マキマさん顔で行く、進撃の巨人   作:トロマグロ将軍

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チェンソーマン刺客編、アニメ制作が決定しましたね。

 いや~レゼ様ありがとうございます。本当レゼ様に感謝感謝です。このまま順調に行けば一部までアニメ化してくれそう。

ということは、アニメで生姜焼き定食になっちゃう前に、この小説を早く進めなければ(笑)


16:天井の価値は

 闇医者とは薬屋のことらしい。リヴァイはファーランに付き添ってもらい、私はイザベルちゃんに肩を貸してもらいながら四人は到着する。

 

 

「おい、ドク。俺だ。リヴァイだ」

 

 

店の裏口のドアをリヴァイがノックすると、眼鏡をかけた白髪の老人がおそるおそる顔を見せる。現れた三人と私の顔を見て、老人がギョッとしてん叫んだ。

 

 

「憲兵がいるじゃないか! どういうことだ? ここがどこか分かっとるのか!?」

 

 

「なあ、ドク頼むよ。ちょっと訳ありなんだ。お代も弾む。それにあんた、俺たちに貸しがあるだろ」

 

 

「ク、クソ。早く入ってくれ!」

 

 

四人は中に入り二階に上がる。そして廊下を進むと治療室と書かれる部屋に通される。部屋は薬品棚と簡易的な治療器具、そしてぱっと見て清潔なベッドが置いてある。

 

 

「そ、その憲兵は本当に信頼できるのか? 憲兵に目をつけられたら商売あがったりだぞ」

 

 

「騒がしいな、じいさん。あんたは心配しないでいい。問題があれば、俺たちが始末する」

 

 

「お騒がせします。憲兵としてのお礼はするつもりです」

 

 

「……憲兵の言うことなんて信頼できたもんじゃない」

 

 

「羽を休ませるだけです。すぐに立ち去ることをお約束します。………支部の方へ応援を呼んで事を大きくしたくありません」

 

 

「……これから仲良くお話しようって時に、実に憲兵らしい脅しじゃないか」

 

 

リヴァイがマキマに向かって牙を向く。

 

 

「……これでも憲兵ですから。……おじいさん、必ずお礼します。私がここを危険地帯だと報告すれば、他の憲兵はしばらく近づかなくなります」

 

 

「……はぁ分かった。二人とも座ってくれ」

 

 

薬屋はため息をつきながら渋々と承諾した。そしてリヴァイとマキマにベッドに腰掛けるように勧める。

 

 

「私は道具だけ貸して下さい。自分で治療します」

 

 

 ベッドの真ん中で仕切りが設けられ、マキマは体から制服を外していく。イザベルがそれを手伝う。そんな彼女の目に白いキャミソール姿のマキマが表れる。若くてみずみずしい色気にゴクリと唾を飲み込んでしまう。スラリと伸びる手足が艶めかしい。傷や汚れがされに何か背徳的なものを感じさせる。

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……結構切れてるぜ、痛そうだ」

 

 

「心配してくれてありがとう。傷の治りは早い方だから大丈夫だよ」

 

 

二人で体の傷の位置を確認をする。そして煮立ったお湯を用意する。予後不良にならないために、器具を清潔に消毒するためだ。

 

 

「マキマってさ、何歳なんだ?」

 

 

「私? 今年で18歳ぐらいかな」

 

 

「そうなんだ、もうちょっと若いのかと思った」

 

 

「ん?………よく大人っぽく見られるんだけどな」

 

 

「いや、肌がすごくきれいだからさ」

 

 

マキマは少しもためらいもせず下着も抜ぐ。

 

 

「うわぁ内出血してる、なんかごめんな」

 

 

「イザベルちゃんは悪くないよ」

 

 

下着に隠れていた部分は切り傷というより打撲により痣が出来ている部分がある。

 

 

「………す、スゲーきれいだぜ」

 

 

イザベルが自分の薄い胸と見比べて話すの見て、マキマは答える。

 

 

「もう少し歳をとれば大きくなるんじゃないかな」

 

 

「////な! いいんだよ、俺は」

 

