一緒にいたからこそ……ぅ、友達だからこそ……っ、わかるのです。私が万に一つも勝てないことくらい! 私はあなたの枷には……なりたくありません」

 

 

モーゼスは辛そうにする彼女が見てられなくて愛おしくて、下を向く彼女の頭を撫でた。

 

 

「君は昔から強情だな。さっきマキマに呼びとめられてね……」

 

 

先ほどモーゼスは珍しくマキマの方から呼びかけられていた。ほんの少しの会話だったが、彼女と交わした会話をエリザベスにも話す。

 

********************************

 

「モーゼス君、私たちの歌どうだった?」

 

 

「……君は歌や楽器の演奏にも堪能なんだな。今まで聞いた音楽の中で一番良かったよ。……それになんだか目を覚まされた気分だった」

 

 

「……そう。それじゃ、私が一肌脱いだ甲斐もあったかな」

 

 

マキマの黄色い瞳が鋭く射抜く。そこに、先程歌を歌っていたような柔らかさはない。モーゼスはその強い瞳に揺らぎそうになる。だが……

 

 

「……人の生は短い。その中で本当に大事なものを見つけれたものは幸運でしょう。私だってまだ見つけることができないでいる。……祈っています。あなたが大事なものを、再び見失ったりしないように」

 

 

一転し伏し目がちな目でそう言う姿は、薄幸な聖女のようだ。

 

 

「それは……どうい……」

 

 

モーゼスの言葉を遮ってマキマは言い放つ。

 

 

「――――それと、私は嫌いです。友達を泣かすような人が」

 

 

彼女はそう言葉を残し去って行った。

 

 

**************************************

 

 

「マキマの言う通りだ。僕は兵士になっても仕えようとしてくれる君のことを、意識して家族のように接していた。君の負い目を利用して、そういう関係になるのは、兄と同じようで嫌だったんだ。ちっぽけなプライドさ。どこか君の奉仕を快く思いながら、僕自身の過去のしがらみだと考えていたんだ。

 でもそれは、ただの逃げだ。マキマへの好意を理由にして逃げていたんだよ。君に真っすぐ向き合うべきだった。そう気づいたのは、君を失うかもしれないことになった後だけどね。君がいないと思うと物凄く怖かったよ。二人が事故にあったのを聞いて、僕は……ずっと君のことばかり考えていた。いつも近くにいてくれた君が、僕の本当に大切なものだったんだ。

 再会できた時は、神に感謝した。それほど嬉しかった。そして二人が歌っている時、僕は……気づけば、君にずっと夢中だった。君がどの女性よりも可愛らしく感じた。……こ、こんなに人を愛おしく思ったことはない。

 正直に言おう、今も君を抱きしめたいと思っている。……君に恋しているんだ

 

照れながら自分の頭を撫でて、そう話してくれるモーゼス。そんないじらしい彼の姿をエリザベスは初めて見た。エリザベスは愛しい人からへの言葉に、とうとう耐えきれなくなって、モーゼスの胸に飛び込む。

 

 

「モーゼス様っ!! ……っ、……ぅ、ずっと、……っずっと、……っ、お慕い申しておりました!! これからも……っ、……ぅ、私は、お慕いしてもいいのですか!!」

 

 

「……っ、ああ。……僕もこれから……ずっと、ずっと、君を思おう」

 

 

 焚火の残火が時折音を立てて、二人を優しく包み込む。それはとてもとても暖かいものだった。相瀬を終えて二人は名残惜しそうに別れたあと、エリザベスは女子寮のマキマの元へ行く。とある約束をしていたし、彼女にはお世話になったから。

 

 

「マキマ!! ホントにありがとう!!」

 

 

本当に幸せそうな笑顔の表情で自身の胸に飛び込んできた彼女を見れば、ハッピーエンドを迎えることができたことが分かる。

 

 

「良かったね、エリーちゃん」

 

 

一緒にいたソフィアやリコ、ナナバも同様に祝福する。

 

 

「あなたのお陰よ、マキマ。……あなたのことを誤解してた。モーゼスのこともそうだし、閉じ込められた時もわざと冗談を言って私を励ましてくれたわよね。普段よりあなた明るかったもの。正直前は何を考えてるか分からない不気味な奴だと思っていたけど、貴方って本当に凄くて優しい人だわ!」

 

 

「私は君より年齢も上だし、これくらい当然だよ。それにエリザベスちゃん、ほとんどはあなたの力。よくがんばったね」

 

 

マキマはエリザベスの健勝を称えた。

 

 

「それにしても、二人の演奏は良かったよ。もっかい聞きたいくらいだ」

 

 

「そうだ。こうなんていうか、神がかっていたいうか……な。二人に引き込まれたよ」

 

 

「マキマさんもエリーちゃんも、とてつもない音楽の才能があるんじゃないのかな!!」

 

 

リコ、ナナバ、ソフィアは先ほどの興奮がまだ冷めず、その身に滾っていた。

 

 

「私はともかくマキマには音楽の才能があるわ。それも人を動かせるほどの。他にもいい曲を持っているみたいだし」

 

 

エリザベスが自慢げにマキマの才能をひけらかす。

 

 

「本当なんですか、マキマさん! 今度聞かせてください!」

 

 

「兵士より歌手の方が稼げるんじゃないか?」

 

 

「うん、立体機動の時ぐらい楽しそうだったよな」

 

