提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
※少しでも吐き気を催したらそっ閉じ推奨です。よろしくお願いいたします。
鎮守府に着任しました
「ここか……」
俺は目の前の、門の向こうに立つ建物を見上げて呟いた。
横須賀第八鎮守府──今日からここが、俺の勤務場所だ。
緊張で冷や汗が流れ、脈拍が早まる。しかし、ここまで来たら逃げるわけにもいかない。
なにせ、今日から俺は提督になるのだ。すでにここには、着任済みの艦娘もいると聞いている。初日から遅刻しては、あまりにもみっともない。
俺は緊張を落ち着かせるために、大きく深呼吸した。
「ふぅ……行くか」
深呼吸しても特に緊張は収まらず。仕方ないので、俺は建物の中へと足を踏み入れた。
転職──まさか自分が経験することになるとは、入社当初は思ってもいなかった。
なんで会社を辞めたのか──それは単純に、仕事内容と人間関係が自分に合わなかったから。
では、なんでその会社に入ったのか──そう訊かれると実に耳が痛いので、この話はここまでとする。
とはいえ、俺は平凡なシステムエンジニア。これといって資格を保持しているわけでもなく、転職探しは難易度高め──そう思っていた。
そんな俺が、提督に目をつけたのは遡ること一か月前のことである。
転職探しを始めた時、一番最初に目に入ったのがこの提督だった。提督というのはどうも人手不足のようで、結構大々的に募集されていた。
その時の俺は、提督について、あの艦娘を指揮する立場の偉い人——ぐらいの認識だったので、そんなのなれるわけないだろうと、普通にスルーしようとしていたのだが……。
この文言が目に留まり、気が付けば掲載されていた諸々の説明文を読み漁り、エントリーシート的なものを提出していた。
そして、そのエントリーシートが奇跡的に通ったと思いきや、適性検査やら面接をタイトなスケジュールで行い、それが終わるとすぐに着任前の研修——本当に怒涛の一か月だった。
さすがに、適性検査と面接を行ったその日に採用が決まるなんて、誰も思わないだろ……。
ここ一か月のことを頭の中で回想しながら、建物の中を進んでいく。
やがて、提督室と書かれた部屋を見つけ、足を止めた。
提督室——つまり、俺の部屋だ。今日からここが俺の仕事部屋となる……はず。
「あれ、これ普通に入っていいのか……?」
扉の前に立ったはいいものの、どう入ろうかふと疑問に思った。
普通にノックして入った方がいいよな……いくら俺の部屋になるとはいえ、もし誰かいたらノックなしの入室は印象悪いだろうし。
そんなどうでもいいことを考えていると、急に目の前の扉が開いた。
驚いて後ずさりしそうになるのをこらえて、その場に留まる。
扉の向こうには長髪で銀髪の、やたら顔の整った少女が立っていた。
面くらっている俺に、少女は怪訝そうな目を向けてくる。
「なにしてるの?」
「いや……」
少女からの問いに、口ごもるアラサー野郎。なんとも情けない話である。
といっても、初対面の少女にいきなりため口で話しかけられたら、大抵の人はこうなるのではなかろうか。
「突っ立ってないで、早く入りなさいよ」
「あ、はい」
第一印象を悪く思われても困るので、俺はさっさと少女の後について部屋の中に入った。
部屋は「思っていたより広い」というのが率直な感想。二人でいても全然窮屈じゃないし、仕事机と思われるものや、ソファーなどの家具も置かれている。おまけに部屋全体が掃除したてのようにきれいだ。
「あんたの席はここね」
少女が目の前の机の上に手を置いて言った。
すごいなこの子……初対面の野郎相手にため口なんて、コミュ力高すぎでは……?
「ぼけっとしてないで、荷物置いたら?」
「ああ……すみません」
少女の言われた通り、俺は手に持った荷物を置いた。
反射で謝っちゃったよ……いくら艦娘とはいえ、見た目が少女相手にこれは情けないわ……。
「ねえ、私のこと何か聞いてる?」
心の中でため息を吐いていると、少女が話しかけてきた。
少女の疑問について、ぱぱっと頭の中で思い返す。そして首を傾げた。
「いや、特に聞いてないです」
「じゃあ、ここのことは?」
「ここのこと……聞いてないですね」
なんの質問だよ。ここのことってなんのこと?
「はぁ……何も知らないで来たのね」
「すみません……」
なんで来て早々、ため息吐かれてるんだろうか。俺なんか悪いことした?
「
「あっ……
反射的に自分の名前を口にした。少女の発した言葉が、少女自身の名前だと思ったからだ。
「知ってるわ。もぐりの新米でしょ」
「まあ……そうですね」
手厳しいお言葉。でもその通りなので、返す言葉もない。
「ま、せいぜい頑張りなさい」
「はあ……」
こちらのメンタルが削られて、自己紹介タイム終了。
俺は早くも、今後の提督生活に不安を覚えたのだった。