 

「オイ、少しは黙ってできねぇのか」

 

 

仕切りの向こうからイラついた声が発せられる。口にはしないがハーランも同意見だった。普段イザベルの周りに女性がいないため大目に見ていたが、少しは周りを気にするべきだ。そしてヒートアップしていく女性たちの場違いに官能的な会話。それに対しツッコミを入れざるを得なかったのだ。

 

 

「ハイハイ、声を抑えますよ」

 

 

「兄貴、ノンデリd……」

 

 

「お前も黙れ」

 

 

女性陣にとっては、男性陣の『聞こえる』が『聞いている』にどうしても感じられる。耳に触るのなら、聞かなければいいのだと。こういう時はさらりと聞き流すのが紳士だ。リヴァイたちへの評価は期待外れだと言わざるを得ない。

 

 

 マキマは切れている場所を、針と把針器でするすると縫合していく。

 

 

「手慣れてるんだな。さすがエリート兵士様だぜ」

 

 

「普通の兵士は習わないかもね」

 

 

「へぇーそうなんだ」

 

 

「案外やり方自体は難しくないよ。でも傷の治り方には経験の差がで出ちゃうけど」

 

 

「でも見てるだけで痛そうだぜ」

 

 

傷を縫ったり、湿布を貼ったりして治療が続いてく。

 

【挿絵表示】

 

 

********************

 

 

「そろそろ、話し合いとやらを始めようじゃないか。ドク、しばらくここを貸してもらうぞ」

 

 

「……他の患者が来るまでだ。私は店の方へ行ってる、とにかくこれ以上は巻き込まんでくれ」

 

 

そういってドクは部屋を出ていく。

 

 

「憲兵。続きだ」

 

 

 リヴァイとマキマはベッドに向かい合って座り、ファーランとイザベルは壁に寄りかかっている。マキマは三人のことを順に見て、それからゆっくり『自分の経歴』を話し始める。

 

 

「私は名前マキマ・ランス。生まれはこの地下街で、4歳ほどで遠い血縁だという人に連れられてここを出ました。その人曰く私の両親は地上で暮らしていたらしいのですが、何らかの事情で王政府に目を付けられ、両親は地下街に逃げ落ちました。しかし厳しい逃避行の末父は亡くなったそうです。その後母はなんとか伝手を使って地下街に親戚を呼び、私だけでも地上で暮らせるように私を預けました。結局途中で親戚も死んでしまい、ウォールマリア内の村を転々しました。最後は拾ってくれた老人とともにシガンシナ区で暮らしていましたが、彼が4年前に亡くなり、それを機に兵士を目指して今に至ります。……親戚は連絡の取れなくなった母のことについて、ほとんど語りませんでしたが、一度『君を連れ出した後、君の母はもう一人妹を産んだらしい』とだけ心の残りのように呟いたことがあったんです」

 

 

マキマは『自分の経歴』を話し、一拍してドクから渡された井戸水をグッと飲み込む。そしてさらに話し出す。

 

 

「私はいるのかどうかも定かでなはい、自分の姉妹を探すつもりはありませんでした。もし母が妊娠していたとしても、地下街で生まれた子供が無事に成長する可能性は低いでしょう。この任務で地下街に来たのも偶然でした。そんな時標的の内の一人に、母や自分と同じ赤髪の少女がいると分かりました。赤い髪色は地上でも少ないです。もしやと思ってしまいました。確かに今日イザベルちゃんを見て正直半信半疑です。ですが私にはもう家族と呼べる者はいません。だからこそ少しでも血の繋がる可能性があるのならば。………どんなに寂しくて困難の人生だっただろう妹を私は見捨てることができない――――」

 

 

イザベルはマキマの声が右から左へと流れていく感覚になっていく。

 