 

早速新たにリクエストするソフィア、歌手の方が稼げると冗談を言うのはナナバだ。長い付き合いのリコは立体機動をしている時と同じくらいに溌溂としていたマキマの姿勢に言及する。

 

 

「……歌手……か」

 

 

 マキマは思わず呟いてしまう。ギターを弾いて歌う。それはこの体になる前、前々世の、そう転生する前からの趣味なのだろう。ギターを手にすると自然に体が動くのだ。個人的な過去の記憶はなくても、演奏をすることは体が覚えていた。思い入れとは強いものだ。唯一マキマになる前のジブンと今のマキマのジブンをつなぐもの。先ほど演奏していた時は本当に楽しかった。まるで前のジブンに戻ったような感覚だった。自身の演奏を楽しむ、皆の満足そうな顔が嬉しかった。

 

 

 マキマの様子がおかしい。ほとんど飄々としている様子のマキマだが、先ほど呟いた言葉は少し弱々しい。マキマの視界には4人の少女たちが映っているはずなのに、その誰とも焦点が合わない。そして4人は幻視する。マキマの赤い髪が黒いものに変わり、そうと思えば次は白く、髪型も長髪や短く乱雑なものになったり。特徴的な同心円状の黄色の目がことさら妖しく光る。マキマの中にもう一人いるかのような感覚。悲しそうな、そして懐かしいものを見るような、まるで彼女がどこか違う場所へ行ってしまいそうな雰囲気だった。

 

 

「「「「マキマ(さん)!!」」」」

 

 

「……ん、……どうしたの?」

 

 

「どうしたのじゃない、おまえがどうしたんだ!?」

 

 

「マキマ! 急に黙り込んで、どうしたの!?」

 

 

「・・・・・・ああ、ごめんね、ぼーっとしてた」

 

 

そこにはいつものマキマがいるだけだった。四人はさっきのはなんだったろうかと考えるが、あっけらかんとするマキマに何も言えなかった。

 

 

「もしかして、マキマさんって歌手になるのが夢なんですか!? だからそんなに悩んで」

 

 

「……なるほど、そういうことだったのか」

 

 

ソフィアが閃いたように言う。それに対しナナバは納得するが、リコは胡散臭そうにしている。

 

 

「………ん、良く分からないけど、歌手……ね。兵士を首になったらそうしようかな」

 

 

 マキマはぼーっとしてたせいで話題についていけなかった。歌手になれるとは思えないが、とりあえず深く考えずに話に乗っておこうと思ったのだ。

 

 

「じゃあ、こうしましょう!すべてが終わって、みんな退役したらマキマが歌手になるの。それをみんなで応援する。歌手をするといっても色々人手がいるわ。それを私たちがサポートする。そして老後は大きい劇場の一番前の席で、マキマの演奏を聞く。除隊後の余生としては中々素敵じゃない?」

 

 

「乗ったよ!」

 

 

「ロマンティックですね! ふふ、賛成です!!」

 

 

「……演者側に駆り出される気がする。言っとくが私は聞く専だぞ」

 

 

エリザベスがみんなに呼びかけ、思い思いに企みに対して心意気を述べる友人たち。

 

 

――――すべて……、すべてが終わったら……

 

 

「マキマ! ちょっとそんな私の顔を凝視しないでよ! この約束の肝心はあなたなのよ」

 

 

(そんなこと考えたこともなかった)

 

 

「……いいね。そういうの」

 

 

世の中の無常を知らぬ、若人特有の青さ。その青さがまぶしい。思わず一緒に染まってしまうのも悪くないと思うほどに。

 

 

「じゃあこれは私たちの約束。忘れないないでよ!」

 

 

「ああ、約束だな」

 

 

「はい!」

 

 

「ただの痛い思い出にならないといいが、、、」

 

 

(まぶしいな。そしてそんな純粋に未来を考えられるのが羨ましい。原作のアニちゃんたちもひょっとしさたらこんな気持ちだったのかな?)

 

 

「……うん、いいよ」

 

 

 約束。それはいつわりのないもの。かけがいのないもの。それは天に輝く恒星のようなもの。いくつかの瞬い恒星は集まることで意味をなし星座を形作る。

 マキマ が見ていた景色は、いつも周りと違うものだった。この世界ではそれを共有できる者はいない。彼女はいつも一人だった。だがこの時は、同じ約束をもち、ともに星を眺める人がいる。この世界に来て初めて、“友達”と"同じ場所"で"同じ物"を見た。それはまるで暗闇の中の一筋の光のよう。

 

その夜彼女はエリザベスを抱き枕に眠る。恋のキューピッドをした見返りとして求めたものだったから。久しぶりによく眠るマキマのその寝顔は、心地のよい物だった。




 この世界に転生したマキマさん。家族が殺され一人で壁の中に飛ばされています。
そうして下がっていたSAN値が今回の話でかなり回復しました。初めは傍観者を気どり、周りと距離を取っていたマキマさんも、アニやライダーたちと同じように、こうしてかなり絆されていくわけです。
 つまりこの章は、仲間と青春を共有し、傍観者ではいられなくなっていく話です。平和すぎて進撃の巨人っぽくないと思われる方も多いと思います。でも安心してください。原作に近づく行くほど再びSAN値は下がっていくイベントが増えていきます。ではネタバレは程々にして、次回もサービス、サービス!
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