 彼女の生き方は、今だけを考えることだ。犬の餌にもならない自身の過去について、考える余裕はこの地下街で暮らす上でなかった。孤児として生きてた時は、少ない賃金でぼろ雑巾みたく大人に働かされたり、食い物を漁ったり、泥棒をしたり、今を生きるのが精一杯。寂しい生き方? 寂しいなんて感情を知ったのは、今の仲間と出会ってからだ。薄暗い地下街で鳥のように颯爽と飛び回る二人組。かっこよくて、憧れた。そんな二人に助けてもらい、仲間に入れてもらった。なんて嬉しいことだったか。リヴァイとファーランがいれば、何も怖いことなんてない。地下街で初めて得た、温かい自分の居場所。三人一緒で地上で暮らすのが夢になった。

 

 

そんな時――――突然降ってわいた、自分の過去。本当の家族かもしれない、自分の姉。

 

 

「結局、あんたはイザベルをどうしたいんだ?」

 

 

ファーランがうつ向いているイザベルをチラリと見ながらマキマに問う。

 

 

「イザベルちゃんの意思次第ですが、地上に連れて行って二人で暮らしたいと思っています。イザベルちゃん一人なら、憲兵の伝手で市民権の獲得も容易ですから」

 

 

(私一人だけ、地上に?)

 

 

「余計なお世話だ!」

 

 

ずっと俯いたまま黙っていたイザベルが突然叫ぶ。

 

 

「……もちろん姉御の申し出は嬉しいよ。アンタは妹か分からない犯罪者と暮らしたいっていう、優しくて変わった憲兵らしいな。だけど、俺だけで地上に出るってのは、……嫌なんだよ。俺の夢は……この3人で地上で暮らすことだから」

 

 

「イザベル……」

 

 

大きな声で悲壮な訴えをするイザベルに、ファーランの口から思わず声が出る。

 

 

「だそうだ。とんだ無駄骨だったな、憲兵。俺たちは自分の力で地上に行く」

 

 

リヴァイにも嘲笑うように言われてしまう。だがマキマも簡単には折れない。

 

 

「……私は無理強いはしません。ただあなた方は憲兵に睨まれすぎている。まだ噂の域ですが、地下街憲兵団支部はあなた方の捕縛を、調査兵に協力を依頼したと聞きました。立体機動装置頼みのあなた方にとって彼らは天敵と言っていい。このままでは捕まるのは必然でしょう」

 

 

マキマが暴露した話によって三人の顔色が変わるが、、、

 

 

「姉御、俺たちは大丈夫だぜ。なんだって、ひさku.......」

 

 

「――――おい、イザベル。黙っていろ」

 

 

リヴァイがイザベルが話すのを遮る。それを誤魔化すようにファーランはマキマに尋ねた。

 

 

「マキマさんだっけ、そんなこと親切に教えてくれちゃっていいの?」

 

 

「私があなた方に示せる誠意はこれくらいですから」

 

 

「なら憲兵、俺たちのことを、お前ら憲兵がどれだけ掴んでいるか教えろ」

 

 

マキマはリヴァイたちの捜査状況を大まかに伝える。他にも聞かれたことには素直に答えた。その後リヴァイが3人だけで少し考えさせて欲しいというので、部屋を出る。しばらく待っていると、結論が出たというのでもう一度部屋に入る。そしてリヴァイは言ったのだ。

 

 

「憲兵、お前に3日ほどイザベルを預ける。その後はこいつ自身が決めるだろう」

 

 

********************

 

 

「なんだあの動物は!?」

 

 

「キツネっていうんだよ」

 

 

「すっげぇぇ可愛いぃ!」

 

 

「餌を持ってたら、ほら、集まってくるよ。にゅぁ~、コンコン、コンにちわ」

 

 

「え~ずるいぞ、姉御。あ、でもこの子は来てくれた。ゴロゴロ。うんうん、たのしいね~」

 

 

「イザベルちゃんは本当に動物の言うことが分かるんだね」

 

 

「だいだいだけどな。あのさっきのクマっていうのは、かなり怒ってたぜ。『ここから出せ。食べてやる』って」

 

 

「う~ん、人間を食べちゃうような動物とはやっぱり仲良くなれないのかな」

 

 

「姉御はどの動物が好きなんだ?」

 

 

「イヌが一番いいね。従順で素直に言うことを聞いてくれる」

 

 

「さっきのイヌのコーナーじゃ、みんな姉御にラブラブだったもんな~」

 

 

「イザベルちゃんは?」

 

 

「馬だな。さっき上に乗せてもらって走ったとき、馬と一体になるって感じ? チョー気持よかったぜ」

 

 

王都の郊外にある動物園、そのキツネコーナー。その中で黄色いモフモフに囲まれているイザベルとマキマ。どちらも男が一目で惚れるような笑顔を振りまいて、心豊かな時間を過ごしている。動物好きなイザベルは動物園に入ってから、幼い子供のように興奮して喜んでいる。

 

【挿絵表示】

 

 

 

(マキマ視点)

 

 全て計画通り。名付けて『姉妹甘々依存大作戦』。イザベルの姉という設定で近づき、彼女を地上に連れ出す。もちろん嘘だが、私とイザベルは壁内でもかなり珍しい赤髪。それに化粧で顔の調子を彼女に似せている。マーレのスパイが本業である自分は変装もお手の物。声調も仕草も姉妹感ばっちり。道行く人も仲がいいのねぇなんて声がかかるほどだ。地上に連れ出した後は、彼女を甘々に甘やかして接待する。美味しいホカホカの朝ご飯。食パンにバターとジャムを塗って、サラダ、紅茶、デザート。王都の憲兵ならではの生活水準だ。地下街の生活とは段違いだろう。

 

 ケガで休みをとれたから、その間にイザベルちゃんが楽しめそうな場所に連れて行く。1日目は動物園、2日目はお買い物と演劇 3日目は考え中だけど、イザベルちゃん野生児っぽいところあるからピクニックにでも連れて行ったら喜ぶかな。夜はバルコニーで星でも見た後、一緒にべッドに入る。江ノ島旅行よりも完璧なはずだ!

 

 たまに私の家でゴソゴソ何かを探したり、私が近所の人と話すのをジロジロ見たりしているけど、段々とマキマお姉ちゃんなしでは生きられない体にしてあげよう。あの目つきの悪い変態なんか忘れてしまえるぐらいに。この子自体素直な子だし、立体機動の才能がある。今後使える駒になるかもしれない。それが彼女にとって幸せかどうかは分からないが、死の運命から遠ざけてあげるんだから許してね。

 

 

――――イザベルちゃん。飼うならちゃんと、餌はあげるよ

 

 

だが憲兵としてはこれからどうしよう。休職とは言いつつも、私はこのまま地下街の任務から外されそうなのだ。私がリヴァイ達を捕らえ損ねたのを知った、地下街憲兵団支部長は私に言った。

 

 

「御苦労だったな。君でも捕まえられないとはな。しばらく別の者に3人の捕縛を担当してもらうから、君は本部の方へ戻る準備をしてくれ」

 

 

「随分と急な話ですね」

 

 

「怪我をしたんだろ? 休職した方がいい。女性の兵士なんだ。君に無理をさせると、こちらとしても風聞に関わるのでな」

 

 

「そこまでの怪我ではありません。数日すれば復帰できます。それよりも本部からの辞令もなしに外されることに対して、納得できる説明を」

 

 

「チッ、君のそういう態度が問題なのではないかね。自身の失敗を受け止めず、厚顔無恥にも捜査を強行する。……地下街を駆けずり回って、肝心のホシはビビッて出てこない。やっと尻尾を捕まえたと思ったら、間抜けにも取り逃がす。挙句の果てに私の指示には従わないと来た。……いいか? 君の任務だけが、ここの仕事ではない。地下街の秩序もまったく知りもせず、よくもここまで私のシマをかき乱してくれたものだ。………分かったか。もう十分なんだよ」

 

 

「………」

 

 

「何も成果がなかったと言っているわけじゃない。盛大に走り回ってクズの何匹かを捕まえてくれた。結構。お前の上司に感謝の一つくらいは伝えといてやるさ。そして次はもっと愛想のいい奴を送れってな。中央でもてはやされたのか知らんが、ここでは私がルールだ。分かったらさっさと早く地上に戻れ!」 

 

 

 

 おそらく既にエルヴィン達調査兵たちが引き継ぐ、その交渉が終わったんだろう。原作通りに。

 

 だが少し待って欲しい。本来調査兵には捜査権はなく、緊急時でもない限り捜査は違法だ。兵団のそれぞれの役割は明確に区別されている。それでも悔いなき選択ではエルヴィン達はフードを被り、秘密裏に地下街入りしている。そして多分だけど捕らえたリヴァイ達を隠して連れ出していた。

 

これらから推測するに、エルヴィン達と地下街現地当局である支部、その二つの両者しか知らない取り決めがあったのではないか。そして重要なのは憲兵本部はこれを知らないということだ。

 

 本来なら先任だった私に、後任の者は引継ぎについてコンタクトを取ってくるはず。なのに誰も何も聞いてこない。言葉は丁寧だが本部の人間はさっさと消えろと私は厄介ばらいだ。もし後任が本部の人員ならば、私に挨拶ぐらいは来るはずだし、そもそも本部から後任が送られてくるなんて話も聞いていない。そういうことで現段階では私以外の本部の人間がこの任務に関わることはないだろう。

 

 ではこうして私を強引に追い出そうとするのは、私を通じて勝手に調査兵を呼び込むことを本部にばれないようにするためか。もし憲兵本部がこれを知ったらどうなるか考える。憲兵の多くはエリートであることを鼻にかけ、常に調査兵を見下している。調査兵の越権行為を許さないし、ばれれば相当おかんむりでこじれること間違いなし。いくら支部がロヴォフと繋がっているとはいえ、中央の憲兵本部の全てに顔が利くわけじゃない。ロヴォフは有力な議員だが、もちろん政敵はいるし、すべての憲兵を操ることはできないだろう。

 

あとはエルヴィン達が地下街憲兵団支部をどうやって説得したのか疑問が残る。所属して分かったことだが、憲兵というのは異常にプライドが高い。そして自分たちが腐敗しているのを自覚しているからこそ、他の兵団を自分から頼ることはまずありえない。思うにエルヴィンはロヴォフだけではなく、憲兵支部の不正も握っていて、それを使って半分脅す形で地下街の捜査権を認めさせたのではなかろうか。

 

要約すると、リヴァイ達をスカウトしたいエルヴィン、リヴァイ達を使ってエルヴィンを誅殺したいロヴォフ。ロヴォフとつながり、それをエルヴィンに抑えられている憲兵支部。それらの思惑の中で邪魔な私。少し話が見えてきた。

 

 

まったく私のホシなのにね。勝手に彼らを調査兵にするんだったら、私にも一言あってもいいのにね。

 

支部長の不愛想な顔を思い出しながら、心の中で呟いた。

 

 

********************

 

 

 イザベルが地上に来てから二日たった夜のこと。イザベルはここでの生活について、柔らかいベッドの上で寝転びながら思いを巡らせていた。自分の姉かもしれないマキマは、自分をうんと優しくしてくれる。それと地下街ではひっくり返っても、体験できないような優雅な暮らしも与えてくれる。

 

 マキマが作る朝食は、とても衛生的でそして格別に美味しい。あんな美味しいパンがあるとは思わなかった。部屋も香水が香る、綺麗な部屋。掃除好きな兄貴でさえ、完璧だというだろう。夜はあの硬いベッドではなく、柔らかいクッション性の抜群のベッド。隣には恥ずかしいけど、私を守ってくれる姉だという人の寝顔。美人で何を考えてかるか分からないところもあるけど、兄貴にも引けを取らない強さも持ち合わせ、寝る前は毎回抱きしめてくれる。寝てる最中、近所で突然殺し合いが始まることもない。昨日と今日、姉が連れていってくれた世界は夢のようだった。動物を鑑賞するだけのために作られた動物園。あそこは動物が好きな私には天国だ。今日はいろんな店に連れていかれた。地下では娼婦しか着れないような可愛い服を買ってもらった。スイーツの店では頬っぺたが落ちるような美味いもんも食べた。演劇ではよくわからなかったけど恋愛物語を見た。姉御は無表情だったけど、二人で鑑賞するのはそう悪い物じゃなかった……。

 

 

今までの幸せを集めたって、地上の幸せの質には勝てない。本当に夢みたいだ。

 

 

でも……

 

 

何か空っぽに感じる。

 

 

 イザベルは、地下街で3人上を夢見て暮らした日々を思い出す。二人に恩を返すために、立体機動めっちゃ練習したっけ。初めて仕事を手伝った時、緊張のあまりドジって怒られたけど、帰ったあと「最初にしては上出来だ」って慰められたっけ。ビックな仕事をしたあとは、決まって同じ酒場に行って、三人まずい飯を食らった。飼ってた鳥が部屋を汚した時は、兄貴に怒られてファーランと一緒に掃除した。隠れて娼館に行くファーランをつけて、終わった後出待ちしてやったのは傑作だったな。兄貴に「もうやるな」って言われたけど。兄貴が小遣いをあげてるガキたちと、兄貴のすごいとこ、何個言えるか勝負した。兄貴の言い方をまねてくだらないことを言った時、『馬鹿か』って反応する、兄貴の困り顔を見るのが好きだった。

 

 

兄貴、ファーラン……

 

 

今、何してるのかな。

 

 

********************

 

 

 リヴァイとの約束の最後の日。イザベルが地上に残るかどうかを決める。三日目の朝。

 

 

「姉御、話したいことがあるんだ」

 

 

朝食を取り終えたあとからずっと浮かない表情をしたイザベル。そんな彼女がマキマに声をかけた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

マキマを呼びかけたはずの彼女だったが、どうしても最初に発する言葉を選びかねて言葉を詰まらせている。しかし逡巡を終わらせたのだろう、ポツリポツリと話し出す。

 

 

「……やっぱり、兄貴たちのところ帰りたいんだ」

 

 

「そう……」

 

 

「……姉御と一緒にいて、この二日間とっても幸せだったよ。俺家族のことなんも覚えてないから、本当の家族の温かさってこんなに温かいんだって思った」

 

 

イザベルは再び言い淀むが、それでもまた話し出そうとする。いつもの元気さが嘘のように弱々しい声だ。

 

 

「こんな犯罪者を拾ってくれたこと、俺に地上のいいところを見せてくれたこと、本当に感謝してる。リヴァイの兄貴は姉御のこと裏があるかもって言ってたけど、こんだけ優しくしてもらってそれはないと思う。ホントにあんたみたいな、いい姉がいたなんてっ……、ぅ……、思わながっだ」

 

 

とうとう泣き出してしまったイザベル。マキマは立ち上がり、正面からそっと抱きしめる。

 

 

「でも、だがらごそ……っ、アネギと……ッひっく、出会えだ今があるのは、兄貴だちが俺を拾ってくれたおがげだから、っ……、ぅ……、あの人だぢに恩を返すまで、……っく、義理を通しだい.……っ、だがらっ、だからぁ」

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

イザベルは大声で泣き出してしまう。彼女が落ち着くまでマキマは赤子をあやすように数分、背中をさする。

 

 

「っ……、うぐっ」サスサス

 

 

しばらくしてイザベルはだんだんと落ち着いてくる。マキマはイザベルを抱きしめてながら、ゆっくり優しい声で話し出す。

 

 

「明日リヴァイと会ったら、彼の許しを得てあなたを引き取ろうとしていた。その後あなたを訓練兵団に入れようと思っていたんだ。……立体機動の腕はその若さから考えてもすごいことだよ。だがら頑張れば訓練兵でもいい成績で卒業できる。イザベルちゃんは私みたいに憲兵にだってなれる未来があるの。地上だっていいことばかりじゃないけれど、地下で生きるよりは真っ当な人生だと思う」

 

 

「この俺が憲兵か。ハハハ、たぶん全然似合わないぜ。……姉貴、地上の人はもっと自由だと思ってたよ。憲兵だって好き勝手出来るかと思ってたけど、姉御の愚痴を聞いてたら、そんな楽な仕事でもないって思ったし、……このまま姉御にずっと守られて、そして好きでもない憲兵の仕事をする。……そんなの全然楽しくないし、不自由だ。二日だけどスゲーいい生活をして、気づいたんだ。俺の夢はただ地上に出たいだけじゃない、兄貴たちとみんなで地上に行くこと。兄貴たちとバカやってるのが、俺の一番の宝物だって」

 

 

「あなたを……幸せで満腹にさせて、地下街のことを忘れさせようとしていた。だけど私には出来なかったんだね。本当の幸せはそれじゃなかった」

 

 

「そんなつもりじゃ! 姉貴と暮らせて本当に幸せだったよ! だけど……あいつらも家族なんだ」

 

 

「分かったよ。イザベルちゃんは本当に欲張りさんだね」

 

 

「俺を幸せにしようとしてくれてありがとう……だぜ」

 

 

「気にしないでいいよ。とっても良い“慈善事業”だったでしょ?」

 

 

「うん!」

 

 

「イザベルちゃんが帰っちゃう前にもっと慈善事業しなくちゃね」

 

 

「えへへ、姉貴に撫でられるのは兄貴より気持ちいい」

 

 

マキマに赤い髪を梳くように撫でられるイザベルは嬉しそうに笑う。二人の姿は本当に姉妹のようだった。

 

 

********************

 

地下街のとある場所

 

 

「姉ちゃん……、ホントにありがとうございました。俺、行ってくるよ。……うん、分かった。調査兵団には気を付ける。姉ちゃんも元気でな。3人で地上に住めたら挨拶に行くぜ!」

 

 

彼女はもう子供じゃない。彼女は自分の意思で考え、決断しようとする大人になろうとしている。

 

    

本当にこれで、よかったのかな.......。

 

 

********************

 

 

ドン、ドン、ドン

 

 

「ファーラン、来客の予定があったか?」

 

 

「いや、ないね。開けるよ」

 

 

ドカァーン

 

 

ファーランが開ける前に大きな音がして勢いよく扉が開いた。

 

 

「おうおう! 愛する妹分をお届けにまいりましたぁーー!」

 

 

「「……」」

 

 

見得を切るようなポーズで赤髪の少女が元気いっぱいに口上を述べる。驚かせようという意図があったのだろうニヤニヤした顔だ。二人は唖然とする。

 

 

「えへへ、驚いて声も出ないってか? 二人とも俺がいなくて寂しかったみたいだな」

 

 

「こいつ帰ってきやがった!」

 

 

ファーランの反応は不思議ではない。三人の計画ではイザベルはマキマとの約束に関わらず、マキマの元に身を寄せることになっていたからだ。

 

 

「ぐぬぬ、なんか思ってたのと違うぜ。兄貴、ファーラン! せっかく帰ってきたんだ。もっと喜んでくれよ!」

 

 

「……あの憲兵はどうした?」

 

 

「今日は姉ちゃんに無理言って連れてきてもらったんだ。……えーとこれ、はい、これお土産ね」

 

 

イザベルは持っていた袋からリボンのついた箱を取り出して、リヴァイとファーランそれぞれに渡す。そのまま二人はしばらく逡巡するも、わくわくと目を輝かせるイザベルを前に素直に箱を開けるしかない。綺麗に包装されている。その気になる中身とはというと、リヴァイには小さい布、ファーランにはハサミなどの小道具セットだった。

 

 

「へへ、中々いいだろう? 兄貴には汚れに強い高級ハンカチ、ファーランは髪のお手入れセットだぜ」

 

 

リヴァイはハンカチを取り出す。なるほど手触りもさることながら丈夫な生地である。実用さも兼ね備えたいいものだと分かる。そしてよく見るとハンカチの中央に、刺繍された文字があるのに気付く。MANNERS MAKETH MAN(振る舞いが紳士を作る)と赤字で書かれている。

 

 

「これはあいつと選んだのか?」

 

 

「そう! 一緒に選んだんだ! 全部姉貴の一押しだぜ」

 

 

さも当然だと言うようなイザベル。そんな彼女は、リヴァイにハンカチごしにジト目で見られている、そのことに気が付かない。

 

 

「俺はなんでこれなんだ?」

 

 

髪のお手入れセット、ファーランはなぜこのチョイスなのか、疑問に思う。決してこのお土産は安くない。だからこそ、この選択に理由があるはずなのだ。そんな彼に対して、満面の笑みそして親指を立ててイザベルは答える。

 

 

「今度娼館に行く時、慌てなくて済むじゃん!」

 

 

「お、お前なぁ!」

 

 

ファーランの反応が面白くて、彼女はゲラゲラ笑う。

 

 

「まあいい。どれもアイツの金なんだろう。ありがたく使ってやろう。……それでお前は随分と楽しんできたようだな」

 

 

「うん、楽しかったぜ」

 

 

会話の内容とは裏腹にリヴァイがイザベルに向ける目は鋭いものになっている。三人がいる部屋にじわじわと緊張の影が伸びる。

 

 

「あの女の嘘を暴きつつ、奴を隠れ蓑に地上で情報を集める。そういう取り決めだったはずだが?」

 

 

「……あの人には裏がないと思う。……それにやっぱり俺だけ地上に行くのはいやだ」

 

 

「あの憲兵はさておき、地上で一人が動けるのは大きい。それをガキみてぇな理由で放りだしやがって」

 

 

「そんなの嘘だろ!! 体よく俺だけを地上に行かすための方便だろ!」

 

 

「んなわけn――――」

 

 

「――――馬鹿にすんなよ!」

 

 

リヴァイとイザベルの掛け合いは熱を増す。イザベルを言ったことを否定しようとしたリヴァイだったが、さらに彼女の言葉がその上を遮る。

 

 

「……いくらバカな俺でもそれぐらい分かるよ。俺が兄貴たちと一緒にいたがっても、安全な方法で地上に俺が行けるなら、兄貴たちなら……迷わず送り出す。だって兄貴たちはバカみたいに俺に優しいから」

 

 

「……イザベル」

 

 

「ぅ……、どれだけっ……、一緒にいたと思うんだよ! あのバカ強い姉ちゃんの下でっ……、……っく、俺一人で情報収集なんかできるわけないじゃん……」

 

 

そう訴えかけた後、彼女は目から涙をボロボロ流してしまう。聞いている二人は妹分の慟哭にただ黙っている。涙を堪えようとするも上手くいかない。それでも彼女は話す。

 

 

「っ……、ぅ……、俺はこの3人で地上に行きたいんだ。兄貴たちといるのが俺の一番の幸せなんだ」

 

 

イザベルの心の奥から絞り出すような言葉。それに対してずっと押し黙っていたファーランが意を決し、リヴァイへ顔を向ける。

 

 

「リヴァイ、もういいだろ。あの仕事を成功させて、3人で地上に行こう。仲間外れはもうなしだ」

 

 

リヴァイはしばらく目を瞑る。そして立ち上がる。イザベルの頭に手を添えた。

 

 

「……イザベル、馬鹿野郎が」

 

 

「ぐすッ、えへへ、兄貴に撫でられるの、久しぶりだぜ」

 

 

「しょうがねぇな、ほら拭え」

 

 

「一件落着だな」

 

 

ファーランは安心して、微笑む。リヴァイは彼女の泣き笑う顔を見かねて、ハンカチを手渡す。

 

 

「ありがとう、兄貴!」

 

 

「ふん、後でお前が蹴ったドアも綺麗に拭いておけ」

 

 

「自業自得だぜ、イザベル」

 

 

「ゲッ。そ、そういや姉ちゃんが言ってたけど、調査兵団に捕まったらやっぱり調査兵にさせられるかもって」

 

 

「他に何か奴は言っていたか?」

 

 




 ここぐらいからスピンオフストーリーとオリジナル設定が複雑に混ざり合うので難しく感じるかもしれません。次かその次あたりで、登場人物の取り巻く情勢を軽くまとめるものを作りたいと思っています。

次の投稿ですが、正月休みの間までには一話は捻り出せる……かもしれません。断言はできないです......
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